海外で成功するための「Can」とは

九法崇雄氏(以下、九法):続いて、(5つの条件のうちの)「Can」をお願いします。

田所雅之氏(以下、田所):「Can」。これは言わずもがな的なところがあるんですけど。そもそも、国内でも当然それはそうなんですけど、海外でやる時には圧倒的な優位性があるかどうか、が重要なポイントになります

例えば、ドリームチームや技術的な優位性ですよね。ファーストムーバーとして、真っ先に参入して、Product-Market-Fit を達成できたかどうか、ピーター・ティールの言葉を借りて言うと、「あるほかの人が誰も気付いていない秘密に気付くことができたか」が大事かなと思っています。

例えば、これはベンチャーといっても上場企業の事例で恐縮なんですけれども、ユーグレナさんがなぜ時価総額3000億の企業になれたかというと、「世界初」ができたからだと思うんですよね。世界初のミドリムシ、ユーグレナの大量培養ができました。

テラモーターズさんの事例なんですけれども、先ほど最終価格21万で市場投入できたときにバッテリーを車載されたんですけど、こういうのを安い価格で、ハイクオリティーなバッテリーを提供でできたのは「我々しかいない」というのをおっしゃっていたのが印象的です。

先ほどソニーの創業者である盛田昭夫さんの話があったんですけど。なぜそもそもソニーがアメリカ市場に行ったか。当然オーディオの市場が大きいというニーズがあったと思うんですよね。ただそれだけじゃない、技術的なアンフェアアドバンテージがあったと思います。

というのは、ソニーが作ったトランジスタラジオものすごいコンパクトなんですよ。だいたい15センチくらいで、このサイズでこの音質で作れるのはソニーしかいなかったということです。盛田さんは「我が社の誇りだった」言っています。何度かOEMとか依頼されるんですけど、やはりソニーブランドを打ち出したいということでやった。

技術に基づくアンフェアアドバンテージなのか、チームに基づくアンフェアアドバンテージなのか、もしくは市場のインサイトに基づくアンフェアアドバンテージなのかを、いずれか、もしくは全てを持つことが海外でやる際に有利になります

九法:ありがとうございます。アンフェアアドバンテージが大事だ、というお話でした。

テラの海外進出の根拠は?

九法:徳重さん、テラモーターズが進出するにあたって、どこにアンフェアアドバンテージがあると考えられて、進出されたんでしょうか。テラドローンの話も聞かせていただけますか。

徳重徹氏(以下、徳重):そうですね、テラモーターズはさきほど申し上げたように、日本の会社・日本のブランドで、僕たちインド・バングラで唯一戦っている外資系企業です。日本の会社もいませんけど、アメリカ・ヨーロッパの会社もいない。唯一、現地でドブ板でやっているだけでビッグなアドバンテージだったりもする。

あと、アジアだとローカルの人が、インプリメンテーション(現場の実行)を基本的にしっかりできないので、インプリをしっかりやるだけでアドバンテージになる、というのもあります。

九法:なるほど。

徳重:ドローンは、もう少しテクノロジーオリエンテッドみたいな感じです。あとは、日本人がダメなところですが、今できることはやるんだけど、先の先を見越して、テクノロジーやトレンドや法規など、「先の世の中はこうなるだろうから、今これをやっとく」みたいなことが足りないですね。

僕たちで言うと、ドローンの管制システムがあるんですけど、今ドローンって目で見て操作しているんですけど、将来、目視外飛行ということで、飛行機の航空管制みたいになるんですよ。「でもそれってまだ先じゃん」と思うでしょう。でも、それは今やらないといけない、プラットフォームになるわけですから。

僕たちは1年半前にヨーロッパで世界で圧倒的トップの会社を見つけて、思い切って5億円も出資し、筆頭株主になっています。うち資本金16億しかないのに。

九法:すごいですね(笑)。

徳重:大事だと思ったわけです。投資家は、良いプランだが出資金額が一桁大きいと反対されました。つまり、5,000万円にしておけと。私はここが勝負所だと思い、決断しました。

僕たちは今、日本でもドローン管制システムをやっています。KDDIさんや大手電力会社さんと世界初のプロジェクトを推進しています。あとはまだ発表されていませんが、日本を代表する大手メーカーとパートナーシップを組みます。

