「条件をクリアすれば、入社。ただし、社長を務めよ」という試用期間

アマテラス藤岡清高氏(以下、藤岡):QPS研究所の入社半年後に社長就任されましたが、そのことも含めた上で入社なさったのですか?

大西俊輔氏(以下、大西):「入るならば、社長になる」というのが前提でした。ただ、そもそも入社について、もともとの経営陣から反対もされました。

桜井先生は「今後の事業計画が立てられるのであれば、入社してもいい」という意見で、八坂先生は「入れ」という感じでした。しかし、当時社長を務めていた舩越さんからは大反対されました。

経営者であった船越さんはQPSの資金繰り等も理解していて、「これだけ有望な若手がQPSに来ても、潰す可能性がある」と危惧されていたようです。そこで、「来るべきではない。大企業に行け」というご意見でした。

三者三様でしたが、結局「入社後半年間で、会社として成り立つ道を見せることができれば、その後は社長としてやっていく」ということになりました。

市來敏光氏(以下、市來):創業した先生たちはステータスの面でも、生活の面でも、すでに十分築き上げたものがありましたので、「稼ぐ」「働く」というより、「宇宙を九州に広めたい」「宇宙に関わり続けたい」」というモチベーションからQPSをやっていたのだと思います。

「そんな自分たちの道楽に前途ある大西を付き合わせるわけにはいかない」という気持ちもあったのではと思います。だから、「自分でやる分の金は稼げる」ことを示してくれるのであれば、入社しても構わない。ただし、入社するなら、社長をやるという条件になったのだと思います。

プロジェクト業務受託等による売上獲得で、試用期間をクリア

藤岡:試用期間では困難等はありませんでしたか? 例えば、既存のメンバーたちとの関係はどのようなものでしたか?

大西:メンバーとの関係構築については、問題ありませんでした。もともと衛星プロジェクトで一緒にやっていましたし、もともとの経営陣との年齢差も、孫と祖父のような関係で良かったです。親と子くらいだと、難しいこともあったかも知れませんが。

市來:(創業者の)3人とも、基本的にアイデアを否定しないのです。どんなアイデアであっても、「おもしろいな。まず、やってみようか」から始まる。八坂は世界的に見ても日本でおそらく一番有名な宇宙の先生の1人ですが、それだけの権威の方が全く否定もせずに「やってみよう」と言ってくれる。それによってサポートされている部分は大きいと感じます。

藤岡:とはいえ、それなりに認めてもらわないと入社条件をクリア出来なかったと思います。どのようなことで認めてもらったのですか?

大西:売上に繋がる仕事を取ってきたことが一番大きかったです。プロジェクトで知り合った先輩方や先生方が、「お前、QPS入ったんだって」と製造請負やプロジェクトの業務委託といった仕事を紹介してくれたのです。

ベンチャーや大学のプロジェクトの全体管理、もしくは熱構造系を担当し、1~2年間で週2~3回行くといった契約を結び、プロジェクトに参加していました。

ただ、その後、ここからの脱却が一番難しかったです。当面やっていくには有難くて、いわゆる「下請け」としてはやっていけるのですが、そこから「次に行く」「自分で何かやろう」という転換がとても難しかったです。

私が仕事を取ってきて、それをこなすのでは、会社としては向上していかない。私たちが何かを主導し、それにみんながついてくるというのが理想です。

「そのためにどうするか」というところから、小型SAR(Synthetic Aperture Rader、合成開口レーダー。天候、昼夜関係なく観測が可能)衛星の着想が出てきました。

「次に行く」ための、市來さんとの出会い

大西:小型SAR衛星を実現したいと思った時、当社には技術系しかおらず、そのための方策がありませんでした。

「実現するためにどうすればいいか」がわからなかった時に、市來と出会いました。それは凄く大きな出会いでした。

藤岡:市來さんとの出会いについて、詳しく教えて下さい。

大西:応援いただいていた九州のベンチャーキャピタルの株式会社ドーガンから市來を紹介されました。

市來: 大西と会った頃、私は産業革新機構に勤めていました。私はもともと福岡生まれ福岡育ちで、「できれば地方に出資したい」という気持ちを強く持っていましたが、なかなか東京ベースだとご縁もなく、難しい。そこで自腹で九州に行き、おもしろそうな案件を探していました。

そんな時、私の前職(YOCASOL株式会社 代表取締役社長)の株主だったドーガンから「福岡におもしろい会社がありますよ」と紹介され、福岡まで大西に会いに行きました。

