本物の長期投資とはどのようなものか

辻庸介氏(以下、辻):みなさん、こんばんは。マネーフォワードCEOの辻でございます。いよいよ台風が近づいているときに、最後までお残りいただきまして、本当にありがとうございます。

今回のセッションのテーマは、「投資のプロと語るこれからの相場展望と資産づくり」ということで、このテーマを語るうえで、日本で最高のお二人においでいただけたのではないかと思っております。

今日(2017年10月22日)は(台風予報の中)生命の危機を賭けて残ってくださった方もいらっしゃるかも知れないので(笑)、それに値するような「今日来てよかった」と言っていただける内容にしていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

(会場拍手)

:では、簡単にお二方に自己紹介をいただきたいと思います。澤上さんからお願いいたします。

澤上篤人氏(以下、澤上):みなさんこんにちは。台風が来ていますけど、それ以上におもしろい話ができると思います。今日は若い人が多いので、非常に楽しみです。

今日は投資をやっている人も、これから(投資を)考える人も含めて、博打的な投資ではなく、「本物の長期投資とはどのようなものか」ということを話したいと思います。

博打的な投資と違うのは、例えば、一番わかりやすい例で言うと、今は株価が上がっているから、みなさん強気でいっぱい買っている。けど、どこかで株価がドーンと下がったら、みんな真っ青になって逃げようとする。

われわれ長期投資家は違う。暴落を待ってゴキゲンで買う。投資というのは、安く買って高く売る。それしかない。安いときに買えなくて逃げるようでは、投資とは言えません。

長期投資家は買える、一般の投資家は買えない。これは個人投資家のみならず機関投資家も一緒です。まあ機関投資家も個人投資家もがんばっていますけど、10年、20年経ってみると、我々よりは絶対に成績が低い。なぜかというと、安く買えないからです。

ですので、今日は、どのように考えて、どのようにすれば安いときに買えるのかということに集中したいと思います。

:ではさっそく……どうしたら安く買えるんですか?

澤上:(株式が)暴落しているときに買う。それだけのこと。

:「落ちてくるナイフはつかむな」という話もあると思うのですが。

澤上:みんなは「上がった、上がった! すごい、どこまで上がるんだろう」といった熱気でマーケットを追いかけています。我々長期投資家は、マーケットとは付かず離れずのスタンスで、「みんな買ってるな」「みんな売ってるな」と、のんびり眺めています。

「みんな買ってるな」と思うときは好きにやらせておいて、なにかの加減で彼らがひっくり返ったときに、「じゃあ、そろそろ買おうかな」というのが1点。もう1点は、暴落したときに何を買うか、どのような企業を買うか、それをずうっと時間をかけて、ものすごくリサーチします。

:なるほど。マーケットと付かず離れずということと、(暴落したときに)何を買うか。後ほど、もう少し詳しくお聞きしたいと思います。

創業時、澤上さんが「全部教えてくれた」

:では、藤野さん、よろしくお願いします。

藤野英人氏(以下、藤野):みなさん、こんばんは。レオス・キャピタルワークスで「ひふみ投信」の運用をしている藤野と申します。

今日はみなさん、台風の中でも来てくれていますから、すごく熱気を感じていて、自分たちにとっても力になっています。

先ほど「落ちてくるナイフをつかむな」という話がありました。落ちてくるナイフは怖いと感じると思うんですけど、(実は)落ちてくるナイフではないんです。

本来は、すばらしい価値のあるブランドが安くなるわけですから、ナイフではなくてお宝が降ってきているんです。ですので、それを受けるのは、そんなに難しくないと思います。

私たちのレオス・キャピタルワークスという会社は、「ひふみ投信」というファンドを運用しているんですけど、そもそもの創業のきっかけになったのが、隣にいる澤上さんとの出会いなんです。

実は私、もう14~15年くらい前に「こういう会社をつくりたいんです」と言って、澤上さんのところに話を聞きに行ったんです。

みなさんもこれから「会社をつくりたい」とか、何かしたい人がいると思うんですけど、そういうときは、思い切ってその道の専門家や先輩に聞くといいですよ。

それで、私は澤上さんのところに行ったんですけど、1時間半くらいかけて、もう全部教えてくれたんですね。数字を見せてくれて、「こんなふうにお客さんが伸びたんだよ」とか「実はこのとき赤字だったんだけど大丈夫だから」とか、ものすごく具体的に教えてくれました。

僕はすごくびっくりして「こんなに全部教えてくれるんだ」と思いました。

それで澤上さんは忙しいから、1時間半経って帰ろうと思ったんです。それで「どうもありがとうございました」と言うと、澤上さんは「もう帰るのか?」「まだ話したいことの半分も終わってないぞ」と言われて、さらに1時間半以上、お話をしてくれました。

