投資を始めたきっかけは「悔しさ」

杉原杏璃氏(以下、杉原):よろしくお願いします。

大江英樹氏(以下、大江):よろしくお願いいたします。だいぶ緊張気味でしてね。

杉原:本当ですか?

大江:はい。こんな素敵な人とご一緒させていただけるトークセッションは、初めてなものですから。

杉原:私も、こういう場に来させていただくのは珍しいです。

大江:そうですか。たぶん今日の出演者の中で、私が一番おいしい思いをしているんじゃないかな。

杉原:(笑)。そうなんですか。

大江:今日の私のFacebookにもいろいろな友達から「お前、いいなー」「羨ましい!」という声が続々と来ましたので、その羨ましさに負けないように、みなさんにしっかりとお話をお伝えしていきたいなと思っております。改めまして、みなさんこんばんは。大江でございます。それから、杉原杏璃さんです。

杉原:杉原杏璃です。よろしくお願いいたします。

大江:これからは、投資家・タレントとしてご活躍の杉原さんに「杉原杏璃の『わたしの投資家人生』」というタイトルで、お話を聞いていきたいなと思っています。先ほどお話があった藤野(英人)さんのようなファンドマネージャーの方や、プロの投資家のみなさんのお話も非常に参考になると思うのですけれど、プロとしてやっていない投資家で、なおかつ成功している方のお話を聞くのも、すごく勉強になると思います。そういう意味で、今日お話を伺うのを、非常に楽しみにしてきました。

杉原:ほんとですか。もう完全な独学なので、ちょっと恥ずかしいんですけれど。

大江:いやいや、株式投資は誰かに習ったからうまくいくというものではないので。みなさんにも非常に共感していただけるお話が聞けるんじゃないかなと思って、私もすごく楽しみにして来たんです。

杉原:ほんとですか。よろしくお願いいたします。

大江:さっそくなんですけど、杉原さんが投資を始められたのはいつですか?

杉原:12年前の、23歳のときです。

大江:どのようなきっかけで、投資を始めてみようと思われたのですか?

杉原:私は地元が広島で、19歳のときに上京してきました。東京で大人の方々とお仕事していく上で、ご飯の場で真面目な経済の話や政治の話になったときに「アイドルにこの話はわからないよね?」という感じで、ちょっと蚊帳の外にされたのが……。

大江:なるほど。悔しいですよね。

杉原:すごく悔しくて。やっぱり23歳の小娘だし、知識がないと見られるのは当然なんですけど。そこで「大人の方々と共通点を持ってお話ができるかな?」ということで(株式投資を)始めました。

大江:私の記憶では、12年前の2005年は「小泉郵政解散(※元内閣総理大臣・小泉純一郎氏による衆議院解散)」があった頃で、株価が非常に好調でしたね。

杉原:そうなんですよ。本当に始めたのがとても良い時期で、株式投資ですごく良い経験をしたことが、今でも続けられているポイントだと思います。

大江:なるほどね。その後は、いろいろと厳しいことになりましたよね。

杉原:そうですね。リーマンショックを経験したり、いろいろとありましたけど、長く続けているとそれを回避する術も身についてきたので、ちょっとダメだからといって諦めるということをしなくて良かったなと、いまになって思っています。

つい、銘柄に恋をしてしまう

大江:なるほどね。(株式投資を)始めてから今日に至るまで、いろいろなことをご経験されてきたと思うんですけれども、何か記憶に残っていることとか、印象に残っていることはありますか。いっぱいあるでしょ?

杉原:いっぱいありますね。やはり知識がないので、基本的にはネットでわりと一般の方がコメントされているものなどを拾って、「いついつに何かの発表がある」とか「ニュースがある」という気配を感じて、買うことが多いんですけど。まだ知識がないときは、けっこう飛びつきやすくて、気配だけで買っちゃって紙切れになってしまった……上場廃止になってしまった企業もありました。

大江:そんなこともあったんですか。

杉原:大きい企業だから「まさか上場廃止にはならないだろう」と信用しちゃったり。

大江:なんとなくどこかわかりますけれども(笑)。ネットの情報は、よくご覧になるんですか?

