保険 × 人工知能による科学変化

孫正義氏(以下、孫)もう1つ事例として、今保険会社としてもっとも急成長しているZhongAn保険(をご紹介します)。

トランザクションの数、コスト、AIをどれほど使っているのかを聞いて、みなさん驚かれると思います。 Come Here.

(会場拍手)

Wayne Xu氏:孫さん、ありがとうございます。みなさまおはようございます。ここでみなさまとお話しできること、この3〜4年で何が起きてきたのかを共有できることを大変うれしく思っております。

AIと保険は非常にすばらしい組み合わせだと思っております。保険とは知らないこと、未知のビジネスです。一方の人工知能は、より多くのことを知るための技術です。この2つをミックスすることで、化学反応が起きるのではないかなというところが出だしです。

我々が何をしているのかということ、そして、この化学反応をどう起こしてきたのか。そして、どういうふうに次のレベルにこの化学反応を持っていくのか。そして、最終的に次の次のレベルに持っていき、さらにシンギュラリティのビッグバンに、有機的にどう持っていくのかということをここでお話しさせていただきます。

2分あたり2万件の保険契約を販売

みなさんはご存知だと思うんですが、本当にいろんなかたちで、テクノロジーがいろいろなものを変えていきます。私たちより良く食べ、より長く生きて、より遠くに行けます。そしてトレンドとして、テクノロジーによって、もっといろいろなものがつながる世界が生まれています。

我々は2013年に新しい保険会社を立ちあげました。この保険の再定義を、コネクティッドワールドにおいて行なっていこうというのが、最初の出だしでした。まず、保険業界を見ていきたいと思います。保険業界で、いくつかみなさんにお伝えしたい数字があります。1つ、ここでハイライトすべきなのは、保険の契約件数です。この1年間で54億件の保険契約が、我々によって発行されました。

これがどれくらいなのかということですが、私がこのステージに立って、2分経ちました。実際に営業あるいは保険代理人を介することなく、我々のシステム単体で、この2分の間に2万件の保険契約を販売しています。従来型の保険契約だと、とにかくたくさんのプロセスを通っていかなければならないのですが、我々はテクノロジーだけです。エンジニアが50パーセントを超えています。

これこそが、まさにこのテクノロジーを実現する根幹になっています。この新しいエッジインシュアランス、それから従来の保険で大きな違いが生まれてきますが、それだけではありません。エコシステムも生まれています。

AI、Big data、Cloud。"ABC" 3つのレイヤー

このつながる世界で、例えば、先ほどDidiがお話ししていましたように、よりたくさんのドライビングの情報、あるいはさまざまな情報を持つことによって、査定の情報がたくさん集まります。

このつながる世界の中では、従来型の保険会社にとっては大きなチャレンジがあります。私たちにはエコシステムがあるので、柔軟に商品を設計できます。新しいエコシステムです。ダイナミックに、いろんなお客さまに向けて、保険料を調整することもできます。そして、より選り好みをするお客さまに直接つなげることによって、エコシステムの中でそれをつなげていくことができます。

スマートシステムを使って、スマートなかたちでこれを運用しています。実際、スマート保険の設計にはいろんな側面があります。まず、ダイナミックなプライシングが必要ですし、予測型のアンダーライティングリスク管理が必要です。そして、インタラクティブなカスタマーサービスが必要となります。そしてこれがすべて、いわゆる人工知能の上に立っていなければいけません。

AIは単体のコンセプトではないと思います。実際、AIはビッグデータが根幹にあり、そしてその下には、クラウドベースのシステムがあります。このABCと呼んでいるレイヤーこそがすべてのアプリケーションの根幹にあります。これが、我々が4年間で構築してきたものの根本になるわけです。

人間にしか答えられない質問も、AIが情報として学んでいく

我々保険会社にとって、リスク管理は非常に重要です。従来の保険会社は、通常の静的なデータを使っています。一方、我々は我々自身のアンダーライティングシステムをはじめとする、すべての機能を使っています。例えば、これまでのいわゆる履歴のデータはないわけです。

最も正確なプライシングを、これまでのデータがない中でどう作っていけばいいのかということですが、このマシンラーニングのフレームワークを使ったことによって、モデルそのものも、初日から稼働しています。

もちろん我々スタッフが何ヶ月か費やして作ったわけですが、ここでブレークイーブンに来ています。そしてこの後は、もうずっと利益を生むのみと思っています。この機械学習、それからAIは、これから我々のビジネスの仕方を変えていくと思います。

保険とは、ポリシーを売るだけではありません。お客さまに対してのカスタマーサービスも重要です。いろいろな質問をお客さまから受けます。例えば、我々が最もよく聞かれる質問に対して、チャットボットを使って答えています。今はハイブリッドモデルを使っています。つまり、チャットボットに加えて人間もカスタマーサービスに加わっています。

直接AIが答えられる質問に対しては、すべて答えています。場合によっては営業に回すこともあり得ます。そしてここで答えたものが、バックグラウンドでは、ナレッジに積み上がっていくわけです。ですから、例えばAIが答えられなくて人間が答えた質問については、その後、蓄積していくことによって、次のAIが情報としてそれを学ぶことができます。

