『サトウのごはん』は競泳でなくなる

梅村直承氏(以下、梅村):五輪の前半はすごく忙しくて、疲労があって。さっき話したように競技が詰まっていて、寝る時間がないんです。前半に日本の選手が活躍する競技が多いのですが、今回は後半にもありまして。5人で回しているので、なかなか回りきれないことがあって、疲労とか寝不足とかが重なってきます。

これは三浦くんの写真ですが、移動中のバスで立ったまま疲れて寝ているんです。後半は食事を2回取れるほどの余裕が出てくるんですけど、前半は食事が1回しか取れない。みんなだんだん痩せてきて、記者はバスの中で膝を抱えて寝ているみたいな疲労感がだんだん出てきて。

メディアの人間の移動はバスです。今回4つに会場が分かれていたので、4つの会場の左上にあるバスに乗って、何々会場へ移動して行きます。そこから帰ってくるのもバスです。で、東京五輪はかなりエリアが分かれるので、移動が大変なんじゃないのかなと思うんですが。このときも場所がかなり分かれていたので、下がメインで、陸上が上の方なので、競技の移動というのが、リオ五輪は本当に大変でした。

それで食事ですが、日本からカップラーメンとかサトウのご飯とかボンカレーとか、大量に送られてくるんです。けど、けっこうみんな序盤に食べちゃうんです。お腹が空いて、食べるチャンスがないから。それで早々に底を尽いちゃうんです。

「始まる前からみんなあんまり食べるなよ」と言うんですけど、みんなどんどんカレーを食べていって、サトウのご飯がどんどん無くなっていくみたいな。これは北京五輪のときもそうでしたけれど、今回もやっぱりみんな学ばず同じ結果になりました。

(会場笑)

後半は食べるものが我々の部屋にはないので、ビュッフェで食べました。24時間やっていて、量り売りなんですね、現地は。量で測る。下の量でだいたい1,400円ぐらいですかね。それを夜の一時とかに食べて、帰って寝て、起きる。後半はそういう感じでした。

場面によって意味が変わる感動

梅村:そのなかで日本の卓球の男子が決勝に団体で残ります。僕自身も、このとき睡魔に襲われて。卓球の選手の後ろにカメラマンが並んでいるのが全部見えるんですけれど、一脚を抱えて僕ずっと寝ていたんです。水谷(隼)選手の叫び声で起きるみたいな。Facebookで関西の先輩が「お前寝とるやろ」みたいなのを書き込んでいまして、みんなに「寝るな、映るぞ」と言い合いながらの決勝でした。

各新聞社が撮っていましたが、水谷選手が吠えるたびにリオの人たちが大喜びで水谷選手をすごく応援していて。これは銀メダルですね。奥の中国の選手に今まで1度も勝ったことがなくて、リオで勝ったんですけれど。水谷選手が現地ですごく人気があって、叫び声がすごくて。その声でなんとか寝ずに最後まで撮ることができました。

前半の競泳が終わって、僕自身は上からだんだん撮って、抑えるというか状況がわかる写真を撮る立場になっていきます。自分の担当種目が終わったので、あとはみんなのフォローをしていく立場に変わっていきます。

さきほど吉田(沙保里)選手の涙を見てもらいましたけれど、吉田選手が負けてがっくりしているところ、手前はマルーリス選手が喜んで涙を流しているところです。それを上から撮りながら、こういうふうに同じ涙でも意味合いが変わると感じながら写真を撮りました。

200メートルのとき、ボルト選手がこれも優勝しました。優勝したあとボルト選手は、ボルト選手しかやらないんですけど一周回るんですね。ところどころでファンと触れ合いながら、自撮りで、セルフでみんなと撮りあいながらやっていくんですけど、こんな喜びは初めて、こういう歓喜の写真は初めて見ました。みなさんすごく寄ってきて、セキュリティもクソもあったもんじゃない状況だったんですね。これが目の前で何回も何回も会場がワッーと唸るように、そういう現場でした。

「まさか」の男子400メートルリレー

梅村:この写真が生まれたのは、終了の2日前の400メートルリレーです。400メートルリレーは北京五輪のときに銅メダルを取って、北京のときも銀メダルを取りって、もうこんなことはないだろうな、ただ今回もありえるとしたら陸上では競歩とリレーじゃないかということで、我々もリレーに全力を尽くそうと、4人カメラマンが配置されることになります。

