客観的かつ主観的な株の見方

大江英樹氏(以下、大江):先ほど「ゲームがすごく好きだから、ゲーム業界をよく研究して、投資をした」とおっしゃっていたんですけど。あれは、すごくいいですよね。

杉原杏璃氏(以下、杉原):本当ですか?

大江:あれはすばらしいと思います。私は藤野さんが言っていたように「いろいろな街を歩いて、現場を見ると(投資の)ヒントがいっぱいあるんだ」ということも、まったくその通りだと思います。客観的に見ることと同時に、自分の主観でものを見ても、そんなに悪くはないのかなという気がするんですよ。例えば、自分が体験したサービスや製品で、素直に感動したものに目をつけるのも、いいんじゃないかな。

杉原:そうなんですよ。自分がいいと思うものを信じてもいいのかなと思って、購入しています。

大江:ですよね。今日のイベントの冒頭で、SMBC日興證券の吉岡(伸輔)さんが「(投資は)やっぱり会社を応援することだ」というお話をしていました。それがすべてではないにしても、それも非常に重要な要素だろうと思うんです。

私の失敗談を1つ紹介すると、私がインターネットを使っていろいろなことをやり始めたのは、1997〜1998年頃でした。私は、1960年代のソウルミュージックが大好きなんです。昔、若い頃にすごく欲しかったCDがあったんですけど、お金がなくて買えなくて、手に入りませんでした。

それを東京中のCD屋さんに行って探しまくったんですが、どんなに探しても見つからないんですよ。ところが、1997〜1998年頃にアメリカでAmazonが出てきて、AmazonでCDを検索をしたら一発で出てきたんです。それでクレジットカードを登録して、注文したら、アメリカから3週間くらいで送られてきたんです。

(当時は)まだAmazonは日本でサービスを始めていなかったので。私はこれを見て「すごいな!」と思って、素直に感動したんです。そのときにもし、Amazonの株を買っていたら……今、(上場時の株価の)約500倍になっているんですよね。

(会場笑)

杉原:そうですよね。早く気づいてたのに。

大江:(サービスの価値に)気づいていたのに、Amazonの株を買うという発想が浮かばなかった。でも考えてみたら、そういうことはけっこうあるんですよね。

杉原:あるんですよ、そうなんですよ。

大江:でもね、1998年というと、今から20年近く前でしょ。20年ずっと株を持ち続けることができたかどうかという問題は、またあるんですけどね。(株を買った人も)500倍になっていると言ったって、たぶん2倍くらいで売っちゃってると思いますからね。

杉原:そう、ちょっと怖くなって。そうなんですよね。

大江:2倍で売ったあとに(将来)500倍になったら、目もあてられませんからね。そんなことを言っても、しょうがないんですけども。だからやはり、自分がいいと思う会社の株を素直に買って、長期に保有するというのは1つのやり方ですよね。

杉原:そうですよね。私は銘柄に惚れてしまうので、長期になると、今度は手放せなくなるという問題があるんですけど。

大江:本当に自分がいいなと思った会社で、長期的に成長を見守ろうと思って、(杉原さんが株を始めたのが)12年前ですから……5年や10年ぐらい(株を)持ち続けている会社は、ありますか?

杉原:あります、あります。父が建築系の会社をやっているので、建築関係(の株)も「身近にあるものなので、買っておこう」ということで、長期的に持っています。

大江:ああ、なるほどね。やはり「身近にある」ということも、1つのキーワードですよね。

杉原:そうですね。バイオ関連などにもチャレンジしてみたいと思いながらも、薬とかにあまり興味が持てないのか、チャレンジできていなくて。

大江:それはそれでいいんじゃないですかね? プロのファンドマネージャーなら、どのセクターが来るかということを予測してやらなければいけないので、そんなことも言っていられないんでしょうけど。個人投資家は別に、自分が興味のないものは買わなくてもいいと思います。

2018年のトレンドに乗ってみたい杉原氏

杉原:そうなんですかね。でも、毎年トレンドの銘柄があるじゃないですか。

大江:ありますね。

杉原:やっぱり投資をしているからには、ちょっと(トレンドに)乗ってみて、そういう雰囲気を味わってみたいと思うんですけど。たとえばオリンピック関連にしても、まだ乗っていなくて、自分の中でなんとなく盛り上がりに欠けるんですよね。

大江:トレンドに乗るのも、善し悪しがありますよ。

杉原:そうなんですかね。

大江:例えば「世界最高の投資家」と言われているアメリカのウォーレン・バフェットという人は、ジョンソン・エンド・ジョンソンやコカ・コーラなどを買っていて、いわゆるIT銘柄はぜんぜん買っていないんです。

