『電脳コイル』の世界は現実に?

福野泰介氏(以下、福野):こんにちは。「電脳メガネサミット」ということで、今回のディスカッションのモデレーターをさせていただきます。

会場にいらっしゃっている中でメーカーの方ってどれくらいいらっしゃいますか?

(会場挙手)

お、ほぼメーカー。作られている方ばかりですね。「電脳メガネ」という単語はご存知でしたか? 実は電脳メガネというのは『電脳コイル』というアニメの言葉なんです。

それでは進めたいと思います。第1部は「めがね型ウェアラブルの現況と展望」ということで、今のめがね型ウェアラブル端末、これを便宜的に「電脳メガネ」と呼んでいますが、こちらの現況をざっと把握した中で、これからどうなっていくのか、ということを今回は4人で話していきたいと思います。

まず私から自己紹介します。株式会社jig.jpというスマホアプリの会社をやっています。今日も(EPSONの)津田さんがいらっしゃってますけど、2011年に、EPSONからMOVERIOという端末が発売されまして。もう7年も前ですね。

津田敦也氏(以下、津田):そうですね。

福野:早いですね。7年前にこのEPSON MOVERIOが発売されて、「これはすごい!」と。メガネの時代が来たなと思って、その翌年の2012年に、鯖江市主催の第1回電脳メガネサミットというものをやろうよと鯖江市さんにお話して、実現しました。

実はこれと並行してオープンデータ伝道師というか、オープンデータの活動をやっていたんですが、第1回の電脳メガネサミットの結論としては「便利なメガネを使ったアプリケーションが広がるためには、世の中でもっとデータが必要だね」ということになりました。

第1回電脳メガネサミットのときには、『電脳コイル』を制作している徳間書店さんに協力いただいて、『電脳コイル』のプロデューサーの方に鯖江市まで来ていただいて。こういった『電脳コイル』の世界、理想的な電脳メガネの世界を鯖江市を中心に作っていくぞ、と市長が宣言するというかたちで終えております。

鯖江市長が電脳メガネ元年宣言してから7年、6年経っちゃいましたけど(笑)、まだまだ課題がたくさんあるのが現状です。

2014年にGoogle Glassが発売されて、僕も大好きで。鯖江市のメガネ会社の人にいろいろ改造してもらってかけるようになり、1年間かけ続けたこともあります。

意外と便利なんですが、ただ、カメラを四六時中つけて歩いているとリスクもあります。また、やっぱりちょっと重いんですよね。耳の後ろが擦り切れてきて何度か血が出たりもしました。ですので、もうちょっとなんとかなりたいな、というのがこの1年間でした。

電脳メガネの現状

福野:(スライドを指して)これは、現状の電脳メガネっぽいものをざっと集めたものです。

たくさんありますよね。4象限というか4種類に分けていますが、左上がメガネっぽいものにちょっと機能を加えたバージョン。なのでかなりメガネっぽいです。

右下のVRもここ数年非常に盛り上がっていますが、実は、EPSON MOVERIOやテレバシーさんのようなARとVRは、ともに目指しているのは右上のMR、Mixed Realityです。これがいわゆる電脳メガネの世界なんですが、如何せんまだまだちょっと(端末が)大きいというのが現状です。

ちょっと軸を切りなおして、高級さと手軽さ、値段の軸とメガネっぽさに分けてみました。まだまだメガネっぽくて安いものというのは一部の限られた機能のものになっているのが現状だと思います。

それでは私ばかり話してもしょうがないので、ここでテレパシージャパンの鈴木さんから、テレパシーさんとしての電脳メガネというのをご紹介いただければと思います。

鈴木さんです。よろしくお願いします。

(会場拍手)

シリコンバレー生まれのスマートグラスベンチャー

鈴木健一氏(以下、鈴木):テレパシージャパン鈴木と申します。どうぞよろしくお願いいたします。自己紹介含めてお話をさせていただきます。

テレパシーはけっこう稀有な会社の1つでございまして、日本にありながらスマートグラスをやっている非常に小さいベンチャーの会社です。もともとはアメリカでGoogle Glassが出る機運を感じて、2014年にシリコンバレーで創業しました。そのあと、ほとんどの部隊をいったん東京に持ってきて、今は東京軸で活動をしています。

私が着けているものも含めて2機種を出荷しています。後にも出てきますが、非常にマイナーなところでBtoB向けの工場支援や作業支援など、そういった分野から使っていただいています。

11月に日経さんに(記事を)出していただきました。これは浅草の街並みです。先ほどの『電脳コイル』みたいに街並みが見えるというところまではまだいきませんが、スマートデバイスをかけていると、外人さんと話してもパッパと話ができる未来はすぐそこに来ていますね、という記事を書いていただいきました。

