10年後、どうなっているか?

小林せかい氏(以下、小林):次はまた匿名の方ですね。「お二人の近い将来、やってみたいこと。どんなことがありますか?」 私はバジルチキン(笑)。

(会場笑)

武藤北斗氏(以下、武藤):これやっぱり、気になるんでしょうね。

小林:ねえ。そうなんです。みんな気になるんですよ。

武藤:僕ら、僕らっていう言い方でいいのかわからないですけど、けっこう淡々とやってるような気はするんです。やってることも、効率がいいってふつうに思っていて。注目されてるほど、そんなにすごいことをやってるっていう雰囲気は、僕のなかにはとくになくて。

だから「この先どうするんですか?」っていうのは、逆に僕はプレッシャーになっています。もしかしたらフリースケジュールをやめちゃうかもしれません。要するに、僕にとって重要なことは、みんなが気持ちよく働くことなので。それを目指すためには、もしかしたら今やってることをやめる。それも、1つの決断なのかな、と。

とにかく、より前に前にいきたい、ということが目標です。

小林:「もう少し遠い、やってみたいことはありますか?」って。

武藤:ええ!?(笑)。

小林:10年後とか。これを書いた方はどなた? 

(会場挙手)

小林:ありがとうございます。

武藤:10年後ですか……。ごめんなさい、そこまで先は考えたことがなくて。僕の場合パプアニューギニアの人たちと、ずっと一緒にやってきてるので、彼らとの取引がなくなることが1番まずいことで。パプアニューギニアの人たちと、とにかく一緒に続けるんだ、10年後も続けてるんだっていうことを、1番大切に考えてます。

小林:私もとくにないですね。遠い未来……10年後ぐらい。10年後ぐらいは、「まかない」で来た人たちが何かをやってるんだろうな、と思ってます。それがうまくいくように、自分は支えたいな、と思ってます。

武藤:「まかない」に来た方で飲食店オープンとかって。

小林:ありますよ。

武藤:ありますよね。

小林:あるし、やりたい人も多い。飲食店だけじゃなくて、農業やりたい、起業したいとか、いろいろです。

武藤:小林さんの「誰もが受け入れられて誰もがふさわしい場所」っていうのは結局、別に業種はなんでもいいわけじゃないですか。

小林:そうです。

武藤:飲食じゃなくても。

小林:うんうん。

武藤:そういう意味では、それを広げていくっていうのが、小林さんが描いてる未来の図なのかなって僕は思ってたんですけど。そういうわけでもないんですか?

小林:いやあ、広がればいいんですけどね。どうやって広げたらいいかよくわからないです。

武藤:それを広げるためにがんばる! みたいな感じとはもうぜんぜん違う?

小林:どうですかね……。まずは足元からという感じですかね。うーん、そうですね、バジルチキン(笑)。でも、変なものを出したら、本当にいっせいに叩かれちゃうのが飲食店なので。つらいですよ。

移ろいやすい人の価値観

小林:「今やってる分野とは違うけれど、実はとても興味がある、ということはありますか?」これは先ほど話したエビフライ屋さんですかね?

武藤:そうですね……。いや、とくにないです。今はいっぱいいっぱいすぎるのかなっていう気がします。

小林:私、実はとても興味がある分野があるんですよ。私は世の中の流行を見るのが、すごく好きなんです。でも、とくに何かあるわけでもないですね。「だから?」みたいな感じです(笑)。

武藤:やりたい分野があるわけではないっていうことですか?

小林:興味がある。私、世の中の女性の流行りのファッションがすごく好きなんですよ。好きというか、何が流行っているか、すっごく細かくわかってます。雑誌を読むんじゃなくて、世の中でこう歩いてるじゃないですか。そうすると、だんだん「あ、こういう格好の人増えてきてるな」っていうのがあって。

ショーウインドウを見ると、そういう格好のディスプレイが増えてきて。だいたいそれが、まずハイブランドからはじまるんですよ。ハイブランドからはじまって、ミドル。そのあと、UNIQLOやそういう量産店に落ちていくんです。「あ、ハイブランドで去年キテたあれが、ここにまたキテる!」というものを見るのがすごく好きですね。

武藤:自分がやりたいとかじゃなくて、興味のあるものならいっぱいあるっていうことですか?

小林:そうですね、アパレルに組み込みたいかっていうとなかなか難しいので。やりたいっていうのとはちょっと違うと思います。世の中の人たちが何を良い・悪いと思うか。流行はその1番薄っぺらいところだと思うんですけど。それが手に取るように見えて、ものすごくおもしろいんですよね。

みんながいいって思ってるものってこんなに移ろいやすいんだな、というのがわかるので。すごくおもしろいなと思います。

武藤:それを未来食堂に組み込んでいく、ということではないんですか?