みなさんどんな人が撮っていたかというと、これは五輪の会場の真ん中にいくつもの五輪マークがあって、最後に記念写真を撮りにいって、五輪マークにしようということで、撮りました。

左上が和田くんといって、格闘技ですね。柔道とかレスリングを担当していました。真ん中の上が山本さんといって、デスクとサッカーを担当していました。右が三浦くん、陸上の担当です。左下が小川くん、体操とか主な現場に駆けつけてくれてる感じでした。で右下が僕です。かなりまぶたが疲れていて、二重になっています。

みんなこんな顔で、疲れているんですが、楽しそうです。この5人が現地のカメラマンです。で、真ん中の山本さんはデスクで残して、4人が開場に入りました。

スタートとゴールがこちらです。それから、左周りですね。1のポジションには小川くんが入って、1走と2走のバトンを撮る。僕は北京五輪のときはそこに入りました。非常に難しいです。見える隙間がないし、ワァーと団子で来るんで、渡す瞬間が非常に難しいんで、小川くんは僕より若い3人の中で一番ベテランなので、一番難しいポジションに入ってくれました。1走と2走のバトンは1です。

2が、3走と4走のバトンの瞬間です。これが400メートルリレーの一番の見せ場になります。バトンを渡した瞬間の躍動とか、アンカーの選手の表情とか、すごく大事なポジションで、和田くんが入りました。

3が下のゴールした一番迫力ある瞬間を、地面のレベルから選手が駆け込んで来るところを撮るのに陸上担当の三浦くんが入りました。

4が高い位置からゴールとか、あと2走と3走の場所が左上なんですけど、それがみんなから見えなくて、それを高い位置から一応抑える役目を担いました。で、ゴールも見える範囲で撮ると。

僕が入ったポジションは、これはボルトの200メートルの後です。上のひな壇のところに僕が入りました。本当は入りたかったのは、ひな壇のみんなが密集しているところですが、そこだと正面から走って来るところが真っ正面に見えます。僕がその日、レスリングとシンクロの取材で、到着が遅れて左しか空いてなかったので、僕は左側の段のところに入りました。

左下にある緑の場所、ここに三浦くんが入りました。ここは駆け抜けて来る迫力が一番ある、非常に難しいポジションに入ります。

この下にたくさんいるのが、AP、ロイターとかゲッティとかの優先順位の高いフォトグラファーたちが入ります。さきほど見ていただいた北京五輪のときは我々もそこに入れました、アジアなので。でも今回はそこには入れず、日本では共同通信さんだけが入りました。左のここが僕たちにとって、一番迫力あるものが撮れるポジションです。

40分探し回ったポジションを一瞬で駆け抜ける

梅村:まず山縣(亮太)選手のスタートです。すごいスタートが良かったですね。ちょっとこれはいいぞ、と上から全部見えてる僕は思っていました。

そこから、2走の飯塚(翔太)選手に渡ります。ちょっと飯塚選手が早く出たように見えたんですけど、しっかりと繋がりました。これは小川くんの写真です。小川くんもこれを撮るために20分ぐらい、40分だったかな、ここじゃない、あそこじゃないと歩き回って、なんとかいい位置で見える場所を探してゲットして撮っています。

2走から3走です。桐生(祥秀)選手に渡るところ。しっかりアンダーパス、下から取っています。これは僕のポジションから遠くに見えているのを抑えています。ここでバトンを落とすとか、そういうことがあったときには1面で使えるようにということにです。

桐生選手のカーブがすごい良かったんです。右のジャマイカのボルト選手よりも先にケンブリッジ(飛鳥)選手にバトンが渡っています。これは和田くんが撮った写真です。この場面は絶対にリレーに必要な場面になります。

僕は正面から遠くになるんですけれども、撮りました。しっかりここで先にバトンを握っています。

この後にボルト選手がケンブリッジ選手をチラ見しています。これは撮っているとき僕自身は、このシーンが見えているというよりも、違和感がありました。ここをすぐに送ろうということにはなりませんでした。最初に違和感がありました。