なぜこのテクノロジーをオープンにしたのか

チャットボットで、すでに90パーセント以上の質問に答えられるようにまでなってきました。非常に大きな実装なので、コミュニケーション、リスク管理を行っています。AIができるのは、もちろんそれ以上のことです。

保険会社で考えてみると、運用、あるいはオペレーションがいろいろと変わっていきます。例えばIDカードをちゃんと見て、データ分析をしています。これは実際、人間にしかできません。

AIは、1つのモジュールではないと思っています。未来の企業にとっては、ユーティリティです。このユーティリティを使って、社内ですべてのアプリケーションを自動化することができると思っています。実際に、我々の企業はたぶん10人、20人くらいのデータサイエンティストだけで、保険会社を構成できると思っています。AIを利用した基幹システムとして、AI、データ、クラウドなどさまざまあると思います。これが共通のレイヤーとなります。

2年たち、パートナーからいろんなリクエストが上がってきました。パートナーとは、他の保険会社からです。彼らが、我々のシステムを使えないかを聞かれました。最終的に、私たちは、テクノロジーをオープンにしようという決断をしました。

このデジタル世界でよりたくさんのプレイヤーたちを包含し、テクノロジーを使ってこのコネクティッドな世界で保険を再定義するというのが我々のミッションです。2016年、ZhongAn Technologyという会社を設立しました。ZhongAn保険の子会社です。たくさんのテクノロジーをここから作っています。

日本市場で解決したい課題

(私たちは)保険とテクノロジーのエクスポートを2つの軸にして、お互いにサポートをしながらビジネスをしています。テクノロジーがなければ、我々の保険ビジネスはユニークではありません。そして、保険のビジネスがなければ、テクノロジーも使えません。今年はさらに、このテクノロジーを中国本土以外の国にも輸出しようと思っています。

規制などは、当然国によって違います。でも、共通した視点があると思います。これから先の発展にはテクノロジーがキーとなります。ソフトバンクさんからサポートをしていただき、まず最初のターゲットとして、日本の市場における2つのお客さまに向けて、問題を解決しようと思っています。

まず最初にデジタルの世界に入ってきてもらうのは、保険会社さんです。そして、この新しい保険商品をより良いサービスにしてもらうための、インターネットのプラットフォームです。我々のAIを使うことで、お客さまにより良いカスタマーサービスを提供できるようになると思います。

そして、もっとたくさんの方たちがこのテクノロジープラットフォームに乗ることで、最終的にはこのコネクティッドな世界で、保険を再定義していきたいと考えています。ご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)

PaytmのデータとZhongAnのAI技術が創る世界

: みなさん、想像してみてください。先ほどプレゼンしてもらいましたとおり、インドのPaytmには3億5,000万人ものお客さんがいて、800万店舗のお店がすでにPaytmを使っている。その上に、ZhongAnの保険商品を乗っけて。この隣に座っている彼ら2社が提携して、ZhongAn保険のテクノロジーを、PaytmのVijayに提供して、そして商品を出したとしたら、どれほど安いコストで、どれほどリアルタイムに、ダイナミックなプライシングで(提供できるか)。

つまり、今ZhongAnはAlibabaのマーチャントに、Alibabaで買っているお客さんに保険を提供しているわけです。物が本当に届くのかと。壊れて届くのではないのかと。騙されるのではないのかと。そういうことに対してダイナミックプライシングでリアルタイムに保険を発行しているわけです。それと同じように、今度はPaytmの800万件のマーチャントとPaytmの3億5,000万人のお客さんに、いろいろな保険を売り始めたと。

商品に対する保険、盗難保険といったものを売り始めたら、どれほどお互いのAIとAIが結びつくのか。Paytmの持っているデータと、ZhongAnが持っているAIの技術力が合わされば、どれほど素晴らしい革新的なサービスが始まるか、想像しただけでワクワクします。

2,500人で年間50億回の保険発行ができる理由

:ソフトバンクのファミリーだから、そういうことがどんどん促進できるということになって、今日はたまたま隣同士に座っていますから、この後なにかいいことが起きるのではないかと、私は勝手に想像しているわけです。

もう何百年も前から世界中に保険会社があります。それらの保険会社の中で、エンジニアの数が社員の50パーセント以上という会社は他にないのではないかと思います。更にすでにユーザーが5億人いて、年間50億回保険を発行しているのです。もし人間がやっていたとしたら、50億回の保険を発行するのに、一体何万人の社員が必要かと。何人社員がいらっしゃるんでしたっけ?

Xu:2,500人です。

:1年間で50億回の保険を発行できるか。無理ですね。たった2,500人で50億回保険を発行する。しかも値段が違うのです。ダイナミックプライシングです。そんなことは計算するだけでも、人間業では無理ということになるわけです。AIだからできるわけです。AIだから安く、事故のリスクを減らせて、そして保険がちゃんと成り立つ。ビジネスとしてできる。AI時代だからこそできるということです。