それができたら、あとは、もう一気にドバーッと進める。成功事例ができたんだったら、今度はそれがバリューになるわけですよね。

そういうことが一気に描けるので、やはりプロダクトの優位性は非常に大事です。プラットフォーム事業は早く獲ったもん勝ちなので良いですよね。

九法:ありがとうございます。

日本だからこそ優位になる国は

九法:さきほど日本プレミアムというか、「日本だからこそ優位になる」というお話がありましたが、いろいろな国に進出される中でとくに日本ブランドが効く国、あるいはそんなに効かない国っていうのはあるんでしょうか?

徳重:それはもちろんあります。ただ、総じて評価は高いです。ビジネスは基本、海外でも信頼関係じゃないですか。信頼できる日本人・日本の会社、というのはもう、圧倒的に根付いているので。すごくやりやすい。先人の方々のおかげです。

さきほどの答えとしてダイレクトに答えると、一番強いのは東南アジアです。バングラやネパールもすごくあります。それが80パーセントの強度だとすると、インドだと60パーセントくらい。オーストラリアに行くと40パーセントくらいになる。

1年前くらいにオランダのアムステルダムに行きました。タクシーでいつも聞かれるわけですよね。「お前どこから来たんだ」「チャイニーズか」と。僕は服装が適当なんで。

九法:(笑)。

徳重:だいたい「チャイニーズか」と聞かれる。「いや、ジャパニーズだ」と。そうしたら「イェーイ!」と手を上げて言ってくれますからね(笑)。

(会場笑)

いや本当に。

九法:オランダ人が(笑)。

徳重:はい、オランダ人が(笑)。いや、でもみんなそう。フィリピンでも、スリランカでも。どこでもそうなんですよ。僕が不満として強調したいのは、先人の方々が蓄積してきた「無形資産」が、ほぼ使われていないわけですよ。

九法:「日本企業は素晴らしい技術を持っているんだ」ということですね。

徳重:人格もです。信頼感や信用度、「無形資産」はものすごいものがありますよ。

海外の見込み客へも僕らはLinkedInで営業しまくるんですけど、すごいやりやすいです。レスポンス率、めちゃ高いですから。

九法:LinkedInで営業されるんですか?

徳重:向こうが大企業で偉かろうがなんだろうがLinkedInです。もちろんメッセージの内容も大事ですけれど、レスポンス率がすごく高いです。

冷静な戦略が必要「Growth Story」

九法:ありがとうございます。今「Can」の話を、徳重さんの事例を交えてうかがってきました。最後の5つ目が「Growth Story」ですね。

田所:4つの条件を述べさせてもらいました。そこに加える条件になります。国内で調達したらマザーズIPOをする成長ストーリーを描くと思います。

徳重さんがおっしゃったみたいに、ドローンやEVなどはパラダイムシフトが起きています。つまり、圧倒的に強いプレーヤーがいない未成熟な市場です。「ここでプラットフォーム取りに行く」という戦略を立てて、それを実際に取れてしまったら、プラットフォーマーとして課金する関所商売ができますね。そういう成長戦略を描けるかどうかですよね。

「Want」は熱いハートやパッションを意味します。一方で「Growth Story」は、クールヘッドを持つこと、つまり冷静に戦略を立てることが必要かなと思っています。エグジットストーリーやエクイティストーリーなどと言うんですけど。「しっかりそれを描けますか」ということかなと思っています。

クックパッドの例をご紹介します。2015年頃のIR資料です。世界中でスマホが伸びているる時に、レシピはWeb上で見るんじゃなくてスマホで見る方に移りつつあるトレンドをおさえています。レシピサイトももともと、Webで圧倒的に強かったんですけども、この後クックパッドは(世界の)5ヵ所で、企業を買ったんですね。それぞれの市場で、スマホの浸透率が圧倒的に伸びてきています。

PCからスマホへのパラダイムシフトが起きている時に、市場を先に取りに行ったんですね。メタップスもそうです。上場前から世界中の8ヵ所でやっています。海外比率がすでに6割くらい立っていて、データエコノミクスという、今後は、データを握るものが市場を握るというパラダイムを提唱してスケールしています。

