HR領域のM&Aを推進

小野裕史氏(以下、小野):ここ(IVSの会場)には資金調達をしてほしいたくさんのスタートアップ、ひょっとしたら「買ってもらいたい」と思っている人もいるかもしれませんし、一方でVC、投資をしているVC側もいます。

実に、とくに海外においては、たくさんのM&Aをされてらっしゃるわけなんですが、日本のM&Aに対して、まずご興味があるかを、教えていただければと思うんですが。

峰岸真澄氏(以下、峰岸):この日本国内でも、もちろんありまして。ぜひ、今回のピッチコンテストでも、いくつかの企業さんがありましたので、ぜひ何かいろいろな取り組みできればと思っています。

リクルートですと、先ほど言ったように、法人顧客の接点をすごく持っていますし、そこが強みかなと思っています。そこでシナジーというか、レバレッジが効くような取り組みがいっぱいできるんじゃないかなと思います。そういう意味で言うと、国内でももちろん、シナジーを狙った出資や買収は、我々の分野であると思っています。

小野:スライドの何ページあたりになりますか?

峰岸:Appendix。

小野:あ、あるんですね。

峰岸:まず、どちらかというと海外の(事例です)。このなかでも、例えばビジネスアプリケーション分野、AIもやはり、バーティカルに特化したようなAIとか。FinTechだと、やはりビットコイン、ブロックチェーンもけっこうやっています。

小野:実際、FinTechの分野でも買収は行われているんですか?

峰岸:出資や投資ですね。例えば、bitFlyerさんとかね。

小野:はい。

峰岸:国内だと、やはりリクルートの分野なんですよね。(スライドの)上が国内で展開している分野なので、このなかのテック系で、顧客開発をしたいところとかがあれば、お互いすごくよい関係がつくれるんじゃないかなと思いますし。

下のHRテックなんかは、もう相当今も出資していますし、ヘルスケアも相当数投資……、これは全部国内のファンドなんですけど、やっていますね。もう5か6号か、何号かいっています。累積も200億以上いっているんですね。

小野:200億。

峰岸:数字としては100億円いってないですけど。国内でもそういう意味では、ファンドにしてやっています。

リクルートが投資・買収をする時の基準

小野:かなり幅広い分野ですけれども、そのなかで何を基準に投資をするか、もしくは買収を考えるかという基準は?

峰岸:国内は私たちのグループなので、自分たちが展開している(スライドの)上下両方あるんですけど。そのなかで、今の業務とか、産業、社会の効率性を圧倒的に上げるような、そういうビジネスモデルとかテクノロジーを持っているところに投資したいですし、投資してうまくいって、お互いWin-Winになれば、ジョインしていただいてもいいかなと思っているんですけど。

事業会社をやっているんで、純投資してもしょうがないので、ファイナンスリターンというよりは、最終的には100パーセントジョインしていただきたいと思います。でも、そういうのがイヤだというCEOのスタートアップの方もいらっしゃるので、そういう方とはずっとアライアンスでWin-Winになれればいいなという。いろんな選択やオプションを持っています。

小野:ありがとうございます。たぶんこのなかにも、この分野に当てはまるスタートアップがたくさんいるんではないかと思います。今日の午後まで、まだしばらく峰岸社長が会場にいらっしゃるということで。

峰岸:もしいらっしゃったら、ぜひよろしくお願いします。

小野:アピールをしていただければと。

これだけでも幅広い分野でありますし、もともとHRから分野を広げてきているわけなんですが。ここからさらに先、先ほどFinTechの話もありましたが、新規の領域で興味があるドメインはどのあたりを?

峰岸:やはりまずはHRですね(笑)。HRの領域をがんばると。

国内では今もこういう、ホリゾンタルじゃなくてバーティカルって言うんですか。それぞれの産業単位でマッチングのサービスをやっています。今取り組んでいますけど、今度はホリゾンタルに業務支援して、そこに複層的に、どうサービスをアドオンしていくかって話なんで、そこに乗っけていくようなものであれば、なんでもいいなと思っております。

国外で勝っていくためのポイント

小野:ありがとうございます。一方で、ちょっと国内の話中心でしたが、海外、今一番進められているところですけれども。国内から国外にたくさんのスタートアップもチャレンジして、苦戦しているところもたくさんあると思うんですが。

そこで成功していく秘訣みたいなものを、もう少し掘り下げてシェアしていただけたらと思います。国外で勝っていくために何がポイントになるんでしょうか?

峰岸:まずオペレーションは、結局スタートアップでも同じかな。やはりオペレーションは、現地の方には勝てないわけですよね。ですから、その国でオペレーションを回していくことに慣れていくしかないと思うので。

日本でビジネスを展開して、海外に自前で出ていくというのは、オペレーションとしては難易度が相当高いと思うので、なにか実験するとか、自分がやはりあっちに行って立ち上げ、そもそもはじめから立ち上げるとか。

オペレーションで相当苦労して、失敗して、こなれてくるのに、何年もかかっていくのはもう間違いないと思うので。そのようないくつかの準備段階を経て、展開していったほうがいいかなと思います。

小野:国外の話で、実際、現地に任せるって話もありましたし。あと、先ほど分社化の話のなかでも、権限の委譲という話があって非常に印象的だったのですが。やはり、個人的にもいろいろな会社を経営する機会もありながら、ぜひ聞いてみたいのは、任せるって簡単ではありながら、経営者としては非常にもどかしいというか、不安もあり。