杉原:そうなんですね。

大江:それこそGoogleとかマイクロソフトはどうかわかりませんけども。Amazonなど、IT関係でものすごく株価が上がったところが、たくさんあるんですけどね。アップルとか。でも彼は、そういうものにはあまり見向きしない。自分が知っているものしか買わないということですから、それはそれで別に構わない気もしますね。

杉原:ちょっと今日は、大江さんに2018年のトレンドとかを聞いて、チャレンジしてみようかと思っていたんですけど(笑)。

大江:2018年のトレンドね。たぶん「個別の銘柄は、何がいいですか?」というのは、みなさんが一番聞きたい話なんですよね。私もかつて証券会社にいた頃は、いろいろな株式セミナーをやりました。最初にマクロの話をして、「景気がどうだ」「金利がどうだ」「為替がどうだ」と言うときは、みなさんだいたい寝てるんですよね。それで「最後に推奨銘柄を申し上げます」と言うと、みんなガバッと起きて、急にメモをとりだしてね。

杉原:やっぱり、そこは気になるところですよね(笑)。

大江:そういうことなんですよね。ただこれは、いろんなことを言う人がいまして、例えば、週刊誌の袋とじ広告などで「こういうトレンドがいい」とか、いろいろと出てきますけれども、そんなに当たるものじゃないですからね。

杉原:そうなんですね。

大江:うん。だから、たまたま(予想が)当たるものもあると思いますけれども、むしろそれより、今の市場の流れがどこまで続いていくのかを、気にしたほうがいいと思います。

「“今回だけは違う”おじさん」が現れたときが、バブルのピーク?

大江:例えば今年(2017年の)1年を見ると、(12月6日時点で)まだひと月ぐらいありますけれども、非常に成果がよかったわけですよね。10月には(日経平均が)16日間連続で上がって……史上最高記録でしたからね。だけど中には「もうそろそろバブルじゃないか?」ということを言う人もいるわけです。

杉原:いますよね。私は絶対に、日経平均は3万円にいくと思っているんですけど。

大江:3万円までいくかどうかは、私もちょっとわかりませんけど。評論家の中には「4万円」と言う人もいますからね。それはなんとも言えないのですが、個人的に言えば、今の状況はまだバブルではないような気がします。

杉原:もうちょっと、上がっていく?

大江:ええ。もちろん目先で、紆余曲折があって下がる場面はあるかもしれませんが。トレンドとしては、そんなに「バブルの頂点」という印象は、あまりないんです。

というのは、いわゆるバブルのピークというのは、渦中にいる人たちにはわからないんですね。終わったあとで「あれがバブルだった」とわかるわけで、今がバブルかどうかは誰にもわからないんですよ。ただ1つ言えることは、「今がバブルじゃないかな?」と言う人が、いっぱいいるんですね。そういう内は、まだバブルではないんですよね。

杉原:そうなんですね。

大江:そう言う人がだんだんいなくなってきて、もうこれからは上がるしかないとか。それから、これはキーワードなんですけど……「今回だけは違う」という言葉ね。相場が良くなっても悪くなっても、「今回だけは違う」と言うおじさんが必ず登場するんですよ。

(会場笑)

杉原:身近に現れますか。

大江:そうなんです。アメリカでも「TTID(This time is different.)」と言って、つまり「今回は違う」という話が、必ず出てくるんですよ。結局、誰も彼もが強気になって「今が(もうバブルの)ピークじゃないか?」ということで、暴落を懸念する人がいなくなったときが、だいたいピークなんです。

そういう意味でいうと、やっぱり今はまだ「バブルじゃないか?」と言う人が、けっこうあちこちにいるんです。だから、それほど心配しなくてもいい気がしますね。

杉原:なるほど。じゃあ、ちょっと安心です。

大江:あと、業種的なことは、多分これからも変わってくると思うので、一概には言えないと思うのですけれども。1つのトレンドとしては例えば、ここしばらくずっと続いているAIとか。ああいうものに関して言うと、それに関連した自動運転技術や地図ソフトなどがあります。今のトレンドにあったものは、一応見ておく必要があるかもしれませんね。

杉原:引き続き、2018年も?

