富田選手は急性ストレス反応を見せている

國田武二郎(以下、國田):最初にお断りをしたいのは、、今冨田選手は急性ストレス反応ということで、いろんな意味で異国の地で無実の罪を着せられたまま、傷心して日本に帰国した。日本に帰国すれば世間からは追放され、あるいは所属会社からも解雇された。あるいはネット上で、選手に対していわれなき批判があったということで、大変精神的にもつらい状態ということで、急性ストレス反応という症状で病院に行っております。

あえてこの場で診断書をお出ししたのは、本当に事件発生以来、彼はつらい日々を送ってきたということをご理解いただきたいということなんですね。今もその状態は必ずしも完全とはいえないもんですから、ぜひその辺の、冨田選手のつらい苦しい精神状態をひとつご理解の上で、ご質問等をいただきたいとお願いしたいと思います。

一応、この記者会見にあたって3時まで(時間を)取っておりますので、冨田選手の口から皆さん方の質問に対してお答えするという時間は、十分に取ってあるつもりです。ただ、ある程度皆さん方にもこの事件の経緯を頭のなかに入れていただいて、その上でご質問をしていただいたほうがより効率的じゃないかと思いまして、私、弁護士のほうから、弁明書を見ながら簡単にご説明したいと思っております。

今日は(資料が)35部ほど、30部あればいいと思ってましたけど、予想外にたくさんの方がおられてですね、大変部数が足りないことは申し訳ないです。大変申し訳ないんですが、同じ会社の方はコピーなどして回していただいても結構でございます。一応、1社に対して1資料ということになっておりますので、これだけ大勢であればもう少し部数を作ってもよかったと思いますけれども。

それでは、簡単に事実の経緯等について……これはかなり長い弁明書を作ってきましたので、それをいちいち読んでいたのではかなり時間が食います。事実の経緯等についてお話を、ガイダンスだけ述べたいと思います。

そして、資料1の陳述書には図面を添付しております。皆さん、お手元に資料1の陳述書……私が冨田選手と10月11日に初めて面会して、その間ずっと冨田選手から事実の経緯について聞き取ったものを、陳述書にまとめたということです。いってみれば警察でいう供述調書になるかもしれませんが。その陳述書の最後のほうに「見取図 アジア大会会場」と書いてあります。それと、もうひとつ選手村の部屋の様子ということで、冨田選手のベッドと同僚選手のベッドの図面も描いてあります。そういうところでご説明をしたいと思います。

問題のバッグについて

國田:まず、冨田選手のバッグについて、2ページの第2のところなんですが、9月25日、冨田選手は午前11時頃からアジア大会のレース競技場のメインプールとシンクロ競技用や飛び込み競技用のダイビングプールが備えられたメイン会場で、十数名の日本代表選手とともに練習する予定だったと。競泳選手は練習後すぐに水着からジャージに着替えて移動するため、タオルや競泳用具等を入れたバッグを各自準備し、メインプールがある会場の裏側にある練習場内に設けられている控室にバッグを置いたと。ということで、見取図とバッグ、会場が描いてあります。

で、キクチ弁護士、冨田選手のバッグを示してください。

國田:バッグはビニールの素材で、側部に取っ手が付いていて、上がファスナーで開閉する構造の紫の手提げバッグであります。そして、この日のファスナーで開閉するバッグの中に、水着1枚、水泳キャップ7枚、水泳ゴーグル3個、セームタオル1枚などを入れて、プール、会場に来たという。ちょっと中を開けてみてください。当日とまったく同じものを入れてありますので、出してみてください。

午前10時48分にはアリバイがある

國田:そして、練習前の午前10時半頃から11時頃までの間、プールサイドで松田(丈志)選手と雑談を交わしていたということです。その内容ですが、当日は中国の女子選手が400メートルリレーのバタフライで15メートル潜水したかどうかの問題で失格になったということがありまして、そのことで中国側は審判団に抗議をしていた。

