ドコモの「副業OK」の歴史は意外に長い

浜田敬子氏(以下、浜田):私、先ほど事前に中山さんとお話しした時に「ドコモは実は副業が禁止されていない」と聞きました。日本の大企業はけっこう禁止されているところが多いので、「へえ」と思ったんです。NPOとかけっこういろんな活動をされている方もいらっしゃるんですよね。

中山俊樹氏(以下、中山):今日、事前に少しお話しして、「あまり利用はされていないと思うんですけど、うちは就業規則で副業を禁止してないんですよ」と言ったら、少し反応されていらっしゃったので。ちょっと空き時間に制度の経緯などをいろいろ調べてみたんですが、どうも歴史は長くてですね。

浜田:えっ、そうなんですか。

中山:NTTになる前ぐらいからかもしれないんですが、もう、数十年に渡っていろいろなやりとりがあったようです。今は、NTTと分かれてドコモになってますけど、NTTグループは、もともと地元と繋がった勤務形態をしていたんです。

わかりやすく言うと、「実家は田んぼをやっているんだけど、電報配達もします」「畑の仕事を手伝いながら電話を交換やる」など。そういった歴史の上にどうも成り立っているようです。どうも、新しい働き方改革で格好良く「副業どうぞ」とやっているわけではなく。よくよく調べてみたら……私も知らなかったんですけど(笑)。

浜田:でも、そういう意味ではもともと日本って兼業農家があったから副業をやっていたじゃないですか。私も田舎の育ちなので、工場勤務で三交代で田んぼをやっていますね。

中山:なので、「家業で辛いながら少しでも」がどうも発祥のようです。

浜田:なるほど。古くて新しいところですね。

中山:そうですね。「古きを温ねて」のような感じもします。

ドコモが考える、戦略的副業

中山:じゃあ、新しいかたちで働いている人間がどれぐらいいるかというと、まだそんなに多くはない。例えば、仕事が終わると地元に帰って、空手教室の先生として地元の子どもを教えている。これはボランディアじゃなくて、ちゃんと授業料、お月謝をいただいて働いている。

こういうのはすごく健全だと思うんですね。ですから先ほどお話しして、こういう外の経験値をもっと意識的にお互いに取り込む。個人としても取り込むし、会社、企業、組織としても取り込んでいくことは必要だなと改めて思いましたね。

浜田:今、副業解禁の企業というのは「戦略的副業」と言って。外にどんどん出稽古みたいに出させて、そこで人脈とか知見も広げて「本業にも戻してくれるといいな」という期待も込めて副業を解禁されているところもあります。「いやいや個人の人生なんだから好きに使いなさい」というかたちもあります。いろんなパターンがあると思います。

中山:そういう意味では私たちが意図的にやっているのは、今お話にあった出稽古というものをけっこう意図的にやっています。会社の中にいながら数年、1年、2年、3年と、まったくの異業種に挑戦する。昔で言うと「出向」と言ってもいいんでしょうけど、かなり戦略的な出向なので出稽古と呼んでいます。

あともう1つは「就業時間外にやってね」という前提があります。これは完全に副業と呼んでもいいと思いますけど、NPOの活動などですね。

今、やはり「社会に貢献したい」「地元に貢献したい」「コミュニティに貢献したい」という社員は非常に多い。「私たちはそれを応援します」ということで、今年は100いくつの方法があり、25個のプロジェクトの支援をしています。100万円単位でお金を少しサポートしている。

お給料という意味ではなくて活動支援費という意味なんですけど、「地元の活動をがんばってね」をやり始めていますね。

浜田:それは本業へのいい影響というよりは、その人たちの夢を応援するというところが大きいですか?

