「担当がない」ことが経営の本質

楠木建氏(以下、楠木):(僕が書いた本で、『ストーリーとしての競争戦略』という本があります。)けっこう世の中厳しいなと思うのですが、8割方が金返せということで、日夜苦情をいただいているわけです。一番多いご批判が「これ、お前の本は全く実用性がない」ということと、「この本を読んでもどうやったら優れた戦略が作れるか書いてねえじゃねえか。金返せ」というもの……今日の朝、3ついただいたのですが。

『ストーリーとしての競争戦略』">

(会場笑)

これに対して、僕は必ずご返事を差し上げています。僕としては、こう(「あきらめが肝心です!」)としか言いようがないわけですよね。そもそも、ここ(担当者と経営者)がゴッチャになっているのが問題の始まりであって、これはまったく違う仕事であります。

今、なにも社長だとか、役員だとかいう話じゃございませんで、これはある商売の塊ですよね。これを持たされて、「ちょっとあなた稼いできてください」と。「わかりました。私がどうやって稼ぐか完全に教えます」。こういう人を、今、経営者と呼んでいます。

これは、担当がないということが、経営という仕事の本質でありまして、こうした例で説明をすると分かりやすいのですが。

エコノミーのフードメニューでわかる経営センス

僕は、飛行機では必ずエコノミーに乗ります。ビジネスクラスはちょっと高すぎないかな? 仕事先が取ってくれるときは大喜びでビジネスクラスに乗りますが、自分では必ずエコノミー。

そうすると、やはりごはんですよーと言っても、だいたいカレーライスと照り焼きチキンの2種類くらいしかなくて、時間になると乗務員の方が「はい、どちらになさいますか」と聞きに来ます。そこで、僕はカレーが食べたいのですが、僕の5列前でカレーがなくなりました。そうすると、接客のプロですから、きちんと謝ってくださいます。申し訳ございませんと。

そして、3ヶ月後に同じフライトに乗ったら、僕の2列前でカレーがなくなっちゃった。プロですからまたものすごく丁寧に「お客さま、大変申し訳ございません。ちょうど2列前でカレーが切れてしまいまして、今は照り焼きチキンしかございませんが、これもけっこう評判がよろしゅうございますよ」なんて言ってね。「照り焼きチキンでもよろしゅうございますか?」。

そんなことにこだわりはないので、別にいいですよ。でもそのときに思ったのが、この人は一体何百回こんなふうに謝ってきたのだろうかと。もし、経営者の誰かにもうちょっとセンスがあれば。

そもそも、カレーと照り焼きチキンの発注ミックスが間違っているだろう。カレーと照り焼きをシフトして発注しろと言うか、もっと経営者だったら、こんなエコノミーで誰もメシなんて期待してないから、はなから軽いものにしておけと。

(会場笑)

オペレーションも軽くなるし、なにより欠品がないからかえって顧客満足度は上がるのではないか。サービスも早くなるし。つまり、経営の仕事というのは、事前に設定されている担当の領域を絶対にはみ出しているものです。これが全体を相手にするということです。

スキルは部分、センスは全体

そして、この違い(担当者 VS. 経営者)が、この違い(スキル VS. センス)に還元できるということが言いたいことでありまして。これ、話は簡単です。あなたの仕事はここからここまでですよ。経営はここまでですよ。

担当者であれば、その分野のセンス、スキルが物を言うのですね。ところが、まるごと全体となると、もはやセンスとしか言いようのない世界に突入するということです。

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