『ブレードランナー2049』を語ろう

しみちゃん氏(以下、しみちゃん):『ブレードランナー2049』いきましょう。

山田玲司氏(以下、山田):やりましょう。ブレードランナーです、奥野さん。

乙君氏(以下、乙君):はい。

山田:興味のない時に、お前は顔がしみすぎ。

乙君:興味ありますよ。

山田:え?

乙君:ありますあります。ただ、俺みたいなSF初心者が…。

しみちゃん:初心者。

乙君:ブレランなんて語れないですもん。なんかバーっというから。

山田:これがな、今回のブレードランナーはあなたのための映画だったんです。

乙君:どういうことでしょうか?

山田:ブレードランナー問題、オヤジのためのコンテンツ祭りはいつまで続くのかっていう問題から行かなければダメなんだって。これは明らかにハリウッドが文化としてのそのエネルギーを失ってる証拠だよね。

マーケティングでエンディングをドンドン変えていくようなやり方、それからアートシアター系がどんどん潰れてってそれの多様性がどんどん失われていくっていう、本屋とまったく同じ状況が続いてるの。

乙君:へー。

山田:それで安全策要するに投資目的で集まった人間が回収するがための産業としてなってしまったんで、完全に魂を抜かれてる状態なわけね。

『スターウォーズ』などの思い出コンテンツ

山田:それで、なにが確実かって言ったら思い出コンテンツなわけよ。

だから40歳のオッサンが10代の時に見たヤツばっかりになってしまうわけ。そうすると最近のやつだと、まぁまぁやらかした『スターウォーズ』は77年、まだやるか『マッドマックス』、まだやるか『シン・ゴジラ』は54年の作品ですからね。

乙君・しみちゃん:はー。

山田:これはみんな大好きだから何度も何度もゴジラゴジラですよ。そのたびにあーだこーだ言ってきて。82年のブレードランナー、これお前が生まれたぐらいだよな。

乙君:そうですね。僕は81年なんで。

山田:81年、だからお前が生まれた頃。ただし、ブレードランナーの原作は68年なんで俺が生まれた直後ですから。これがさっき言ったフィリップですよ。

フィリップ・K・ディックの名作SFの中の名作SFを語るやつはモグリだっていうか、「仮免も取ってないぞ」って言われた作品の映像化のブレードランナーがあまりにもすべてを変えてしまったから大騒ぎなの。

これに頼らないで、そしてこの「MC/DC」に頼らなければならないくらい、終わってるじゃないかっていうのは、1個ありますよね。

乙君:AC/DC。

山田:じゃなくて。マーベルとDCですね。

しみちゃん:あー。

乙君:あーそういうこと。

山田:あなたの大好きなMC/DCですが、そういうことなんです。あまりにもオジサンのための映画祭りにしすぎてるんじゃないか。最近の作品だと(クリストファー・)ノーランブランドがあれば、『ダンケルク』OKみたいな。

若者に退屈なコンテンツが増えてきた

山田:(ドゥニ・)ヴィルヌーヴ(注:『ブレードランナー2049』の監督)も全作品を買ったからメッセージみたいな。今回も昔やってたアメコミみたいな感じになっちゃってね、退屈っちゃ退屈になってきたなって。もしくは俺たちのための時代がやってきてるみたいな。

そしたら若者が完全に置いて行かれる。だから若者はアーカイブ派じゃないと楽しめない。だから、ブレラン今度できます、出ます、1作目からもう1回ちゃんと見ますってやつは楽しめたっていう流れになってるんで。

YouTubeありきっていうか、それのコンテンツを掘り起こせるがゆえの時代になって復活してるっていう流れもあって、今回はこれはこれでいいかなてちょっと思うところがあって。

ブレードランナーが今っぽいんだよ。どこが今っぽいかっていうと、要するにさっき言ってた俺のための本みたいな。だけど、「それ工業製品じゃん」「みんな同じ本持ってるじゃん」「それって俺たちもじゃん」っていう、「俺たちそんなに違いあるの」っていう。だからクラスにいたやつはだいたい同じ顔してたじゃん。

乙君:みんな、モブじゃんと。

山田:そう。そういう個性のない俺たちに価値がないのかみたいな。だから個性がないと困るヒーローアカデミーみたいな。要するに替えのきく既製品である。そういうふうな労働者として生きていかなければいけない。

「たいやきくんシンドローム」の時代

山田:悲しみみたいなのをものすごく感じるようになってきた昨今みたいな。かつて、この時代はあったんです。ブレラン直前にありました。

これが先週も言ってた「たいやきくんシンドローム」です。

乙君:はー。うま!

山田:上で焼かれて嫌になっちゃうんですよ。で、海に1回出てくんだけど、また釣られて焼かれて、「やっぱり俺は少し焦げ目があるたい焼きさ」なんて言ってたのは75年です。これオイルショックの時なんだよ。大不景気なのよ、この時代って。この時代の空気、今まさにそうなの。

一部の人たちは儲けてるのかもしれないけど、実感としてみんなブラック企業で家賃を払うのがギリギリみたいなときに、ブレードランナーぶち込まれてきて。ここで来るテーマが実は「たい焼き派」対「セカハナ派」の戦いになってるわけです。ナンバーワンじゃなくてもいいんだ。オンリーワンのセカハナ(世界の花)ですねいわゆる。

乙君:世界に一つだけの?