中山:プロジェクトのスタートは「夢を応援する」でした。ドコモが今、25周年なので、ドリームピック的な発想でやったんですけど、実はすごくプロジェクトの一つひとつが真面目で。例えば、自分が病気を抱えている、その病気のコミュニティの子供たちや、もしくは自分たちの同じ病気の友達を励ますイベントをやりたいとかね。

もしくは、介護のNPOで、もっと介護できる人の数を増やしていきたい、ベッドの数を増やしていきたいとか。すごく真面目なんですね。ですから、僕らが今から考えていることは、それらは少なくともCSRという意味で仕事とすごく絡んでくるところだし、仕事にどう反映させるのかというのは、逆に彼らから投げつけられているテーマかなという感じはしますね。

副業によってどんな付加価値をつくっていくかが大事

浜田:先ほどから「企業の枠を超えて」「就社という意識を超えて」という話をしておりますが……。実はBusiness Insiderでもこの間報じたんですけれども、いよいよ政府も副業解禁、むしろ企業は副業を禁止できなくなる時代になります。ガイドラインも整備するということが決まりつつあるようなのですが。

岡島さんは、こうした大きな流れも受けて、会社の中に留まるという発想がどう変わっていくと考えていらっしゃいますか?

岡島悦子氏(以下、岡島):ありがとうございます。先ほどの働き方改革の話ととても関係があるんですけども、どうも長時間労働を減らすという分母の話ばかりされています。今日のテーマになっている分子の話、「空いた時間がどんな付加価値をつくっていくことに使われるか」にはあまりならないなと思っていたところに、「副業解禁」とありました。

面積が一緒じゃないといいなと思っています。出てくる付加価値が副業することによって、中山さんがおっしゃっていたような「CSRじゃなくてCSVにつながってくる」じゃないかなと思っているんですね。

先ほど留目さんもおっしゃっていたプロジェクトの話でいうと、イノベーションを考えた時には、なるべく離れたものの掛け算が必要です。それから非連続の成長。さらに言うと、今までお客様の中にニーズがあるだろうと思って会社をつくっていたわけですけども、お客様のニーズをみんなでつくる、今までなかったものをつくる。マーケティングでいうと顧客インサイトというものなんですけども。

今、私たちはスマホをすごく使ってますけども、ドコモさんありがとうございます(笑)。たぶん15年前とか20年前には使い方がまったく理解できていなかったというか、想像すらしていなかった。そこから、使っている人がどんどん使い方を考えていったと思うんですね。新しいものをつくっていくときには顧客競争ということで、お客様と一体になってとにかくつくっていく。

先ほどの丸井もそうなんですけども。売り場でいろいろなことをテストさせていただいています。売り場自体はショールームのようになっていて、ネットでお買上げいただくみたいなかたちになってますし、博多の丸井では売り場をつくること自体もお客様とずっとやってきた。600回ぐらいお客様会議をやっていたら、お客様が勝手に社員になっちゃったみたいなこともありましたね(笑)。

浜田:めちゃくちゃお客様のモチベーションが高そうですね。

岡島:1階、2階は雑貨、化粧品、洋服も売ってなくて、だし屋やジュース屋になっているんです。でもそこにニーズがある。そうなってくると空いた時間にどうするかと言うと、私たち自身は消費者自身の顧客体験をもっとしていかないといけない。お客様がなにを欲しいと思っているのかを一緒につくっていかないといけない。

(フィリップ・)コトラーも「全員マーケッター」ということを言ってますけども。ずっとオフィスにいてもなにが楽しいかがわからない。

成熟社会になってくると「モノ消費からコト消費」みたいなことを言われているので、エンターテイメントなりスポーツなり、いろいろあると思うのですけども、そういうことを私たちが消費者として体験していくことがおそらく戻ってくる。

その時には1人でつくるのではなくて、お客様と一緒だし、ある意味いろんな会社の外の人たちとも、借り物競争的にプロジェクトチームをつくってやっていくというかたちになってくる。

