誰もが「ファンドマネージャー」のお世話になっている?

藤野英人氏:みなさん、こんにちは。レオス・キャピタルワークスの藤野でございます。「明日から使える、会社を見極める3つのポイント」という題でお話をしたいと思います。

意外と、こういうテーマでお話をすることは少なくて。(ふだんは)「投資の楽しさ」とか「素晴らしさ」ということを伝えることが多いんですが。今回、45分という短い時間ですが、比較的コンパクトに、投資の魅力だけでなくて、具体的な方法についてもお話をしたいと思っております。

まずは、私たちの仕事からご紹介させてください。まず私ですけれど、藤野英人と申します。レオス・キャピタルワークスという会社の代表でして、「ひふみ投信」「ひふみプラス」のファンドマネージャーをしております。1966年に富山県で生まれました。それから国内外の会社を経て、2003年にレオス・キャピタルワークスという会社を創業しています。

ということでさっそく、この次にいきたいと思います。

「ファンドマネージャーとは」ということですが。みなさんは、ファンドマネージャーと会う機会ってそんなにないと思うんですね。ファンドマネージャーという人は、みなさんにとってそれほど身近ではないと思うんですが、みなさんは全員100パーセント、ファンドマネージャーのお世話になっています。それはなんでかと言うと、みなさんがこれからもらう年金のお金というのは、ほぼ100パーセント、誰かが運用しているんですね。その運用している責任者のことを「ファンドマネージャー」と言います。

みなさんの年金が引き落とされて、そのお金が銀行や証券会社もしくは国の倉庫・金庫に貯まっているわけではなくて。そのお金が集められて、株式や債券に運用されています。だからみなさんのお金は、ほぼ100パーセント、誰かがどこかで運用しているんです。その責任者が、ファンドマネージャーです。

あとは、みなさんが銀行や証券会社に預けているお金が、また誰かに運用されてます。その運用している人が、ファンドマネージャー。また、投資信託の運用者もファンドマネージャーと言います。

(私が)ファンドマネージャーになって、(2017年で)28年になります。「ひふみ投信」というファンドを運用しています。経営理念は「資本市場を通じて社会に貢献します」という考え方をもっています。あと、よく聞かれるのが「『レオス』とはどういう意味ですか?」ということですが、ギリシャ語で「流れ」という意味になります。今会社全体でいうと、2017年の10月末で5,512億円の運用資産残高になっていますが、昨日(2017年12月5日)の段階だと、6,100億円という金額になっています。

私たちは3つの特色があります。「成長企業に投資をする」ということ。それから「守りながら増やす運用に挑戦する」ということ。あと「顔が見える運用」というところで、私自身や運用している残り5名のファンドマネージャーが、こうやって(講演などで)顔を出して、自分たちの考え方を伝えています。

嫌いな人が発信した情報は、受け入れにくい

では、「ファンドマネージャー・アナリストって、どういうことをしていますか?」ということですけれど、毎朝8時半から銘柄ミーティングをしています。これは僕らの特色なんですけれど、すごく雑談のようにして話をするんですよ。「いろんな会社に行ってきました」とかね。レポートを持って話をすることももちろんあるんですけれど。「昨日友達と会った」とか「こういう話をした」とか。「遊びに行ったけれども、こういうところがおもしろかった」とか。

あと、「昨日読んだ新聞でこういうことがあるけれども、私はこのことに対しては賛成だ、反対だ」みたいなことを、みんなでわーわー言います。すごく大事なことは、この「わーわー言うこと」なんですね。その時に僕が、「いや、お前の意見が正しい」「正しくない」と言うことは、まったくありません。とにかく会話を促すということが大事で、みんなでわいわい議論するということを、とても大切にしています。

みなさんは、「情報を伝えるときに、プラグがあったらいいな」と思いません? (自分の)脳と(他人の)脳にプラグをつなげて、ダウンロードもしくはアップロードとかをすることによって、情報を伝えたいな、って思いますよね。

情報って、伝えるのがなかなか難しいと思います。思いとか感情とかも含めて。僕らが情報を人に伝えるためには、人間というのは素晴らしくて、1人で完結している。(1人で)行動できて、物を作ることもできるし、移動することもできるし。それから、話すことも考えることもできるし、知識もメモリーもあるんですけれど。コンピューターと違って、つなげることは難しいんですね。

