「記憶」としてのお金の価値

原丈人氏(以下、原):ではみなさん、第3部……最後のところを話します。

お二人のスピーカーから簡単に自己紹介と、今日の論点に関してお考えになっておられることを話していただきましょうか。先に山形さんから。

山形浩生氏(以下、山形):はーい。ただいまご紹介に上がりました山形と申します。よろしくお願いします。

(会場拍手)

肩書は評論家/翻訳家となっていますが、実は本業は、途上国の発展や開発のコンサルタントをやっております。やっぱりそこに行くといろいろお金の使い方がございまして。正しい使い方というのはこうやって……。

(山形氏、原氏に近寄り紙幣を渡す)

あっ原さーん! よろしくお願いしますねー!

(会場笑)

(同様に佐藤氏にも渡す)

佐藤さんもぜひぜひ……。

(会場笑)

実はこれは昔ザンビアで仕事をしていたときに現地の人がくれた、ジンバブエの100兆ドルというお金です。100兆ドルがここに100枚ほどあります。

(会場笑)

「兆の上ってなんでしたっけ?」って。「京」なんですね。これ1京ドルぐらいです。1京ドルで何が買えたかっていうと、当時はこれでパンが買えたかな? というぐらいの価値です。

(会場笑)

当時ジンバブエでは、年間のインフレ率が確か100億パーセントとかそういう世界になってました。ですからこうやって話してる間にも価値がすぅーっと落ちているっていう素晴らしい状況だったわけですね(笑)。

(会場笑)

最後にはジンバブエの中央銀行はお金を廃止してしまいまして。「もうジンバブエドルはなし」って。それで、今はまだ再発行していなくて、「いつジンバブエドルは再発行するんですか?」って聞くと、「ジンバブエドルの信用が戻るまでは再発行できません!」って言われて。何を言っているかよくわからない状況です。

(会場笑)

ですから今これは、本当は紙切れなんです。でも100兆っていう「0」のたくさん付いてる素晴らしいお金ということで(笑)。

これまでの話を聞いてきて「お金の未来とは何か」を考えるときに、みんな、「お金っていうのは悪い!」「今のお金だとあれができない、これができない」という話でした。ですが僕は今のお金は素晴らしい仕組みだと思っております。「今のお金をいじめるな!」というのが今日の僕の、主張の1つです。

お金というものが何か、というお話はいろいろあります。教科書的に言えば「会計単位」であり、「取引の仲介」であり、「価値を貯めておくもの」であると。価値を貯める機能があるがゆえに、いろいろ面倒なことが起こるんですけれども、一方でもうひとつの考え方として、お金っていうのは「記憶である」という理論があります。

お金っていうのは「記憶」でもあるんですね。昔誰かが何かをやって、価値を作った。その記憶がここに残ってる。ただし、非常に不完全な記録でもある。今、新しいお金っていうのが出てくる中で、ビットコインにしても、あるいは提案されているもっと新しいかたちのお金にしても、記憶というものはこういうかたちのお金じゃなくてもいいじゃないか、もっといろんなやり方があるじゃないか、ということで出てきている。

それをもとに、いったいどういうことが考えられるのか。あるいは、別に良いことばっかりじゃなくて……悪いことも個人的にあると思っています。そこら辺のことを今日はちょっとお話できたらおもしろいなと思っております。以上です。

(会場拍手)

時間を通貨にする仕組みづくり

:次は佐藤さんお願いします。

佐藤航陽氏(以下、佐藤):はい。私からも何点かお話ができればなと。

ちょうどお金に関する本を書いてまして、今週中に仕上げないと発売ができないっていう状況で、一部その話ができればなと思ってます(注:イベントの開催日は2017年10月18日)。

私個人としては、会社を経営しています。

経済やお金というものが、「実際、正体って何なんだろう?」っていうのをずっと10年間くらい突き詰めてきました。私は学者ではないので、「自分の手で作れる」ということがない限りは、本当に理解したとは言えない。そう考えてるので、自分なりに経済や通貨は作れるのかどうか、どういうメカニズムで成り立ってるのか、ということにずっと向き合ってきました。

なのでオンライン上でクローリングをして、どういう経済システム・通貨でやればうまくいくのか、いかないのかをずっと分析する、そういうことを事業でやってます。先ほど加納(裕三)さんがおっしゃったようなICOや仮想通貨も事業でやっているので、今日はまさに「ど真ん中なテーマだな」と思ってます。

主な事業は「決済」なんです。オンライン上の決済でお金の流れをずっと見ていくと、なぜ人間がお金を払うのか、もしくはなぜ払わないのかっていうことが、見えてきます。

ずっとこういうデータを分析していったら、あとで触れるかもしれないですけど、人間の欲望、報酬っていうのは脳みそとすごく密接なつながりがあるっていうのがわかって。すごくおもしろいなと思っています。

