マンションは場所ではなく「目的」で選ぶ

川路武氏(以下、川路):話の根幹はやはりソフトじゃないですけど何で繋がりたいとか、コミュニティの関心ですとか、そういうところに軸をおいたほうが面白そうですね。例えばマンションだからコミュニティということではなくて、コミュニティだからマンションだったと。

猪子寿之氏(以下、猪子):コミュニティに最適な集合住宅って、可能性としては腐るほどあって、そういう集合住宅というのが増えてくるともっと場所とコミュニティが再び重なってくる。

筧裕介氏(以下、筧):マンションの選択基準というか、おそらく立地というその条件だけで決まっていたので、そこに集まってきた人たちが、まずその土地性のコミュニティだったり。共通性としてはそこで何かをやるっていうのは従来のマンションのコミュニティづくりの考え方ですよね。

猪子:でも土地性は、減ってきてると。

川路:そうですよね。

:そういう意味で言えば、目的でコミュニティを選んで、その場所を選ぶというのが正しい。マンションを選ぶのと違うつながりになりますね。

川路:場所はあまりよくなくても、売れるマンションがでてくるということですか?

:そういうことことですね。

猪子:いやいや、そうです。ホントそうですよ。だって別にニコニコ超会議とか幕張ですよ。

川路:そこですね。確かに場所関係なくなってますね。なるほど、マンション内の今の人たちもそうですけども、もう少しどんな欲求があるのかコミュニティに対しての根源的な部分をもう少し深掘りして、それに見合うようなハードもそうですし、仕組みなんかも変えていく必要があると僕は捉えました。

「3丁目の夕日ノスタルジー」の是非

川路:もう少し分かり易く、概念のほうがだいぶ整理できてきたので、ちょっとわかりやすい話にいきましょうか。マンションとか、何階とか言わずに世代間の交流という話をお聞きして、特に都心部に住んでるとおじさんと話すとか、おじさんが子供に教えるとかがないですよね。

蛯原英里氏(以下、蛯原):なかなかないですよね。私の幼少期を思い返すと隣のおじいちゃんが近くに遊びに来たり、私もいったりとかして竹トンボの飛ばし方を教えてくれたりとか、竹の水鉄砲のやり方を教えてくれたりとか。

おばちゃんにはあやとりだったり、お手玉だったり、あったかい記憶がすごく残ってるんですよね。今、自分がマンションに住んでそういうのを考えると、住んでる方のおじいちゃん、おばあちゃんとそんなに交流がないので、娘がもうすこし大きくなったら、そういうあったかい思い出っていうのを見つけて植え付けてあげたいなというのがある。

なので、そういった意味でもせっかく近くに住んでいるので、そういう交流があると嬉しいなと思いますけど。

川路:よくわれわれの企画会議の中で3丁目の夕日ノスタルジーというのがあってですね、なんでもかんでも縁側作って昔を思い返せばいいみたいな。これ意外と違うんですよね。

そうでなくて、テクノロジーも進化していて、町も変わってきているので、新しいあり方を考えなくてはならない。今、過渡期にあるような気がしているんです。そのお話から猪子さんどうですかね?

猪子:うーん。

川路:筧さんも続きますから用意しておいてくださいね。では、先にちょっと筧さん。世代間の交流とか地域コミュニティの中での世代間の交流みたいな話が今話題にでてきたんですけども、何かご自身が手がけられているプロジェクトでヒントになるようなことがあれば。

:うーん。ちょっとなんかコミュニティの必要性のことが頭中でぐるぐる回っていて、他世代での交流……。

川路:いいですね、この台本がない感じが(笑)。

今の子育ては個人の責任が重過ぎる

猪子:本来は、子供というのは集団によって育ってきたんですね。それが昔で言うともうちょっと家族が大きくて、それによって集団で育つものが、今突然ひとりで育てなくてはならなくなって。本来集団で育ってきたはずのものだと思うんですよ。

川路:そうですね。

猪子:人間になる前からずっと。なのに突然、凄い個人に要求が高くなっていって、それが問題ですね。

本来はもう少し個人の責任範囲というのは低くて、例えば産んだ人ももう少しいい加減で居られたわけですよ。産んだ側も作った側もそれがちょっと誰が作ったのか分からなくても、集団が育てるみたいな。

それが本来、ずっと人間になる前からついこの間まであった。それが個人の責任範囲になったので。

川路:そうですね。

猪子:それをもう少し優しい言葉で言ったのが竹トンボの話だと思うんです。けど、本当はもう1回集団で育てるとか、もう少しいい加減に。

川路:いい加減さを生み出していく。

猪子:いい加減な、なんとなく個人の責任範囲が少ないような子供を育てられるような環境が本来いいんだけれども。それはネットワークでは解決しないし。

川路:そうですね、そうすると地域の必要性が出てきてしまうんですよね。

猪子:またそうやってすぐ地域の必要性とか言い出す。もう少しフラットな考えをしましょうよ。

「孤育て」という問題

川路:子育ての「こ」が孤独の孤と書いて「孤育て」というのがすごく問題になっていて、どうしても1人のお母さんがすごく責任を持っていて何もかも全部ひとりで背負ってしまう。

なのでここに例えば、すれ違う人が挨拶したりとか、「大丈夫? 夜中、夜泣きひどいね」と言う会話があれば少し救われるんじゃないかという話を聞くんですね。そうすると集合住宅が何か力になれるようなものがあるんじゃないかと僕は思っている。そんな中で筧さんどうでしょう?

