教室のなかに勝手に作ったコーヒーブース

武藤北斗氏(以下、武藤):僕、聞きたかったこと、1個思い出しました。たぶんこれ、本に書いてないと思うんですけど。

「中学生のときにコーヒー屋さんでいろいろ感じた」ということを書いてあったんですけど。そのコーヒー屋さんは何か特別なことをしてたんですか?

小林せかい氏(以下、小林):私は15歳のころからずっとお店をやりたいなと思っていて、未来食堂を出したんです。30歳ぐらいでお店を出したんですけど。いくつかきっかけがあったなかで、高校のときに、教室の後ろにポットと紙コップと粉末のコーヒーやココアを置いて、勝手にコーヒーブースを作ってたんですよ。お店をやりたいからと思って。

飲み終わったぶんはここにお金を入れてくださいっていうのも作ってたんですね。でもお金が貯まらなかったんです。そりゃそうですよね。「1杯20円です」って書いておいたら、もらえたかもしれないんですけど。「飲んだらお金」って、ぼやっとしてるじゃないですか。「いったいいくらだろう?」みたいな。

それがあってぜんぜんお金が入らなかった。ほかに特別なことをやってたかっていうと、別にやってなかったですね。

武藤:それを勝手にやったことに居心地の良さというか……感じたわけですよね?。家でいるのと違う本当の自分が見えたっていうような書き方をしてたと思うんですけど。

小林:そうですね。学校の教室のなかに、そういうフリースペースがあったらおもしろいのかな、と。そういう感じですかね。

武藤:それを感じて、学校でコーヒーブースをやった……?

小林:そうですね。教室の後ろのほうにポットとかを置いてました。

武藤:わかりました。

働き方の固定概念を壊すには

質問者8:私も今日のイベントがきっかけでお二人のことを知って、まだ本を読んでないんですけれども。今、職場で働き方改革に取り組んでまして。職種は看護師です。もともと、大学病院ですごくぎちぎちの組織のなかで働いてたんですけど、今はあるベンチャー企業のなかの看護師として働いています。

そこで、今まで働いていた環境もあって、どうしても固定概念にとらわれがちで。先ほども固定概念、固定概念って言っていましたが、それをぶっ壊すにはどうすればいいのかな? っていう。何か少しヒントをいただければいいなと思って質問しました。

武藤:管理職ですか?

質問者8:管理職までは……。

武藤:なんですかね……。僕は現場の意見をきちんと聞いて、それを活かしていくだけだと思ってます。だから、管理職の人たちが現場の意見を理解できてないパターンが多いのかな、と思います。だから現場がどうしたいか。どうすれば自分たちが働きやすくなるかっていうことさえ突き詰めていけば、あとから自ずと、効率やいろんなものはついてくると思います。管理職を現場に引きずり込むっていうのが1番大切かな、と。

質問者8:そのうち、自分がそういった位置に立ちそうでもあるんですが。そういった場合でも、やっぱり現場をよく……。

武藤:必ず現場に自分が入る。

質問者8:入るってことですよね。

武藤:はい。必ず一緒にやる。自分だけがやる作業があるんじゃなくて、みんなと一緒のことをやる。そのなかで、みんなは何を言っているのか理解できるところまで、自分も作業をする。

管理職の人はだいたい、みんなが言ってる意味がわかってないんじゃないかな、と思ってます。それを理解できれば、あとはいい感じになると思います。

質問者8:ありがとうございました。

小林:これも書いてましたよね。

(会場笑)

武藤:本にもうちょっと詳しく書いてます。

プラスになるなら固定概念はあってもいい

小林:固定概念。ちなみに、「まかない」の方は看護師の方がけっこう多くて。オペ室の看護師さんや、産科の看護師さんって、動きがいいんですよ。なんかやたらきびきびしてる。「飲食店未経験なのにすごいな」って思ってたら実は、って。「オペ室をよくしなきゃいけないんで」って。

武藤:いつも立ち仕事で、まわりを見る能力が高くなってるのかもしれないですね。

小林:うん。

武藤:イメージですけど。

小林:固定概念って、別にあってもいいんじゃないかなと私は思っていて。別に固定概念自体はどうでもいいかなと思うんです。例えばそういうオペ室の看護師さんが来ると、必ずアルコールスプレーを頻繁に手にかけるんですよ。

お金を触ったあとは必ずアルコールスプレーをかけるので、普通は厨房に置いてあるんですけど、そういう方が来られると客席側にもアルコールスプレーを出して。そっち側で使いやすいように、場所を変えたりするんですよ。

ちょっと小さい固定概念ではありますけど、そういう業種の人って、そういうふうにルール化されてるからだと思うんですよ。それに対してははぜんぜん、「そんなにアルコールしなくていいよ」とか、そういうことは一切言わないですね。

武藤:あ、言わないんですか?

小林:言わないです。その人がいいと思っていて、お客さんから見ても問題がないことであれば、どんどんやってほしいので。そうやってアルコール振ったほうがいいのかな、とか逆にこっちが気付かされる。

その業界に癖があって、細かいんですけど、別にそれがお客様を邪魔していない。お客様にとってプラスになっているのであれば、それはどんどんこっちに持ち込んでほしいなって、思ってますね。なのであまり、固定概念がどうって考えたことがなかったような気がしました。

質問者8:ありがとうございます。

4年間、1度も欠品はない

小林:ほかに何か質問はありますか?

