銭湯に関して「こうだ」という答えはまだ持っていない

大黒健嗣氏(以下、大黒):みなさんこんばんは。私は「小杉湯銭湯ぐらしプロジェクト」において「創る銭湯」という名目でスタートしたんですが、アートプロジェクトのプロデューサーです。「銭湯ぐらし」においては、「アーティスト in 銭湯プログラム」をやりました。大黒健嗣と申します。よろしくお願いします。

僕は、高円寺は11年目ぐらいで。小杉湯の存在は知っていましたし、友達と飲んでいる過程で「1杯500円で飲むんだったら、1時間500円で銭湯に入って、もう1回飲みなおそう」みたいに、2ヶ月に1回ぐらい銭湯に行く感じだったんですよ。

今年(2017年)の春に「銭湯ぐらしプロジェクト」が始まって、こういう「アーティスト in 銭湯」というものを始めて、僕自身も銭湯に通う機会がどんどん増えていったんですけども。例えばさっき言った佑介さんのように、銭湯で生まれ育ったわけではないですし(笑)。

ほかのメンバーもけっこう、銭湯ファンとして入ってきた人たちがかき集められていったんですけど、僕の場合はちょっと違う仕事の視点の中から出会って、誘われて行ったという側面があります。

そういう意味では、まだ銭湯に関して「こうだ」という答えみたいなものはないですし、このアートプロジェクトの中でも、今、現在進行形でこの答えというものをアップデート中でして。1時間前ぐらいにこの資料も完成したんで、わりと考えながら話していきたいと思います。

その中で、1番最初にその話題に入る前に……銭湯ぐらしプロジェクト。小杉湯としての銭湯とはなにか、ということを考えていくわけです。小杉湯は東京・高円寺にあります。要は「都市型の銭湯」ということに、僕の話はどうしてもフォーカスしていくことになります。

そうすると、都市、銭湯を通したビジネスの可能性について、今日は話そうというわけですので……「東京ってなんだ?」ということになってくるわけですね(笑)。未来都市としての東京って、みなさんどういうイメージを持ってらっしゃるかなっていうのを、ちょっと思い描いていて欲しいと。

10年後の東京とは、20年後の東京とは?

「未来都市、東京」ってなんだっけ、みたいな。たぶん僕たちは気付かずに毎日暮らして、いつの間にかどんどん新しい技術が手に入って。それを受け入れるだけの柔軟性もいつの間にか育ってしまって、あっという間に時代に流されながら、未来都市に適合していくんですけれども。もちろんビジネスを考えるときは、先のことを読んで、想像しながらやっていかなきゃいけない。

ということで、10年後の東京ってなんだ? 20年後の東京ってなんだ? ということを、常に考えながらやっているんですね。僕の仕事でもあるんですけど、みんなそんなことばかり話してるので、今日もそういう視点で語りたいと思います。

前提が長くなりましたが、まず私ですね。9年前に「AMPcafe」という……その時代は「オルタナティブスペース」と呼ばれていて、今もなおあるような。ギャラリーなんだけど、音楽のイベントもできて、お酒も飲めて。たまり場的な機能を果たしてるっていう……空洞みたいな場所をスタートしたことが、僕のこの現在に続く、わかりやすいキャリアです。

これも高円寺南4丁目にあります。

次に、2016年。一昨年会社を立ち上げて、去年1軒目をオープンしたんですけど、「BnA hotel」。これは、「BnA」は「Bed and Art」って意味なんですけど(笑)。今は無意識に「BnA」って使ってるんですが。

右側の写真、向かって左側ですね。この写真が、チェックインカウンターであるバーの写真なんです。ここにお客さんがわーっと入って来て、チェックインをして、上の部屋に行くとこういった部屋になっていて。アーティストが作ったアート空間。「泊まれるアート空間」「貸し切り型アート空間」ということで、ホテルの中にアートがありますと言うよりも、アートの中に泊まれますというような施設をやっています。

ただこれだけじゃなくて、高円寺という街がもう僕は大好きで。10年住んでるんですけど……出身は青森県なんですけど。高円寺という街を巻き込むかたちで、ホテルを展開しようと。つまり僕たちはもともと、自己資金がなかったわけです。なので、自分でレストランを作ったりと、ホテルのすべてのサービスをやることができないと。

街とアートとホスピタリティ

もう1つは、現在のホテルで言われてるようなホスピタリティというものに懐疑的だったこともあるんです。さっきやっていた「AMPcafe」という、ここで生まれたコミュニティのかたちと、一般的なホテルのあり方にギャップがありすぎて、アーティストが置いてけぼりになるんじゃないかと。

だからもっと自然なかたちで、僕たちなりのホスピタリティというものを考えていこうって言ったときに、「街に遊びに行きなよ、この街おもしろいぜ」と語れる街でありたい。それに貢献したい、って気持ちも出てきて。それが結果的に、ホテルとしてのビジネスに結びついてくるだろうという大きな視点で考えると……そんなかたちで街づくりというものをより意識し始めたのが、このBnAホテルがきっかけでした。

