ワルプルギスがやってくる

山田玲司氏(以下、山田):(暁美ほむらの家にキュゥべえが訪れたあとに)今度、ほむらさんのお家に(鹿目)まどかがやってくるくだりになるんですけど、ワルプルギスが天災として初めてくるという。今まで結界の中で隠れている必要があったんだけど、結界で隠れる必要がないから、堂々と現れて大暴れして数千人がくる。

久世孝臣氏(以下、久世):(モノマネをしながら)ひひひ。ハハハ。

乙君氏(以下、乙君):腹立つ。久世プロデュース、マジ腹立つ。

久世:これだけ練習してきました。茶化そうと思って。

山田:ここで「ほむらちゃんの言ってる話がわからないよ」っていう話にまどかがしちゃう。そして「誰にもわかってもらえない」って言って。これもね、これからひどいことが起こるとわかっている人間が、「これからひどいことが起こりますよ」って言っても誰もわかってくれない。

これは原発止めたほうがいいんじゃないかとか、環境守ったほうがいいんじゃないかとか、CO2出さないほうがいいんじゃないかとか。

「核なんてものに手をすんじゃないよ」ってアインシュタインが言っていたし、レイチェル・カーソンの『沈黙の春』では、農薬とか使うんじゃねーよとかね。アル・ゴアにいたるまで、みんなほむらさんに乗っかってるんだよ。だからほむらさんに乗るんだよ、俺も。ガンガン来てます。

再び起きる、暁美ほむらの号泣

山田:そこで初めてハグですね。抱きしめたあとで、「私、違う時間を生きているんだもの」って言って泣き出すほむらさん。「ほむら号泣再び」が起こるわけですね。この時に印象的なのが「信じられない」と言うまどかに、目のカットがこうやって3回ぐらい現れて繰り返すのね。

三面のガラスに写っている2人のカットが3つ。これはパラレルワールドで存在しているっていうのを絵で表現している。何度も何度も繰り返していたんだっていうことを、窓にうつっているので表現する。

この時に過去のいろんなシーンの状況が、額縁の中で映っていくっていうシーンになってく。あの時の2人、あの時の2人がパラレルで見せていくんだけど、ウインドウなんです。まだなんですよ。気が付きました? 窓なんですよ。

乙君:気が付くというか、そういうことなの?

山田:かなって思いながら見てください。『まどか☆マギカ』の「まど」はどこから来てるかっていったら、ウインドウの窓からきているんじゃないかって思わせるシーンが、ウィンドウズのウインドウみたいに現れるんだもん。そう思って見ていると、なるほどなって思うところが、そのあとたくさん出てくる。

ワルプルギスの造形が興味深い

山田:「わかってもらえなくてもいいけど、あなたは私に守らせて」って言って、いよいよワルプルギスの夜がやってくる。スーパーセルっていう言い方に変えてましたね。避難所の人が「キャンプしてるみたいだね、キャッキャ」なんて言ってね。そこでまどかが出てこようとするという。

そしてお母さんとの流れがありますね。この時に外にいるほむらの姿が出てくる。この時に水じゃなくて煙みたいな感じに。それでワルプルギス登場。サーカスがやってくるみたいな感じで出てくる。

このときのワルプルギスっていう造形がまた面白くて、逆さになった歯車、逆さになった女が笑いながら回っているという。このメタファーも意味がわかる? 意地悪だよね。巨大な歯車が逆さに回っているんだよ。わかりやすい例でいうと、歯車の悲しみだね。社会の歯車になってしまったの、私は。

乙君:その逆ってこと?

山田:逆の方向に回ってしまったの。思ったように回っていない。だけど止められない。だから笑っているんだよ、反対側になって。頭がおかしくなって。

久世:すごい。

『銀河鉄道999』のメタファー

山田:凄まじいメタファーがぶっこんである。そこに一番有名なやつだと、『銀河鉄道999』の最終回ですね。最後ネジにされるでしょう。(星野)鉄郎はメーテルに騙されて。メーテルはキュゥべえだからね。「永遠の命をあげるよ」とか言って。

「最後まで行くと機械の体をもらえる」って言って、「これも機械よ」って言ってネジにされる。お母さんの星を止めるためのネジの1本にされてしまうっていう話なの。メーテルとお母さんは一心同体のキャラクターで。メーテルの後ろにお母さんがいる。

それはネジだけど歯車っていうのもあるわけ。社会の歯車になるために今までの旅をしてきたのか。「あれだけ辛かった学校の毎日はこんな歯車になるためだったのか」というメタファーがここに入っていて。それが巨大になっておかしくなって。

久世:最強の魔女「ワルプルギスの夜」って言われていて、もともと誰やったんだろうっていうのをすごく考えていて。クレオパトラとか卑弥呼も出てきてるし。多数のものが乗っかっているというか。

山田:そうだよ。夢を信じて、会社に入ったら歯車にされたOLたちなんだよあれは。

乙君:お茶くみばかりやらされると言う。大して必要でもない。

山田:クリエイティブな仕事をしながら、Apple叩いていたはずだったのに。

乙君:これは強いよなぁ。みんな魔女になったってことでしょ。

山田:その力ですよ。めちゃくちゃ面白いでしょう。

乙君:寿退社とかするやつはなってないんだよ。お局さんたちがきっとそうなっちゃったんだ。それで笑ってるんじゃない?