大江:そうですね。ただ、やっぱり難しいのは、そのようなものが話題になっているときって、(投資のタイミングとしては)もうすでに遅いことがあります。例えばオリンピック関連でも、「オリンピックが(東京に)決まったのは、何年前でしたっけ?」という話ですから。

杉原:そうですね。もうだいぶ前になりますね。

大江:だから、あまりそれを追いかける必要はないんじゃないかなと思います。むしろさっき言ったように、自分で調べて興味が持てる、あるいは素直に(製品やサービスに)感動したもの。そのようなものに投資するというやり方のほうが、個人投資家の場合はうまくいくんじゃないかなとい思いますね。

杉原:うん、うん。勉強します。

売るタイミングに、論理的な根拠はない

大江:いやいや、私もそれほど専門家というわけではないんですけどね。実際に今、自分の資産運用や投資をやっている中で、「こういうのはちょっと困るな」「こういうことをもっと知りたいな」ということは、何かありますか?

杉原:どのタイミングで売りに入るかというところが、一番知りたいです。私は(投資を)感覚でしかやっていないんですよ。自分の中では、中長期と短期とは変えています。「何パーセントの利益が出たら、もう利益確定する」みたいな感じでやっていて。自分のセオリーを、決めてはいるつもりなんですけど。

大江:なるほど。それはね、非常に無責任な言い方のようですけども、自分なりのルールで決めたらいいと思いますよ。別に「これが絶対」というルールはないわけです。例えば、よく言うのはロスカットで「これだけ下がったら、機械的に売るんだ」みたいな人もいるわけですけれども、それは別に、論理的な根拠は何もないわけです。ただ自分のルールとして、決めているというだけですから。

上昇のときも下落のときも、同じように自分でルール化したものを決めて、自分が納得してしまえば、それで私はいいんじゃないかなと思います。

あとは、さっき(藤野さんの)お話でも出てきましたけれども、「割高なときは売って、割安のときは買う」ということから考えると、企業の株価は、実体があるものではないんですね。「長期的には利益と株価は一致する」というのは、確かに藤野さんがおっしゃっていたとおりなんですけれども。短期的には、株価と企業の価値というのは、一致しないんです。

ある意味、株価というのは影みたいなものなんですね。要は、上から光を当てると、実体よりも小さく見えるんですね。下から光を当てると、実体よりも大きく見えるんです。その「大きく見えるとき」は割高で、「小さく見えるとき」は割安なんですね。今から、だんだん影が大きくなっていく局面に入ってくると思いますから、その場合は、できるだけ早めに利益を確定するほうがいい気がしますね。

杉原:大江さんは、何を一番参考にして売買されているんですか?

大江:私の場合は、2つありましてね。1つは、「その会社がなぜ儲かっているか」ということですね。要するに、儲かりの秘訣というか、どのようなことを収益の構造として考えているのかということを『四季報』だけではなくて、経営者のたちのインタビューとかなどを見て、まず「儲ける秘密はなんだろう?」ということを考えますね。日曜日の朝に、テレビ番組などでもいろいろな企業を紹介していますけれども。あれも、わりとおもしろいですよね。

杉原:そういうのを、参考にしているんですか?

大江:それは1つの参考ですよ。自分がその会社に目をつけたときには、その会社が何で儲かっているのか。それが、他の会社にも真似できるものなのか。競争環境はどうなのか。そういうことを重視しますね。それはやはり、利益が持続できるかどうかに、繋がるからなんですね。

もう1つは、実際にその会社が上げている利益の水準に対して、株価が割高か割安かということですよね。一番端的なのは、PER(株価収益率)になるんでしょうけども。私の場合はどちらかというと、税引き利益よりも、むしろ営業利益。つまり「本業でどのくらい稼いでいるのか」ということを重視しますね。

杉原:けっこう細かく見られるんですね。

大江:そうですね。あとは、キャッシュフローです。本業でちゃんと稼いで、営業キャッシュフローがずっと安定的にプラスになっているかは、見ますね。ただこれは、何回も言いますけど、絶対ということではないんですね。

杉原:そうですね。

大江:投資というのは常に先の見えないもので、だからこそリスクがあるわけで、リスクを取らないところにリターンは得られないですから。だから、ある程度は割り切っていかなければしょうがないと思います。

杉原:じゃあ、ちょっとはチャレンジする心を持っていないとダメですよね。やっぱり様子見して、感覚で乗っかってしまうことが多いので。

大江:でも、今までお話を聞いている限りにおいては、そんなに悪い方向ではないと思いますよ。

杉原:売買の考え方が保守的なんですよね。そういうところで、なかなか飛躍しないのかなと思って(笑)。

大江:いや、保守的でいいんじゃないですかね。結局、個人投資家とプロのファンドマネージャーやプロの運用者の最大の違いは何かというと、プロは、どんなにマーケットが良くても悪くても、運用し続けなければいけないんですよ。

杉原:そうですね。

大江:要は、相場が悪いと思ったら休めばいいし、やらなければいいだけの話ですよね。どんなに悪い相場のときでも、それなりにしのいでやっていくところに、プロのすごさがあるわけです。いろいろなことを書いていますけども、そもそも私は運用のプロではなく、素人みたいなものなので。我々のような個人投資家が真似しようと思っても、これはなかなか、うまくいくものではないですね。

