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食べログの★は信用できるか? レビュアー取材から読み解く「食べログ」の正体と食文化への影響

食べログの★は信用できるか? レビュアー取材から読み解く「食べログ」の正体と食文化への影響

メディアが人々の外食習慣に影響を与える中で、インターネットの登場がその大きな転換点となったことは疑いない。中でも代表的なレストランレビューサイトである「食べログ」が果たした役割はかなり大きいと言えるだろう。実際の食べログレビュアー取材を通じて見えてきた、1980年代以降の「食」に関するコミュニケーションの変容とは? ライターの川口いしや氏が語る。

シリーズ
PLANETS
2013年1月のログ
スピーカー
川口いしや氏

インターネットは人々の食生活を変えた?

かつて東京では、寿司を食べるなら銀座、焼き肉なら新大久保、とんかつなら浅草というように、街と食のジャンル、つまり「地理」が「文化」の成立と密接に関係していた時代があった。 しかし、時代は変わる。都内の交通の発達は、築地の近くにある銀座で寿司を食べる必要性を失わせ、やがて到来したマスメディアの発達は、雑誌でレストランを調べることを可能にし、新大久保で焼き肉を食べる必要性を失わせた。とんかつを食べるときに、ブーム発祥の地である浅草に行く必要など、もちろんない。交通網やマスメディアの発展は、ぼくたちの行動を変えたのである。 東京の「食文化」は、交通や雑誌の発達以降、「地理」から比較的早く解放されてきた方だとは思うが、ネットがそれをさらに加速させたのは疑いない。かつて雑誌文化が栄えていた時代、高級店なら「dancyu(ダンチュウ)」(プレジデント社)、女性同士で使うなら「Hanako」(マガジンハウス)、(雑誌ではないが)デートで使うなら『東京いい店やれる店』(ホイチョイプロダクションズ/小学館/1994年)というように、雑誌や本が提案するライフスタイルを通じて、人々はレストランへと殺到した。そして現在、人とレストランをつなぐのがインターネットだとして、それは一体どんなライフスタイルで、そしてどんなサービスなのか。

食べログ人気を支える3種類のユーザー

こと日本という文脈では、その象徴は「食べログ」である。食べログは、人々の食文化を静かに、しかし確実に変えているグルメサービスだ。現在、登録されている店舗数は、72万店(2012年10月末現在)。ユーザーが勝手に店舗の情報を登録できるので、ときには誤った情報が掲載されることもあり、実際にレストランが食べログを訴えた事例も存在する。 そうしたいざこざはあるが、競合サイトである「ぐるなび」の加盟店が10万7千店(2012年3月末現在)に留まっているのを思えば、その差は圧倒的だ。しかも、食べログに投稿されている390万件の膨大な量の口コミは、ファストフードから一見様お断りの老舗料亭まで、よほどの新店や地方でない限り、大抵のレストランを網羅する。 一体、食べログはなぜ人気なのか。一つにはサイト上で、レストランの情報を大量に集められる点が挙げられる。書籍や服には、試し読みや試着という行為が許されているが、外食店でそれは許されない。しかし、食べログは、初めて訪れるレストランのレイアウトや人気メニュー、接客態度、提供される料理の盛りつけや色合いが掲載されており、サイト上で「シミュレーション」が行えてしまうのだ。この外食店の擬似的な「試食」を可能にしたことが、食文化に与えた影響は計り知れない。 では、この食べログを利用するユーザーはどんな人たちなのか。プレイヤーは大きく3種類に分かれる。実際にレストランを採点し、口コミを投稿している「レビュアー会員」、点数や口コミでレストランを選ぶ「ゲスト会員」、食べログに登録せずに使っているライトユーザーの三つだ。このうち「レビュアー会員」と「ゲスト会員」は食べログ内で実際に使用されている呼称だ。 tabelog_chart1 三者の中で特殊なのは、レビュアー会員である。彼らは、口コミを投稿する情報発信者だ。また、他の二者とは大きく違って、食べログ外の口コミ情報などを元にして、店舗開拓をしていくパイオニアでもある。これに対して、ゲスト会員とライトユーザーの差は、レストランのブックマークやレビュアーのお気に入り登録、クーポンの利用ができる程度に留まっている。 また、この表の分類からははみ出るが、中級者以上になると、レストランランキングよりも、レビュアーランキングを重視するようになる。このランキングは、大きく分けると、最近の注目、口コミ数、写真数、の三つで構成され、その下に地域別、ジャンル別と続く。 ある程度慣れてくると、点数やランキングでレストランを選ばず、ランキングからお気に入りのレビュアーを見つけて、その人が推しているレストランを探すことが多い。最初の頃は検索エンジン主体だった行動が、食べログ内に蓄積された評価をもとにしたものに変わっていくのだ。 この三者の行動が、食べログというアーキテクチャ上で互いに結び付けられて、各店の「点数」と「口コミ」の信頼度が形成されていく。そのアルゴリズムはユーザーには秘匿されているが、「口コミの投稿数が多いレビュアーの採点が優先される」「ジャンルによって点数が反映されない場合がある。たとえば、カレーに強い人がうどんのレビューをしても、それはあまり点数に影響を与えない」などの話があるようだ。基本的には、レビュアーを単位としたスコアリングによる影響力の重み付けで、点数の信頼度を担保しているといえるだろう。 そんな食べログはビジネス誌も気になるようで、「PRESIDENT」「BOSS」「AERA」などが取材記事を掲載している。とはいえ、社長インタビューや、口コミマーケティングの有用性を説く企業戦略的な記事から、ぼくたちが求める、食べログがもたらした「食文化」の姿は見えない。 むしろネット上にある、ノウハウ共有サイトnanapiの記事(「”ステマ”にだまされない食べログの使い方(3):”食べログ依存”なnanapiスタッフ – nanapi Web」)などの方が、「ぼくたちにとっての食べログ」の現在を教えてくれているのは、ちょっとした皮肉だ。 この記事は、口コミ数や地域の偏り、ジャンルを考慮しながらレストランを選んでいくという、食べログとの基本的な付き合い方を教えてくれる良記事だと思う。とはいえ、所詮はライフハックサイト。これでは、食べログというサービスの表面的な部分しか伝わってこない。ぼくたちが知りたいのは、あくまでも食べログの「食文化」であり、それを支えるアーキテクチャと人間の関わりだ。とすれば、実際にレビューを書いているユーザーに会ってみるしかない。 取材依頼をかけてみると、思ったより多くのレビュアー会員から承諾の連絡をいただいた。さっそくぼくは、会社帰りや休日の時間を使って、レビュアーたちに会いに行ってみることにした。以下では、その中でも特に興味深かった3人を紹介して、食べログについて考察してみたい。