だから、情報を共有するためには、根本的に2つしかありません。なにかと言うと、「視覚で伝える」か、もしくは「音で伝える」しかないんですね。空気を震わせて、要は会話で伝えていく。もしくは映像や紙で伝えるとか。こういうことしか、情報って伝えようがないんです。そうすると僕らは、会話で伝えるか、音で伝えるかということを、徹底してやらなければならないんだけれども。

その時にすごく大事なことはなにかと言うと、僕らは好きな人の情報と嫌いな人の情報だと、嫌いな人からの情報って、なかなか受け入れにくいですよね。みなさんもそうですよね。嫌な奴からの情報って、受け取りたくないじゃないですか。好きな人からの情報って、受け取れるんですよね。ということは、情報をお互いにやり取りする時に、けっこう重要な問題がなにかというと、「お互いに信頼関係があるか」。お互いが好きであるという状態が、すごく大切です。

だから僕らがものすごく大事にしているのは、とにかくいい仲間であること。別に親友である必要はないけれども、少なくとも「この人は尊敬できる人だ」とか、少なくとも「嫌いではない」という状態にすることが大事で。そうすると、心と心がつながっていると、それがブロードバンドになるんです。(心と心がつながっていない)嫌な奴だと、ナローバンドになるんです。そうすると、いかに「ブロードバンドで人をつなげるのか?」は、お互い信頼でつながっていて、(お互いを)楽しくするっていうことが、大事なので。

だから、僕の会社が「すごい運用会社で、成績を上げてる」って言うと、ファンドマネージャーがこうやって(手招きして)奴隷みたいに人を集めて「良い銘柄を言え!」とか言って、それに対して「お前はなんだ、これ違うじゃないか!」とかね。「そういうことをやっていそうな雰囲気だ」って思っている人が多いんだけれども、ぜんぜん違っています。もうゲラゲラ笑いながら、遊んでるのか仕事をしているのかわからない状態というのが、実は僕らの会社のすごい強みなんですね。

僕、前の会社とかいろんな会社にいたんですけどね。けっこう感じ悪いんですよね(笑)。「銘柄会議」というと、重箱の隅をつつくような議論をしているんですよね。「このバランスシートの減価償却費のところが、君の試算だと3パーセント違うじゃないか」とか。「関係ねーだろ、そんな3パーセントなんて」。そういう議論をする。要するに、頭がいいか悪いかなんていうところを測ってもしょうがなくて、それよりもいい情報をどんどん出せるようにということが、とても大事だと思います。

毎日、1社から4社ぐらいの会社とアイデアルミーティングをして、地方出張・海外出張もばんばん行くと。とにかく、あらゆることが情報です。みなさん、投資の情報は、株式市場の中に眠っていると思っているかもしれませんが、多くはフィールドにあります。「フィールド」とはなにかっていうのは、こういう現場(イベントなど)です。こういう現場にあるんです。お店とか、売り場とか、工場とかそういう中にあります。

だから、「本当にいい会社を探しだすために、大事なことは何か?」っていうと、ふらふらすることなんですね。ふらふらして、世の中がどうなってるのか、何が売れてるのか。どういうものが食べられているのか。どういうことが今話題になっているのかに対して、敏感である人が、投資についても成功しやすいと思います。

株式投資の本当の魅力は、世界がカラフルに見えること

「そもそも、株式投資って?」ということですが。私は「株式投資とは未来を作ること、明るい未来を応援すること」だと思っています。これにはいろいろな考え方があります。「そうじゃない、そんな甘っちょろいこと言うんじゃないよ」「(株式投資は)やっぱり頭を使って、勝つか負けるかのゲームだ」。そういう考え方があるのは、わかります。別に、それは否定しません。ただ、私たちが前提とするのは「明るい未来を作ることだ」ということです。

(株式投資の本当の魅力は)お金が増えるということではなくて、けっこう大事なことは、「会社とは何か」「社会とは何か」「人間とは何か」というのがよくわかってきて、暮らしている世界がカラフルに見えること。これが、株式投資のいいところなんですね。みなさんが株式投資をして、もちろん「この銘柄は上がるか下がるか」「儲かった、損した」っていうのも、株式投資の醍醐味なんだけれども。でも、株式投資を通じて、より社会を知るとか、世の中を知るとか、人間を知る。こういうことをすると、より楽しくなると思うんですね。

