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人類はどこまで速く走れるか? 為末大氏が語る、アスリートが世界記録を更新し続けられる理由

人類はどこまで速く走れるか? 為末大氏が語る、アスリートが世界記録を更新し続けられる理由

2018年1月31日、株式会社レッジが主催する「THE AI 2018 未来ではなく、今のAIを話そう。」が開催されました。基調講演には為末大氏が登壇。人工知能の活用範囲がさまざまなシーンに広がりつつある今、改めて人間の学習能力をとらえなおします。自らの能力を極限まで引き出すトップアスリートたちは、どのようにして成長機会をつくりだしているのか。本パートでは、アスリートにとって重要な5大要素を解説します。

シリーズ
THE AI 2018 > AI時代における人間の価値
2018年1月31日のログ
スピーカー
DEPORTARE PARTNERS 代表 為末大 氏

アスリートはどうやって学習しているか

為末大氏 先ほど「すごい期待しております」とハードルを上げていただいて、どうもありがとうございます(笑)。為末と申します。私が引退しましたのは2012年なんですけど、その時アメリカから日本に戻ってきまして、最初はオリンピックについてコメントするという仕事をしていたんですが、その1ヶ月後にはなぜか朝の番組で殺人事件にコメントしていてですね。 IMG_7536 その半年後には不倫報道にコメントしているという、よくわからない状況でこの5年間きているんですが、今はなぜか……、僕も「僕でいいんですか?」ってうかがったんですけれども、今日はAIについてお話しをすると。 今日私が話すのは、まあ当然なんですけど、人工知能のことはまったくわかっていませんので、スポーツの現場、それからスポーツの世界で何が起きているかという話と。 また中心は、そもそも(AIは)人間の知能を実現するということだと思うのですが、その前提として、いったいどのようにして人は学習しているのかを、スポーツの中で起きていることでお話しできたらいいかなと思っています。 ですので、今日のテーマは『今のAIを語ろう』だと思うんですが、私は人口知能のことをぜんぜんわかっていないので喋れないんですけど、そんな話をさせていただきたいなと思います。 今日私は「アスリートがいったいどうやって学習しているのか」ということを話してみたいと思うんですが、その前提になるのが、100メートルで例えば日本人が9秒台で走っていますけれど、人間がどこまで速くなるんだという、昔から議論が起きていたことです。 年齢的にもわかる方が多いと思うんですけど、1984年のロサンゼルスオリンピックで、カール・ルイスが優勝したんですけれども、この時の優勝記録が9秒99です。今日本記録が9秒98まできていますので、日本記録は実は100分の1秒、上回ってしまっているという状態になっています。 1984年というと、メジャーリーグにチャレンジしている日本人もほとんどいませんし、それからヨーロッパのサッカーリーグにチャレンジしている日本人もほとんどいないという状況です。今では、いろんなスポーツで世界にチャレンジしているわけなんですが、興味深いのは、生まれた時の人間のポテンシャルは、1984年から今までまったく変わっていないわけですね。

日本人がスポーツ界で活躍している理由

少子化ということを考えると、むしろパイが減っているので、本来の確率は低くなっているはずなんだけれども、なぜかスポーツで活躍する日本人が出てきている。こういう現象はスポーツ界で昔から起きていまして、シンプルに言えば、栄養の改善ですね。それから技能の習得の改善。 そして一番大きなことは何かと言うと、「当たり前」の変化なんですね。つまり何が「当たり前」かということが……、野球で言えば野茂さんが初めてチャレンジした時で、おそらく陸上で言えば、昨年桐生選手が9秒台を出した時で、もうそこからのスタートになるわけですね。 次世代の選手たちは、メジャーにいくのが「当たり前」の世界、100メートルで9秒出すのが「当たり前」の世界からスタートしていく。そういう点で、今日の人工知能の話の手前に、人間の持っている一番大きな能力っていったい何なのかと言うと、「当たり前」が変わったのに、そのことにまったく違和感なく「当たり前」の上に物事を積んでいけるということ。これが人間が持っている1番不思議な能力なんですね。 もっと言えば、まるで昔起きていたことを忘れちゃって、そこに適応できちゃうところが、人間の非常におもしろいところじゃないかと思います。 振り返ると私が高校生の時には、一生懸命ポケベルで連絡をとっていたんですが、今やスマートフォンを使うのが当たり前で。待ち合わせのところで、とくに連絡なく待ち合わせをして、ちょっと時間が遅れたら簡単に連絡して、時間が遅れるって伝えちゃう。そのことにまったく違和感なく、「そういえば昔どうやって暮らしていたんだっけ?」ということすら思い出せない。そういう状況になっていると思います。 たぶん今後、このAIが社会に実装されていく中で、同じようなことが起きていくと思うんです。じゃあ、私たちは今やっていることの何をまったく思い出せないくらいやらなくなっているかが、今日のカンファレンスの中で見えてきて。実際に、今から何をすればいいのかが見えてくるといいんじゃないかと思います。 今日は私はただ喋ろうと思って来たんですが、忘れないようにテーマをざーっと出しまして、ほとんど活字だけなんですけど、この活字を追いかけながらお話をしていきたいと思います。

