株式を売るタイミング

辻庸介氏(以下、辻):みなさん、(先ほどの澤上さんのお話のように)今日ご自分の興味のあるテーマで絞って、3銘柄か5銘柄だけ見て投資をする、安くなったら買う。それで、高くなったら売るんですけど、これがまた難しいんじゃないですか?

澤上篤人氏(以下、澤上):適当でいいのよ。

:適当ですか?(笑)。

(会場笑)

澤上先ほど言ったように、長期的には上がっていくから買っておく。とはいえ、どこかで下落相場が起きたら、そのときお金がないと身動きがとれない。だから、適当に売り上がっていって……でも、全部はダメですよ。必ず2割ぐらいは残す。そう、暴落相場ではドーンと買って、株価が噴いてきたらトットットッと売り上がっていく。株式市場は年に3回、4回暴落するからね。

:僕らは日々で焦ってるんだなということがよくわかったんですが、澤上さんの「ドーン、トットットッ」っていう時間軸はどんな感じなんですか?

澤上:年に2、3回か、4回くらい暴落するから、それは必ず起きてる。

だから、要するに長期投資はリズムが重要で。マイペースでリズムよく。それを「(上昇)相場だ!」って(焦って)行っちゃったら、マーケットに引き込まれて、(流れが)わからなくなる。

:なるほど、リズムよく、マイペースで。

澤上:まあ、投資は敢えてわがままでいいんです。だって一人ひとり、好きな銘柄は違うから。同じことをやっていても、何にもならない。

:なるほど。いやー、ちょっと深過ぎてあれですよね? 

(会場笑)

:いや、でも大切なんだなってすごく思います。

JALへの愛着で株を売らない父親

:あの、今日、ちなみに株式投資していらっしゃる方って、どのぐらいいらっしゃいますか?よろしければ、ちょっと手を挙げていただけますでしょうか。

(会場挙手)

:あ、けっこういらっしゃる! そのうち、含み損がある方ってどのくらいいらっしゃいますか?

(会場挙手)

:今手を挙げた方、正直ないい方ですね。

あの、個人投資家の方って、機関投資家と違って期限で切ったりしないので、どうしても買ったら持ち続けたり、愛情があったら売れなかったりして……ちょっと、ここで出すのはあまり良くないかもしれないですけど、うちの親父がある会社、まあJALなんですけど(笑)、好きで持っていてですね。

(会場笑)

:僕はいろいろ言って「ちょっと厳しいんちゃうか」って話しても、「いや好きだから、応援してるから、持ってるんだよ」って、敢えて買っているんです。今の例えは、適切じゃなかったかもしれないですけど、売ることって愛着があると難しいなって思うんですが、我々は含み損とかその利益とか、どういうマインドで対応すればよろしいですか?

藤野英人氏(以下、藤野):職業投資家と個人投資家で、違うところがあると思うんですね。個人投資家は銘柄種が少なくてもいいし、本能的に自由でいいと思うんですよ。

だから、今の(辻さんの)お父さんのように、JALが好きだから投資をするというのは立派な投資なんです。これは立派な投資家のあり方です。

ただ、その中で儲けも出していこうと、要は利殖という面で見て、投資を考えたときに、けっこう重要なことは何かというと……証券会社の人がアドバイスしたり、もしくは投資についての文などを読むと、よく書いてあるのは「利確」と「損切り」なんですね。

売って(株価が)上がったら利益を確定するとか、一定以下まで下がったら損切りをするということはあるんだけれども、もちろん、私のところも澤上さんのところも、バーンと上がったら売ることはあります。それは、そこで売っておけば、また後で下がったときに買えるじゃないですか。

安易に利確せず、株を持ち続ける

藤野:だから、当然利確をすること、そのものがぜんぜん悪ではないし、(利確も)するんだけど、でも、けっこうよくありがちなのが、利確というのは全部売ってしまうということがあって。それで、下がったところに対して、そのままにしておくんです。

それをすると何が起きるかというと、実は株式って、株式市場で数銘柄で投資をするときに、いくつかの、ほんの少しの銘柄がガツンと上がることによって、全体が引っ張られるということが多いんです。

それがガツンと上がるときに、ガツンと持ち切らないと(いけない)。セブンイレブン(の株)を持ち切るとか、ドン・キホーテを持ち切るとか、持ち切ることがすごく重要なんだけれども、利確にしてしまって、途中で全部売ってしまうと、いい会社はだんだん(株価が)上がってくので、利確を習慣にしてる人は、どこかで必ず置いてかれるようになります。