60年働き続ける秘訣は「タグ付け」

岡島:そうするとここから大事なのは、実は会社の名刺ではなくて、その個人がなにを付加価値として出せるかという強みみたいなものです。そのプロジェクトチームに想起されるかどうか、脳内検索に引っ掛かってその場に呼ばれるか、みたいなことがすごく必要になってくる。

浜田:大事ですよね。

岡島:それが60年働ける秘訣だと思っていて、これを「タグ」と私は呼んでいるんです。ここにいらっしゃるみなさんは、このいろんな「タグ」の強みみたいなものを持っていらっしゃると思うんですけども、そういうかたちでの借り物競走に呼ばれるかどうかという社会になっていくんじゃないかと思っています。

そういう意味では「副業解禁」は1つ目のかたまりだと思っています。ただ、そこで気を付けないといけないのは、会社から逃げるみたいな時間の使い方ではやはりダメだといことです。「自分はなにが好きなのか」を見つけていくことに寄与するような副業だと、きっと先々に繋がっていくのだろうなという気がしますね。

浜田:まさに、先ほど留目さんがおっしゃったプロジェクトですね。でも、お客さんの側に自分が回ってプロジェクトに参加するということもアリになりますね。

岡島:ありますね。

浜田:「私、そんなにすごい社員じゃないし」と言っていても、お買い物好きの「好き」があれば1つの「タグ」になって、自分の会社ではなくて、別の会社のプロジェクトにお客様として参加したり。

岡島:そうするとオーナーシップが出てきて、いつか社員になってしまう。なぞの感じですけども、素晴らしいなと思っています。

浜田:でも、それがやりがいや仕事の楽しさということになるんですよね。

岡島:今日の「働く」についての価値観と関係があると思うんですけども、お金を稼ぐ働き方ではたぶんなくて、とくにミレニアル世代の人たちは、社会とどのように繋がっているのか、自分がどう役に立っているのかみたいなことがものすごく気になっているようなので。ますますそこは加速されていくと思いますね。

「複数のタグ」を持つことが強みになる

浜田:最後のテーマが、「長時間より長期間」という言葉が岡島さんからもあったのですけども。まさに「人生100年時代」と政府も言っていますけども、「人生100年時代になった場合の年齢からの解放」「超年齢時代の可能性」。

定年という言葉も、もう少ししたらなくなってしまうのかもしれないですけど、その辺りを最後のテーマにしたいと思います。年齢を超えて「何歳までになにをする」という価値観からの解放と捉えたいと思います。

今度は留目さんのほうからお話しいただきます。留目さんご自身は、キャリアの中で年齢は意識されていますか?

留目真伸氏(以下、留目):昔は、今みたいな時代とは少し違っていたと思うのですけど。やはり自分も若いうちに大きな仕事をしたい、若いうちに出世したいとがんばっていた時期も確かにありました。それはそれで意味がなかったとは言わないのですが。

ただ、今考えているのは本当に「いかにフラットになれるか」だと思っています。今のお話の中に出てきている通り、プロジェクトに呼ばれるような人間になるということだと思うんですよね。そのプロジェクトは一度に何個もやってもいいし、順繰りにやってもいいわけなんです。しかし、やっぱりいろんな役割をできたほうが自分としての強みだと思うんですよね。

浜田:複数の「タグ」を持つということですよね。

留目:そうなんですよね。「なにがなんでも自分がリーダーじゃなきゃいけない」「自分が上じゃなきゃいけない」かというと、そんなことはないんですよね。こういうプロジェクトだったらこういう役割でもいいし、こういうプロジェクトだったらこうでいいし。むしろそのほうが楽しいですし。

自分自身もいろんなプロジェクトをやりながら、若い方ともお付き合いしますし、年長の方ともお付き合いします。もう普通に定年を迎えられて他にやられている方ともお付き合いします。そういう意味で、なんとなくこれまで考えていたような社会の仕組みや働き方、年齢に関する偏見みたいなものをいかになくせるかというのが、今はテーマになっていますよね。