生活そのものが、私はカラフルに見えると思います。「(世界には)いろいろな人がいて、いろいろな考え方があっていい」と思うんじゃないかなと思うんです。実は、これが株式投資の本当の魅力だと思いますし。

世の中がカラフルに見える人とモノクロに見える人だと、どちらが投資成果をあげやすいのかっていうと、カラフルに見える人の方がいいわけです。なぜかというと、情報がそれだけ多く入ってくるということですね。世の中をモノトーンで見てる人っていうのは、情報が入りにくいわけです。

長期的には、利益と株価は一致する

「じゃあ、個人投資家はどうやって、投資する会社を見つければいいのか?」という問題があります。まず1つの前提は、「長期的には利益と株価は一致する」ということです。(だから)成長する会社に投資をしようということが大事です。これはどういうことかと言うと、短期的に言うと、株価はマーケット全体の動きに引っ張られているんです。マーケット全体の動きというのは、けっこう世の中の気分に引っ張られます。

今日(2017年12月6日の日経平均株価は)前の日よりマーケットが下がりました。なんで下がったのかというと、(アメリカ大統領のドナルド・)トランプさんの一言なんですね。「これからイスラエルの首都をエルサレムにして、そこにアメリカ大使館を置く」っていうことを、唐突に言ったんです。「こんなことがあったら、中東は大混乱になるよ」っていうことで、多くの投資家がびっくりしました。そして、日本の株式市場がそのとき開いていたので、売却をしたということがあったわけです。

もちろん、これは重大なできごとかもしれませんが、ひょっとしたらあとでトランプさんが、「あんなことを言ったけど、なし!」みたいなことをする可能性も、ありますよね。だから、そういう一言一言で株が上がったり下がったりすることも、間違っていません。投資とは、そういうものなんです。

でも、毎日毎日の動きは予測できないんだけれども、半年、1年、3年、5年……というような(長期的な)目で見れば、この株式市場のおもしろいところは、利益と株価がほとんど一致するということなんですね。利益が3倍になったら、株価もほぼ3倍になる。利益が3分の1になったら、株価は3分の1になるんです。だから、「長期的になにを見るのか?」っていうのは、「本質的に、その会社の利益は上がるのか下がるのか」を見ることが大事です。

かつ、今の株式市場はものすごく短期主義なんですね。短期的な業績のところで、上がったり下がったりします。例えばある会社が、成長したいがために、工場や物流センターを造ります。(設備)投資をします。そうしたら、よりコストがかかりますよね。そうすると、最初の予想よりも利益が圧縮されてしまって、利益が下がることがあります。そうすると、今の日本の株式市場では「あ、これは利益が下がった。利益が下がったということは、株価も下がるべきだ」と言って、けっこう株が下がります。なぜかというと、多くの投資家が短期主義だからです。

しかし、よく考えてみると、この「工場を造る」「物流センターを造る」ことによって、将来の価値がもっと上がりますよね。そうすると、本来はその前向きな投資をすることによって、(そのときは)利益がたまたま下がっちゃったというところです。株が下がるというのは、3年・5年というところで見ると、大チャンスでもあるわけです。要するに、時間リスクさえとることができれば、前向きな投資をして株価が下がった会社は、すごくチャンスがあるんですね。

だから、私たちはけっこうそういう会社を今拾うことができて、すごくハッピーです。短期的には、株が下がります。でも、3年とか5年でそれが元に戻って、さらにその価値が上がれば、株価は前より3割・4割上がるということです。前の価値から3割下がったところで言うと、要は6割から7割、3年とか5年で上がる可能性が高いんですよね。3年とか5年で、6割から7割のリターンを取れることって、悪くないじゃないですか、今のこの低金利の時代に。こういうチャンスが、いっぱい巡っているということなんです。

要するに、時間軸を変えることによって、売りと買いの意見がまったく変わってくるところがあるので。私たちは、「長期的には利益と株価が一致する」というところを、とても大切にしています。とくに「長期的に見る」ということですね。

だから、前向きな投資をして(株価が)下がっている会社には、けっこう僕らは投資をしています。それが半年とか1年とかになってくると、(投資した分が)戻ってきて、株価が上がります。そういう面で見ると、投資って、長期の時間が取れる人にとっては勝ちやすいマーケットになっているんです。これが、僕が強くオススメしたい考え方ですね。