地質学の見地から地球の歴史を紐解く

ステファン・チン氏:地球はこれまで実に45億回も自らの誕生日を祝ってきました。その膨大な時間に比べると、我々人類の歴史はほんの一瞬のまばたきのようなものです。

我々にとって、この星に何が起きてきたのか知るのは不可能です。なぜなら我々はそのほとんどの時間において、存在さえしていなかったからです。

ただ、ありがたいことに我々には地質学があります。タイムマシーンで地球がどのように誕生したか見て回らずとも、最古の岩石や鉱物を研究すれば謎を解明できます。これらの岩石や鉱物は、我々人間の祖先よりも1万4,000倍も長く地球に存在しているのですから。

地質のサンプルは、地球の歴史について我々が信じていた常識を揺るがす結果を示しています。最古の岩石は、太陽系誕生の実態さえも教えてくれるのです。

これまで地球上でさまざまな岩石、鉱物が発見されてきました。研究者たちは、2014年に西オーストラリアで発見されたジルコン・クリスタル内の原子がどのように崩壊したか解明し、44億年前のものだと発表しました。これはこのクリスタルが地球誕生から2億年以内に形成されたことを意味します。

クリスタルは、溶解した岩石が地球の表面下で煮えたぎるマグマから形成され、シリコンや酸素、ジルコニウムでできています。

オーストラリアで発見されたジルコン・クリスタルは、イエダニよりも小さなサイズです。400マイクロメーターほどの長さしかないのです。一見取るに足らないようですが、この非常に小さいクリスタルは侵食に対し耐性があり、ほぼ不滅なのです。クリスタルを形成した元の岩よりも長く残り続けます。

堆積岩が数十億年に渡って洗いざらしになったのち、地質学者の手によりクリスタルが発見されました。この発見はただの記録の1つではありません。クリスタルがいつ、どこで、どのように形成されたかを知るのは、地球がいかにして地球になったかを知ることなのです。

「冥王代」の時代

このクリスタルは、私たちが信じていた地球の幼少期に関する真実を暴くかもしれません。従来、私たちは地球の最初の6億年ほどは、炎と硫黄に包まれ、絶え間なく隕石の砲撃を受け、地表全体が溶岩に覆われているものと思っていました。

この時代は「冥王代」と呼ばれます。この時代に最古のジルコン・クリスタルが形成されました。しかし、絶え間ない隕石の衝突や溶岩の海は、地球上の岩や鉱物にとって最良のレシピではありません。つまり、44億年前のジルコンの発見が我々の仮説を揺るがすことになったのです。

このことから科学者たちは、冥王代は従来考えていたほどの灼熱の世界ではないと気付くことになりました。なぜなら、ジルコン・クリスタルは頑丈ですが、従来考えられていた冥王代の過酷な環境では、さすがに生き延びられないからです。

このジルコンが重要な理由は、それだけではありません。研究者はクリスタルの酸素同位体の構成、酸素原子の重さの比率についても検査しました。この検査は、クリスタルが形成された当時の気温を推測する助けになります。

驚くことに、このジルコンの構成要素は、のちの時代である太古代の岩石のものと合致したのです。この時代は、地球がじゅうぶんに冷却されていて、海と大陸が存在していた時期です。

これは地球が44億年前の時点で、硬い地殻ができるほどにクールダウンされていたことを示し、従来私たちが考えていたものより6億年も早いことになります。

このクリスタルは、「クール・アーリー・アース」の仮説にとっても大きなポイントとなります。44億年から40億年前の気温が液体の海を維持できるほどに低かったことを示しているからです。けっして炎に包まれた地獄のような世界ではなかったのです。

このジルコンは、これらの時代の地球の歴史を知ることができる唯一の手がかりです。まだ証明できる段階ではないですが、今後、確証を得るためにさらなる研究が必要です。これまでのところ、このジルコン・クリスタルが地球最古の鉱物であり、その存在は私たちにとても多くのことを教えてくれます。

最古の岩石からわかること

しかし、驚くことに、この地球上にはさらに古い石が存在します。それはこの星で生まれたものではありません。地球上で生まれた最古の鉱石は、ジルコン・クリスタルですが、最古の石は月からか、あるいは隕石によってもたらされました。これらの石は私たちに太陽系全体についてのヒントを与えてくれます。

1969年に、2,000キログラムの隕石がメキシコ・アエンデ上空の大気圏に衝突しました。隕石のかけらは45億7,000万年前のもので、オーストラリアのジルコン・クリスタルよりも2億年近く古いものでした。それは太陽系のほぼすべてのものよりも古いのです。

科学者たちは、この隕石のかけらを使って、太陽系がいつ誕生したのか研究してきました。

都合のいいことに、同じ時期に宇宙飛行士が月の石のサンプルを持ち帰るようになりました。1971年にアポロ14号が、のちに45.1億年前と判明する最古の月の石を持ち帰りました。オーストラリアのジルコン・クリスタルと同時代のこれら月の石を手がかりとして、月は太陽系誕生後の最初の6,000万年以内に形成されたと推測されました。

月の石はまた、月にマグマの海が存在し、地球のマグマより早く冷却され、月の地殻となったことを示してくれました。

現在までのところ、太陽系や地球がどのように形成されたのか、また地球には幸運にもなぜ生命が存在できたのか、よくわかっていません。

40億年以上前に起きた出来事を解明するのは、容易なことではありません。ただ、私たちはジルコン・クリスタル、隕石、月の石という多くのタイムカプセルを持っていて、良好な研究材料が揃っています。これからもさらに古いサンプルを収集し、学び続けていくのです。