なので、自分も「年齢不詳ですよね」と言われるんですけど、年齢不詳のままいきたいと思ってます。そうやってがんばっていくことで、年齢のハードル、壁を下げることになれたらなと思うんですよね。

結局、将来的にはさっき岡島さんがおっしゃっていた通り、プロジェクトにいかに呼ばれるか。それってプロジェクトのなかで経験値が出て、あるいは評価をもらって、ソーシャルとかいろんなところで繋がって、将来的には、「こういうプロジェクトをやりたい」って言ったら、AIが探してきてくれるんじゃないかなと思うんですよね。

「こういうメンバーだったらそのプロジェクトの成功の可能性は何パーセント」「だけど、ここにこの人が入ると何パーセントになります」みたいな。そういう時に呼ばれるような人間になっていたいなと自分も思いますし、うちの社員もそういう考え方でやってもらいたいなと今思っています。

プロジェクトと人の相互作用

浜田:経営者としてなるべく年齢を意識しない、年齢による偏見をなくす、組織をフラットにされるということなんですけど。具体的に、なにか気をつけていらっしゃることはありますか?

留目:そうですね。簡単なところで言うと、NEC出身の人でも、例えば今年30歳で事業部長にしたんですよね。

浜田:若いですよね。

留目:大抜擢しまして。これまでのNECの会社のなかではたぶん50歳を超えないとならないポジションに30歳で事業部長にしました。私も外資系の仕事をしていた時には、事業責任を負うポジションに就いたのは36歳とかそれぐらいだったんですけど、それよりも若く。

とくに日系のオペレーションの中でリーダーにしたというのはすごく象徴的でしたし、それでもやっぱりうまく動いていってますから。そういうことを意識していくのは大事かなと思いますね。

浜田:逆に、当然、年齢がいった人の降格もあるし、年齢を飛び超えるということになると、その人たちがより長い期間働くことへの意欲やモチベーションを持ち続けなくちゃいけなくて、その人たちにも常にやりがいを持ってもらう。逆に、そっちのケアはどうなんでしょう?

留目:役割分担ですよね。例えば、その人事異動の時も、実はそれまで上司だった人が部下になったんですよ。

浜田:へえ。

留目:その方も50歳を超えていらっしゃったんですけど、そうは言っても専門の分野ですごく強いところはあったので「そこの部分を活かしてサポートしてください」「それをさらにこういうふうに発展させてください」と。

そうは言っても、誰もがリーダーになればいいわけではないので、上に行くというのでなくて、横に行ってもいいし、斜めにも行ってもいいし、あるいは外にもっと広げてもらってもいい。

そういう意味で、プロジェクトがプロジェクトとして動きやすいかたちにするというのが一番だと思うので。まずは人よりも事業だし、結局は相互作用なんですけどね。事業の目的があって、組織があって、人。人を活かすというのも、本来あるべきナチュラルな形に組織していくということだと思うんですよね。

「年齢で昇進」はイマジネーションやクリエイティビティーを奪う

浜田:ありがとうございます。中山さん、日本の企業の多くはまだ新卒一括採用で転職もされる人はされるけども、されない方はずっと1社にいらっしゃって定年までに勤められる。私が前にいた会社も、「アイツはそろそろ何歳だから、そろそろ課長に」はしょっちゅう言われていてですね。本当に「順番に」という感じだったんですね。

そのあたり、定年延長どころか100年時代に意味をなさなくなってくるんじゃないかなと思うんです。ドコモではどのように考えていらっしゃるのでしょうか?

