お腹の寄生虫の意外な役割

ハンク・グリーン氏:もしお医者さんに、「あなたの中には寄生虫がいます」と言われたら……。どうすれば一刻も早く寄生虫を追い出すことができるのか、と真っ先に考えるのではないでしょうか。

それは当たり前のことです。誰も寄生虫が自分の内臓の中を動き回る姿など考えたくもないでしょう。そのような光景は誰でもゾッととします。しかし、もし私が「寄生虫に感染するのもいいかもしれない」と言ったらどう思いますか。

なぜなら、寄生虫の感染と関節炎やアレルギーが改善することとの関連性を発見した医者がいたからです。そのような寄生虫が人体に長期間いると、人間の免疫システムが寄生虫の存在に慣れてきてしまい、かえって寄生虫がいないと問題が生じるということを発見しました。

これは衛生における仮説の一部です。1980年代、以前よりずっと自己免疫疾患や喘息が増加した理由を研究した疫学者がいました。

その仮説では、人間があまりにも清潔になりすぎたために、人間の免疫システムが攻撃するものがなくなってしまった可能性があることを示唆しています。かつては浄化する水も非常に長い間存在せず、手指を消毒する洗剤がありませんでした。人間の進化する中で、全ての人たちはバクテリアや寄生虫にさらされていました。

寄生虫たちが体内に入り込んだ時、それが自分の体に危害を加えないようにするのが私たちの免疫システムの仕事です。免疫システムが異物を発見した時、人体は熱くなり、腫れます。こうした炎症を引き起こすことで体を守るのです。

感染部分に白血球の大群が押し寄せることで炎症は起こります。それが放出する物質が、体外物質を攻撃したり、いわば援軍を要請します。

しかし、その物質のほとんどが侵略者をターゲットにするわけではありません。それらは自分の細胞を傷つけることもあるので、身体が砲火を浴びた状態になり、ダメージや痛みを受けることになってしまいます。

寄生虫のメカニズム

例えばアレルギーは特別な炎症で、ふだんでは有害ではない花粉やほこりといった物質に対して過剰反応を起こしてしまいます。

自己免疫疾患は、自分の体の一部が炎症を引き起こしてしまう病気です。例えば関節リウマチは、関節がずっと炎症を起こしたままになる病気です。多発性硬化症は、免疫システムが神経の周りの保護膜や、神経そのものを攻撃する症状です。

これらすべての病状は近年よく見られるようになってきました。とくにハイクオリティの医療ケアが受けられ、このような病気を防ぎやすいと思われる豊かな国で、このような症状が見られます。

ここで、寄生虫、総称して蠕虫(注:ぜんちゅう。体が細長く、ウネウネ移動する虫)の出番となるのです。その寄生虫の仲間にはサナダムシ、線虫、吸虫といった仲間が含まれ、体内の栄養を盗むことで生き続けます。

ほとんどの寄生虫は他の動物の腸内や血液内に住み続けます。例えば住血吸虫症(注:長期にわたり内臓を痛める慢性疾患)の原因となる寄生虫はかなりの危害を加えます。住血吸虫症にかかると、貧血、肝不全、膀胱癌、などの症状に悩まされます。

しかし、他の寄生虫はそのような危害を加えることはありません。例えば、もしあなたの体内にサナダムシが寄生していたとしても、あなたは気がつかないかもしれません。でもそう考えると気味悪いですよね。

比較的穏やかな種類の寄生虫は自らが人体にもたらすダメージより、体内の免疫システムのダメージが大きくなります。そのため、疫学者たちの中には、人間の免疫システムは特定の寄生虫とともに進化してきたと主張している人もいます。

そのように考えるのは逆説的だと思われるかもしれませんが、研究によれば、比較的清潔で医療が受けやすく、寄生虫の感染率の低い地域のほうが喘息やアレルギーの発症率が高いそうです。

寄生虫を排出することで生じるデメリット

寄生虫が健康被害を引き起こしている時に治療するのは意義がありますが、寄生虫を追い出すことにより、意図しない副作用が起こる場合があります。

例えば、2006年のある研究によれば、ガボンの子どもたち317人の腸内にいる寄生虫を駆除した後、ダニアレルギーを発症した子どももいました。

同様のケースは、2011年に2,500人以上のウガンダの女性たちが被験者となった研究に見られます。そのなかには妊娠期間中に虫下し(注:寄生虫を排出するための薬)を処方された女性もいたようです。その薬は母親と赤ちゃん両方に重大な合併症が起こらないように与えられましたが、子どもが湿疹や喘息といったアレルギー反応を持つ可能性が増えました。

ある研究では12人の多発性硬化症患者の中で寄生虫が体内にいる患者の方が、長期的にみて神経ダメージが少ないことがわかりました。しかし、その中の4人は治療されると多発性硬化症の症状が悪化したのです。これらのケースを見てみると、寄生虫に侵されている方が健康的になれるようで奇妙に感じます。

そこで、なぜこのようなことになるのかを解明するため、免疫学者たちは人間の体がどのように蠕虫感染症に反応するのかを研究しました。すると寄生虫の中には炎症に抵抗する信号を出すことにより免疫システムの働きを抑える種がいることがわかったのです。人体は寄生虫を殺そうとして働きすぎることがなくなるのです。

同時に、その寄生虫は自己免疫の状態に影響をあたえる炎症やアレルギーへの過剰反応を抑えていることもわかりました。蠕虫は制御性T細胞の産出に拍車をかけます。その細胞は体の中に炎症を引き起こすかもしれない部分があればそれを見極め、その反応を減少させることができます。

これらの細胞は通常、侵入物が死んだ後も免疫システムが攻撃モードを保ち続けることのないようにしたり、花粉などの無害なものに過剰反応しないようにしたりします。この現象はそれら12名の多発性硬化症患者の中に見られました。

寄生虫のいる患者たちは比較的、制御性T細胞が多く、神経組織を攻撃するタンパク質を感知することができたのです。それゆえ、患者らの受けた神経ダメージは少なかったのです。医師たちは寄生虫が制御性のメカニズムに拍車をかけられた理由を探りました。

それを知ることができれば、その化合物をさまざまな自己免疫疾患の治療薬として用いる可能性があるからです。そうすれば寄生虫がいなくても寄生虫から得られるメリットを享受できます。

最後に注意事項

はっきりと申し上げておきますが、私たちSciShowではみなさんが寄生虫に感染すれば花粉アレルギーが治る可能性があると考えて実験することなどは推奨しておりません。可能性として全くないとは言えませんが、医者の中にはこの仮説を究極の医療テストとして臨床実験を行なっているため、処方される場合はいいかもしれません。

実験はまだ初期段階で、結果もさまざまです。しかし、研究者の中には希望を持っている人たちもいます。私たちはすでに健康が非常に多くの他の生物の上に成り立っていると感じています。それはまた体内の生物のおかげで成り立っているのです。

ですから寄生虫もその一部であるだけなのかもしれません。しかし、みなさんが手を洗うのをやめたり、人糞の上を裸足で歩き回ることなどをおすすめしているわけではありません。そんなことはしないでくださいね。