シリコンバレーでは一時期、「Data is New Oil」という言葉が流行ったように、データを抑えることが今後の一番の成長ポイントになることを見越した上で数年前から、グローバル市場でやっています。

パラダイムシフトが起きるところ、今後起きつつあるところにリソースを張って、そこを伸ばしていくという成長ストーリーが描けるのがポイントかなと思っています。

ディシジョンメイキングツリー

田所:これが実際に海外進出の仕方のようなところで「Growth Story」なんですけども。先ほどのYOYO Holdingsや徳重さんのテラモーターズもそうなんですけど、海外の市場が大きい、最初から海外からやるのがポイントですね。

海外から展開する時に、実は僕、(スライドを指して)こういうフレームワークを作ったんですけど(笑)。「エクイティストーリーディシジョンメイキングツリー」と勝手に呼んでいます。

要は最終的にIPOするまでに、どういうふうなエクイティストーリーを描くかという時に、どこの国でプロダクトマーケットフィットするか、その順番を考えることが大事だと思うんですね。

それが海外だったら、「海外でやる」という意思決定になります。ただ、一般には、クックパッドなどもそうなんですけれども、実際IPO一歩手前になって、今後さらに成長する蓋然性を高めつためにいわゆる浸み出し・ハミ出し型と言って、新市場に行くと思うんですよね。

みなさんは海外に行かれている方も多いと思うんですけど、そもそも自分たちが海外ファーストでやるべきかを考えるべきです。最初は日本国内で、そこでドミナントで勝つ。そこからハミ出し型・浸み出し型で海外に行くのか、戦略を立てる必要があります。その戦略は前に提唱した4つの条件に依存するんじゃないかなと。

つまり「Growth Story」というのは、「Can」「Want」「Needed」「Get Paid」に依存するんじゃないかな、と思っています。

九法:はい。ありがとうございます。5つの成功の条件の最後、「Growth Story」の話をうかがいました。

事業がスケールするポイント

九法:徳重さん、テラモーターズとテラドローンの「Growth Story」、今思い描いているところも含めて、教えていただけますか。

徳重:僕らはEVでいろいろ苦労してきました。そこの過程で海外事業展開の知見を貯めてきたことは大きいです。ドローンの場合は、ワンプロダクトグローバルというのが効きやすいですし、まさにスピード勝負です。あとはグローバルに展開できるのかというのが非常にポイントになる。その意味ではテラのカルチャーにもぴったり合っている。

今、田所さんがおっしゃったように、大事なポイントの1つは、やはり資金調達です。今ありがたいことに、日本では10億円だったら調達できる可能性はあると思うんですけど 、100億円を集めようと思ったら大変です。

しかし、シリコンバレーのスタートアップは、市場、経営陣、技術が良ければ100億円くらい集めてきます。世界で一気にやるためには、資金調達のボリュームが大事です。

でも、「日本だけでやってるんです」では、100億円調達は厳しいです。僕たちは、今、ドローン事業で「各国で勝てるパターン」を最終インプリしようとしているところです。それができれば、あとは一気に資金調達して世界展開していけばいい。

スケールするポイントを見つけて勝ちパターンを組織を含めて仕組み化できれば、あとはアクセルを思いっきりベタ踏みすればいい。今年、これをやりきりたいです。

クックパッドはなぜグローバルにできたか

九法:ありがとうございます。田所さん、今のお話をふまえてお聞きしたいです。海外の競合と戦っていく上でも、資金調達が肝になってくるということですが、ベンチャーキャピタリストとしても活躍されている田所さんからご覧になられて、調達する上でどこがポイントになっていくのか、うかがえますか。

田所:日本だと、先ほどシリコンバレーで100億調達という話ありましたけど、シリコンバレーのシリーズBが日本のIPOみたいな規模感なんですよね。

シリコンバレー、アメリカのスタートアップのスタイルはあんまりローカライズしないってあると思います。基本的にシリーズCくらいやったら、とりあえず英語圏の「カナダ行きます」「シンガポール行きます」「UK行きます」という感じでやるんですよね。

ただ、残念ながら日本は、上場してから資金調達して、そういうふうにやらないと、投資家が納得しないところがあります。IPOイグジットして利益確定し資金を回収するということです。でも日本が本当に上場しやすい国なので、まずIPOを狙う戦略も悪くないと思います