今、私が新規事業でやっているのは、「タイムバンク」という、時間を通貨にする仕組みのサービスです。これはもう本当にそのままで、“Time is money”ですね。世の中に存在する時間を、取引所に売り出して、ユーザーはその時間を購入、保有、あとは売却・利用ができるっていう、そんな仕組みになっています。

もし時間というものが、通貨として機能させることができるのであれば、自分の時間で飯代を払うとか、時間を担保にしてお金を借りるとか。いろんな仕組みができるんじゃないかなと思っていて、実験的にこういうことをやっていってます。

「タイムバンク」も含めて、経済やお金を作れるのかどうか、今ちょうど試している途中です。今日ちょっとテーマとして考えたのが、「資本主義」っていうのは、最終的には「価値主義」、「キャピタリズム」から……「ヴァリュエリズム」になるんじゃないかな、と思っています。

お金が持つ3つの「価値」

佐藤:「価値」って私たちが喋るときって、3つの言葉をごっちゃにしているんですよ。1つが実用性。メリットがあるかどうか、役に立つかどうか。2つ目が内面的な価値。信頼、評価、あとは愛情とか、そういうもの。3番目が、社会的な価値。共同体全体に対して、ちゃんと貢献してるかどうか。この3つの価値っていうのをごっちゃに喋ってるんですよね。

資本主義っていうのは、1番目の実用性、メリットがあるかどうか、儲かるかどうか、そこしか扱ってこれなかった。今、2番目と3番目……内面的な価値と社会的な価値を、新しい技術によってカバーできないか、と思ってます。なので、ブロックチェーンだったりトークンエコノミーだったりICOっていうのは、それを実現する仕組みなんじゃないかな、とふんわり思ってました。

内面的な価値を扱っているのがいわゆる「評価経済」と言われるもので、社会的な価値を扱う経済っていうのがソーシャルビジネスやソーシャルキャピタルだったりするのかなと思ってるので、そこら辺のお話ができればなと。

アメリカで最初の仮想通貨会社

:お二人ともそれぞれ、今日の論点に一歩近づいた話をしていただいて。では次に、問題提起を少しやりましょうか。今日は、「新しいお金のかたち。新しいお金で未来はどう変わるのか? 変わらないのか?」ということを最後に話すわけです。私自身の経験からくる話を使いながら、このお二人に、それぞれ持っておられる経験と知見をお話しいただこうと思います。

私も昔から仮想通貨に大変関心があって。米国初の仮想通貨の会社は、我々DEFTA Partnersが、創業期から出資し取締役を出し経営をけん引しました。「cybergold」という会社です。

マット・ゴールドハーバーという、ペンシルベニア州の副長官をやった人間と作り上げた会社であります。当時、インターネットはあったんだけど、そんなに広がっていませんでした。当時はビル・ゲイツが、「インターネットは役に立たん」「マイクロソフトはこんなものはやらない」と言ってた頃です(笑)。

そういう年なので、オープンな環境下において仮想通貨はできませんでした。だからどうしてもクローズド。そこで考えて作ったのが、加盟している買い手と売り手の間で作る仮想空間の中で使える通貨でした。例えば航空会社のマイレージプログラムです。マイルの交換をする通貨を作りました。

この会社は最終的にはユナイテッド航空と合併させました。なぜかっていうと、最初日本航空を入れる予定だったんだけど、断られたから(笑)。ユナイテッド航空、ルフトハンザ航空やシンガポール航空、タイ航空と、それぞれ違うマイルプログラムをオープンプラットフォームでもって提供する……まぁクローズドなんだけども、その中におけるオープンな仮想通貨の取引所、これを作ろうという話ができたところです。現在はスターアライアンスとして知られています。

「2001年にユナイテッド航空と合併」って記しましたが、2001年っていうのはものすごい重要な年で。日本とアメリカ合衆国で、日米講和条約っていうのを結んだのが1952年。その50周年記念式典っていうのをこの条約を結んだサンフランシスコのオペラハウスで開催しました。

私は当時、アメリカ側の共同議長で、日本からは田中眞紀子外務大臣で、財界のトップは富士ゼロックス小林陽太郎会長など100人以上もの政治家、経済人が来られていました。米国も国務長官ほか多数の経済人を招きました。ユナイテッド航空の社長も招いていました。この3日後に、二ューヨークのツインタワービルに飛行機が突っ込んであの事件が起きました。イスラム過激派とアメリカ合衆国が戦いを始める年でこれは現在も続いています。