プライバシーに対する考えも変えなければいけない

竹中平蔵氏(以下、竹中):お待たせしました。みなさんからぜひ、コメントやご意見をいただきたいと思いますが、演説はご遠慮ください。ぜひ手短にどなたかに質問ということで、何人かいかがでしょうか?

(会場挙手)

それではお願いします。まず3〜4名、手短にお願いします。

質問者1:私のところはヘルスケアの領域にいますので、患者さんや社会にどのように貢献のできるものをつくっていくかをイノベーションでつくり上げるわけですけど。そのイノベーションをやるときに、今、データがものすごく必要になるんです。

そこで一番壁にぶつかりそうなのが、やはり個人データの保護です。それを社会的に、どのようにうまくバラしてデータを使えるようにするか。究極的には、遺伝子データみたいなものも社会的に使えるようにしていかないと、止まってしまうので。イノベーションを加速するために、データの扱いをうまく法整備をしていただきたいと思います。

竹中:ご意見ありますか?

世耕弘成氏(以下、世耕):これは本当に大きな問題だと思ってます。これは日本人全体のプライバシーに対する考え方ということも、変えていってもらわなければいけない部分。当然個人の健康データが洩れるようなことがあってはいけないので、匿名化をどうやるかは、これは技術的に解決をしていかなければいけないですけども。

そういったデータは、ある程度みんなで自由に扱えるということ。プライバシーの概念を少し寛容にしてもらうということも重要ではないか。今、個人情報保護っていうのはものすごく大変ですよ。そこまで気にするんだったら、Facebookとかやめとけばいいのにな、と思うぐらいですね(笑)。

そういうプライバシーはアメリカのIT企業に渡しているのに、本当に名前とかそういうことについては非常に管理が厳しくなっているわけです。この辺はある程度、突破をしていかなければいけない、大きな分野だと思っています。

竹中:はい。政府内の議論でも、だいたい個人情報保護の部局の方が、こういう議論に対しては非常に……まあ、その方は一生懸命やってるんですけど、後ろ向きの話になっていて。でも、そこをクリアしていきましょうという話だと思います。

法律による事前規制か、事後規制か

質問者2:先ほど話題になった国家戦略特区の、ワーキンググループをやらせていただいています。水野さんがおっしゃった、「チャレンジする企業を応援する日本」になるところが一番大事だと思っているんですけども。それをやるために、例えば事前規制からやってみた結果を見て、必要な規制だけをあとで考えようという新しい考え方が出てきて。

竹中先生がおっしゃった、レギュラトリー・サンドボックス(編注:現行法の規制を一時的に停止する規制緩和策)というチャレンジを日本がしようとしています。ただ、規制改革の仕事にちょっと携わってきた経験から言うと、やっぱりうまくいくケースとうまくいかないケースの1つの重要な違いは、ちゃんと法律的な根拠があるかどうかというところです。

例えば、サンドボックスなんかは産業競争力強化法、あるいは特区法があります。いずれにしても、法的な根拠をしっかりして、そして枠組みをつくったうえでやるという環境をぜひ整えていただきたいということで。すみません、お願いになりましたけれども、よろしくお願いします。

竹中:今の内容は、実は大変深い議論がそこにあります。経済産業省の事務方は今のところ、事前に法律で規制するっていうやり方にあまり積極的ではないんですよ。それは大臣、ガツンと1つお願いします。

世耕:いずれにしても、これは次の通常国会にですね、産業競争力強化法の抜本改正というなかでレギュラトリー・サンドボックスをしっかり入れますので。私はちょっと、まだその具体的議論は参画してないので。今いただいたご意見をよく頭に留めながらやりたいと思います。

竹中:大臣まで上がってないと思いますけども、産業競争力強化法でやると、実は予算関連法案になって、時間がないとかね。だから、特区の別の法にしていただくという知恵も含めて、大臣よろしくお願いいたします。

まずは日米でルールを決め、アジアへ展開していく

質問者3:僕は競争はよいことだと思っています。問題は競争の質だと思います。

日本の場合には、どうしても国内で価格競争で過当な競争をしてしまう、ということだと思っています。従って僕の提案は、競争しながらもまず世界に向けて発信をする。と同時に、ユニークな存在として価格競争には入らないで、そして十分なプロフィット・マージンを得て、そのうえで再投資をしていくことが重要だと思っています。

今はどうしてもマーケットシェアが価格競争に入ってしまうので、プロフィット・マージンをスクイズしてしまって、結果的には誰も儲からなかったっていうことになると思うので。ぜひともみなさん、がんばって、ユニークな存在として世界に打って出ましょう!

竹中:(世耕氏を見て)コメントよろしいですか?