その抗議を長々とやっていたことから、松田選手と「長くやってるな」という話をしていたということです。その点は資料3で、松田選手は現在アメリカのアリゾナで練習しておりまして、国際電話をかけて確認しても、その事実は裏が取れております。それで、松田選手からは「早く練習しろ」ということもあって、午前11時頃からプールに入って練習を始めたということであります。

この点について、松田選手と冨田選手が雑談をしていたということは、寺村(美穂)選手も目撃しております。これは資料4で、やはり寺村選手に聞いて、私が電話口のところで、裏は取れております。そして、その後でプールで一緒に練習したということも、裏は取れております。

なぜこのことを言うかというと、韓国側の犯行時間の発表が「午前10時48分頃」というふうに、私どもは聞いております。もしこの時間帯が犯行時間帯だとすれば、その時間帯で窃盗行為を行うということはありえない。アリバイがあってありえないということなんですね。この点は冨田選手も非常に、韓国側の午前10時48分が盗んだ時間だというならば、普通に自分は納得できないということを、再三私に申しております。

そして彼が申しているだけでなく、そうした事実は他の選手も、裏でそういうことはなかったというところは、松田選手が話していたことからも、私はひとつの重要なポイントじゃないかだと思っております。

冨田選手は翌日50メートルの平泳ぎの予選があるということで、(練習は)軽めに済ませて、午前11時50分頃、12時前には終えて、それから水着からジャージに着替えて、一人で再び練習場からメイン会場へと移動したと。メイン会場では他の選手らも泳いでいて、冨田くんはその仲間と一緒に帰ろうということで、練習が終わるまでメインプールの様子を見ながら待つことにしたと。大体正午頃、午後0時頃の時間帯です。

カバンにねじ込まれたシーンを再現

メインプールの(横には)高さが約70センチ、縦幅と横幅がそれぞれ数メートル程度の、細長い長方形の台座が設置されていて、この台座はメインプールで試合があるときに、記者が写真撮影のために利用していたものだと思われますが、利用方法については冨田選手はわかりません。各テレビ局の中には、会場に行かれてわざわざメインプールの台座まで映されている(ところもある)ので、高さうんぬんについては必ずしも正確でないかもしれませんが、だいたいこういうような形です。

そこで、立ったままでプールの様子を見ているのも疲れるということで、台座に座って、バッグはファスナーを閉じた状態で自分の左斜め後ろの位置にあり、上半身を支える両手のうち(左手で)、バッグについている取っ手を軽く握ったということで……皆様方、資料2の写真番号8・9を見ていただきたいと思います。写真番号8・9が、彼が見ていた状況の写真撮影であります。

國田:その体勢で、台座に座りながらメインプールの方を見ていると、まもなくして、突然冨田選手は何者かに左手首をきつくつかまれた。突然のことで一体何ごとかと思って、上半身を左に半身捻るようにして、顔を左向きにして後ろを振り返った。すると、まったく面識のない男性、これをAといいますけども、Aが冨田選手の腰かけていた台座の向こう側から身を乗り出すようにして、冨田選手の左斜め後ろ方向にいて、左手首をつかんでいる姿が目に入った。これは写真番号の10・11でこの場面を再現しております。

國田:あまりの唐突さに驚いてしまった冨田選手の左手首をつかんだAの手が、左右どちらの手だったのか正直思い出せませんが、Aは片足の膝を台座に乗せ、右半身を乗り出して冨田選手の近くにいた体勢だったという記憶があるということであります。そして冨田選手が振り返ったときに、一瞬だけAと目が合いましたけども、Aの特徴は、肌はアジア系で少し日焼けをしたような感じの色である。髪は黒い短髪で、瞳は黒く、にやつくような不敵な笑みを浮かべていた、そういう表情をしていたと。