みなさんご存知の通り、アメリカでも大きな会社のリーダーたちが「次がグラス来るよ!」と太鼓判を押しているの中で、テレパシーも仕事をさせていただいています。

私は今、3つの軸でこのグラスを進めています。「楽しんでいただくこと」「社会的課題を解決すること」あとは「世界になんらか貢献すること」ということでテレパシーの仕事を進めています。

先ほど浅草が出てきましたが、浅草の花やしきの中で私が着けているグラスと同じものを使って、園内案内を4ヶ国語でやるというサービスを1年半ほど前からやらせていただいています。園内で歩いて行くと、花やしきの歴史がグラスの中でも展開されるという具合いになっております。

まさに狙っているのは、みなさまのご想像通り2020年に向けてARでインバウンド観光をしたいと。浅草花やしきの外に出ると、先ほど記事にあった通り浅草の街並みがありますので、言語にかかわりなく、情報の壁にかかわりなくやりたいと考えています。

社会的課題ということで、これはよくされる話ですが、さまざまな分野でお仕事の支援をするツールを展開しております。

建築現場ですとか災害の現場で使っていただいたり、あとは農業ですね。農業の技術指導をするような仕組みを作ったり。他には、ドクターヘリと病院をつないで患者さんの状況を伝えるというようなことをしています。

最後は世界に貢献するということで、私たちは実は2年以上、これを使って色弱、色覚の症状を持たれている方に貢献できないかという研究をしてきました。世界で見ると、約3億人の方が色弱の症状をお持ちです。

色弱だけは治すツールいなかなか決定的なものがないということで、この分野をやってきました。やっと去年の末から、世に出せるというところまで研究がきましたので、年明けのウェアラブルエキスポのタイミングで発表させていただきまして、『めがね新聞』さんにも取り上げていただいて進めております。

先ほど出てきましたけれども、情報とAIというのはスマートグラスに不可欠なところでございます。大きいところですとオプティムさんという企業と組ませていただきましてAIのデータ化に取り組んでいる状態でございます。

駆け足ではございますが、以上ご説明させていただきました。どうぞよろしくお願いします。

福野:ありがとうございます。

(会場拍手)

EPSONのスマートグラスが生まれるきっかけ

福野:では津田さん。災害支援と言えば鯖江市も、福井県は先日ものすごい雪に襲われまして。ああいったときにこのメガネがあったらなって思います。消火栓が雪に埋まっちゃうのを掘り出そうという運動を、雪が降った7年前、5年前かな? にもやったんですけど。

どこに消火栓があるかって意外とわからないんですよね。鯖江市さんに聞いたら、それをオープンデータにしてくれて。でも、これをスマホ見ながらスコップ持って手袋してって無理なので、「消火栓を探すメガネを作らなきゃ」と思ったところです。

では津田さん、お願いいたします。

津田:セイコーエプソンの津田です。よろしくお願いします。

先ほど福野さんに話していただいた通り、2011年にBT-100というモデルを出させていただきました。当時、恥ずかしながらこの1、2年前にエプソンは1000億円の赤字を出したんですね。

そのあとにこのわけのわからないメガネを出して、「一体エプソンはどこに向かうんだろう」とかなりネットで叩かれた時期だったんですけど。僕らも「そうは言っても未来は変わるよね」と思いながら作ってたんですが、心が折れそうになるくらい叩かれた時期がありまして。

そんなときに福野さんや牧野市長はじめ鯖江のみなさんが「おもしろいよ」って言ってくれたんです。それが、とっても嬉しかったです! 鯖江の電脳メガネサミットをやろうよと言ってくれて、鯖江ってよくわかんなかったんですけど(笑)。

非常に盛り立てていただいて、いろんな意味でフィードバックをいただいて。2014年にBT-200というものを出させていただきました。

市場っておもしろいですね。手の平を返したように経産省がなんとか開発賞をくれたり、日経産業新聞がなんとかグランプリとかですね。CEATEC AWARD、すべての賞を総ナメさせていただいたんですが。それはイコールビジネスとはまた別の話です。

ここからどうやってこれを広げていこうかというかたちでいろんな実証実験を繰り返してここまできています。昨年BT-300、350という第3世代のモデルを出させていただいて、やっと事業として上向いてきたかなぁというかたちになってきています。

実際には、私たちはプラットフォームを展開する。つまりメガネをかけたい人っていっぱいいるんですけど、かけたい人のニーズというのはまったく違うので、BtoC、BtoBtoC、BtoBと、お客様に選択していただくようなラインナップを揃えています。