アスリートにとって重要な5大要素

これは私なりにまとめたアスリートの学習プロセスの話です。上から(1番目は)自動化といいますが、2番目は集中と、3番目はイメージ、4番目は内省、リフレクションというか、学習することですね。5番目が欲求となっています。私の中では、この5大要素をどのように扱っていくかが、アスリートにとって重要なのかなと思っています。 IMG_7537 (スライド)1枚目の自動化なんですが、いろいろメモが出ていますが、一番上からいきます。よくトップアスリートがすごい技術を使っていくってことを、みなさんは何かを修練して、習得していくプロセスと思われることが多いんですが、実は考えてみると、可能性を狭めることが、選手が技能を上達させるうえで重要になります。 IMG_7539 例を出していきますと、例えばみなさんがスキーに行ってスキー場の上から滑るとですね、1回はなんとかして滑ってみて、2回くらい滑るとものすごい筋肉痛になると思うんですね。それはなぜかと言うと、滑る時にいったいどこの筋肉に力を入れてどのように体重をかけていいかわからないから、全身の筋肉に指令がいって緊張が起きているので、全身が筋肉痛になるわけですね。 実際にその時に脳の中を撮ってみると、たくさんの部分が発火している、つまり活動が盛んになっているわけですね。熟達するとどうなるかというと、この盛んになっているエリアがどんどん小さくなっていくんですね。 言い方を変えると、スキーを滑る時に、「右から何か来たらどうしよう」とか、「転んだ時のために左手を固めておかなきゃ」とか、いろんな可能性があることを排除していって、ひたすらに重要な筋肉のところにフォーカスできることが、技能が上達していくプロセスになるんです。 ですので、考えなければならないことの枝葉が多ければ多いほど、技能の習得には非常に不利になるわけですね。実際に将棋の羽生さんとお話しした時にも、将棋が上手になっていくことは、無数の可能性を同時に考えるのではなくて、考えても意味のない枝葉を早々に切っていけることで、結果として1つのことを深く考えられるとおっしゃっていました。これはアスリートにとって1つの重要なことであります。