山田:花です。

乙君:あー。

山田:そうですそうです。新しいチルドレンなんです。これがゼロ年代なんですよ。「俺たちは特別なんだよ」って思いたかった、「ゼロ年代なんてこうだったんじゃないか」っていう時に、これ行ってたのに結局、「同じような派遣社員で同じような仕事にしなければいけない俺たちって結局たいやきなんじゃないの」っていう今の時代にこの作品にぶつけてきたっていうのが…。

乙君:ブレードランナー?

アンドロイドは電気羊の夢を見るか

山田:ブレードランナー。タイミングがめちゃめちゃいいぞっていうのがありました。なんでかっていうと……。

乙君:なんでですか?

山田:その原作のアンドロイドは電気羊の夢を見るかという自体がそもそもレプリカントっていう人間の偽物。生きたドール、フィギュアみたいなもの、既製品みたいなもの。要するにたいやきくんなわけですよ。

が、殺されるって話なんですよ。それを助けてしまって逃げていく話なんで、実を言うと、ちょっとおもしろいんだけどね。

乙君:原作がってことですからね。

山田:実は原作がとにかく、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」っていう、疑問文なんだよ。奥野さん。

乙君:はいはいはい。

山田:遠い未来にすべての第3次世界大戦があって、当時、60年代の時代、第3次世界大戦があってほとんどの動物がいなくなってしまった。虫すらいない。原作では虫すらアンドロイドでそれ通販で買いますからね。

乙君:虫のアンドロイドなの?

山田:そう。だから蛙とセットにしますみたいな。そこで主人公の冴えない役人がいるんだけど、刑事か元刑事かな? そいつが奥さんに隠れてほしいなって思ってるものがあるんだよ。それが電気羊なんだよ。羊変えないから。だから羊のアンドロイドみたいなものが欲しいみたいな。古くは『たまごっち』『ファービー』みたいなものですよ。

乙君:あー。

山田:あれがだんだんリアルなAIになり。そして、『her/世界でひとつの彼女』があって、流れがあるじゃん。あれが本当原点みたいな。おもしろいのがデッカードっていう…。

乙君:ハリソン・フォードのね。

山田:ハリソン・フォードなんだけど、これがまたちょっとロッキーテイストはいってるんだよ。「現役退いて俺はもう終わりじゃねえか」みたいな。これが一発できるっていうか、なんとかしたいっていう。

アンドロイドの人間愛がテーマとなる

山田:原作では羊なんだけど、映画の方ではレイチェルっていうレプリカントと恋に落ちて、こっちを助けちゃうっていう話なんだけど、このレイチェルっていうレプリカントは要するに、フィギュアとかバーチャルアイドルとかAIみたいなもんなんだよ。

しかも4年間で死んでしまうっていう。だから限定された命で、どっかで聞いたことあるよね。今書いてますけどね。俺もチルドレンなんです。限定された命しかない。

これは人間じゃないってわかってるのにこっちの方が人間らしく感じてしまった。レッカードは、だから先に行っちゃおう。こいつは新作のここで出てくるときに、「愛さずにはいられない」っていう曲が大好きなんですよこの人。(エルヴィス・)プレスリーの愛せずにはいられなかった。

これはどういうテーマかっていうと、レイチェルが生身の人間よりも人間ぽかったんですよ。ここにおける大テーマっていうのが、この後普遍のテーマっていうか、70年代の中心のテーマってなってくる人間ってなんだってことを最初に深堀りしたのが、このブレードランナーだった。

乙君:あー、そうなんだ。最初の作品なんだ。

山田:そこからどうしよう。とりあえず68年だからね。それで失われていく人間性みたいなものが戦争のときとかあるわけだよ。

これナチスが入ってるって言われてるんだけど、要するに「○○裁判」ってあったじゃん。要するにユダヤ人を殺す事務的に処理するだけだ。俺は命令されてただけだと。そんな日々が……。

乙君:あーなるほど。

山田:そうそうそう。そんな日々がずっと続いてくと人間性を失って共感を失ってしまって人の痛みなんかわからなくなってしまう。むしろ、そういうやつの方がむしろ人間じゃないんじゃないかって。レプリカントよりも共感しなくなったのが非人間的じゃないかって。これがおもしろかった。

山田:それで蜂問題ですよ。

乙君:ハチ? あー、蜂ね。

山田:1作目では共感力のないレプリカントは蜂を握りつぶすことをできるって。平気で殺せるっていうふうに言われてるんだけど、今回こっちは全然違うことになるって話だよね。

乙君:それはダメでしょ言っちゃ。

しみちゃん・乙君:(笑)

山田:知ってください。

(一同笑)

乙君:しれっとさ。

山田:いや、今日は多分あれをします。

乙君:玲司さん。あれJOY、YじゃなくてIらしいですよ。

山田:細かいところが。

乙君:嫌だって…。

しみちゃん:(笑)

山田:細かいところが。

乙君:コメントの方です。

山田:ありがとう。俺はちょっとそういうのダメなんだ。人間なんだ、レプリカントじゃないから。

しみちゃん:(笑)。

山田:やべーなー。