そしてゴールです。ゴールは三浦くんの手前にボルト選手がいるので、日本人選手にピントが合わすのが非常に難しいんですね。ボルト選手にピントがきちゃうんですけど、しっかりケンブリッジ選手にピントがあって、しかもアメリカの選手が転んでいる瞬間まで捉えています。バッチリです。

ゴールの後、最後にトラックを1周するんですが、どこでこの4人のこのポーズが取れているのかわからなくて、必死で僕も高い位置からみんなの名前を呼び続けて、呼び続けてこっちを向いてくれた瞬間なんですが、ここまで撮れて、銀を取ってここまで撮れてなんとか良かったという、そういう一連です。

毎日新聞スピリットが決定的な一枚につながった

梅村:なんでこの写真があったのかというのは、自分なりに考えていつも話させてもらってるんですが、まず陸上担当の三浦くんが決めたんですが、高い位置に僕が入りました。高い位置に入っていたのは、他の新聞社では1社しかなくて、高い位置には新聞社は2社しかなかったんですね。あそこにまずポジションがあったことが重要です。

お互いがずっと撮っている中で、最初に見ていただいたように迫力があるものを撮ろうと続けた中で、インパクトも、みんなどういう写真を撮るかだいたい想像がついていたんです。迫力のあるもの、ああいうものを狙っているんだと。だからみんな見えるものに集中していて、僕が広めのゴールを撮る必要がないというふうに判断しました。

さっき見た三浦くんの写真が絶対にあるので、僕はケンブリッジさんのアップ、表情を狙おうと。さきほど言ったリレーの、3走から4走のリレーのバトンが渡った後ですね。それを撮った後に短いレンズに持ち替えてゴールを撮りたいところなんですが、そこは三浦くんが撮るだろうということで、僕は長いレンズのままケンブリッジ選手の表情を追いました。

追ったところで、バトンが渡って、みんながバトンを渡ったところを撮ったあと、ゴールに構える、その間に起きた、この横を見た瞬間というのを我々には写真として撮ることになりました。長いレンズで撮り続けたことで。

毎日新聞のカメラマンは昔からけっこう、アップとか表情を撮る人が多いんです。そういう伝統みたいなものがある。それを受け継いだというか、そういうものがみんなの中にあって、なんとか撮れたのかな、と思っています。

さきほど言いましたけれど、14コマ撮れるキヤノンのカメラなんです。1秒間に14枚撮れるんです。それで横を見ている瞬間は3枚しかありませんでした。1枚目は向く瞬間なので、写真として成立していません。成立している写真としては2コマなんですが、1秒間で14コマなので、0.2秒弱ぐらいで起こった瞬間です。

僕としては目視をしていないんです。しかし、ちょっと違和感があると思いました。歩いて、みんながトラックを1周する間に最初に、2人が並んでいる写真を送ったんです。けど、ちょっと待てよと思って、その前のコマのここらへん(指で顔を差しながら)を見たら、横を向いていた。その写真を早めに送ることができたので、夜の11時に送って、日本の夕刊にこの写真が入りました。

リオから3年後を見つめる

梅村:このように有名になれる写真が我が社にはあった。我々は撮ることができたというわけです。後日ケンブリッジ選手の取材がありまして、話を聞きに、僕もどうしても撮らせてもらおうと思い行きました。ケンブリッジ選手はゴールした瞬間に喜んでいないんですね。

なんで喜ばないのかな、と疑問があって、記者のインタビューが終わったあと、写真を撮るときに聞いたんです。そしたら、並んだ瞬間は勝てると思った、けどゴールした瞬間は悔しかったという話を聞きました。それで合点がいきました。表情をずっと追っていても、彼は最後まで喜んでいないんですよ。

おそらく東京五輪のときのケンブリッジ選手は、ゴールしたときに喜べるような、そういうレースをしたいのかなという感じで、すごく東京五輪のケンブリッジ選手に期待しています。

そして閉会式は、小池(百合子)さんです。このときひどい雨で、レンズが曇るぐらいだったんですけど、みんなでなんとかしっかりこの場面を撮れて、紙面を作ることができました。3年後の東京五輪に向けて、我々も準備を進めていきたいと思います。

話は以上です。ありがとうございました。

(会場拍手)