そのときの感謝がすごくあるので、私も「これから会社をつくりたい」とか、とくに運用会社をつくりたいという人には、澤上さんがしてくれたように時間を取るようにしています。

この会場に来るような人ですから、「自分も投資で成功したい」「投資会社をつくりたい」という人もいると思いますので、ぜひ声をかけていただけたらと思います。

私も1時間半くらいして帰ろうとするところを「待った、話の半分も終わってないぞ」と(澤上さんの)真似っ子をできるようになりたいなと思います。

今日は、みなさんの役に立つ投資の心構えから、具体的な取り組みの仕方までをお話ししたいと思いますので、よろしくお願いします。

(会場拍手)

日本経済はトンネルを抜け出し始めた

:先ほど藤野さんが創業の話をされたと思うのですが、ご存じない方もいらっしゃると思いますので、簡単に整理させていただきます。

澤上さんが「さわかみファンド」をつくられたのが18年前の1999年です。当時はそのような独立系の投資ファンドはゼロでした。

それで、藤野さんは「ひふみ投信」を9年前の2008年につくられています。

僕がマネックス証券に入社したのは2004年です。当時から「さわかみファンド」や「ひふみ投信」は当然あったのですが、営業で「これいいですよ」と(商品を勧めるような)スタイルではなく、口コミで広がるようなサービスでした。

当然、投資家として憧れのお二方だったのですが、実際のリターンを見ると、例えば、直近5年だけを見ても2.5倍とか3.4倍くらいになっています。まさに、日本の運用の先駆者のお二方です。

そのような方に月並みな質問で恐縮ですけれども、今は株式相場が14連騰していて、今日の選挙結果もあると思うんですけど「なぜこんなに調子がいいのか」「今後どうなるのか」というところを、プロのお二人にお聞きしたいと思います。では、藤野さんからお願いします。

藤野:今、日本の株式市場が活況を呈していて、多くの人は「株式が上がっているからすごい」「下がっているから厳しい」という話をされますが、株式が上がる下がるというのは単なる結果なんです。

何の結果かというと、会社の売上・利益が上がって、いい結果が出ると株価が上がるし、ダメだったら株価が下がるということなのですが、株価が動くかどうかを考えてもしょうがなくて、その背景にある、それぞれの会社がちゃんと儲かっているのかということ、お客さまの役に立っているのかということが、とても大事だと思います。

では、なぜ今こんなに株価が上がっているのかというと、日本経済はなかなか成長せずに苦しんでいたわけですけれども、長いトンネルを抜け始めてきたと言えるのではないかと思います。

具体的に、日本経済がトンネルを抜け始めた兆候はたくさんあります。例えば今、失業率は最低クラスになってきています。有効求人倍率もバブルのときを超えています。倒産件数もバブルのときより少なくなっています。それから、各企業の営業利益の総額も過去最高になっています。

もちろん、景気というのは必ず波をうちますから、無限によくなることもないし、無限に下がることもありません。今よくなっているから、将来、悪くなるかもしれないとも言えるんだけれども、ずいぶん日本の会社や経営者の顔つきが変わってきたということが、1つ言えると思います。

もちろん、まだまだダメな企業体質の会社もたくさんあります。先ほども控室で話をしていたのですが、日産、神戸製鋼で不祥事がありました。私たちはあのような不祥事は、実は氷山の一角で、まだまだ出ると思っています。

一方で、成長して伸びている会社がたくさんあるのも事実です。そういう面で見ると、日本の会社はやっとトンネルを脱出して、その次の世界に行き始めていることを確信し始めています。

内閣府が発表する景気ウォッチャー指数

:マクロではどのような指標を見られていて、ミクロでは企業のどのような指標を見られているのでしょうか?

藤野:マクロの指標は日銀の短観(企業短期経済観測調査)です。数字は毎月出てくるものです。それからGDPの統計であったり、企業業績でいうと金利動向であったり、たくさんあります。

私がマクロ指標とミクロ指標を中間的に見ているものとして、景気ウォッチャー指数というものがあります。これは内閣府が出している数字で、毎月、月初に発表されています。

これがものすごくおもしろくて、何がおもしろいかというと、毎月の経済状況について街角でインタビューしているんです。街角でどのようなことを聞いているのかというと、タクシーの運転手やホテルの営業マンなど、普通にがんばって働いている人たちに「今の景気はどう見えるか、どう感じてるか、何か気になることはないか」と聞いています。

それに対するコメントもけっこう細かく載っていて、それを見ると日本の景気の状況がかなり具体的にわかります。

自分たちがそれをやろうと思ったら、北海道から沖縄までたくさんのインタビューをしなければいけないわけですけど、国がシンクタンクに頼んでやってもらっているので、僕らはタダで見ることができるんです。みなさん株式投資以外に何らかのお仕事されていると思うのですが、景気ウォッチャー指数の具体的な中身を見ると、いろいろなことが書いてあります。