だから、その利確と損切りを専らしてる人は結局、ポートフォリオの中身が損切りしている銘柄だけになってしまうことがあり、けっこう悪い習慣なんです。

私がよく言うのは、「雑草に水をやって、花を摘む」という言葉があるんですね。だから、いかに損しないかということに対して、やっぱり、そこで投資をするときに、一番最初に話したように、何に投資をしてるのか。株価ではなくて、価値に投資をしてるということを考えることが、すごく大事なのかなと思います。

価値が上がって、ちゃんと未来に続くんだったら、その会社の株を持っていなければいけないし、価値が下がっていって、何か問題があるんだったら、損をしてでも、逆に売らなければいけないことになると思うんです。だから、花を摘んで雑草に水をやらないようにするっていうことが、一番大事じゃないかなと思います。

投資とは企業を応援すること

澤上:大事なのは、今、藤野君が言ったことと、ちょっと繋がってくるんだけれども、我々には損切りってものはないんです。我々は常に「この会社を応援させてもらおう」と。なぜかというと「10年、20年先もずっとがんばってほしい」「もっといい会社になってほしい」。だから応援すると。

応援というのは銘柄選別が大前提なわけ。(応援する)気持ちから(買う)。応援しているから、暴落しても買える。応援の気持ちがあるから、ずっと追いかけられる。

それで、応援をできなくなるときが切りどきなんだよ。「こんなにいい会社なのに、どんどん変わって、何だよ。おいおい」って、わけのわからない社長が来たり。「せっかく、いいお店なのになんだよ」とかね。そういうことがある。

自分が3年、4年、積み立てたものでも、「ああ。これでは、もう応援できない」と。そしたら、我々は勝手だけどね、損切りではなく、縁切りよ。

(会場笑)

澤上:縁切り。「悪いけれども、もう止めだ」と。それでもう、株を全部売ってしまう。なんでかと言ったら、もう応援する気がないんだから。

:なるほど。

澤上:それで、JALも同じ。(俺も)70年の終わりから、ずっとJALに投資してたの。なぜかと言ったら、日本が西ドイツを抜いてGDPが世界2位になったのが1968年。ところが、向こうの連中は絶対信用しなかった。

それで、1972年でようやく、世界第2位の経済大国と認められるような国になったわけ。ところが、あの当時JALの鶴のマークだけは、世界中の誰もが尊敬して、誰もがいい会社だと思っていた。なぜかと言ったら、無事故で、すごく機材も新しいし、サービスがすごくいい会社でね。最高の投資対象。だから当然、JALの株を買うのが「当たりくじ」だったわけ。

ところが、1980年代に入って、労働組合が8つの組合になって、急におかしくて、「昔のJALはどうしたんだ」と。それで、うちの社内で3年、4年、ああだこうだと検討した。結局、「もうダメだ」と、応援を止めて縁を切り、(株式を)売って3年後に潰れちゃった。

:へぇ。藤野さんがおっしゃった価値に投資するっていうことと、澤上さんがおっしゃった応援するっていうのは、その価値を信じて応援してるという。

澤上:その価値も今だけじゃなくて5年先、10年先、「もっとがんばってよ! この会社は、いい会社なんだから」。そういう感じです。

:なるほど。ちょっと深過ぎて僕はまだ、消化しきれてないんですけど、みなさん大丈夫ですか? いや、本当、損切りとかそういう話ではないってことですね。要は株を買うっていうのは、会社に投資するということ。よくわかりました。

生活者投資のすすめ

:ちょっとお時間もどんどん過ぎてしまって、あと3分くらいしかないんですけれども、澤上さんがおっしゃっていた生活者投資でしたっけ、そのあたりをお聞かせいただきたいと思います。

澤上:これは、今の世界の株式市場も、企業経営もそうだけど、要するに機関投資家とか、みんな短期志向なんです。

短期志向の投資ファンドやアクティビストがいっぱいいて、そこへ年金も資金を出してるし、それから、銀行もお金を出してるし、その短期志向でもって、どんどん企業経営を追い込んでいるわけ。

絶対にこれはいいわけないのに、これが世界のトレンドなのね。それで、これをどうしたらいいか。自分らがずっと思っているのは、みなさん、個人投資家。個人の人たちが自分の生活をベースに、生活者投資家という概念……ある種の自覚を持ってもらえたら、マーケットは変わる。マーケットっていうのは好きに、自由に参加していい。

機関投資家がいっぱいいる中で、それ(短期志向)ばっかり。今はひど過ぎる。それを変えていきたい。

:ありがとうございます。みなさん、生活者投資家になっていただければ。

株式投資は二重におもしろい

:では、最後に個人投資家の方々に、今後のアドバイスというか、まとめ的なことを、ぜひお二方にお話しいただきたいと思います、藤野さんから、よろしいですか?