山田:決めつけてごめんなさい。本当に謝罪します。だめですよ。

ワルプルギスとグッドマザーが対になる

乙君:(ニコ生のコメントで)「消えるときに複数の少女の影が出る」んだって。

山田:出ます。それが妖精のようになってシルエットっぽくなって現れるんだけど、エンディングの時の(美樹)さやかたちと同じような演出で出てくるんです。だから憎いんだよ。そこも重なっています。それも絵で見せていくというやり方ですね。それで大騒ぎのときに送り出すお母さんのくだりがあるんだけど、お母さんまた滑ったことをずっと言っているんだけど。

久世:警察に任せろってやつ。

山田:そうそうそうそう。なんかヤンキーなんだよ。元ヤンでしょ?絶対元ヤンだよ。祭りの手伝いとかしてたでしょ。

乙君:今だとよさこいソーランとか踊ってる。

山田:絶対神輿とか担ぐタイプ。「どうなんだよ」みたいな、上から来る。その時に、前に女の性質みたいなものを心理学で分類したときに、グッドマザーとテリブルマザーと分かれるっていう話をしたことあるじゃない。

執着して殺そうとする悪魔、魔女みたいなのが大暴れしているんですよ。その反対側のグッドマザーというのは、女の持っている性質のなかで、産み育てて放つという。産み離す性質があるのグッドマザーという。実はあそこでワルプルギスとグッドマザーのお母さんが対になっています。いい話なんです。ずっと滑ってはいるんだけどいい人なんです、あの人。

乙君:そういうのも回収したっていうこと。

山田:そこで回収してますね。ほむらさんですね。今度、勝てないんですよ。ガレキに挟まった足。額には血が流れているんですけど、十字になっているんですよ。これがキリスト教っぽいですね。うまいなと思うね。希望を持つ限りは救われないっていう。

11話もクライマックスへ

山田:諦めたら魔女になってしまうという運命が、キュゥべえから語られる。最悪の状態だよね。ここからワルプルギスの歯車から目が見える。これが異界からの視線という意味ですね。これは共感力を失ったものの目なんだよ。これがエンディングの面に重なるんですね。回転している絵の中で一瞬だけ映るっていう。

11話終わりのところまで行こうか。目がうつって、後にガレキに挟まって動けなくなったほむらさん。これ印象的だよね。土にめり込んでるもんね、ガレキに体がね。その時にまどかがやってきて、「もういいんだよ、ほむらちゃん」。

まどかなのでグレーのなかでピンクの差し色が本当にきれい。天使降臨だなっていう感じがするわけだよ、ビジュアルで。天使が助けてくれる話とわかるようになっていますね。

乙君:自分が天使になろうと思っていたら。

山田:天使が助けられるはずなのに助けるんです。「ごめんね、ほむらちゃん」って言って。そこで(エンディングテーマの)ズンズンですよ。問題はここのズンズンで始まった時に、後半の歌詞が効いてくるんです。ズンズンズンで歌っていた「いつか君が瞳に灯す愛の光が 時を越えて滅び急ぐ世界の夢を1つ壊すだろう」って言って。ほむらさんにとってのまどかの歌なの。

よく見ると、オープニングもほむらさんの視点から描かれている。後半も救済してくれたまどかのこと思っている。ほむらさんの歌ですね。あの瞬間、二重に重ねるという。おいおい一気に放送ですか。本当に凄いことしたねと思うね。同じ日にやっちゃいけないよ。今日俺たちもやっているけど。同じ日にやっちゃいいけない。どんだけアニメーター全力でやっているんだよっていう感じ。

乙君:ちゃんと1話ずつ。みんなそれである程度そういう見方で見たので、玲司さんの追体験をということで。

久世:(カンペを指差しながら)「無料会員は僕たちの世界では疾患の1つでしかない」。

(一同笑)

久世:ぜひ有料へ。うまいね。ありがたいけどね。

乙君:これだけ言ったら充分ですよ。

山田:12話すごいんですよ。なにが凄いかっていうと、炎の救済についての話もあるんだけど、それは俺の独自の解釈でいきます。

次回以降のお知らせコーナー

乙君:ここで1回限定に入ろうかなというところでお知らせです。来週12月13日の公式放送は今年1年のアニメ漫画業界に起こった総括という感じで、ずっとトピックでやっていこうと思っています。そしてドワンゴ側とヤンサン側から、今年のアニメのトピックとか事件とかもらいつつ、多角的に今年1年のアニメ業界漫画業界を振り返っていこうと思っています。

山田:(カンペを指さしながら)失恋した人が抱きしめてって言っているからみんな一緒ね。

久世:せーの。

山田:知的生命体がいたぞ。

乙君:そして20日は人生相談会をやります。田中圭一先生にオファーしているので返事がもらえましたらやろうと思っていますので、人生相談はどしどし募集しております。メールアドレスのほうに寄せてくれても大丈夫です。

12月27日の放送もやります。こちらはヤンサンの振り返りですね。だろめおんくんを呼んで、オープニングアニメの制作秘話、これは何のメタファーかとかやりますって言っていたので。ここで書いてもらおう。検眼。年の最後にいいですね。

なんとヤンサンさんは年越しもやりますので、コミュケ。12月31日日曜日、ブースを出します。そしてそのままマグガイアを引き連れ、スタジオに戻り、アニメ探偵を呼び出し、『魔法少女まどか☆マギカ劇場版』。年越しでやりましょう。アニメ探偵は「新潟に帰りませんと」言っていたからね。コミケもあるので。そんなこんなでお願いします。

年の瀬も迫ってまいりました、ヤンサンですけど、人生相談もありますし、ダロ君も来ますし、まどマギもやりますし、盛りだくさんなので、今日入るとずっと無料で全部見れますので、是非!

知的生命体になろうと思うみなさんは。クラスのみんなには?

久世:(モノマネをしながら)内緒だよ!

(一同笑)

乙君:ということでした。