例えば、(2017年)7月・8月頃のインタビューでは、ホテルの営業マンが「12月の忘年会の予約がたくさん入っている」と。昨年よりも忘年会の出足が早いということが書かれている。どういうことかというと、ホテルの営業マンが忘年会の(予約の)数字がいいと言っているのは、年末にかけて景気がよくなるということです。

逆に会社もお金を使わなくなって、ホテルマンから「年末のパーティーの予約が厳しくなっています」という話が出てくると、年末にかけて景気が悪いのかなということが言えます。

要はマクロとミクロを繋げているものがそこにありますので、それを見ればみなさんの投資にも役立つけれども、仕事をするうえで上司に「知ってますか? 年末の景気はこうなってますよ」と言えたら、ちょっと賢そうですよね。

「今後の見通しはそもそも要らない」

:ありがとうございます。景気ウォッチャー指数は要チェックということを1つ、今日のお土産として持って帰っていただければと思います。澤上さんはいかがですか?

澤上:今後の見通しはそもそも要らない。

:要らない?

澤上:うん。

(会場笑)

:いや、聞きたいんですけど(笑)。みなさん聞きたいですよね? 今後どうなるか。

澤上:今、藤野くんが言ったように、ある程度でいいんです。

これを「今後の見通しがどうだこうだ」と、のめり込んでしまうと、もう小さなことも含め何もかもが大事になってきて、全体がわからなくなってしまう。

なので、我々長期投資家は「ここから5〜10年くらいの間にどんなことが起こるかな?」という、ぼやっとした気持ちで10年先までを見ています。その中で、要らないものもいっぱいあります。

例えば、10年をまとめて考えてはっきりとわかるのは、今はトランプ氏が大統領をやっているけど、途中で辞めるのか4年がんばるのか、あるいは2期やるかもしれないけど、(2期)やったところで8年です。なので、10年の中で(トランプ政権は)消えてなくなるだろうと。

そういう意味で、10年で括ってみると要らない余分なことがたくさんあるわけです。我々はそういう中で「ずっと変わらないものは何か」「株価がどういう動きをするのか」ということだけを考えています。

例えば、わかりやすく言うと、これは10年以上は続くと思うんだけど、株価はすごく上がります。なぜ上がると言い切れるかというと、米国の長期金利でみると現在2.4パーセントくらいだから。過去120年や130年の平均が5.7パーセントちょっと。それに比べて異常に低い。

日本はマイナス金利政策をやっているけれども、金利というのは経済活動の起爆剤です。金利がなかったら誰も儲からない。つまり、経済は動かない。なので、ゼロ金利やマイナス金利が永久に続くことは、絶対にない。

ということは、いずれ世界経済がまともになっていくときに、金利は必ず上がる、というか正常化していく。金利が上がると債券は下がることになるので、債券市場から株式市場への資金シフトが起こります。

債券市場から株式市場への資金シフト

澤上:これをグレートローテーションと言うんだけれども、これは世界的な現象で、もう起こらざるを得ない。なぜなら債券市場の規模に匹敵するマーケットは株式市場しかないから。債券から株式へのシフトは60年代から70年代にかけて起こったのですが、それ以来です。つまり、33年越しの債券バブルが終わりつつあるということです。

だから、例えばアメリカでは、昨年も今年もずっとそうだけど、いろんな株安要因を抱えながらも(株式は)市場最高(値)を更新し続けているんだよ。

下がっては上がり下がっては上がり、結局は史上最高値を更新してる。これは見えないところで静かに静かに、債券から株式に資金シフトがジワリジワリと進んでる(ということ)。

:それはだから、債券の金利が上がっていくことをマーケット的には「もうこっちしかない」と思っていて……。

澤上:いや、思ってる人は少ない。まだ不安がってる。

:そうですね。

澤上:はっきりしてるのは、日本の(10年物国債の)0.4パーセント前後の利回り、これが普通の4パーセント前後に戻る。すると、その分だけ(債券価格は)下がっていく。だから債券市場に群がってきたマネーはみんな必ずどこかへ行く。

:なるほど、そうすると債券市場から株式市場に流れだす、それはもうトランプ大統領がどうだろうが、そんなことは小さな話で、お金の流れはもっと大きな話であると。

澤上:そうです。そうすると、若い人たちがしっかりと、株式投資中心の財産づくりをしていくようになる。

:なるほど。あの、ご存じの方もいらっしゃると思うんですが、債券の金利と価格(の関係)っていうのは、金利が上がると価格が下がるっていうことがあります。それを前提にお話しさせていただいたので、わからない方はちょっと後で「債券の金利と価格」でググっていただくといいと思うんですけど、まあ10年で見るとそういう大きな流れであると(いうことです)。