:そうですね。地縁型のコミュニティみたいなものがどんどん低下してきているという中、先ほど猪子さんがおっしゃったように子育てという行為はその中で地縁型コミュニティに対して、依存度が高かったもので、やはりある程度コミュニティとして残しておかなくてはならない機能なんではないかと思いますね。

それが場所から離れたネットワークとかコミュニティづくりができないというか、しにくいものの1番最たるものが、母であり子なんだと思うんですね。だから、そこのコミュニティは子育てにITみたいなものとか、子供がITで人と繋がるみたいなことに対して、少しネガティブな論調があったりするじゃないですか。

猪子:もちろん。もちろん。

:そのネガティブな論調が正しいかどうかもわからないので、今の時代としては子供がiPadを使って何かをするみたいなのが、ほんとに子供にとってよくないのかというのもわからない。

そんな中で若干それはよくないので、できるだけそういうところから離れてリアルな人間関係のようなものを大切にしようよ、としていたものが流れとしてあるのがちょっとどうなのかなとは思います。

子育て問題はネットワークでは解決しない

猪子:少なくともネットワークでは解決しないんですよね、残念ながら。ネットワークで行き来できるのって、すごく単純化された情報だけなので、もう少し人間が学習するとか、考えるとか。

そういうもう少し複雑な情報の話なので、スマホの話は置いといて、さっきの話と違って、ネットワークでは解決しないんですよね。

川路:フラットに聞いてますよ、フラットに。お絵かき水族館みたいなものをうまく転用できたりしないですかね?

猪子:優しいね。宣伝したいんですけど、百歩譲って本当はもっと究極的に1カ所にだけ住まないという概念が強くなって、「子供が生まれたら、あそこ住もうよ」みたいな、子どもが大きくなったら、また別のところに引っ越そうみたいな。

子供が生まれた人がやたら集まって、そこはもうお母さんは子供が夜中、夜泣きがうるさかったら、お母さんは子供を放り投げたりとかして、あとは全体でどうにかするみたいな。何を言ってるのか分からなくなってきましたけど、集合化すると本来解決するんで。

川路:子育て世帯をどれだけ集められるかというのは地域の生き死にに関わっている問題であって、そういう意味でどう子育てのコミュニティづくりをしていくかが、行政なり、三井さんの問題ですよね。

本当にコミュニティが必要なものの数少ないものの1つだと思います。けれどもそこに特化をして、色々な地域が取り組んでいくというのは、日本全体としてはいいことだと思いますよね。

猪子:でも本当の子育ての人たちが同じ集合住宅に住んだら、今、集合住宅ってクリーニングしてくれたり、スーパーがあったりするわけじゃないですか。だから24時間子供を放り投げていいのが自分のマンション内にあるといいですよね。もう少しいい加減な感じになってね。

蛯原:そういうのがもしあったら住みたいですよね、私(笑)。

流動的に住む場所を決めるべき

川路:ネットワークじゃなくてもテクノロジーで解決するというのはないですかね? 何か。

猪子:せっかく場所で解決しようとしてたのに。

川路:場所で解決していきましょうか。

(会場笑)

猪子:もう少し人は流動的でないといけないかもしれないですね。

川路:そうですね。これ昔の住宅すごろくって呼ばれていましてね。ちょっと遠いけど賃貸マンションに住んで、次に都市のアパートに住んで、最後一戸建て買ったら上がりみたいな。

これがどんどん崩れてしまったというのが言われて久しいのですが、多分都内でマンション買う方も「よっしゃ、もうこれで終わった」ではなくて、ある時期からそういうものすら資産価値が担保されてるという裏側が必要なんです。

けれども、選ぶマンションが子育てに最適化されているとか、もしくは子育てをしている人々が集まって中に自分が入っていても違和感がないというような。

マンション全体が子育てというのも若干現実的ではないので、たぶんシニアがそこに入ってるとか、子育てするのが好きな人っていうのがいるとか、そういったニーズを汲み上げてあげるというのがネットワーキングで可能なんではないかと感じました。最後にまた話のレベルが下がるんですけども、「おさがり」とか言う話をしていたと思うんですが。

