冒険がしたくて日本にやってきた?

質問者3:すみません。話は変わりますが、ハーバード大学を出られて、いろんな夢というか、いろんな道があったと思いますが、今を選び取ったきっかけというか理由はなんでしょうか。

パトリック・ハーラン氏(以下、パックン):うーん、気の迷いですね。

(会場笑)

それこそ順応性、柔軟性を持ちたい人なんですよ、自分は。子どもの頃からみんなと同じことをやりたくない。それこそひねくれ者な性格。

森忠彦氏(以下、森):典型的なアメリカ人ですね。

パックン:はい。でも意外と典型的なアメリカ人といっても、僕の高校の同窓会に行くと、半分くらいがまだ地元にいるんですよね。どうしてみんな、この世界に飛び立っていないの、こんなに広くて面白いところがいっぱいあるのに。

そう思っていたんですが、自分の親が最近ちょっと病気をしたので、「なるほどね」と思ったんです、正直。実家の近くに住む意味も大きい。駆けつけられないときの辛さは、若かった僕には想像ができませんでした。想像力が足りなかったのかも知れません。

でも、僕はどうして日本に来たのかというと、簡単に言うと友だちが誘ってくれて、冒険がしたいから日本に来て、そして子どもの頃から見ていた夢、ハリウッドデビュー。世界を股にかける大スターになることへの近道が東京経由かなと。

(会場笑)

:まだオンザウェイなの。

パックン:そうなんです。まだ道のりの途中です。はい、この先にスカウトされる日はすぐそこまで来ていると思うんです。残念ながらずっと日本語でしか演技していないけどね。

でも変な話、ハーバード大学を出て、どうして日本に来たのと聞いてくるのは、日本人だけなんですよ。ハーバードの同窓会は5年おきでやるものもあって、同級生の3分の1から半分ぐらいが集まるんですが。その同窓会に行ったときに10年ぶりに会った友達などに会って、最近なにをしているのかと聞かれて、こういうことをやっているよと少し盛って話すんです。

(会場笑)

:ちょっと盛りすぎ。

パックン:すると、「いいなあ、僕もその人生が良かったよ」と向こうが逆に後悔しているんですよね。羨ましいと言ってくださる。それで、すごくいい気分になってお別れをすると、その話している相手はだいたい自家用ジェット機に乗って帰る。

(会場笑)

でも満足しています。いい人生ですよ、間違いなく。

相手を理解することが「交渉力」

パックン:はい、次の方どうぞ。

質問者4:ありがとうございます。2つ質問があります。今、会社の中で海外のメンバーとコミュニケーションをすることが増えています。ただ、コンストラクティブなコンセンサス(前向きな合意)を作るためにはどのように持っていけばいいのか、逆に、ピットフォール(落とし穴)ですね。アサート(主張)したとしても、失礼になっちゃいけないということに悩んでいます。

なにかこう、生産性を上げるということと、落とし穴に落ちないというところでアドバイスがあればお願いします。

そこにお答えいただいたあとに、またご質問をさせていただければ。

パックン:ワオ。2個あるの。わかりました。これも交渉術にうまくつながるところなんですが、交渉を成立させるため、人を動かすためには、それこそ先ほど言っていた自覚、自信、自己主張の中にあるんですが、相手の価値観を理解して、その人にとって大事ことはなんなのか。これを握れば、それに応えることで、動いてくれるはずですよ。

ですから、海外からいらしたその同僚のみなさんも、国によって少し価値観が違ったりするんですよ。家族が大事だったり、おカネが大事だったり、遊びが大事だったり、モテたい人もいっぱいいるし。

沈没船のエピソードからわかる各国の国民性

パックン:沈没船に乗っている各国のみなさんに、海に飛び込むように船長が説得する有名なジョークをご存知の方はいますか。

(会場挙手)

ワオ。じゃあ(会場の)ほとんどですが、好きだから言います。

船長さんが、このままではみんなが海に吸い込まれてしまうから、早く飛び込めと言いたいのだけど、ただ飛び込めと言うだけじゃ誰も飛び込みませんよね。

そこで、イギリス人には「紳士だったら飛び込め」というと、飛び込む。ドイツ人には「飛び込む規律、規則がある」というと、船のルールを守って飛び込む。アメリカ人には「飛び込むとヒーローになるよ」というと、よいしょー! と飛び込む。

イタリア人には「飛び込むとモテるぞ」というと、みんな上半身裸になって飛び込む。フランス人には「飛び込まないでください」というと飛び込む。

(会場笑)

そして日本人には「ご覧くださいみんな飛び込んでます」。

(会場笑)

というと、集団生活に慣れている日本人は飛び込む。

だから、それぞれの国の社員の価値観をまず握ることです。僕のような人は早く帰って家族に会いたいから、長々と会議をするのは一番嫌いです。このトークショーもめっちゃ楽しいんですが、終わったら僕は5分で帰ります。

