治安の悪い地域に渦巻くエネルギー

梅村直承氏(以下、梅村):ここからリオデジャネイロの話をしていこうと思います。リオデジャネイロはみなさんのイメージでは治安が悪いとか、そういうところだと思います。

この絵になっている貧民街はファヴェーラといって、非常に貧しい人たちが住む場所です。

これは最大のフェヴェーラのホシーニャというところですが、連れてこられた黒人の奴隷だったみなさんが山の斜面を切り開いて、非常に密集した建物の中で暮らしていて、その中にマフィアがいて薬物や殺人、いろんな犯罪の温床になっている場所です。

2015年のデータで1日平均3.3件の殺人、224件の強盗がある場所ということで、現地にいるときは僕もどんな酷いところだろうと思ってとにかくカメラを盗まれないようにしなければいけないと。その前にワールドカップを経験したカメラマンのみなさんから話を聞いたり、同僚から話を聞いて、とにかくカメラを隠さなきゃ、いつやられてもおかしくないぞと思って現地にいました。

まず最初にファヴェーラに入りました。ファヴェーラの中は僕がもったイメージとは違っていました。たくさん人が鉄砲を撃ち合って、いがみ合うような場所だと思っていたんですけど、行ってみると、子どもたちもこのような表情ですし、普通に商店があって、生活がある。

電柱から感じた、生きるたくましさ

梅村:すごく面白かったのが、電柱からみなさん勝手に電気を引いているんです。こんな電柱みたいでないんですけど、アートの電柱一本、ほとんどの電柱の電線を引かれている状態で、生きるたくましさみたいなものを感じました。

この細い、入り組んだ路地を人が行き来して生きていて、この家の中に何人家族がいるのか統計としても分からない。先週いた家族が今違うところにいたとか、そういうような状況で、人の生きるエネルギーみたいなのを、中に入ってすごく感じるんです。

上から見ると、奥に高層マンションや高級ホテルが建ってるんですけども、手前にこのように隣りの屋根がバッーと繋がっていて、これがファヴェーラ。ここに入る天国のドアと書いているドアを開けると、この景色が見えて、ここで私たちは普段入っている現地の、ファヴェーラの人たちを見ていました。

ものを奪われるんじゃないかとか、人がすぐに襲ってくるんじゃないのかと勝手に日本で思っていたイメージとは全く違って、通っていい場所、入って行けない場所を見極めれば、普通に歩くことができる場所でした。

街角の文化度は意外と高い

梅村:大使館のほうから、報道新聞社のみなさん、ここに入ってはいけないという通達があったんですけれど、僕は8~9箇所ぐらい取材して。他社のみんなに「ファヴェーラカメラマン」とまで言われていました。それぐらい僕自身もファヴェーラを気に入ったというか、取材をすることがすごく楽しかったという思い出があります。とにかく日本で持っていたイメージとは全然違う。

カリオカというのがリオの人たちの総称になるんですけれど、リオの人たちを事前取材したとおり、どういう生活をしているのかをファヴェーラという特別な地域以外のところでも取材を進めました。

ブラジルの人たちの「おはよう」「ありがとう」「さようなら」は全部この親指一本で、これは多分3歳ぐらいの男の子ですけど、彼もこうしていたので、これが定番のポーズなんです。僕はポルトガル語を喋れないので、ほとんどこれでなんとかしのいだ80日弱でした。

これは通勤時間帯の地下鉄なんですが、地下鉄に入るとものを取られるとか、みんな言っていたんですけど、全くそんなこともなくて。みなさん普通に通勤されている姿で、日本の地下鉄とそんなに変わらないんじゃないでしょうか?

現地の人は、高齢者の方や体に障害を持っている人が近づくと必ず席を譲っていて、すごく衝撃でして、僕も地下鉄を利用するときは現地の人の真似をして席を譲ることをしていました。リオでそういうことがあると、僕も想像していなかったんですが、そういう地下鉄でした。

朝歩くとみんな釣りをしています。「朝歩くと危ないから出るな」とみんなに言う人がいたんですが、朝が危ないわけではなく、気をつけて歩けば普通の生活が広がっていました。

土日になると若い人からお年寄りまでスポーツをするんですね。お祭りがあるということで、僕はやらなかったんですが、おじいさん、おばあさん、みんなバレーボールをしたり、プレスコボールという現地のスポーツをしたりしていました。

それだけじゃなく街角の公園で土日はコンサートをしたり、楽器を弾いていたり、非常に文化度の高さを感じるんですね。みなさんの豊かさというか。ショーロという現地の音楽をみなさんが演奏していた場面です。

忘れ物が帰ってくる街リオ

梅村:ここでシャガスさんという人に出会いました。僕、帽子を取材中になくしまして、帽子を買いたいなと思って、泊まっていた宿の近くに路上の衣服屋さんがあって、そこに行って、帽子を300円ぐらいで買ったんです。今も使っています。

そのときポルトガル語が喋れないので、スマホで数字のやり取りをしていたんですけれど、そのスマホを帽子を買ったシャガスさんの店に置いて移動しちゃったんです。そしたらシャガスさんが後ろから追いかけてきて、「待て待て、忘れているぞ」と渡してくれて。そのときは通訳がいませんでした。

次の日に行って話を聞くと、「みんなが言っている人殺しが多いだとか、強盗が起きたりするだとか、嘘だ。人間、普通に生活している我々を見て欲しい。そんなに悪い奴ばかりじゃない」という話をされていて、なるほどな、と思ったんです。けど、彼女も偽物のリオ五輪のTシャツをかなり売ってたんですよ。

(会場笑)

そこらへんのたくましさとか、言葉の面白さを感じて。スマホを店に置いて、まさか追いかけてきてくれるとは思わなかったので、いろんな意味で事前取材のおかげで、リオのイメージが毎日変わっていく日々でした。