杉原:私は本当に知識がないので、基本的に自分の好きなジャンルしか買いません。例えば、私はゲームが大好きなので、ゲーム関係の企業だったり、わりと新興系の銘柄にチャレンジすることが多いです。

大江:先ほどの藤野さんのお話でもありましたけど、やはり自分の好きな分野に投資するというのはいいことですよね。

杉原:やっぱり関心が持てない銘柄だと、あまり調べないで乗っかってしまうということもあるので。

大江:やはり自分の好きな銘柄や関心のある分野に投資をして、うまくいくことが多いんですか?

杉原:そうですね。ライバル企業もちゃんとチェックしますし、ゲーム関係だとわりと隅々までわかるので。でも、それが故に銘柄に恋をしてしまうことが多くて。

大江:銘柄に恋をする? おおっ。

杉原:ファンになってしまって、手放す時期なのに手放せなくなってしまうことも多くて、その辺の見切りがすごく不得意なんです。

大江:なるほど。今のはわりとうまくいったお話かもしれませんが、「これは失敗したな〜」ということはありますか?

杉原:例えばゲームだと「すごく大きなゲームが(配信)スタートしますよ」ということがあると、スタートしてからもやっぱり伸びるじゃないですか。そのゲームのランキングがどんどん上がっていくから、「もうちょっと、もうちょっと」って思うと、そのまま(株価が)急降下して塩漬けになってしまうことがよくありました。

大江:そういうことは、けっこう多かったんですか?

杉原:多いですよ。私は基本的に、デイトレの銘柄以外は損切りをしないというスタンスでやっているので、いつかその(下がった)株価も、自分が買った位置には戻るだろうと思って待つタイプなんですけど。そうすると5年とか待つものも出てきて、すごく効率が悪いのかなと思います。

大江:そうですね。よく「塩漬けがすべてを奪う」という言い方をすることもありますけどね。つい売り時を逃してしまって、長期で持つことになってしまうということですね。きっと、そういう人がは多いでしょうね。

杉原:損切りのノウハウやテクニックがあればできるかもしれませんが、下手に損切りしてもうまくいかない気がして。あと私は(株式投資が)本業ではないので、そこまで時間を割くことができないので。

大江:そうですよね。時間が割けないので、ついついほったらかしになってしまうということも、あるということですね。

杉原:あります、あります。

テクニカル分析は必要?

大江:具体的に、(株式投資を)いろいろとやってきて良かったこと・悪かったことを聞かせていただいたのですが。今、悩んでいることはありますか?

杉原:私はそんなに細かくテクニカル分析しないほうなんですけど、やはりプロの方から見ると、もう少しちゃんと分析をしたほうがいいんですかね(笑)。

大江:テクニカル分析ね。しなくていいでしょ。

(会場笑)

杉原:あっ、いいんですか!?

大江:はい(笑)。

杉原:ちゃんと投資をやっているからには、もっともらしいことをしないとと思って。(銘柄選びの)理由付けを探しても「なんとなく」ということが多いんです。

大江:なるほど。なんとなくね。

杉原:はい。

大江:テクニカル分析って、いわゆるチャート分析ですよね。投資の世界には、いろいろな流派があるんですね。例えば「テクニカル分析派 対 ファンダメンタル分析派」とか、投資信託では「パッシブ派 対 アクティブ派」というものがあったり、「バリュー派 対 グロース派」などがいます。それぞれが自分の流派を、ある種の宗教みたいに信仰をもって、ほかの流派のことをボロクソに言うとか、そのようなことがありがちなんですね。

私は、投資ではそういう思い込みを持ってしまうことが一番ダメで、すごく頭を柔軟にしなければいけないと思っているので。私は基本的に、テクニカル分析をそれほど重視していません。