無意識でできるようになることが「熟達」

2つ目は熟達なんですが、これはさっきと似ていますけど、人間がなにかの技能を上手に使えるようになるとはどういうことかというと、それをしていることを忘れられることで、初めて(その技能を)使っている意味が出てくるわけです。 この中でたぶん、多言語をお話しされる方もいると思うんですが、話すことに必死だと、相手が何を言っているのかあまり聞き取れない、って経験あると思うんですね。またはサッカーの経験があまりない方に、今この場でドリブルしてもらうと、たぶんドリブルに必死で、向こうから敵が迫っていることなんて見る余裕がないと思うんですね。 スポーツにおいて、なぜスポーツ選手が自由に物事を考えられるかというと、自分が足元や手元でやっていることを忘れられるので、物事を考えられるんです。日本人はよくトレーニングを反復するんですが、それは、そのことについてたいして考えなくても自動的にできるようになるために行う、ということになっています。 ですが、実はこれの厄介な点はですね、1回自動化してしまうと、それを専門用語ではチャンク化とか言うんですね。まあ簡単に言うと、右にボールを蹴ろうと思った瞬間に全身がいろいろ連動して動いて、蹴るところまでをひとかたまりにして自分が勝手にやっちゃうということなんです。 最初のうちは違うんですね、手をこうして、左手をこうして、なんとかをして、ってやるんですが、これをひとかたまりにしてボタンを1つ押すだけでプレーできるようになると。 余談ですが、私が子どもにハードルを教える時に、最初のうちは丁寧に教えようと思ったので、「右足で地面を蹴って、左足を前に出して、右肘を前に出しながら手をかくように跳ぶんだ」と言ったわけですね。
「目は前を見るんだ、頭の位置は肩の後ろで」とか言ったんですが、そうすると当たり前ですけど、子どもは考えることが増えすぎちゃって、ハードルにひっかかって転んだ、ってそういうことがあったんですね。
結局子どもには何と言ったら良かったのかというと、今ではいろんな言葉はあるんだけれども、「ハードルの上にふすまがあるから、それを蹴破るように跳びなさい」というふうに言っています。つまり人間が動作をする時に、実は細部のことを意識しないで、全体を統合したイメージで外に引っ張っていくってことになるんですね。 細部にフォーカスしすぎることが、さまざまな緊張や混乱を生むんですが、どのくらい抽象度の高いところでその人に指示を出すかによって、動作の精度が決まってきます。

適応することのメリットとデメリット

熟達というのは、抽象度の高いところで指令を出しても、ちゃんと身体が動くようになることなんです。最終的にはハードルをすり抜けるように跳びたいとイメージするだけで、40~50メートルくらいバーッと走ることができるようになるわけで、それくらい自動化してくるとトレーニングができてくる。 一方でこれの難しい点、アスリートにとって1番難しいことが、ラーニングではなくて、アンラーニングなんですね。つまり1回自動化してしまったことを、なかったことにすることがものすごく難しいわけです。 今いらっしゃる方の多くは、母国語が日本語だと思うんですが、何か考えようと思うと必ず日本語で考えてしまうんじゃないかと思うんですね。それを違う言語にしようと努力するというのはものすごく苦痛で大変なことだと思います。 それは、自動的にできるように自分の体に染み込ませてしまっているものを、ついつい人間は中心として使いたがるってことなんです。おそらく社会の中で新しいテクノロジーができた時に、人が適応しがたくなるのはこのことに影響していて、簡単に言うとガラケーに適応していると、いくら便利でもスマホを使い始めるのが苦痛なわけですね。 ただし、その谷を越えたら便利だなって気がつくわけですが、そういうことが起きていくと。これは私たちの世界では「最適化」って言うんですけど、これはこれでまた別の問題があってですね。例えば野球チームにいる子どもが、だいたい子どもの野球チームって人数が少ないので才能がある子はみんな4番でエースみたいな役割をやるんですが、それをずっと一生懸命やっていると。 そのままいくような、例えば大谷君みたいな選手はいいんですが、多くの選手が高校生ぐらいになって、才能を持った人がバーッと集まってくる場に置かれる。自分はやっぱりスラッガーではなくて、もうちょっとコツコツとヒットを打つタイプなんだと思って転向しようとするわけですね。 ところが、最初のうちに4番でエースという役割に最適化しすぎると、ついついバットを大きく振る癖がついていて、うまく適応できないという問題が起きるわけです。このことはスポーツの世界でさまざまに起きています。 つまり、うまくなることはその置かれた環境に最適化することなんですけれども、環境が変わった時に、最適化して固まってしまった自分が、自動的にそれをやろうとしすぎるので、変化しにくくなるという問題が起きます。 このように変化が激しい時代においては、何かに適応しすぎてしまうと、新しいものがでてきた時に、そこに変化できる余白のない人は、取り残されてしまう。その中で、「じゃあどこまで適応して、どこまで余白残すんですか?」ということは、難しいわけですね。 最適化することは上手くなることなんで、上手くなると勝ちやすいんだけれども、ただし完全にそれしかできないようになってしまうと、時代が変わった時に適応できない。この最適化をどこまでして、どこから変化するんですかってことが非常に難しいなというのが、我々が現場で感じていることです。

  
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