BT-300というのは個人向けなんですが、私が今かけてないということはまだ常時かけるものではないというレベルだと思ってください。無理にかけるものではないので。

ただ、電車に乗るとかけてます。電車の中で映画観てます。非常にわかりやすい、大画面で映画が観れるツールにはなってます。ただ、これがBT-400、500ではどうなるかわかりませんが、ふだんかけている眼鏡になるように目指していこうと考えています。

こんな細かい話をしてもしょうがないので少しだけ触れておくと、やはり美術館、映画館、それから観光、テーマパーク、スポーツ。こういった分野ですでに導入が始まっています。

地方創生×電脳メガネ

津田:1つだけ動画をお見せします。これはF1のチームのなんですけど。

(動画開始)

ちょっと演出が入っています。チームが宣伝用に作ったので。ただ、この中にはCGありません。リアルにやってるチームです。YouTubeにあがっているのはけっこう作られた映像が多いんですけど、これは本物です。そういうかたちで見ていただくと技術がここまで来たんだなとわかってもらえるかなと。

スポンサーの方をガレージに招き入れて、本物のマシンを見せる。お客さんはメガネをかけて、カメラがマシンを認識します。それに合わせてマシンの説明を目の前で展開していくと。

このメガネは本物です。ちょっと長いので切ります。

(動画終了)

この笑顔は本物です。技術というのはここまで来ています。だいたいこれを見せると言われるのが、「エプソンがスポンサーでF1はすごくお金を持ってるからできるんでしょ?」と言われるんですけど。

これとまったく同じシステムが、松本山雅やジュビロ磐田など、ふつうのJリーグチームでファンサービスとしてすでに展開が始まっています。

こういったかたちでまだまだ個人がかけるものではないかもしれないですが、すでにサッカーチームであったり、観光地が導入をしています。

我々はこれをもう1段、地方創生に使おうと。要はハードウェアを売るだけじゃなくてそのハードウェアの点をいっぱい増やしていって、そこに運輸業であったり、観光業の方が新しいツアーを企画してもらおうと。こういったかたちで人の流れを変えていきながら地方を活性化しようという取り組みをやっています。

Jリーグを基本にしようと思っています。なぜならばJチームはどの県にも存在しますので、そこを軸に観光地をつなごうというかたちで展開しています。本当にまだまだ始まったばかりです。

こういったものを使ってさらにみなさんに楽しい場面を提供したいなと思って活動をしています。ありがとうございます。

(会場拍手)

福野:ありがとうございます。第1回の電脳メガネサミットは無駄ではなかったと?

津田:無駄ではなかったです。勇気付けられました。

福野:嬉しいです。EPSON MOVERIO BT-100は数百人の人にかけてもらいました。

津田:そうですよね。僕よりマーケティングしていただいて。

経産省から見た電脳メガネの現状

福野:それではメーカーの方2人が続きましたけれども、MOVERIOさんにも賞を送った経産省の方。

津田:すみません、失礼なことを言って申し訳ございません(笑)。

福野:津脇さんです。

津脇慈子氏(以下、津脇):経済産業省の津脇です。本日はよろしくお願いいたします。

私はたぶんここにいらっしゃるみなさんの中で最も電脳メガネから遠く、知識がものすごくない人間なんですけれども。

私自身は2年ごとにコロコロ変わってるんですが、去年の夏くらいまでIoT、ITを推進するという仕事を担当させていただいてました。先ほどあったCEATECも担当させていただいたところでした。

まさにみなさんが最初に電脳メガネサミットを始めたころより、データを活用して、IoTですとか、我々が最近言っているConnected Industriesということをみなさんなんとなく認識を始められたころなんだろうと。みなさんの活躍もあり進んできたんだろうと思うんですけれども。

今後の課題というところとでは、盛り上がったけれども、じゃあどうやって今後マネタイズをしていくか? 今後本当の現実世界で使っていくか? というところだと思っています。ここが踏ん張りどころなんだろうと思います。

今私がやっている仕事は、中小企業庁の経営支援課というところなんですけれども。まさに中小企業、スタートアップが人手不足ですとか、こうした新しい技術の波に飲み込まれている中で、どうやって地方も含めて人を魅了してく場所もしくは企業になっていくのか? どうやって新しい付加価値を生むような組織になっていくのか? というところを考えていく仕事をしているところであります。

そういう意味ではまさにみなさんのこうした取り組みが本当に社会でどう活用していくかというのが日本の次の産業の要になってくると思ってますので。ぜひ今回はいろいろ新しい目というのを学ばせていただくという意味で参加させていただければなと思います。

よろしくお願いいたします。

(会場拍手)

福野:ありがとうございます。本当ぴったりです。