NASDAQだと上場するには時価総額で500億くらいなんですね。でも日本だと良いのか悪いのかわからないですけど、通常100億以下の時価総額でできます。2015年の数字だったと思うんですけど、売上は平均22億円で、平均EBITDAがだいたい1.4億円でできます。こんなやりやすい国はないと思うんですよね。ただ、上場後に成長するストーリーを作っておかないと、上場したあとに、絶対1回沈む時があるんですよ。

テラモーターズさんさんだったら真っ先に上場せずに、新領域を攻め込んでますよね。市場を広げつつ、でやりながら新領域に行く「Growth Story」描かれたと思うんですけど。上場前にユニコーンを目指すなら妥当な戦略だと思います。

通常、ほかの領域に行く際には、社内で新規事業という感じで始めることになると思います。日本で10億、20億円調達するだけでは弱いかもしれないですよね。上場して何十億円を調達したり、M&Aをして展開するなどの施策を立てるのが有効です。

クックパッドがなぜグローバルにできたかと言うと、M&Aを有効利用したんですね。M&Aなら、数十億の会社もキャッシュ出さずに買えるんですよ。そういうキャッシュフローのリスクを考えると上場した後に世界はグローバルに行くことを本格化するのも有効かなと思います。

九法:ありがとうございます。資金調達が重要だ、上場した後の世界を考えることも重要だ、というお話でした。もう時間がかなり迫ってきたんですが、もう少しだけ聞かせてください。

海外進出におけるメンタルタフネスの重要性

九法:海外進出をする上で、どんな人材をつけるか、また人材をどうやって獲得するか、その辺も肝になっていくのではないかと思います。

徳重さん、テラモーターズではどのような施策をされているのか、うかがえますか。

徳重:日本人で誰を行かせるかと、もう1つはローカルのすごい人。2つが同じレベルで大事かなと思っています。

僕も経験からすると、新興国やアメリカなどで「立ち上げてこい」というミッションが行かせる日本人にとってすごい大変なんですよ。

最初は今僕は、なるべく自分で作ってからパスするようにはしているんだけど、それでも大変。だいたいパターンがわかってきているんですよ。僕らは海外にいたやつが多いから、最初の3ヶ月はがんばるんですけど、だんだんやはりメンタルが落ちているとわかるんですよ。

だからこっちもサポート。さきほどの『プロジェクトX』から始まり、いろいろサポートツールがあるんですけれども(笑)。

九法:(笑)。『プロジェクトX』がサポートツールなんですか?

徳重:最初はみんな、希望が叶ってハッピー。だけど3ヶ月目ぐらいになると、厳しい現実が待っていて、新しい市場でなかなか製品導入が進まないし、「それ、ここでは売れないよ」など、ネガティブなことを現地の人に何度も言われる。大企業の駐在員にも、「何でそんなに頑張るの」と言われ、考え込んでしまう。

だから今は、2人体制で行かせることにしています。大事なのは不確実性に対する耐久性。バイリンガルよりもメンタルタフネス。理想的には1度、海外で失敗したやつです。なかなかいないですけど、それが理想です。

過去にうちの海外事業で失敗経験して、そこから這い上がってきている若手人材は芯が強くなっているし、切り込み力、交渉力、数値能力は抜群に良くなっています。

ローカル人材については、一番簡単なのは競合から持ってくることです。すでに競合に行っている人は全部わかっているんで、0からつまづきながらPDCAやって、時間もお金も使いながら検証を高めていくよりは、わかっている人を最初から採用したほうがいい。バングラの立ち上がりが短期間でうまくいったのは、競合から来てくれたからです。実際には、そのような人をこっちに連れてくることが大変なんですが。

九法:実際に競合から採用した、と。

「人」が会社の一番根っこにある

徳重:それはテラが日本の会社で、かつ、バングラでトップになるという強いパッションがあったから。「日本の会社×パッション」で来てもらえた。それだけです。だからすごくスムーズにいった。