大西から「衛星には2種類ある。1つはカメラの衛星、もう1つがレーダー(SAR)の衛星。カメラの衛星はもともと大きかったが、小型化する技術ができてそっちに市場が移っている。レーダーは現状大きなものしかない。これが小型化出来れば、恐らくそちらに市場が移行する」という話を聞きました。

幸運だったことに、産業革新機構で数多くの新しい技術、創造的なビジネスモデルを見たり、関わったりする機会をいただいていたおかげで、一瞬で頭の中に小型レーダー衛星を使った未来の姿がイメージできました。

「この技術と組み合わせればこういう世界がつくれるよね」「この技術を応用すれば、さらに画質が上がるんじゃないの?」といった今後がイメージできたのです。

「これはおもしろい。地元の福岡だし、福岡から宇宙の産業が生まれるのは嬉しいことだ」と思い、サポートしたくなりました。

機構として出資できればと思いましたが、自分の力が及ばずこの時は検討することも難しかった。そこで、上司に相談したところ「個人的にバックアップしていい」と言われたので、普段はメールでやりとりをしつつ、月に1回ほど福岡に行き、事業計画等を一緒に考えたりしていました。

出資を募る上で、技術系のみで、誰も経営やお金の回し方がわからないという状況では難しいので、「経営人材を誰か入れて」と2015年10月頃に伝えました。大西から「探します」と言われたものの、候補がなかなか出てこない。

その年末に大西と食事した際、「あの件はどうなっている?このままでは、いつまでも誰も出資することを本気で考えてくれないよ」と言ったところ、「市來さん、福岡出身ですよね。来ませんか」と返ってきました。そして、「これもご縁かな」と思い、入社を決めたのです。

倒産の危機?!コストの見直しを図る

藤岡:市來さんが入社された後、資金繰りのご苦労等もあったかと思いますが、エピソード等教えていただけますか?

市來:入社してみると、現預金残高が事前に聞いていた額より少なかったのです。そして、自分なりにキャッシュフローシミュレーションをしたところ、このままでは数カ月後には倒産しかねないことがわかりました。

そこから「いかにキャッシュアウトを減らすか」に注力しました。大学教授や技術者なので、もともとコスト意識が高くなく、「そんなことに…」といったことでお金が消えていました。それらを全て洗い出し、「これは不要だから、すぐ解約しよう」と交渉したりしました。

「お金が回らない」というのは死活問題なのですが、大西にしても当初はコスト感覚があまりなくて、苦労しました。

東京にあるベンチャーの仕事を大西が請け負っており、週3日ほどの業務のためにオフィススペースを借りていました。大西からすれば必要な業務環境だったかも知れませんが、必須ではないので、「週3日ならビジネスホテルに泊まればいいから、すぐに解約して」と伝えました。しかし、数か月経っても解約してくれない。

そこで、ある時「スタッフに満足なだけ給与が払えているか? ここを削ってでも、こいつの給与を上げたいと思わないのか?」と言ったら、初めて気づいてくれました。「確かにそうですね」と言って、その翌日には解約してくれました。

その頃から急速にコストが切り詰まりました。他方、営業は予定通りに進み、プラスに転じていきました。2016年後半にはキャッシュフローの問題は解消されました。

今は、「もっと大きな世界を目指すよね」ということで、さらなる資金調達に舵を切っています。

準リアルタイムGoogle Mapの実現に向けて

藤岡:短期的な課題、中長期的な課題があると思いますが、どのようなものですか。

大西:短期でいうと、現在取り組んでいる小型SAR衛星をまず打ち上げて実証することです。世界において競合他社が2社ほどいますが、日本発で世界に先駆けて打ち上げたいと考えています。そのための課題はスピードです。「いかに早く打ち上げるか」が大きいと思っています。

中長期的には、衛星を複数上げることです。SAR衛星は、夜でも、悪天候でも見えます。ですので、災害時の迅速な状況把握等で有用だと考えています。しかし、一個の衛星では、見える頻度の問題があります。

そこで、最終的には36機上げようと考えています。そうすると世界中のほぼどこでも平均10分以内で撮影出来るようになります。10分ごとに更新される準リアルタイムのGoogle Mapのような世界が作れるのです。

これによって、これまでは見えなかった人や車、船といった移動体の動きが見えます。それを使って、例えば町全体に拡げたセキュリティシステムを構築できるかも知れない。また、蓄積されたビッグデータから未来予測ができるかも知れない。

