タトゥーに隠されたサイエンス

ステファン・チン氏:タトゥーは人類の歴史を映し出します。人類は何千年もの間、タトゥーをしてきました。しかし、いまだにタトゥーのインクが付着する方法については、わかっていないところがあります。

大まかにいうと皮膚細胞か免疫細胞がインク粒子を吸収し、よほど長い時間が経過しないか、レーザーで破損されなければ、基本的にはそれらの細胞は死なないと考えられました。ところが、実験医学雑誌の最新の見解によるとインクを吸収しているのは免疫細胞だそうです。

免疫細胞が死ぬと、新しい免疫細胞がそのインクを引き継ぎます。マウスを用いた実験がその事実を示唆しています。タトゥーをされているときには、尖った針の先で皮膚の2番目の層にある「真皮」にインクが入るよう穴を開けられます。

以前の研究では、顕微鏡でタトゥーの施された皮膚を観察されました。しかし、インクの雫の詰まった塊を見ても、その特性を学び取るのは困難でした。たとえばどの細胞がインクを吸収し、生きているのか。それらの細胞が死ぬとインクはどうなるのか。

そこでこの研究チームは別のアプローチを試みました。彼らは全身を巡って外部物質や他の残骸を掃除するマクロファージという細胞を殺すよう、遺伝子操作を加えたマウスを使いました。

また細胞の外にあるたんぱく質の種類を見分けるといった、顕微鏡では不可能なレベルの特性に従って細胞を分離できる装置を使いました。彼らは何の細胞がそこにあり、どの細胞にインクがあるかをより深く知ることができました。

これらの実験を通して研究者たちは恐らく独特な種類の真皮のマクロファージが関係している可能性を発見しました。メラニンを摂取する細胞であるメラノファージの一種で、日焼けや皮膚の色に多様性を持たせる色素です。このメラノファージは他のマクロファージのように破壊されるために中身を吐き出さず、色素細胞に保持するのです。

マウスへの移植実験

また研究者はマウスの尻尾に緑のタトゥーを施すと、メラノファージがそのインクを吸収したことを確認しました。

この細胞を殺してみると、インクは細胞間に残存しました。メラノファージが血液中の新しいメラノファージと入れ替わると、同じインクを吸収。この種の転換が正常なものかを確かるために、一匹のマウスからタトゥーの施された皮膚を他のマウスに移植しました。

インクを含んでいるすべての細胞は始めは移植を提供する側でしたが、約6週間後には移植を受け入れる側に代わっていたのです。もちろん、これはマウスの実験で確認されたものなので、完全に人間のタトゥーの例としては挙げられないかもしれませんが、われわれの皮膚には似たような色素細胞があるのです。

この発見はレーザーのタトゥー除去を容易にする可能性があります。インクの入った細胞を壊してより小さな塊にし、それらの細胞を殺せばいいのです。しかし、すべてのインクが免疫細胞によって運び去られる前に、その近くにあるメラノファージがインクを再度吸収し、タトゥーが周辺に残るようにしてくれるかもしれません。

干ばつに関する遺伝子工学

遺伝子工学は、マウスから植物の実験に関わる注目のトピックです。植物は地上で最も水分を必要とする組織であり、世界の入手可能な新鮮な水の90%を消費します。われわれは食べていく必要があるので、植物や野菜を育てないわけにはいきません。

気候変化による世界的な干ばつから目をそむけるわけでなく、この重大な水の問題は遺伝子工学者が解決しようと取り組んできました。今週、われわれは、この点において一歩、理解の歩を進めたかもしれません。

ネイチャー・コミュニケーションという雑誌の新たな研究の中で干ばつに対して、より耐性のある植物を作るために遺伝子操作されたある遺伝子について取り上げられています。

新たな発見をしたのは光合成の効率を専門とする国際的研究プロジェクト「RIPE」です。7つの機構と多数の科学者による巨大な共同研究プロジェクト。彼らは、植物が二酸化炭素と水から糖と酸素を作り出すための光合成に関して、まだ知られていないことを研究しています。

そして「ⅡSubunit S」「PsbS」と呼ばれる、光合成たんぱく質の量を増加させれば、水を保持する植物を作り出せることを発見したのです。PsbSは光のエネルギーを取り込む第二光合成における約30のたんぱく質を含んでいるので、すべての植物の中にあります。植物が必要以上に光を吸収するとPsbSは吸収したエネルギーを熱として放出させます。

もしすべてのPsbSの塊があれば、より多くの光エネルギーが転換されるのです。植物は基本的に錯覚しやすいため、光合成の準備を十分に整えられなくなると、他の成分をそれほど必要としなくなるのです。植物は取り入れる量をその開閉によって制御できる葉の上にある「ストマータ」という小さな穴から二酸化炭素を取り入れます。

これらの気孔は副作用として水分を蒸発させます。しかし、より多くのPsbSによって植物が錯覚されると。気孔は部分的に閉じて二酸化炭素が取り入れられたときに水分が失われないように対応します。

植物のタバコを用いた遺伝子実験

すべての事象を理解するために、研究者は植物のタバコを使って、より多い・より少ない量のPsbSを作り出すよう遺伝子操作をしました。彼らは温室や研究室よりもより人工的でない畑でタバコの植物を育てることにより、操作を加えていない正常なタバコ植物と、生産過多なもの4つと過少生産のもの2つを用意し、バリエーションを揃えました。

その結果、研究者はPsbS生産過多のものは操作していない正常なタバコ植物より平均25%以下の水しか消費しないことを発見しました。部分的に閉じられた気孔でも遺伝子操作された植物は、大気中により多くの二酸化炭素があったため、それらを摂取していました。

悪い点としては遺伝子操作された植物の半数は、手を加えていない正常な植物より非生産的でした。植物の丈が短く、群生せず、葉も小さく、枚数も少ないものでした。

しかし残り半分は完全に違っていました。研究者たちは大量の水で半分の植物を実験しましたが、干ばつのような状態を疑似体験した可能性があることを発見しました。干ばつの状況下で遺伝子操作されたタバコの生産性上昇が期待されます。

現在、研究者たちはこれらの植物を世界に今すぐ解き放つつもりはありません。たくさんの植物の遺伝子たちを操作することで水の保存を可能にする、単なる実証実験に過ぎません。

将来、RIPE研究者は、干ばつのように養分が不足した土壌でも遺伝子操作された植物が成長することを期待しています。しかし、これらの植物が作られ、試験されるまではどれほど成功を収め、革命的になるかに関しては、知る術がありません。

これからはサイエンスの力が問われます。有能な人々が学び、実験し、問題を解決するために世界中で協議する必要があります。