九法:徳重さんご自身がそこに飛び込んで、採用活動もされたということですか。

徳重:もちろんです。僕らはまず最初に、市場、顧客、競合を徹底的に調査します。競合にも全て会います。コルバンというんですが、向こうが粋に感じてくれて。

実は今もまさにオンゴーイングでやっているところなんですけど、さきほど言ったドローンのサービス世界TOPのPrecisionHawkが70億円を調達した。そこのインドのトップをやっていた人がいるんですよ。彼がうちに来ることになった。

九法:(笑)。

徳重:そういうのが大事なんです。

九法:狙いすましていったと。

徳重:日本人とローカル、そこのバランスが重要なところです。

九法:ありがとうございます。田所さん、いかがでしょう。今、人材採用などのお話が出てきましたけれども。

田所:すべてに共通するところかなと思いますね。僕自身もシリコンバレーでスタートアップを立ち上げて失敗した経験があります。やはり海外で1回失敗した経験がすごく大事かなと思います。

僕は会社は、簡単な要素でできているとと思っています。ファイナンシャルパフォーマンスがあって、それに対してお客さんがいて、お客さんを満足させるオペレーション、プロダクトがある。一番根っこにあるのは、そのプロダクトとオペレーションを提供する「人」だと思うんですよね。この「人」の部分がないと、上の部分が切れて倒れちゃうと思うんですよ。

因果関係で言うと、会社が成功する根本的な原因は人なので、一番大事だと思います。

ポテンシャルのある人材を採用できるか

田所:徳重さんにおうかがいして思ったのが、トップが採用するのが一番効果的ですよね。CEOの仕事は、僕は本当に50パーセントくらいは社員のカウンセリングと採用だ思うんですよね。

ワンアンドワンでミーティングして、モチベーションやコミットを引き出す。徳重さんの場合は、然るべきタイミングで『プロジェクトX』を見せる、また『メイドインジャパン』を読ませるみたいな既存の社員のモチベーションを上げつつも、ポテンシャルのある新規人材を採用できるかがすごく大事かなと思います。

九法:ありがとうございます。最後に、ぜひお2人から今日の参加者のみなさんに、メッセージ・アドバイスをいただきたいと思います。海外進出するにあたって、どんなマインドセットを持つべきなのか。まず、田所さんからお願いします。

田所:単純な話で、僕はこの5つの輪を(スライドに)書いてあるんですけど、この中で「Can」「Get Paid」「Growth Story」「Needed」は、後付けでできると思うんですよね。強い「Want」というのは教えたり、100億円があっても獲得できないと思うんですよ。

例えば、自分自身が新興国やアメリカに行って、この市場に共感した、そこで解決するべき課題を見つけた、というのはすごい宝だと思うんですよね。

この5つは足し算じゃなく掛け算だと思うんですよ。徳重さんがすごくスケールしているのは、たぶん「Want」がものすごい、数字でいうと1億くらいある。

あと(の項目)が例えば1、1、1であっても、(掛けたら)1億になると思うんですね。ただ「Want」が、例えばスタートアップのファウンダーで、「10しかありません」といったら、ほかが1,000くらいあっても掛け算なので、けっこうダメかなと思うんですよね。

やはり強い「Want」が大事です。「この事業をやるために自分は生まれてきたんだ」くらいの強い「Want」を持っていただきたい。

九法:ありがとうございます。強い「Want」が大事だというお話でした。徳重さん、いかがでしょう。

なるべく小さな失敗を

徳重:今日はセミナーの趣旨は「海外進出」ということだと思うので、僕からアドバイスとするならば、それは「とにかく早くやってみてください」です。

最初の海外進出は99%うまくいかないと思ってください。実際、ITメガベンチャーの多くもほとんど撤退している。でも、トライして具体で実際やってみることで、肌感覚が身についてくる。

なるべく早く、なるべく小さく失敗して、そこからいかに学びとっていくかが重要。そこでの失敗は、マーケット調査くらいに割り切ってやったほうがいい。だから、「思い切って踏み込んでみてください」。

九法:はい。ありがとうございます。私のほうからも一つだけお話させてください。メディアで取材する立場として、国内、海外問わず、成功する起業家の条件は「クレイジーさ」がにあると思っています。まさに田所さんの『起業の科学』の中にも「クレイジー」という言葉が頻出しますよね。