社長として、個人として、どんなふうにバランスといいますか、任せるとは言いながらも、やはり気になるみたいなところって、常にあると思うんですけれども。

峰岸:そうですね。やはり任せる人と任せられない人というのは、どうしても不公平になるんですよね。任せられない人には任せられないので、任せる人に任せるということだと思うんですね。

小野:なるほど(笑)。

峰岸:だから、任せられる人をどう作っていくか、離さないようにするか。そこがポイントだと思います。

小野:人に尽きる、ということですね(笑)。

峰岸:人に尽きます。任せられない人に任せたら、大変なことになりますから(笑)。

小野:リクルートさんだからできる、というところかもしれませんね(笑)。

峰岸:いやいや、とんでもないです(笑)。

小野:ありがとうございます。せっかくですので、まだ時間もありますので、もう少し会場の方からもQ&Aを受けてみたいなと思います。

(会場挙手)

社長になって見える景色と自身のポジションについて

質問者1:峰岸大先輩にリクルート出身として、僭越ながら質問させていただきたいと思います。

2012年の6月に、IVS札幌で峰岸さんが登壇された際に、僭越ながら社長就任後ということで質問させていただきました。当時質問したのが、「大企業リクルートのトップになられました。それまで社長を目指されていて、実際社長になってみたらどうだったか? 何を目標にがんばるんですか?」。

そこで、峰岸さんから印象深いお話をいただきました。「それまではサラリーマンとしての『社長を目指すぞ』という気持ちがあったけれども、実際になってみたら、そこから、その場所から見える景色があって、その場所からしか見えない山が見えた」みたいな話をいただいて、「おー、すごいな」と思いました。そこから5年で、めざましく会社やグループ全体が成長されました。

2つ質問があります。今見えている、その椅子から見える世界や、次はどれくらい大きな山を目指されているのか。あるいは今、社長としてどんなモチベーションでがんばっているのか、というのが1つ目。

もう1つが、単純にリクルートのOBとして不思議なのが、リクルートの社長って、何年かおきに定期的に変わってきていると思うんですけど、社長のこの区切り目っていったい何だろう?

スタートアップであれば、創業者がずっとがんばっていくというモチベーションでやるのが一般的だと思うんですけど。峰岸さん自身はリーダーとしてどれくらい引っ張られるのか? ご年齢的にも、パワー的にも、まだまだ10年、20年引っ張られると思うんですけれども、自分のこのグループの社長というポジションをどういうふうに考えられているか? すいません、2点、僭越ながら。

峰岸:(笑)。

小野:なかなかすばらしい質問ですね。

峰岸:すごい質問ですね。

小野:はい(笑)。ぜひお願いいたします。

人事・HR分野を改革していきたい

峰岸:相当切れる海外の機関投資家みたいな質問で(笑)。ありがとうございました。今見えるところですか?

質問者1:はい。今見えている景色、目標、モチベーション。

峰岸:さっきご紹介したみたいに、今、HR、テクノロジーとメディア&ソリューション、国内のメディア、人材派遣という3つ持っていて。本当にコングロマリットですよね。かつ、シンプルとは言い切れない、というのもありますよね。

国内の事業でも、バーティカルのサービスをたくさん持っているわけですよね。「リクナビ」「リクナビNEXT」「タウンワーク」「ゼクシィ」「SUUMO」「じゃらん」とか。こういうブランド1つずつ事業を切り離してもし上場したら、ユニコーンぐらいのレベルになっていく。そういう事業を、国内でも10個ぐらい持っているんですよね。

だから、日本国内だけ見ても、ある意味コングロマリットになっています。でも、コングロマリットのメリットもないことではないんですよね。だから、1つの事業で一本足勝負で偏らないというのもありましたし、実際、リーマンショックの時に、HRは景況感で必ず左右されるシクリカルなビジネスです。

リーマンショックの時には、HRのメディア事業は、産業平均で60パーセントぐらい売上が下がっているんですよね。でも、販売促進事業というHR以外のビジネスは、リーマンぐらいでも10パーセント、20パーセントしか下がっていかないんですよね。そうやってボラティリティが回避できるという、コングロマリットのメリットもあるんですけども。

一方で時価総額を見てみると、やはりワンプラットフォーム、いわゆるワンプラットフォーマーが世界を牛耳るというようなことになっています。1つのプラットフォームやプロダクトで世界で勝負していくのか、多くのメディアのラインナップをそろえるようなかたちで、これからもコングロマリット経営をしていくのかが、究極の問いだと思っています。

でも、今一番コミットしたいのは、このHRの産業があって、企業が近代化されてから人事部ができて、全世界に人事部があり、小さい企業のところには、社長さんが人事をまかなっていたりするところもあるんですけども。そういう人事分野の産業そのものが、やはりほとんど進化していないというか(笑)、進化のレベルが遅いということなので。

実はそれがすごく大きいマーケットなんですね。人材派遣産業だけで、売上40兆ありますからね。人材紹介のビジネスだけでも10兆円あると言われていて。世界の広告市場でも、50兆~60兆円。分母で言ったら、HRの分野は大変大きな産業にはなっています。

まずは、ここの産業に対して、10~20年後の世界に向けて、圧倒的な効率化や利便性、そして、個人に対して圧倒的な求職のしやすさをどのように提供できるかにコミットしていきたいと思います。

それをどういう形式でやっていくのかが、一番の悩みでもあるし、ワクワクするところでもあります。今のところいいポジションにはつけていけるので、近代化されて企業ができて以来の人事・HRを、圧倒的にゼロクリアで変えていけるのが、やはり一番のポイントかなと思います。