藤野:楽しむことですね。いや儲けよう、儲かったら楽しいけど、でも、そのプロセスも含めて、楽しむことが大事なのではないかと思います。

本来、株式投資っておもしろい、ワクワクするものです。もちろん、投資信託もいいけれども、株式投資の方もとても(楽しい)。何が楽しいかっていうと、「こういう未来が来るだろう」「こういう会社が、こういう売上を出すだろう」ということがわかって、それが目論見どおりにいったときに、株価が上がるわけですよね。

そうすると、二重におもしろくて。どういうことかというと「あ、自分が予測する未来が来た、俺賢い」「俺すごい」という実感ができるわけです。

それが、しっかりと自分の収入、報酬として、手元に入るということですから、二重にうれしい。だから、投資というのはすごく楽しいということをみなさんに伝えたい。

投資は怖い、危ないというのは、どういうことかというと、信用取引をして、要は借り入れをして、自分の資金以上の投資をしてしまうことが危ない。

多くの人が、それをやって、ダメだったり、失敗したりする人多いんですけど、自分の持っている資金の範囲内で投資すれば、そのような危ないことは、ほとんど起きません。そういう面で見れば、(自分の)資金内で投資した株価が上がるということを継続さえすれば、株式投資というのはとても楽しいものだと思います。

:ありがとうございます。

投資はわがままに、マイペースでいい

:では、澤上さんお願いします。

澤上:(株式投資は)「応援」ということをもう1回、しつこく言っておきます。

自分も長いこと、企業を応援しようとお客さまの資金を運用してきたけど、潰れた投資は1つもない。だって、潰れるわけないじゃん。

生活者、世の中が大事だと思う会社だけを選ぶ。逆に、わけのわからない会社はいっぱいある、そういうものには見向きもしない。例えば、上場している企業が3,600社、3,700社くらいありますよね。例えば、「自分が応援したい、応援させてもらいたいな」と思うのは、500社くらい。最初から(残りの)3,100社には見向きもしない。

もちろん、(他の)投資家がいろいろ買うのは自由だけど、俺は興味ない。要するに、投資というのは、マイペース、わがままでいい。好きなことをやってけばいい。今、(藤野君が)言ったように、楽しめばいい。それを「あれも、これも」といって、投資をすると、わけがわからなくなって、かえって疲れてしまう。

だから、好きに、マイペースで。「おもしろい」「ここを応援したい」とかね、「こんな世の中をつくっていこうよ」という想いを込められるような投資を楽しむ。それで、結果は必ずついてくる。「儲けよう」と思うとダメよ。「儲かってしまう」ならいいんです。儲かってしまうという状態になれると、投資というのは楽ですよ。

時間軸に差があるかもしれないけど、価値のある企業だったら、(株価が)上がるに決まってる。だから、なんの心配も要らない。

:なんか、心配しなくていいような気がしてきました。

(会場笑)

:日頃の小さな失敗もどうでもいいような感じがしてきました。ありがとうございます。

すみません、もっとお聞きしたいんですけれども、時間がきてしまったので。僕なりにまとめさせていただくと、まず、我々個人投資家は10年スパンで考えようと。

まず、半年先はプロでも見抜けないので、大きな債権という市場から、株式市場に、もうお金が流れてくるので、株式という市場は平気でしょうと。

あとは、テーマを決めて、自分の好きなテーマ、信じられるところで、3銘柄から5銘柄を選んで、今は年に3、4回暴落があるので、リズムよく、マイペースで持ち切るというところ。

そして、価値に投資する、応援するということ、生活者投資視点。あとは、もう本当に楽しむということだと、僕なりに解釈させていただきました。

本当に、お二方のお話をこのように聞ける機会があるというのは幸せなことですので、最後にお二方に大きな拍手をお願いしたいと思います。どうもありがとうございました。

(会場拍手)