大山康晴名人との王将戦

加藤一二三氏(以下、加藤):私の経験で言いますと、大山先生と僕とはけっこう張り合ったんだけれども、おもしろいことを一生懸命、真剣にやりましたね。大山先生が僕と戦ったときにこうくるんですよね。

2日制のタイトル戦で、昭和42、3年あたりですよ、王将戦。大山先生が2日制の対局で、午後3時くらいに言うんです。2日制の将棋なので、夕方に休憩に入るのが規則です。

ところが、大山康晴名人いわく「この将棋はものすごく激しい戦いになっていて、2日制の将棋なんだけども、このまま2人が超スピードで戦っていると、勝負が1日で終わってしまう」と。「そうすると、2日間の記事を用意している主催者に対して申し訳ない。だからこの午後3時で、異例ではあるけれども休憩をしたい」という申し出が2回あったんですよ。

それは毎日新聞社の王将戦の時代で、1回目は大山先生がそう言ったときに、主催者の代表が、「大山先生のお考えはわかった、加藤さんのお考えは? 加藤さんはどうですか」と聞いた。私はね、休憩しないでこのまま戦いたいと思ったんですよ。それで主催者の代表は言いました。ここがなかなかね、毎日新聞はすごく男らしい人がいましてね。こう言ったんですよ。今でもその人の言葉をそのまんま再現できる。

「我が社としては、例え1日目で勝負がついても、なんら差し支えがありません」。よく言ったわ。偉い人やねえ。

(会場笑)

それで、その将棋は規則どおり夕方まで戦って、それで勝負がついたのが、なんとですよ、大山先生は「このままだったら1日で勝負がつく」とおっしゃったけれども、実際に勝負がついたのはね、2日目の夜の9時ですよ!?

(会場笑)

「弱点のない」二上達也が勝てなかった相手

「大山先生、ちょっとやめてくださいよ」と。これは盤外作戦なんですよね。つまりこういうことなんです。僕は持ち時間いっぱい使う棋士なんですが、大山先生は時間を使わない。だからもしですよ、大山先生の提言を受け入れて、私が「いいですよ」って言って指していたら、夜の9時に終わったんだから、そのころにはもう私の時間はなくなっていましたよ。

私は大山先生の提案にNOと言った。2回言ったんだけれども、実はね、二上達也さんは大山先生のライバルで、よくタイトル戦を戦ったんだけど、大山先生は前例があってね、二上さん相手に、午後3時くらいに「休みましょう」って言ったんですね。二上さんははっきり言って、イエスマンなの。

(会場笑)

もうすべて「はい!」「はい!」ですよ、その代わり勝たなかった。それでね、二上達也っていうのはね、将棋連盟の理事も若いころからして、それから会長も10年しました。良い人柄で、はっきり言って、ある意味、勝負師としては徹底できないわけね。

大山先生と二上さんはね、ものすごく大きな勝負を戦ったんだけれども、僕にはわからないんだけど、二上達也はこう書いてるんですよ。「あるとき自分の弱点を悟られて、以後は大山名人に勝てなかった」と。

私からすれば、二上さんの弱点っていうのは、ないんですよ。だって二上さんの将棋は、切れ味は良いしね、それから華麗でね、良い将棋なんですよ。彼の勝った将棋は全部名局で、はっきり言って、泥臭くない、あんまり粘らない。だから欠点がほんとに、1つもない。でも二上さんは「自分の欠点を見破られてからは大山さんに勝てなかった」と書いていますけれども、これは謎なんです。

『いい日旅立ち』と『ラブ・ストーリーは突然に』

それでね、二上達也さんの弟子が、羽生善治さん。この前、NHKで2人で対談した中で、撮影の合間に羽生善治さんが僕に言いました。「加藤先生、山口百恵さんの『いい日旅立ち』をよく歌われるでしょう?」。あれは、幸せだった父母の思い出を胸に、これからね、女性が幸せを求めて旅立っていくという世界なんですよ。

また一方で僕がよく歌うので、小田和正さんの『ラブ・ストーリーは突然に』というのがありますけども、これはね「何から伝えればいいのか 分からないまま時は流れて 浮かんでは消えていく」「君があんまりすてきだから ただすなおに好きと言えないで」「多分もうすぐ雨も止んで二人たそがれ」、それでまあ「あの日 あの時 あの場所で 君に会えなかったら (いきなり節をつけて)僕ー等ーはー」

(会場笑)

「いつまでも見知らぬ二人のまま」とくるわけね。これが僕は大好きでですね、百恵さんの歌も『ラブ・ストーリーは突然に』も大好きな歌だけれども、最近、私はね、古坂大魔王先生に、『ひふみんアイ』の名曲を作ってもらってますから、これをですね、これからは主に歌います。

(会場笑)

『ひふみんアイ』には自分の将棋のエッセンスが入っている

残り時間わずかですが、一応参考までに……古坂先生の歌詞は素晴らしいんです。私の将棋のエッセンスが全部入ってるんですよね。例えば、こういう感じですよね。ええと……。

(加藤氏が『ひふみんアイ』を歌いだす)

……ということだけどもね(笑)。

(会場拍手)

はい、いいですか。(以下、歌詞に関する説明)この「金矢倉」「銀矢倉」という作戦で、私は500回勝ってまして、名人になったのも、この金矢倉を使って名人になった。当然「精魂込めて」。

それから「基盤」っていうのはね、将棋盤のことです。それから「戦場」は、戦いの場。で、「騎士」「勲章」は何かと言いますと、私はね、ローマ法王のヨハネ・パウロ2世、聖人になった法王様からですね、聖シルベストロ教皇騎士団勲章という勲章をいただいております。ですからそれが「騎士」「勲章」。

