アナログな世界での経験から「サービス産業を変えよう」と決心

アマテラス藤岡清高氏(以下、藤岡):木戸さんが「サービス産業のデータインフラを整備する」というミッションを掲げた理由を教えてください。

木戸啓太氏(以下、木戸):外食店で働いた経験や、実家が米屋だったことがきっかけで、このミッションに辿り着きました。サービス産業には外食や小売業等の業界があり、そこで働いている人は世の中の7、8割にも達します。

しかし、その一方で、我々のいるIT業界に比べるとITの活用が大幅に遅れています。私が学生時代に働いていたバーでは、紙とペンと電卓を使っていました。ITの活用が進んだ時代で、未だにアナログな世界でした。

そこで、「そのようなアナログな世界の人たちが本当に活用できるような、誰でも容易に使えるような仕組みを提供すれば、付加価値が生まれる」と考えるようになりました。

藤岡:実家がお米屋さんだったことは、ユビレジのミッションにどのように影響したのですか?

木戸:実家の米屋では、お金をレジではなく引き出しに入れていました。またお金のやりとりも、お店だけにとどまらず、書いた請求書を近所に配ってお金を集めるという仕組みでした。

地方には、その土地土地の経済があります。周辺の人は大体顔見知りで、誰が買い物に来たかわかっているので、その場でお金を払わなくても、後でその人のところにお金を回収しに行けば良いのです。東京に出てきて、当たり前だったその仕組みがほとんどないことに驚きました。

そのような経験もあり、タブレットやスマートフォンがでてきた時に、「地方を含めたサービス産業を変えられる」と考え、それらを活用したインフラを作ることを決心しました。

高校生の時から起業家になりたかった

藤岡:「起業しよう」と考えたきっかけを教えてください。

木戸:起業自体は、高校生の時に考えはじめました。2003年頃、楽天やサイバーエージェントなどのベンチャーが盛り上がっている時でした。

私が住んでいたのは石川県でも田舎の方で、就職先といえば、学校か公務員、あとは地域の医師くらいという選択肢が限られた環境の中、高校生当時の私には、これらの職業は魅力的に感じられず、盛り上がっていたベンチャーがキラキラしたものに見えたのです。それがきっかけとなり、起業をすることが私の夢になりました。

大学進学のタイミングで東京に出てきました。当初は「すぐに起業しよう」と考えていましたが、地元の石川と東京の間にあるものすごいギャップから、「現状の自分では起業は無理である」ことを痛感しました。

そこで、さまざまな社会経験として、アルバイトや、大学の研究、学生起業団体などを積み重ねていきました。

起業団体では、情報交換をしながら、実際に起業した仲間から多くの刺激を受けました。私が入っていた団体には、現在のリブセンス(注:2006年2月設立。インターネットメディア運営会社。東証一部上場)なども所属しており、そういった他社の起業や成功事例を間近で見ていたことも自らが起業する一因となりました。

学生起業はゼロスタート。だから、リスクがない

藤岡:木戸さんは大学院在籍中に起業されていますが、企業への就職を選ばなかったのはどうしてですか?

木戸:社会経験の面でも、1回就職をした上で起業した方が良いだろうと思っていました。「2~3年程度会社で社会マナーや基礎知識を学習した上で起業した方が、事業がスムーズに進められるのでは」とも考えました。

しかし、自分が会社側の立場だったら、採用して研修をし、2~3年程働いてもらったところで「辞めます」「起業します」となったらとても不快な気持ちになるのではと思いました。そんなこともあって、「2~3年で辞めるような就職はすべきでない」と考えたのです。

就職して10年は働いて研修費以上の成果を残して独立する、もしくは、最初から就職しない。このどちらかだと思いました。私の夢である起業以前に10年といった長期間の就職は考えられなかったので、「就職せずに起業しよう」と決心しました。

また、もう1つの理由として、いったん就職してしまうと、会社を辞めて起業する時にリスクを感じてしまうだろうとも考えました。

就職後に起業しようとすると、元々あった稼ぎがゼロになってしまうのでマイナススタートになります。それに対して、学生は元々稼ぎがなくゼロスタートなので、起業して、仕事をとってくればプラスになります。

起業時の私は学生だったこともあり、「失敗する」とか「失敗したら」といったことは考えていませんでした。

仲間と共同生活して乗り越えた資金問題

藤岡:木戸さんは社会人経験がない中、8年間会社を経営しています。その間、どのような壁にぶつかり、またそれをどのように乗り越えてきましたか?

木戸:最初にぶつかった壁は資金の問題です。最初の立ち上げ時期は、資金が全然ありませんでした。しかし、資金を使わないことでやり繰りしました。

最初は、1人で事業を行なっていましたが、その後、松本という共同創業者のような仲間が入り、2人で一緒に藤沢のアパートを借りて共同生活していました。給料は10~15万円程しか出せていませんでしたが、共同生活していた上に、お金を全然使わないので、むしろどんどんお金が貯まっていきました。

さらに、会社の立ち上げ当初は受託開発の仕事などを行なっていたこともあり、初年度は黒字になりました。

「競合の出現」をチャンスとして捉える

藤岡:貴社が先発したタブレット型POSレジ市場に大手も含めて競合が多く出てきました。この対応について教えてください。

木戸:競合の参入は、壁ではなく、チャンスとして捉えています。基本的にベンチャーでは、マイナスのことを言いだしたらキリがありません。私はすべてのことにはプラス面とマイナス面があると考えています。

競合が参入するプラスの面は、マーケットが拡大すること、製品自体の認知が拡大されること、サービスに対する信頼性が確保されることなどがあります。「ちょっと変わった製品」みたいに捉えていた方も、「タブレットレジの時代が来たね。いつ導入しようか」と認識が変わってきます。私たちにとって、チャンスです。

もちろん、競争が発生するというマイナス面はありますが、私たちは「プラス面はどこだっけ」、「うちのポジショニングはここだったら勝てる」といった次の展開に考えを集中することにしています。

ユーザーの声を成長に繋げた

藤岡:現在、ユビレジは2万店舗以上で使われているのですが、どこかでクリティカルポイントがあったのでしょうか?

木戸:レシートを出せるようになったことがクリティカルポイントだったと思います。最初はレシートを印刷できないレジでした。レシート印刷はレジとして当たり前の機能なので、ユーザーから「レシートが出せないなんて、レジではない」という声をいただき、その改善に取組みました。

さらに、多くのiPad特集やガジェット特集に載ったこともクリティカルポイントだったと思います。ユビレジはiPad発売後すぐにリリースしたサービスだったこともあり、多くの記事に取り上げられました。iPad等のタブレットの使用例などを示す特集のほとんどで取り上げていただきました。

ユビレジには勝負できる環境がある

藤岡:最後に今のユビレジで働く魅力を教えてください。

木戸:勝負したい人、自分の力を発揮したい人にとっては魅力的だと思います。いまは会社がひと通り整備され、拡大期に入っています。ですので、本当の戦う環境があります。

これからも「サービス産業のためのデータインフラを整備する」というミッションに人生をかけて取り組もうと思っています。この課題感を共有できる人にとっては、魅力的であり、やりがいがあると思います。

藤岡:本日はありがとうございました。