レビュアー1 美文志向のAさん(50代・男性・会社員)

Aさんは、ラフなシャツに黒いパンツを合わせた、サッパリとした出で立ちで登場した。しかし、そこには場の雰囲気を変えるような威厳が醸し出されていて、こっちもピリッと緊張してしまう。あとで聞いた話では、なんと彼は一流企業を率いる社長だった。取材に使ったのは、某ハンバーガーショップ。食べログユーザーなら誰もが知る有名レビュアーと、郊外のファストフード店で、こんな風に座っているのは不思議な気分である。 キャラメル・ラテとアイスティーを受け取って席に着いたAさんは、おもむろに鞄からコンパクトデジタルカメラを取り出すと、いきなり背中を丸めてパシャパシャ撮影を始めた。驚くぼくに、彼は顔を上げて、「こういう店も時々書くんだよ。そのときはちょっとわざとらしく大げさに書いたりするんだ」とニヤリとして見せた。 なんという熱量か。いきなり初手からノックアウトされた気分である。こうしてスタートした取材はとても面白く、誌面には書けないようなこともざっくばらんに語っていただいた。 「食べログの特長はいくつかあってさ、その一つにオフ会があるんだよ」 撮影が一通り終わると、彼は話し始めた。 「こんな風にいうと出会い系かと思われそうだけど、自分も月に3回くらい、2、3人の女性とオフ会をしている。俺みたいなおじさんが20代、30代の女性と食事をできるし、自分の生活圏と違う人達と話せるのが面白いんだ」 オフ会の誘いはレビューへのコメントや非公開でやりとりのできるメッセージを介してやって来る。そうした場合、「女性だけでは入れないようなレストランへ一緒に行って欲しい」という誘い方をされる。 そのような誘いが来る理由について、Aさんは「相手は俺が書いたレビューを読んで、人柄がわかっているから誘いやすいのだろう」と分析する。彼自身も、相手の文章を読んで、会うか否かを判断しているそうだ。ちなみにAさん曰く、女性とは特にいやらしい関係ではないとのこと。「教養のない女は嫌い」だそうで、大人の落ち着いた食事を楽しみたいだけのようだ。 Aさんの知人などは「高いレストランにも行っているから、金があると思ってタカられた」ことがあるらしく、どうも食べログには、必ずしも綺麗ではない欲望が渦巻く場所が存在しているようだ。

★がアテにならない理由

食べログのレビュアーは、Aさんのようなハイソな人ばかりなのか。「食べログを使っている主な層(レビュアー会員)は、男性が40代後半、女性が30代前半の自宅通勤者が多い」というのがAさんの分析である。これにはとても納得できた。 ぼくの実感としても、ランキング上位にいるレビュアー会員の年齢層は高めで、可処分所得の高い中高年が食べログのレビューを支えている感覚はある。Aさんも「食事はほとんど外食で済ませる」と話していた。実は今回の取材で会った人たちに、年間数百万を食費に投資する人は珍しくなかった。しばしば食事は、「金はあるが、時間はない」人の楽しみと言われるが、どうも食べログはそんな年配ユーザーを大量につり上げているようだ。 それにしても、Aさんにとってぼくのような若い食べログユーザーはどう映るのだろうか。象徴的だったのが、取材の時にAさんが、「食べログを使っている多くの層(ゲスト会員)は若者でさ、彼らはコスパのいい店を好むんだよ」とやや苦々しげに語っていたことだ。 Aさんは「特にランキングの日本料理や寿司は全然あてにならない」と語気を強める。そして、畳みかけるように「たとえば、日本料理だと神保町の『傳(でん)』なんかはダメだね」「寿司は回転寿司を10回食うくらいなら、高い店に1回行った方がいいんだよ」「オススメは銀座の『あら輝』。ミシュランで星を取ってた。2万5千円くらいするけど、あそこはいい」と具体的な店名を挙げて言った。
(取材・文:川口いしや

  

『「食べログ」の研究 ―レビューサイトがもたらした「食文化」と「都市」の風景―』
雑誌「PLANETS vol.8 僕たちは〈夜の世界〉を生きている」所収。Kindle版はこちら

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