その次に来るのがですね、「神武以来の天才よ」。神武以来の天才、と言われるようになったのは18歳の時です。今から思うとね、昔の歌と一緒で「詠み人知らず」ですよね。「ひふみんアイ」も誰が付けたか知らないんだけれども、「神武以来の天才」というのは、やっぱり今となってはありがたくてですね。誰が付けてくれたか知りませんけれども、それは今やですね、歌の歌詞になりました。

それからあと「魂揺さぶる 無敵棒銀」。古坂先生はね、いろいろと僕と収録した中で、「魂揺さぶる 無敵棒銀」これは最初から終わりまで、ここはもう素晴らしくてね、一切、本当に「完璧だ」と褒めてくれました。

それから「ひふみんアイ ひふみんアイ」。「ひふみんアイ」っていうのはですね、僕は今でも時々ね、ファンの方から写真を頼まれるんだけれども、最近はこういうような感じ、「加藤先生、ひふみんアイの、こうやってください」って言ってね。これを注文されて一緒に写真を撮ることが多いですよ。

(会場笑)

アイドルとのコラボレーションとさまざまな公演

これがね、13日にフジテレビのコンサートで、この『ひふみんアイ』を「モーニング娘。」とのいわゆるコラボレーションで、私が歌って、14名のモーニング娘。がね、後ろで踊ってくれます。これはコラボレーションと言うんですよね。これから、うーんと、「モーニング娘。」と一緒に練習をすることになりますけれども、まあ、楽しみでね(笑)。

(会場笑)

なんと言いましてもね、私今までの経験で、フジテレビの『アウトデラックス』のスペシャル番組で、ベートーヴェンの名曲『運命』の3分間バージョンを、高嶋ちさ子さん率いるオーケストラを伴奏で、王子ホールで公演しまして。大好評でした。

それからあとね、天童。山形県の天童で、ヴェルディの『リゴレット』という名曲のアリアを1200人の観客の前で歌ってきました。それも、高嶋ちさ子さんの伴奏、オーケストラで歌ってきましてね。

ヴェルディの『リゴレット』のアリアは、1番を日本語で歌って、2番をイタリア語で歌ったんです。それで、その時すべてを東京芸大の、今でも講師をされてる青島広志先生の指導を受けて、成功したんだけど。青島広志先生は言いましたね。僕の声はテノール。それから音程が良い。それで、青島先生いわく「加藤先生は、これから東京芸大を特枠で受験すると受かる」。

(会場笑)

一応サービス精神でね、僕が東京芸大の受験したら、芸大の受験生が増えるというふうに言ってくださったんです。

(会場笑)

どんな場合でも柔和で、謙遜であるべき

あと何分くらいですか?

(会場笑)

スタッフ:話は尽きないんですけど、そろそろ……。

加藤:あっ! じゃあですね、一応、そろそろ時間ですけど、締めとしてはですね。今クリスマスのシーズンですけれども、キリスト教というのは、旧約聖書と新約聖書が経典です。どっちも大事にいたします。新約聖書はですね、イエス・キリストが来たことによって成り立ったんですけども。

イエス・キリストがこの世に生まれた時のメッセージはこうなってます。イエス・キリストが来ることによって、人々に大きな楽しみを与える。それから、深い感動を与える。それからね、人が幸せになるための生き方をイエスは教えに来た、というのが我々が信じるところです。私は今まで、エルサレム、ベツレヘムにイエス・キリストが生まれたという場所がありまして、そこに3度くらい行って、頷いて、祈っております。

基本すべての人間の問題はですね、キリスト教は懇切丁寧に扱います。例えば昨今で言うと、人間というものは同じ人間として兄弟であるから、すべての人はどんな場合でもね、柔和であるべきである。それから、謙遜であるべきですよと。柔和であるということは、どんな状況に至ったって自分のバランスを崩してはいけません。

イエス・キリストは自分でよくおっしゃった。「自分は柔和で謙遜な者である」とおっしゃった。つまりね、柔和であることはどんな場合でも柔和である。謙遜ということはね、自分がこの世の中で一番偉いと思っては、それは大間違いですよ。うん。

だって、自分が一番偉いとか思うからね、簡単に言うと、接する人を軽んじるわけでですよ。人間ね、どんな立派な人だって、聖人君子であったって、100パーセント立派な人なんていうのは、人間世界ではあり得ない。1人完璧なのはイエス・キリストだけ、っていうのが我々の信仰。

だから最後に、実は私、最近の目標は、どんな場合でも柔和ですよ、柔和。それから謙遜。謙遜というのはね、僕けっこう自分のことをね、天才とかなんか言ってますけども。

(会場笑)

いや、事実の部分もあるけども!

(会場笑)

これからね、まだまだ大いに勉強して、これからの僕の人生をですね、全うしたいと思ってます。

実は僕この前、胆嚢炎で緊急手術を受けたんだけど、これは本当に、神様のお恵みですよ。なんでかって言うとね、僕は一番いいときに、素晴らしい、大きな有名な病院で、今でもお世話になってるんだけど、そこで胆嚢炎の手術をしてもらってね。そこで、医者たちがね、「加藤先生の体は本当に、端から見たら不思議なくらい元気だ」って言うんですよ。

「だから医者として興味があるから検査をさせてほしい」って、この前、MRIを2回撮って、すべての検査を受けましたら、結果なんとこうでした。「加藤先生はなんの問題もない」って。

(会場拍手)

それはまあ、お墨付きです。じゃあこの辺で、あの、終わりにしてよろしいですかね。

(会場笑)