これは、冨田選手は非常に印象深く覚えているようです。Aと目が合った後、冨田選手はつかまれている左手首の方に注目し、その体勢でAとやり取りをしていたことから、Aが上半身にどのような衣服を着ていたか記憶にありませんが、冨田選手がAの特徴として一番印象に残っているのは、Aは濃い緑色の長ズボンを履いていたということであります。まあ報道では迷彩服とか書いてありますが、冨田選手は、正確には濃い緑色の長ズボンを履いていたということであります。

そして、Aは何やら冨田選手に話しかけてきた。少なくとも日本語や英語ではなくて、冨田選手にとっては理解できない言語であったと。ちなみに冨田選手は、中国語も韓国語もわかりません。だから、何を言いたかったのか、冨田選手はその内容がわからなかったということであります。Aは冨田選手の左手首をつかんだまま、冨田選手が左手で取っ手を軽く握っていたバッグに手を伸ばしてきて、バッグのファスナーを開けようとしてきた。その状態は写真番号12・13であります。

國田:冨田選手は、Aが自分のバッグを開けようと不審な行動に出たため、とっさにバッグを自分の方に引き寄せて、Aから引き離そうとした。しかしAの力は思いのほか強く、バッグを引き離すことができなかったので、まずはつかまれている左手首から、Aの手を振り払った。そうしている隙に、Aはすでにバッグのファスナーを開けていた。その状況が、写真番号14・15であります。

國田:そしてAは、大きくて黒いかたまりをすばやく冨田選手のバッグの中に入れた。これが写真番号16・17です。

見知らぬ男「A」から早く離れたかった

國田:冨田選手はとても混乱していたので、このときに冨田選手のバッグに入れてきた黒いかたまりがいったい何であるか、とっさには理解できなかった。そして冨田選手は、これまでに体験したことのないような突発的な出来事に遭遇し、すっかり気が動転してしまった。

この正体不明のAに、黒いかたまりを入れられたバッグごと、練習用の水着、試合用のキャップやゴーグル等を奪われてしまうのではないか。それだけでなく、Aから何らかの危害を加えられるのではないかと不安に襲われて、その場から一刻も早く立ち去ろうと思った。

このため、Aが何を入れたか確認するよりも、一刻も早くこの場を離れるのが先決だと思って、冨田選手は両手で自分のバッグをつかみ、右手でファスナーを閉め、自分の荷物がこぼれ落ちない状態でバッグを引っ張り、Aからバッグを引き離した。それが写真番号の18から21になります。

國田:そして、何とかバッグを取り戻した冨田選手は、すぐに台座から立ち上がってその場を立ち去ろうとしたと。メイン会場のダイビングプール近くにある選手村へのバス乗り場がある出入り口の方向に向かって歩いていった。それが写真番号22・23でございます。冨田選手のバッグには水着1枚、キャップ7枚、ゴーグル3個、セームタオル1枚……ちょっと見せてあげてください。

國田:当時まったく同じ状況で写っているんですが、そういう状態では非常に軽かったのですが、Aから取り戻したバッグを左手に持ったときに、バッグにずっしりとした重みを感じた。冨田選手は、Aが入れてきた黒いかたまりが何なのか、よく分からなかった。もしかしたら、何か大きなゴミでも入れたのかと思った。

それで冨田選手は、Aがメイン会場の台座付近にはゴミ箱が見当たらないことからゴミ処理に困り、「捨ててくれ」というようなことを冨田選手に言ってるんじゃないかと思った。そう思うと、冨田選手はせっかく午前中の練習を終えて、翌日のレースの集中力を高めていたのに、突然見知らぬ男性からゴミの様なものを押しつけられたということで、気分が削がれ、テンションが下がった。

なお、冨田選手がAからバッグを取り戻して出入り口に向かった後は、Aがどのような行動を取ったかについては、とにかく一刻も早くその場から離れたいという気持ちもあって、振り返ってAの様子を見るということをしていないので、Aがどういう行動を取ったか、またAの正体については不明である。不詳だということです。