起業の科学 スタートアップサイエンス

私は『Forbes Japan』という雑誌やウェブメディアを作っていますが、去年の12月発売号に孫正義さんと、WeWorkの共同創業者2人のエピソードを紹介しています。そこには、孫正義さんがWeWorkの創業者に資金提供達する時のエピソードを書いています。

その中で「頭の良いやつとクレイジーなやつ、どちらが勝つんだ」ということを、孫さんがWeWorkの創業者2人に問いかけるんです。

当然、彼らもわかるので、「クレイジーなやつ」と答えるんですが、孫さんは「そうだ、まさにクレイジーだ」。ただし、「お前らは”not enough crazy”だ」。つまり、「まだまだクレイジーさが足りない」と。今をときめくWeWorkの2人にもこういうことを言い放つ、孫さんのクレイジーぶりが印象的なエピソードでした。

「クレイジー」というのは、ただ単純に「狂っている」ということではなくて、ビジョンであったりアイディアだったり、やりたいこと、実現したい未来、みたいなことを、どれだけ自分自身が信じて突き進んでいるのか。まさに強い「Want」があるのか、ということなのかなと思っています。

今日のお2人のお話から、起業家にとっていかに「Want」が重要かということがよくわかったと思います。みなさんの海外進出の参考になれば、今日は良かったのかなと思います。どうもありがとうございました。

(会場拍手)

どういう会社のロゴが良いか

司会者:5分ほど質疑応答の時間に入らせていただきたいと思います。本日のお話をおうかがいして、ご質問ある方いらっしゃいますでしょうか。挙手をお願いいたします。

九法:ぜひ遠慮せずに、せっかくなんでみなさんに。

司会者:そうですね、この豪華メンバーが集まることはほぼなくて、このあともお三方、お忙しいので……。

(会場挙手)

質問者1:どうも、素晴らしい……僕の兄貴分的な方の話を生で(笑)、聞くことができて、最高ですけど。

(一同笑)

この間会社また作ったんですけど、ロゴはどういうロゴが良いんでしょうね?

(会場笑)

いろいろな世界に出ていく日本のロゴ。僕らの会社のロゴ。……伝わっていますかね?

九法:ロゴデザインということですね?

質問者1:そうそう、どんなロゴが。

九法:これはなかなか難しい話ですよね(笑)。

質問者1:けっこう難しいなと思います。

ロゴは全体的なUXで考えるべき

九法:田所さん、どうですか。いろいろなスタートアップを見られている中で。

田所:どこに行くんですか? US? アメリカ?

質問者1:宇宙を……!

田所:(笑)。

質問者1:地球、グローバルに。世界中に通用するロゴデザインってどんなのが良いかなと。

田所:UXがですよね。UX全体から見て、ロゴにも一貫性があるかどうかはすごく大事かなと思います。ペルソナをしっかりと設計することが大事です。自分たちがターゲットにしたい層が女子高校だったらかわいい系、萌え系のロゴが良いと思うんですけど。

シュッとしたエリートサラリーマンだったら、シャープなイメージかもしれない。全体的なUXで考えるべきですね

質問者1:誰が対象かという。

田所:そうそう。UXの一貫性ですね、

九法:テラモーターズは銀色をメインに使われていますよね。「未来感」をそこで表現されているんですか。

徳重:テラグループは「世界でやる」のがメッセージ性としてあるので、地球を囲むように作りました。

利益追従と持続可能性との矛盾

質問者2:貴重なお話、ありがとうございます。僕の大きな悩みにぶち当たっておりまして。資本主義の中で経済活動していると、利益が出ると一時的な嬉しさはあるんですけれども、スタートアップの方がよく言われるとおり、社会課題などの議論があります。僕が働いているのは、社会課題などは気にしていなくて、利益のためだけにやっているんですけど。

そうすると、サステナビリティ(持続可能性)との矛盾がどこかで出てくると思います。ソリューティが生まれていってサスティナブルかどうかという議論は、お2人はどのように考えていらっしゃいますか?

田所:会社はまだ小さいですよね?