杉原:そうですよね。でも資産を増やそうと思ったら、そういう(相場が悪い)ときこそチャレンジしないと、やっぱり増えていかないのかなと思ってしまって。

大江:まあ、そうですね。だけど、マーケットの悪いときは何をやってもダメですからね。だからそこは、もう無理して運用する必要はないなと、私は思いますね。

杉原:わかりました。

株式投資で大事な「肩の力を抜く」こと

大江:いろいろと経験して、うまくいったことも失敗したこともあるということなんですけど、個人投資家の方やこれから株式投資を始めてみようかなという人に、12年やってきた杉原さんなりのアドバイスはありますか?

杉原:自分の資産の4割ぐらいで……もちろんなくなったら困りますけど、すべてを失わなくても済む金額の中で、本当に好きな銘柄や自分が信じられる会社の株だけを買うことで、私はやっているので。単純なんですよ。

大江:要は、自分が取れるリスクに見合った分だけの金額にしておくべきだということですね。

杉原:そうですね。あと、私は10社くらいに分散して(投資)していますけど。

大江:なるほどね。10社ぐらいに分散ね。

杉原:はい。さらにその10社の中で、大型株と新興株に分けています。

大江:なるほど。やはり自分がどれくらいリスクを取れるかというのは、すごく大事だと思うんですけれども。ご自身で「これくらいの水準にしておこう」と決められたきっかけとか、自分なりの基準はありますか? 先ほど「全体の資産の4割で株を買う」とおっしゃいましたよね。「4割」に決めた理由はあるんですか?

杉原:いや、半分ぐらい残してないと、自分が不安という。全部を投げ打って勝負は、できないので。

大江:そうですね。それくらいざっくりしているほうが、やっぱりいいんですよね。

杉原:(株を)23歳で始めたので。芸能界のお仕事は「次の日はオーディションです」と言われたら行かなければいけないんです。だから、バイトもできない中で「今、ネット証券が流行ってる」「お家でもできる」というところからスタートしたので、本当に食べていくためにやっていたところもあります。

大江:「(資産のうち)何割が比率的に適当か」というのは、当然人によって違ってくると思うんですけど、やっぱり自分なりのルールを作っておくのは大事ですよね。

杉原:そうですよね。そう思います。

大江:ほかになにか、自分自身で決めているルールってありますか?

杉原:仕事中は一切見られないので、指値で(予約注文を)入れておくんですけれど。それももう「(株に専念して)かじりついて見られるんだったら、もったいないな」と思いながら、売買しているんですけど。でもそれは、お仕事をしながら株式投資をやっている方はほとんどそうなんだなと思って、割り切ってはいるんですけど。

大江:それはそうでしょうね。逆にべったり入りこんだら、かえってうまくいかないかもしれないですよね。

杉原:そう。そのくらい、ちょっと力を抜いて売買しているくらいのほうがいいかなと思って、やっていますけど。

大江:そうですね、肩の力を抜いてね。私もいろいろな株式投資をやっているんですけども、やっぱり大事なことは、休むということですね。

杉原:休む。1年間のうちでも?

大江:そうそう。だから、常にフルインベストメントの状態にしておかない。

杉原:私、フルなんですよね。それが疲れるポイントなんですか?

大江:そうは言っても、(資産の)全体の中で、4割ぐらいのものということですよね。

杉原:もちろんそうです。その中で1年を通して、常に動かしているので。

大江 なるほどね。(杉原さんのフルインベストメントとは)そういう意味ですね。

杉原:それで、たまに疲れるときがあります。

大江:まあ、疲れるのはあまりよくないですよね(笑)。

杉原:そうですよね。

大江:だから結局、私はもちろん「勝負するときは勝負するんだ」という考え方も、1つはあるんですけれども、やっぱり常に余裕を持ってやっていくということが、すごく大事なんじゃないかなと思います。だからこそ、長期投資で応援したい会社の株をじっくり持つということも、できるわけですから。

杉原:はい、わかりました。

大江:ということで、個人投資家としていろいろと活躍してこられた杉原さんのお話は、みなさんとってお役に立つ部分があったのではかなと思います。今後もお仕事をがんばりながら、ぜひ、引き続き株式投資に興味を持っていただければと思います。

杉原:そうですね。もう少し勉強します。

大江:今日は、本当におもしろいお話を聞かせていただきまして、ありがとうございました。

杉原:いいえ、とんでもないです。ありがとうございました。

(会場拍手)