杉原:そうなんですね。

大江:先ほどの藤野さんのお話にもあったように、「長期的な利益と株価は一致する」というのは、まったくその通りだと思っているので。やはり、将来にわたって得られる利益のすべてを合計したものを、今の価値に引き直したものが、今の株価だということが、絶対の真実なので。ですから基本的には、企業のファンダメンタル分析が大事だと思っています。ただ一方で、株式投資には人間の心理がものすごく影響するんですよね。

杉原:そうですよね。

大江:最近話題の「行動経済学」というものがあります。ノーベル経済学賞を受けた、シカゴ大学のリチャード・セイラー教授の話などが、その行動経済学なんですけれども。やはり人間は、どうしても心理的なことに揺さぶられてしまうので。理屈は正しくても、そうではないことをやってしまうんですよね。なので、チャート分析で見る過去の株価の動きというのは、そのときの人間の心理の動きを表しているわけです。

ということは、仮に人間(の心理)が500年経っても1,000年経ってもあまり変わらないとすれば、過去の人間がどんな行動をとったかという軌跡を分析してみるというのは、一定の意味はあると思っています。

ただ杉原さんがおっしゃるように、ちゃんと分析してやらなければいけないかというと、必ずしもそうでもないと思っています。なぜかというと、真面目に研究すればするほど、だんだん信仰に入り込んでしまって、それにハマってしまうんです。

杉原:ああ、なるほど。

大江:やはり、いろんな面から多面的に物事を考えたほうがいいですから。ハマってしまって「チャートがすべて」みたいに思ってしまうのは、ちょっとどうかなと思います。

杉原:わかりました(笑)。

大江:専門家の人や株式投資をしている人から、やっぱり「チャートって大事だよ」ということはよく言われるんですか?

杉原:そうですね。「本当にテクニカル分析は大事だ」と教わっています。私は独学で、なんとなくの気配で買うことももちろんたくさんあったので、(今は)たまたま成功しているだけ。初心者だとわからずにチャレンジできるんですけど、「そろそろちゃんとやらなきゃいけないのかな?」と、ちょっと不安になってきたんですよね、最近。

大江:そろそろ、ちゃんとやらなきゃいけない。株式投資は、さっき言った「将来の利益と株価は必ず一致する」というお話は、まったくそのとおりなんですけどね。でもそれって、その将来の利益がどうなるかは、今の時点では誰もわからないわけですよね。

杉原:そうですね。

大江:もちろん分析して、いろいろ考えていくことはとても大事なんですけども、だからと言って、それで完璧なものはあまりないわけですよね。だから、あまりそこは考え過ぎなくてもいいんじゃないかなと思います。

杉原:はい。あとちょっと気になっているのは、私は週トレ用と中長期用、新興系と大型株とで割合を分けていて、どちらかというと新興系のほうが割合が多いんです。今、日経平均もすごく上がってきているので、これからはもう少し大型の株を、長期的に持ったほうがいいのかなと考えています。資金がそんなにあるほうではないので、新興系を短いスパンで売買することのほうが多かったんですけど。

大江:どうでしょうね。短いスパンで売買すること自体は、良いとも悪いとも言えないと思うのですが。杉原さんが主力でやってこられた新興系というのは、もちろん玉石混淆的なところはありますけれども、株が入っていることは事実です。

さっきの藤野さんのお話の中で、ソフトバンクの孫さんがラーメン屋をやっても、その姿は想像できるけど、東芝の人は……みたいな(「ラーメン屋で成功しそうな社長」の会社に投資するという)話がありましたよね。

企業の成長性を考えたときに、自分の中でポートフォリオを作って、その中で大型株を一部持っておくことは、考え方としてありかもしれません。ただ、新興系の企業を軸にしていくのも、そんなに悪くないと思います。

杉原:そうなんですね。大人の方々は「もっとしっかりした、安心な株を」と言うんですけど、安心といっても何が安心なのか、というところがありますよね。

大江:そういう“安心な会社”は最近、いろいろな偽装問題がいっぱい出てきていますからね。

杉原:そうですよね(笑)。

大江:必ずしも何が安心かというのはちょっとね、難しいところですよね。