蛯原:おさがりですね。やはり子育ての話になるんですけど、3ヶ月の娘にいっぱい服だとか、色々なおもちゃがあるんですけど、やはり狭い。というのも私が住んでるところが狭いというのもあるかもしれないんですが、それだったら知ってる顔見知りの方に回してあげて、いい人に使ってもらえるならなんとか見守っていけるじゃないですか。

「子どもをちょっと見ていて」と言える気軽さがほしい

川路:ちょっとしたお願いとかって、言ってましたね。顔が見える近い関係で「ちょっと見てて」みたいな。

蛯原:見ていて欲しいというのはあります。ちょっと買い物に行くとか、ちょっと美容院に行くとか。わざわざベビーシッターまで頼まないにしても、隣の人にちょっと預けられるという気軽さ。

川路:曖昧さとか気軽さとか。

蛯原:欲しいなと思います。

川路:その話を聞いていてですね、ちょっと2人にその辺どう捉えるのか聞いてみたいなあと、筧さんどうでしょう?

:そうですね。それこそネットワークでありITの力が必要なんだろうなとまさに思うことで。やはり自分のマンションで、うちも例えばベビーカーまだ使えるなと、これ多分眠っておくのかといった状態の時に、近くの近所で同じような世代の子がいたらあげたいなぁみたいな。

ということなんですけども、物理的にリアルなネットワークや関係性の中でそれがマッチングする、こちらが上げたいニーズとこちらがもらいたい人がマッチングする確率ってものすごく低いと思うんですよね。

そうなるとどれだけ多数のネットワークの中でマッチングさせるのかということなので、リアルなコミュニティの中でのシェアの仕組みって、結構考えるんですけどもなかなかうまくいかないというか、実現させるとするとそのパイをものすごく大きくしなくてはならない。

なので、それがITでありネットワークであり、それが顔が見える関係でやる必要ががないものじゃないのかなと。

川路:見えますよね、ネットワークでも顔がね。

:そうですね、実際に繋がってる必要は無いものなので可能性を感じますよね。

子育てに対する間違った前提

猪子:やはり前提として、個人もしくはふたりで育てられるものだ、みたいな間違った社会通念が前提にあって、でも歴史的にはそんなことほとんどなかったことなんです。

だから個人に対する負荷が高いので、子育てする人たちが集まるマンションはやはりいいんじゃないですか。夜中3時ぐらいに放り投げて300円払うとなんとかしてくれるような。

川路:40年前ぐらいの団地はもしかしたらそういう思いで作られたのかなと。

猪子:それが固定化したから崩壊したわけで流動化すれば。

川路:もしかして流動化する仕組みだとか、効果の仕組みだとか、まだまだ開発の余地があるかもしれませんね。ドキドキしながらやったら45分あっという間に過ぎてしまいました。

まとめに入ろうかと思ったんですけども、まとめに入れないくらいですね。最初、人間の100万年の歴史からはじまって、そこから途中で子育てはネットワークでは解決できないという面白い意見を頂けたなと。

「コミュニティ」は誰にとって大切か

川路:最後に締めのお言葉じゃないですけども、1人ひと言ずつ何か、気付きでもいいですし、宣伝でも結構です。筧さんはどうでしょう?

:そうですね。先に言ってもらっていいですか?

川路:では、猪子さんどうでしょう?

猪子:今週から(11月29日から)お台場の日本科学未来館で「踊る!アート展と、学ぶ!未来の遊園地」として子供連れでも来られるようなアートを楽しめる空間です。あと、小さい頃からスマホが悪いとは言わないけれども、人って本来同じ空間で人と同じ空間を共有しながら体を使って考えるものだと思うんですよね。

もっとその共同的で創造的な人間になってしまおうというような、ある種知育でもある遊園地みたいなアート。今回は大人も一緒に楽しんでもらおうと思っていて、そういう大展覧会をやるのでとにかく来てください。

川路:わくわくしそうですね。ありがとうございます。筧さんどうでしょう?

:そうですね。今日はすごく考えさせられて、やはりコミュニティって大切だよねという話をして、前提になっている形があって、誰にとってどういう意味で大切なのか説いたところもちゃんと考えながらひとつひとつやらないと間違えるなと。すごく考えさせられて、とはいえ人に必要なところは確実にあるので、そこのところをもう少し自分の仕事中でも生かしていきたいなという気づきがすごくありました。

川路:では最後に蛯原さん

蛯原:2人の素晴らしい賢者の間に挟まれて、でもやはり素直にネットワークっていっぱいあるんだなと思う。

あと私、自分がもう一歩踏み出せばもっと広がるんではないかということを本当に感じられたので、今日はドキドキしたんですけども、これからはワクワクしながらマンションに住んでライフスタイルを充実していきたいなと思いました。

川路:マンションの新しい捉え方ということで素晴らしい締めができました。今日はありがとうございました。

制作協力:VoXT