基盤としてこれを早く作ると、その次の、それを活用する社会ができてくると思います。

ですので、複数打ち上げを実現したいのですが、課題は資金です。「小型衛星は安い」といっても絶対額は高いですし、それを数十機上げるとなると、大きな金額になります。

まずは、1機打ち上げた上でその成果を確認し、次のステージに持っていくことが重要だと思っています。

市來:QPS研究所の基本理念として、「(技術により)宇宙の可能性を広げ、人類の発展に貢献する」というがあります。

その第一歩が、QPS‐SARです。QPS‐SARによって、世の中にまだ実現できていないことを、日本発で実現させる。それによって、これまで見えなかったものが可視化できれば、いろんな発見やインサイトが得られ、もっと社会を効率化できるといったことに繋げたいと考えています。

そこで重要なのはスピードなのですが、それはつまり人材です。現在の人員で次の衛星開発等は進めていけますが、まだ十分ではありません。もっといい人材は欲しいですし、拡張していかないといけない。

また、長い目で考えた時、当社のビジネスは、SAR衛星を数機打ち上げるだけのものではありません。これを産業とし、世の中を良くしていく。そして、世界規模で展開しないと意味がない。「それを担う人材がいるか?」というとまだです。今後はここにも取り組まねばなりません。

QPSは『宇宙工学の梁山泊』。一芸秀でて志高い人材に集まって欲しい

藤岡:中長期も含めて、どんな人材が必要ですか?また、その人物像や求めるマインドセットについてもお聞かせください。

市來:技術系としては、私たちが持っていない分野、例えば、姿勢制御や電源、通信、SARのところを求めています。現在は協力企業がいるので、プロジェクトを進める上では問題はないですが、弊社内でもその能力を持ちたいので、プロパー人材を採りたいと考えています。

マインドとしては、ベンチャーですし、小型SAR衛星という世の中にないものに取組んでいるので、既存の考え方に捉われず、不可能に見えることでも「やってみよう」と思えるような技術者を求めています。

また、管理・経営系では、2つほど求めているポジションがあります。今は8人ほどで、各自が自由に動いている組織ですが、今後どんどん人を入れていって大きくしていく中で、社内体制を作り上げる必要があります。

ベンチャーから一定規模の企業へと上がっていく中で、組織や体制づくりができる人がまずは欲しい。人事や総務も含めて幅広くできる方がいいですね。

もう1つはCFOです。今のところ、私がCOOをやりながらCFOを務めているのですが、私自身は事業拡大に向けた取組みにより集中した方がいいと考えており、CFOとしてプロフェッショナルな人材を求めています。

藤岡:どんな方が貴社に合うと考えていますか?

市來:誰が言い出したかわかりませんが、当社は九州にいながら「宇宙工学の梁山泊」と言われています。「梁山泊」と呼ばれるからには、一芸秀でて志高い人材に集まって欲しいと思っています。

つまり、「自分はこの部分で絶対に負けない」と言えるだけの、何かを持っている人というのがまずあり、かつ、「日本から」とか「世界のために」と思うような人であって欲しい。ビジネスの利益だけを求めるのではなく、「社会を良くしていく」ことに対するモチベーションが高い人を強く求めています。それが、当社のみんなが持っているマインドですので。

ただ、事業化途上のフェーズで、給与水準は高くはありません。また、福岡という場所も、人によっては難しい場合もあるかも知れません。

そういった点も含めて受け入れてくださる方、私のように何かしら九州、福岡に縁があって「福岡や九州に来てもいい」と言ってくださる方だと、嬉しいです。

まだ小さな会社ではありますが、「そこから世の中を、日本から、進化させてやろう」という気持ち、社会のためという情熱、そして、誠実な人柄といったところが大切だと思っています。そして、そこに求められる能力が伴っていれば、最高です。

ゼロから作り上げ、「世の中を驚かせる」経験ができる

藤岡:最後に、現在の貴社で働く魅力を教えて下さい。

大西:技術系の、研究室的な雰囲気が魅力だと思います。上下関係はありませんが、先生がいて、生徒がいて、といった雰囲気です。

そして、やはり世界トップレベルの先生方からその経験や知識を吸収できることです。もちろん、こちらから求めていかないと教えては貰えませんが、成長出来る環境、雰囲気はあると思います。

市來:宇宙工学を経験、学ぶという点から言うと、あれだけの先生が近くにいる環境はなかなかないと思います。完全に独占できますから。

私から言えば、当社は小さな会社ですが、「世の中を驚かせたい」と考えて取組んでいる企業です。そこに加わることで、ゼロから作り上げ、そして世の中を驚かせる経験が出来ると思います。「世の中を驚かせる」って、どこの企業でも出来るという経験ではないと思います。そこを期待してくれると嬉しいです。

藤岡:本日は素敵なお話、ありがとうございました。