そういったことで、プロジェクトとしてはこの「ミューラルプロジェクト」なんですけども。「ミューラルシティプロジェクト」と呼んでいまして、ミューラル(mural)というのは「壁画」ですね。左側の写真が、高円寺の中では最大なんですけど……まぁ、さっきの東京の昔の銭湯の数ほどじゃないんですけど、ぜんぜん(笑)。高円寺の中で、今5ヵ所描いています。

そんな感じで、街とアートとホスピタリティみたいなことを、合わせながら考えています。

「街型アートプロジェクト」ってなに? って考えると、「街の中でアートを展示します」とかそういうことではなくて。僕の場合はどちらかと言うと、「コミュニティを醸成して、インスピレーションのオアシスであるクリエイティブ・シティを作る」という……めちゃくちゃカタカナで、よくわからないところに急に飛ばされた感じだと思うんですけど(笑)。

もうちょっと後に話したほうがいいんですけど、都市というのはたぶん「インスピレーションのオアシス」であるということが、東京ではすごく価値として、これからもっと重要になってくるんだろうなと思っていて。そのために、人がもっとそこに目覚めるような枠組みを作って、教えるんじゃなくてみんなで育て合う、みたいなことを街中で作っていきたいなと思ってるんですね。

銭湯ぐらしに参加することになったきっかけ

具体的に、絵ができました、あぁ素晴らしいですね、街中が美術館になりましたね、ということではなくて。もちろんそれはゴールと言うか、結果なんですけども。

その過程の中で、「アートをここに描きます」と言ったときに、ふつうに「じゃあ描こうか」って急に描き始められるわけはなくて。まずオーナーさんが許可をくれる、予算を出してくれる、もしくは行政から予算が出る。大きい絵を描くとなったときには、行政の許可を取らなきゃいけない。商店街の人たちにもご挨拶をしなきゃいけない。アーティストにも承諾を得なきゃいけない。

いろんな情報をミックスさせて、コミュニケーションをとりながらプロジェクトを作っていくわけです。そうすると、コミュニティというものが勝手に醸成されていくんですね。だからアートプロジェクトというのは、結果こういうことに繋がっていくなと思っています。

そういったことをやっていた僕が、なぜ銭湯ぐらしに参加することになったかと言うと、きっかけはBnAホテルの仲間が……銭湯ぐらしという名前もまだできる前にそれを「やろうとしている」と言う、メンバーの加藤君と出会ったことがきっかけではあるんですけども、具体的にそこに興味を持った理由というのがありまして。

「街型ホテルにおける銭湯」とはなにか。これは、街中がホテルという大きな施設と捉えて、街中のレストランがうちのホテルのレストランです。ホテルの部屋自体も街の中に点在させたいと思ってるんですけども……町全体を考えたときに、銭湯というのはうちの大浴場なんですよ。ホテルの施設として。それは最初にこういうホテルをやりたいんだけど、と会いにきた今の仲間のタズと初めて話した時に僕が実は一番痺れたポイントでもあって。

アーティストにとって天国のような空間

なので、そこの強固な繋がりが欲しかったというのと、リアルな地域コミュニティ。僕たち、「コミュニティが大事です」と言ってるんですけど、どうしてもアートホテルのバーカウンターに集まる人って、わりと似た者同士になってきちゃうんですね。だけど、街のコミュニティと繋がっているかどうかということを僕たちが実感として感じて、それを人に伝えるためには、もっと広い層の、昔から続く、そして自然発生的なコミュニティと繋がりたいなと思っていたんです。

と言ったときに、銭湯というのはジャンルもなく年齢もなく人が集まって来て、そこでなにかが生まれてるのではないかという予測がありました。

それから、この銭湯ぐらしプロジェクトは、空きアパートがあって、そこで無料で暮らせます、というプロジェクトです。僕はもともと高円寺に住んでるので、僕は住まなくてもすぐ近所にいつもいるし、僕がここで暮らすより面白いことできないかなと思ったんですよ。じゃあその空間をどう使うかと考えたときに、アーティストには制作スペースが足りないんじゃないかという問題のことを考えました。

つまり、まず家に広さが足りない。まぁこれは結局お金に関係してくるんですけど、広いスペースを借りられない。それから、物件って原状復帰が必要なんですよね。だけど、ここのアパートは解体予定だったんです。なので、簡単に言うと場所代無料で「なにをやっちゃってもいいよ」という(笑)。アーティストにとって天国なんじゃないかなと。汚してもいいし、好き勝手自分が創りたいように創れるという空間なんですね。

あともう1つの理由としては、すでに集まっていたメンバーへの興味。「こんな人たちがやるんだよ」って言ってたときに、会った人たちがおもしろかったので。一緒になにかやりたいなと思ったんですよね。結果的にはそれが高円寺コミュニティの成長を促すだろうし、未来の街づくりにとって重要な1歩になる予感がしました。

それで、銭湯ぐらしにアートプロジェクトをどのようにインストールしていったのか。これが先ほども述べたように、アーティスト in 銭湯というやり方です。

この写真はさっき祐介さんが出した写真の、2ヵ月とか3ヶ月後だと思うんですけど……アーティスト in 銭湯に入ったアーティストが、この解体予定のアパート、「湯パート」の外壁に絵を描きました。こういうことをやったりもしました。