質問者2:小さいですね。

田所:人間もスタートアップと一緒なんですけど、いろいろなステークホルダーのことをシリアスに考えるのは大人になってからの悩みだと思うんですよね。

例えば「税金を納めます」「雇用を生み出します」というのは、大人になってからつまり、会社をスケールさせてから悩んでいいかなと思うんですよ。

子ども、つまり初期のスタートアップは、そもそもプロダクトマーケットフィットを達成できるかどうかです。その次がユニットエコノミクスを達成できるかどうか、ですね

考えていただきたいのが、ほかの人が解決していない課題を解決するのは、僕は社会的にすごく意味があると思うんですよ。現在において、そういう課題解決するための事業を起こす手法/ビークルで一番効果的なのは僕はスタートアップだと思っています。やはり順番としてまず、子どもから大人になる必要があるかなと。大人になったら悩んでもいいかなと思います。

司会者:ありがとうございます。

松下幸之助や稲盛和夫に学ぶ

徳重:いろいろな起業家の歴史を研究すると、結局、最初はみんな「貧乏だから始めた」「学歴ないから始めた」。つまり個の気持ちで始めているわけですね。

それが進化して、家族のためになって社員のためになって、最終的に立派な経営者に行きついている方は、思いがパブリックになっているわけです。

有名な話で言うと松下幸之助さんですけど、「経営の神様」だって会社できて最初の10年くらいは、自分のためにやっていたわけです。

だけど、彼の気持ちがパブリックになったのは、ある出来事があって、それが有名な言葉「水道哲学」になる。当時、貧乏であった日本で、無料である水道のごとく、つまり「低価格で大衆に家電を提供するんだ」というビジョンに変わるんです。

同じような話は、大企業を創られた起業家にはみんなあって、京セラの稲盛さんも最初は「これだと稲盛の会社じゃねぇか」と言って社員みんなが辞めちゃうんですけど、後々「会社はなんのためにあるべきか」を熟考されて公の気持ちを持たれていきました。

そういうプロセスを踏んでいくので、結局はさきほどの田所さんのアドバイスのプロセスでまずはいいんじゃないんでしょうか。そういう気持ちを持っていたら、どこかのタイミング、出来事で変われる。

質問者2:ありがとうございます。

司会者:はい、ありがとうございます。すいません、最後の質問にさせていただきたいと思います。

(会場挙手)

インドはかなりフェアな国

質問者3:徳重さんにご質問なんですけど、具体的な事例で少し教えていただければと思うんですが。インドの話をされましたが、私ども政府間セミナーでインドに行きました。

具体的な内容として、私どもは地震速報装置を扱っているんですね。地震をキャッチして、センサーでアラームを鳴らす。これは日本が一番進んでる技術なんですけども、私どもはそのメーカーなんですね。

今度、(インドの)ビハール州と一緒にやろうということになりました。インド工科大学でも研究を一緒にやることになりました。

その中で「インドで製造してくれ」という話があるわけですね。「やりたいな」という気になっているんですけども、インドで実際やられて気を付けることをお聞きしたんですけれど、なにかアドバイスいただければありがたいなと思います。

徳重:インドではまず価格が非常にセンシティブです。想像以上の安さです。あとは、優秀な人が他のアジアの国との比較でいうと圧倒的に多いですね。

インド人からかなりの応募がくる

徳重:具体の事業でいうとJV(ジョイントベンチャー)がポイントになるでしょう。役割分担が重要です。

僕たちもJVでうまくいったケースとうまくいかないケースあるんですけど……。(その事業は)JVですかね?

質問者3:そこはまだ決めていないです。

徳重:インドを嫌う人は多いですが、僕は非常にポジティブです。インド人は優秀な人は非常に多い。最初にできる人材を雇えるか、それによって状況はぜんぜん変わってきます。

あとは、御社がやられているプロダクトやサービスなどに、情熱を持てる人。そういう人をいかに雇えるか。採用選択は大変ですけどね。テラも募集したら1,000人くらい来るんですよ(笑)。低欲望社会ではなくて高欲望社会なんで(笑)。

(会場笑)

その仕分けが難しいんですけど……(笑)。でも、そういうプロセスを踏んでいけばいいと思います。

質問者3:はい。ありがとうございます。

徳重:パクるなどはあんまりない。騙すことやパクることがあまりないです。

司会者:ありがとうございます。では以上をもちまして、パネルディスカッションを終了させていただきたいと思います。九法様、田所様、徳重様、ありがとうございました。

(会場拍手)