小林:なんでこれがおもしろいと思いはじめたかというと、未来食堂ってわーってテレビですごく褒められるようになったんですよ。この間、東京メトロのポスターになって。駅のポスターにのっちゃって。あら、びっくりみたいな。

あとは新聞に載ったり。そういうところで、未来食堂いいですねって、そんな空気になってるんですよ。それは、たまたまだなと思って。あるとき急にバッシングに傾くだろうなって思いながら過ごしてるんですけど。

そういう移ろいやすい人の価値観みたいなのが、ある種ファッショントレンドっていう、すごくわかりやすいところで出てくるので。それがおもしろいんでしょうね。……あんまりおもしろい回答じゃなかったですね。

「ただめし」制度はどこでも成り立つか

小林:次は「未来食堂さんの『まかない』制度は、田舎町でも成り立つものでしょうか? 福島県のいわき市から来ました。まかないのチケットを使えるのは子どもとお年寄りに限定するとか、だめでしょうか? 子ども食堂を考えているのですが、よい方法がわかりません」。

どうですかね。子ども食堂を考えているけどわかりませんっていう。

武藤:これ僕が答えるんですか?(笑)。

(会場笑)

いや、これ僕じゃないですよね(笑)。

小林:田舎でも成り立つかどうかっていうのは、例えば人が限られてるから、とかですかね? まあ、人が生きてたら大丈夫なんじゃないですか? 

武藤:「まかない」の制度ですもんね。僕が言うのもあれですけど、「まかない」の制度はできそうな気がします。

小林:工場でね、今やってらっしゃる。

武藤:はい。やってみて思ったのは、まったく同じにする必要はない。自分のやり方の「まかない」っていうかたちが確立されていけば。小林さんとまったく同じにしないっていうことで、だいぶハードルが下がってできるんじゃないかな、と僕は思いました。

小林:例えば、一緒にしなかったところっていうのはどういうところですか?

武藤:プラスの面でいうと、シール貼りなので、赤ちゃんをおんぶしてきてもいいですよ、友達と突然来てもいいですよ、とか。マイナスの面だと、時間が10時から14時までの間しかだめです、とか。そういうことですかね。

だから、うちに合った感じにしてます。「『ただめし』にちかい『タダエビ』みたいなことはやらないんですか?」とすごく聞かれたんですが。それはやらなかったですね。「ただめし」と、タダでエビをあげる、誰かがシールを貼ったものを誰かにあげるっていうことが、ぜんぜん結びつかなくて。それはもう僕はやらないですって言って。

自分の想いを大切しながらやったらどこでも。世界中どこでもできるんじゃないかなっていう気はします。

小林:実は「まかない」制度が成り立つにあたって1番大事なことがあるんです。「まかない」制度が成り立つためには、「まかない」を期待しないっていうことなんですよ。これは本に書いてあるので(笑)。「まかない」のセクションのところを読んでいただきたいな、と思います。

でも、本当にそのとおりで。賞味期限の印字もシールを貼るにしても、その人がいないと成り立たないっていうのとは、またちょっと違いますよね。

武藤:違います。もともとうちの従業員がやっていたことをそっちに振っただけですから。振ることでお互いがプラスになるのであれば、っていう感じですね。

「ただめし」制度はおすすめしない

小林:「『まかない』のチケットを使える範囲を限定するのはどうでしょうか?」 どう思いますか? 「ただめし」の券のことですね。

武藤:やってみて、問題があれば限定してもいいのかもしれないです。でも、最初から自分の憶測で限定するのはやめたほうがいいんじゃないかな、と思いました。

小林:「ただめし」のチケットを限定することの問題点は、また本に書いてあるんですけれど。本当に書いてるからね!(笑)。「ただめし」をすると、不当摂取と言っていいのかわからないけど、誰かは無銭飲食してるっていうのがわかりますよね。わかるというか、誰かが無銭飲食している、その場面を日々受け止めなきゃいけないんです。

たぶんそれは想像してるよりもけっこうハードだと思います。普通に「こういう取り組みは社会の役にも立つし、いいかなぁ」という気持ちでやってしまうと、ちょっと無理じゃないですかね。

武藤:あんまり綺麗に捉えないほうがいいってことですか? 

小林:そうですね。誰か困ってる人が使ってくれたらいいなっていう思いは綺麗だし、広がりやすくて、理解もされやすいと思います。でも、目の前のあの人が無銭飲食するのをあなたは許すか。「あの人が無銭飲食するために、あなたは50分間皿洗いできますか?」って考えると、どうですかね。

たぶん「いや、もうちょっと子どもがいいな」とかね。

武藤:ぱっと聞いたときに、本当に困ってる人に使ってもらいたいっていう気持ちは普通に生まれてくるのかなって思います。ただ、それこそ先ほど言ってたように、毎日使う人が出てきたとき、耐えられないストレスを抱えてしまうんだったら、やらないほうがいいのかもしれないです。

小林:なのであんまりおすすめはしないです。

武藤:そうなんですか!?(笑)。

小林:ストレスコントロールが本当に難しいと思います。やっちゃったら、たぶんそこにメディアの波もくるだろうし。そこのストレスもありますからね。

武藤:そうですね。