(会場挙手)

お、ありがとうございます。

質問者9:従業員の方が揉めると引きずっちゃうけれども、お客さんのほうは謝ればいいっていうお話をしてましたが。そんな、謝って許してくれるようなお客さんばっかりなんですか? 「頼んだものを届けてくれないようなところとは、もう取引しない」っていうふうに思うんじゃないかな、と思うんですけど、そんなことはないですか?

武藤:謝ればいいと僕はそう思ってるんですけど、実際はそういう状況にならないです。自由にしたことで、逆にすべてがよくなっているから。ちょっと投げやりな答えになってましたね。適当に答えたっていうとちょっとあれですけど、どうせそういう状況にならないから、そのぐらいの感じでした。

逆にプラスにいくので。例えば、自由っていうことは、何曜日に来るとかは決まってないので。忙しいときには自由にしてる人たちがぐーっと集まってくれるんです。そうなると、短期のバイトは集めなくていいし。忙しい、ぼんっと作らなきゃいけないっていうのがあらかじめわかっていれば、そこに人を集中できたり。

逆なんですよ。本当はプラスなんです。だから謝ればいい、みたいな言い方を適当にしちゃいました。

質問者9:じゃあ、欠品するようなことはないってことですか。

武藤:4年間ないですね。

質問者9:わかりました。

稼ぐためにスケールするか

小林:あと質問、2人ぐらいですかね。どうですかね。武藤さん、大阪から来てくださってるし、せっかくなので。

(会場挙手)

質問者10:お二人が各々経営されてるなかで、ランニングするにはとてもいいシステムなのかな、と思ったんですけど。例えば稼がなきゃいけないような状況になったときに、今のシステムを続けられますか? それとも、稼ぐことについてぜんぜん違う考え方をお持ちであれば、お聞かせいただけますか?

武藤:稼ぐっていうのは、パートさんがっていうことですか? 会社が?

質問者10:会社としても、個々で稼ぐっていうこともあれば教えていただきたいです。

武藤:もう常にその気でいます。今がその状態というか。それぞれの人が稼ぎたければどんどん来てもらえばいいし。会社は今、どんどん稼ぎたいので自由にしています。

小林:「スケールできますか?」みたいなそういう感じですよね?

質問者10:そうです。ちょっとフリーになってるところが、もっと人増やさなきゃいけないとか。

武藤:どうかな……。本を出したときは9人だった従業員が、この数か月で、今は17人になってるんですよ。けっこうアップアップしてきて、正直、17人のときよりは9人のときのほうがやりやすかったかな、みたいな感じはあるんです。ただ慣れてない人たちとやってるから、もしかしたらこれは日にちが経っていけば、18人でもいけそうな気もします。

ちょっとずつやっていくのであれば、それに対応したやり方はできそうな気がしています。

小林:未来食堂もよく「スケールするんですか?」って聞かれるんですけど。スケールに関する考え方は本のほうに。

武藤:(笑)。

小林:書いてはいるんですけど。何を答えればいいのか……。「スケールしますか?」って言っても、そもそも飲食店なので、10店舗とかそういうイメージですかね。10店舗、いけるんじゃないですか? どうなんですかね。何を答えればいいのか……。

代わりの人が「未来食堂」をやれるか

武藤:今から半年間、小林さんじゃない人が代わりに未来食堂をやる、ってなったときに、できるイメージはありますか?

小林:たぶんそれは、未来食堂じゃないですよね。未来食堂の独自な、よくわからない空気っていうのは、たぶん私からしか出ないと思うので。そういう意味では未来食堂を完全にコピーするのは不可能だと思います。

でもそれって、別に誰しもが求めてるところではないと思うので。例えば、未来食堂の廃材がでない日替わり定食の組み立て方は、だいたい3か月間ぐらい、毎週1、2回来れば、みんなできるようになっていくので。3か月から1年くらいやっていただければ、コピーして、運営面では黒字のお店を出すことができると思います。

「まかない」に関しては、人をどう配置するのか、どういう仕組みをつくるのか、さっき言った目力とか(笑)。いろんな要素は絡んでくるんですけど、それは普通の従業員の雇用と並立してやっていけば、そんなに難しいことじゃない。

例えば、先ほどおっしゃったみたいに、誰かが未来食堂で「未来食堂デリ」をはじめるとして。お弁当の賞味期限の印字は「まかない」さんにやってもらうとか。作業の切り分けをして、自分ができる範囲で「まかない」さんに手伝ってもらえば、そんなに無理な仕組みじゃない。自分だったらできそうだなって思います。

例えば今、未来食堂で学んで、お弁当屋さんをやってる「まかない」さんがいて。その方は、毎日、日替わりでお弁当を作っていらっしゃる。壁にリクエストボードっていうのを作っていて、近所の方からのリクエストを来週のメニューにしていたりします。普通の主婦の人が未来食堂で1年間ぐらい修行して、普通の飲食店だとできそうもないことをできているので。別に誰でもできるんじゃないかなって思いますね。