世耕:はい。非常に重要なご指摘で。実は、生産性をもっとも簡単に高める方法は、値段を上げるということなんですよね。これもう、日本はデフレマインドが長年、染み込んでいる。逆に経営者のみなさんには、値上げをする勇気、値上げをしても売れる製品をしっかりとつくっていただくということが非常に重要だと思っています。

竹中:はい。お待たせしました。どうぞ。

質問者4:前提の確認です。Connected Industriesをやるときに、日本企業は世界でいろいろな情報を持っています。インドネシアとかタイとか、フィリピンとか。

そういう国と一緒にコネクテッドしようというところで、私のなかでちょっと器が小さいので「中国や韓国とも本当にいいのかな?」というところがあります。どういうところだと、前提としてConnected Industriesが発展するんだろう、というところをちょっとご指導いただけるとありがたいと思ってます。

世耕:Connected Industriesは、世界にしっかりと広めていかなきゃいけないと思っています。もうすでに、とくにタイとは具体的な話し合いをはじめています。なぜならば、自動車産業を中心として、タイというのは日本の大きなサプライチェーンのなかの重要な拠点であります。こういったことはしっかり進めていきたい。

「Connected Industries」「協調、協調!」と申し上げていますが、一方でデータ保護の枠組みも非常に重要です。ここの議論も、サイバーセキュリティも含めてしっかりと進めていきたいと思います。

例えば、これから日米の経済対話で議論していくなかで、そのデータの流通に関するルール。これをしっかりと定めていく。日米でガチッと固めることで、それをアジアとか中国にも、守ることを求めていくという展開もしっかりとやっていきたいと思います。

「国の景色」を変えるために必要なもの

竹中:はい、じゃあ最後に1問お願いします。

質問者5:竹中先生にぜひおうかがいをしたくて。元総務大臣でありますが「景色を変える」という言葉が、私は大変好きで。じゃあどうやったら景色を変えられるんだろうか? というアドバイスをいただきたいです。

先ほどのテスラの話があって、人を轢いて事故があった。そのときにテスラが言ったのは、「いやいや、人が運転している確率に比べて、私たちの自動運転は何万キロ走ってこれぐらいの確率だから、まったく問題ありません」と言い放った。そして、アメリカの社会はそれを許しています。日本もまさに、企業にチャレンジを求めるのであれば、そういう景色に変えなきゃいけない。

国会議員は法律にメッセージを乗せて景色を変えようとしますが、一方で、なかなか世耕先生ほどメッセージングが強い政治家もいない。なかなか景色が変えられていません。政治も乱れて、この日本の景色を変えるうえで、そういうチャレンジができる国の景色に変えるにはなにが必要か。ぜひ竹中さんからアドバイスをいただきたいです。お願いします。

竹中:はい。ありがとうございます。これはもう、景色を変えるためにG1サミットやっているわけで。みんながG1サミットに注目すれば、景色が変わると思うんです。実は景色の変え方って、いろんなパターンがあるんだと思うんですね。本当に政治がリーダーシップをとってガーンッてやって変える。例えば、郵政民営化がこれだったのだと思います。

同時に、やはり民間の人たちのなかでコンセプトリーダーが出てくる。そのコンセプトリーダーがメディアに働きかけながらいろいろ変えていくっていうのも、すごく重要なやり方なのだと思います。外圧で景色が一気に変わる場合もある。

それぞれに相応しいやり方があるんですが、私は先ほど大臣に「政府がやったらどうですか?」と言っています。

本当は民間がやらなきゃいけないんですが。実は政府が使えるお金というのは、民間に比べたら桁違いに大きいんですよね。だから政府がちょっとやることによって、その波及効果があることは1つの工夫として、今の状況ではつくれるのかなあと。そういう思いでいろいろ申し上げました。ぜひ、でも本当にがんばってやっていただきたいと思います。

「国の景色」を変えるヒントは「もっと上からの見地で考える」

竹中:さあ、もう時間がなくなってきましたので、最後に今までの総括として締めのコメントをしていただきたいと思います。水野さん、お願いします。

水野弘道氏(以下、水野):はい。ありがとうございます。じゃあ、景色を変えることについてコメントですけど。景色を変えようとしたら、視線を下げるか、上げるか、どっちかしかないということで。よりミクロにいくか、マクロにいくかだと思います。

最近、欧米の投資家のなかでよく使われているキーワードで「Holistic View(ホリスティック・ビュー)」というものがあります。これはようするに「もっと上からみた見地でものを考えましょう」ってことなんですけど。それをできるような人を増やしていくことが重要だと思っています。

もう1つは、いろんな、思いもかけない組み合わせをつくることだと思っていまして。今度GPIFは、我々の運用の活用にAIを使うというのを、AI系の企業の方といっしょにローンチいたします。これは「GPIFみたいな古臭い、ダサい会社がAIを使うんだ」っていうサプライズを狙ってまして(笑)。

そういうサプライズがたくさん起きれば、景色が変わるんじゃないかな、と思っております。ぜひみなさん、よろしくお願いいたします。

竹中:やっぱり政府が使えるお金は桁違いに大きいんです、実はね。

(会場笑)

水野:うちは少ないです(笑)。

竹中:いやいや(笑)。世耕大臣、最後に1つメッセージをお願いします。

世耕:はい。先ほど講演の最後で、協調領域をしっかり広げてくれということをお願いしましたが、もう1つお願いしたいと思います。投資してください。我々は内部留保に課税する、なんてばかなことは言いませんので(笑)。

(会場笑)

だけど、そのぶん投資をしていただきたいと思います。よろしくお願いします。

(会場拍手)

竹中:はい。どうもありがというございます。世耕さん、水野さんに、どうぞ大きな拍手をお送りください。ありがとうございました。

(会場拍手)