そして、会議をもっと効率よく進めるためになにがいいか。あなたも早く家に帰りたいよね、家族に会いたいよね、という前提で喋ってみるといいかも知れません。

ウィンウィンのためには十分な下調べを

パックン:ウィンウィンとよく言いますが、ウィンウィンは相手を喜ばせようと思ってこっちが何を出せばいいのか考えなければいけませんが、相手が何を大事にしているのかがわからないと、下手すると出しているものが喜ばれないこともあります。

僕は、仕事関係で「パックンが喜ぶかと思って一席を用意しました」などとよく言われますよね。一席大好きですよ。そういえば、今日は用意していないな。

(会場笑)

でも、その一席の中に喜ぶものと喜ばないものがあるんですよ、正直。好きなラーメンもあれば嫌いなラーメンはない。ラーメンは好きだけど、嫌いな料理もあるんです。そして、例えば和式は大好きですが、できれば掘りごたつにしてくださいと思うんですよね。

僕は47歳になってもずっとバレーボールをやっていたんですよ。だから足腰が痛いんです。おっさんだから正座をさせるなと思うんですよね。でも、ちょっとそういうところは僕に聞くと失礼かもしれないと思っている方もいらっしゃる、そのためのマネージャーです。

または、お箸を使えますかと聞かれると、僕は正直ムカッとします。25年間も日本にいて、お箸を使えなかったら餓死しているはずですよ。でも、正座はしたくない。だから、そうしたちょっとした下調べをすれば、ウィンウィンの交渉が早くなるんです。

ですから、同僚を動かすためには、まずは同僚のことをよく知ること。そして、失礼にならない程度というので、先ほど気にしていたんですが、その国々でご法度のことは変わりますよ、正直。だから先に聞いておいてもいいと思うんです。

それが、書いてある。

(会場笑)

「7:3」の割合で対話できる人は“話し上手”

パックン:あなたの国においては、なにが失礼なんですか? 例えば性的関係のことを聞いてもいいですか。家族関係のことを聞いてもいいですか。国によっては、子どもなどを褒めちゃいけない国もありますよ。「かわいいですね」というと、「あー!」(と嫌がられる)。これがジンクスになる。悪運を呼ぶという国もありますから。

こちらの価値観でしゃべらないで、先に、「ちなみにですが、教えてください」「知りたいです」(と聞く)。そして、僕もこの場に座ってダラダラと喋っているのを見ればわかるように、自分のことを話すのはだいたいみんなが好きですよ。興味を持って話を聞かれるのはみんなが快適です。ですから、下手に出て、「なんですか」と。

:聞いてみる。

パックン:そう。池上彰さんは僕の巨匠であり、師匠としている人で、勝手に一番弟子ですと言っているんですが、池上さんがいつも言うのは、人と話すときは「7:3」の時間配分で話すように心がけると、相手が終わってちょうど五分五分だと思って楽しかったという印象になる、と。

そのように心がけると、話上手だと思われますよと。だいたい池上さんと対談すると「7:3」でこっちが3ですけどね。

(会場笑)

なんだろう。

クリエイティビティはインターネットでも養える

質問者5:私はクリエイティビティのところでたくさんのビューポイント(観点)を持たせることが、子どもを育てる上で大事だと思っていて、パトリックさんのおっしゃるインターナショナルスクールというのは、たくさんのビューポイントが作れる場なのかと思ったんですが、そうした考え方からお子さんを転校されたということでしょうか。

パックン:間違いありません。これは贅沢な話ですよ。インターナショナルスクールは安くありません。日本の私立の、倍から4倍ぐらいかかります。ですから、学費を稼ぐために今日はいっぱい買っていただきたい。

(会場笑)

でもそうじゃありませんが、そういう場で環境におけるということは贅沢ですよ。

そして、また贅沢な話ですが、僕は海外旅行も目指していて、日頃の生活費などをけっこう削っているんですよ。ふだんから贅沢しないようにしてお金を貯めて、海外旅行に行ってどこどこの国の暮らし方を見ると子どもはもう少し感性が豊かになるかなと。

自分が生まれ育った日本だけではなく、お父さんの国アメリカだけでもなく、いろんな国の生き方や考え方があることを感じられると思っているんです。それもクリエイティビティにつながるといいと思っています。

でも、そうした贅沢な話ではなくて、本当にスマホ、インターネットなどで普通に海外の映画を観るのも手だし、海外の子ども向け映画はかなり便利ですよ、教育ツールとして、教材として。子どもが主人公の映画だと、どの国の子どもでも食いつきます。

うちの子も『赤い靴』(『運動靴と赤い金魚』)というイランの映画を観て、泣いてました。いい映画だったから。

そういうことも簡単にできるんです。ですから、インターナショナルスクールというハードルの高いものばかりに目をやらないで、錦織圭を待たないで、自分ができる程度から練習していってほしいと思います。

世界と渡り合うためのひとり外交術