選手村で初めて「黒い物体」の正体がわかった

國田:突然の出来事ですっかりテンションが下がってしまった冨田選手は、一人で選手村に帰ろうとしたけれども、とある選手から一緒に帰ろうということで声を掛けてきたので、午後0時30分頃、とある選手と一緒にメイン会場から選手村行きのバスに乗った。バスの中でもバッグを開けず、中身は特段確認はしなかった。行き帰りのバスの間にもゴミ箱が見当たらなかったので、それは特に確認はしなかった。

選手村に行って、それから、冨田選手のバッグはよく目を凝らして見ると、中身が若干透けるような薄い素材でできているので、一体どんなゴミを入れられたのだろうと思いつつ、一応バッグの外から黒いかたまりが透けて見える部分をよく見たところ、黒いかたまりの表面に銀色の丸い形が透けているのが確認できたと。

これは後で見ると、銀色の丸い形がデジタルカメラの本体とレンズの接合部分だったということなんですが、冨田選手はカメラの知識にまったく疎くて、興味もありません。ですから銀色の丸いのがどんなゴミなのか、見当もつかなかった。バスの中にはゴミ箱もなく、バッグを開けたところで黒いかたまりを捨てることもできないとわかっていたので、あえてファスナーを開けて中身を確認することもしなかった。

それから選手村に到着して、食堂で食事をしたりして、嫌なことは早く忘れようということもあって、食事を終えて休憩室に行ったりした後、休息を終えて自分の部屋に戻ったと。

7ページの11以降を見ていただきたいんですが、部屋に戻ってから冨田選手は翌日の試合に向けて水着などを乾かすためにバッグを開けたところ、そこで初めてAが入れた黒いかたまりがカメラであることを知った。模型をちょっと見せてください。

國田:一応、冨田選手のほうで(記憶を再現して)、カメラの形状や重さを再現してみたところ、縦横約16センチ、幅約8センチ、重さは1.3キロ。これは写真(カメラ)EOS-1DXということなんですが、写真(カメラ)については素人で、実際のカタログの説明に全部してありますんで、このカメラを入れられたということですね。

カメラは壊れているように見え、ゴミだと思った

このとき冨田選手は、普段、記者が撮影に使っている大きなカメラを見たことがあるが、望遠鏡のような長いレンズが付いているはずなのに、このカメラには長い部分がなかったことから、折れるなどして壊れてしまったのではないかと思って、結局「Aが壊れたカメラを捨てられなくて困ってる、ゴミ処理を押し付けた」というふうに思ったということですね。

先ほど述べたように、冨田選手はデジタル機材等についてほとんど知識もなく、興味もありません。いわゆる一眼レフのカメラ(レンズ)が取り外し可能なもので、カメラ本体だけにできるというのは、今回の事件を通して初めて知った。カメラの専門家もおられますけども、本当にわからなかったということなんですね。つまり、Aがバッグに入れてきたカメラは、壊れたカメラだと思ってしまったということです。ちょっとバッグの中にカメラを入れてみてください。

國田:それでですね、部屋というのは冨田選手の一人部屋じゃなくて、他の選手との相部屋だったんで、冨田選手はスーツケースを出して、スーツケースの上にカメラを置いていたということで、陳述書添付の図面2を見てください。ご覧になってるかもしれませんが、選手村の部屋ということで冨田選手ともう1人原田選手がおられます。ベッド……バッグ(スーツケース)の上に置いたと。そのときの再現状況は資料2の15ページ、これがスーツケースです。そして、冨田選手はスーツケースを左右に広げた上にこのカメラを置いたということです。

何を言いたいかというと、盗んだものを隠し続ける上で、他の選手が見るような状態で置かない。盗んだんであれば密かにスーツケースの中にしまってしまう。というのが普通じゃないかということを、私は主張したいと思ってます。つまり、冨田選手としては壊れたカメラだと。いらないカメラだということで、堂々と他の選手が見える状態でスーツケースの中に(上に)置いた。この状況は確か、警察のほうも後で部屋の様子を写真に撮ってるはずですから。警察の現場状況の写真を見ていただければ、そういう状態で写ってるはずです。