中山:私たちにとっては、今の留目さんの話を聞いていても、そこは最大の課題だなという感じはしています。正直、私たちの会社組織は未だにやはりシニオリティというか年齢で昇進をしていく、昇格をしていく要素が非常に強い。もちろん、途中退社をしたり、途中で入ってきたりする、出入りも含めてですけども、まだまだそういう要素が強い。

課題なのは、若い人を活かそうと思って抜擢をすると年寄りの元気がなくなったり、シニアを「もっとがんばって」とやると年寄りがいつまでも居座って若い人を押さえつけるなどの難しさがあります。そのため、なかなか一歩目が踏み出せないというのが、正直なところだと思います。

結論から言うと、先ほど岡島さんが言われていたように80歳まで60年キャリアという世界の中で、やっぱり一定の年齢で、課長になったり、部長になったり、もしくは退職したり、定年になったりというのは、人のイマジネーションやクリエイティビティーを奪っていく、損なっていく、年齢で諦めちゃう、チャレンジしなくなるなど、そういう要素のほうがおそらく多いのだろうなと。

これをどう私たちの仕組みを変えていくかというのは、僕らにとって大きな課題ですね。

浜田:日本の多くの大企業で言われるところは、ここで本当に悩んでいることが多いなと強く感じます。やはり日本の企業は年齢で「ここまでがんばってきたから、課長ぐらいにはしてやらないといけないよな」という会社が多いと思うんですね。

岡島さんは、先ほど「長期間の視点を持ちましょう」とおっしゃっていましたが、実際に多くの企業を見ていらっしゃってどうですか?

岡島:私、今ベストセラーになっている『40歳が社長になる日』という本を7月末に出して、世の中的にはかなり敵を作りまして(笑)。

浜田:あれ、すごいシニアとしてはね(笑)。

岡島:「40歳以上はどうするんだ?」というご質問もたくさん受けたわけなんですけども。真意は2025年に40歳の社長がおそらく日本企業でもたくさん出てくる。これは未来予測ではなくて、そのための仕込みを大企業でだいぶやらせていただいているんですね。サクセッションプランニングと言うんですが。

年齢と役割が関係なくなる時代のために、今できること

岡島:具体的に言うと、数万人の企業、数兆円の時価総額のような企業で、100人ぐらい母集団をつくりまして。一番下は28歳ですから、10年後に社長になる日は38歳。上は45歳ぐらいまでなんですけども、この方たちをどんどん配置していくというようなことを、複数の企業でやらせていただいています。

もちろん企業のなかでも、今ずっとお話にあった「年長者のモチベーション管理はどうするんだ」という議論はすごく出てくるんですけども。

2つありまして、1つはこれ社長をつくろうとしているんだよねという話なんですね。副社長や常務などをつくろうとしているわけではなくて、「THE社長」をつくろうとしている。とても変わった人をつくろうとしているプロジェクトです。

そういう意味では今の価値観ではまったく理解できないような変わった人をつくろうということなんですが。「そんなに大変なことを本当にみなさんやりたいですか?」と。「40歳以上で私たちどうすればいいですか?」というような方々が、「じゃあ、あなた本当に社長になりたいですか?」と。

2025年から2027年のドコモの社長さんは、ますますグローバルになっていて、ほとんど1年の3分の1ぐらいは飛行機に乗っている。そしてコンプライアンスも大変で、銀座でも遊べず、身綺麗にもしておかないといけない。それで、毎日、毎日、意思決定を死ぬほどしなければいけない。

「こんな孤独な仕事を本当にあなたはやりたいですか?」「そうじゃないなら文句言わないでください」というようなことを今、企業のなかでは申し上げている感じなんですね。これが1つです。

それからもう1つは、今、お話にも出てきたように、おそらく役割がだいぶ変わってくるということではないかと思っています。これはもう年齢ではないのですが、プランニングをする人とエグゼキューションする人という役割分担が年齢と関係なく出てくる。

ネットもしくはモバイルで物を売っていこうという時には、私たちの世代にはまったくわからないというようなことがある中で「でも、エグゼキューションはこの人たちはできるよね」というようなことがあったりするわけです。役割が変わっているだけで、ヒエラルキーや士農工商、ましてや偉さではない。

そのため「お客様のために価値をつくる」「そのためにどんな役割で貢献しますか?」という価値観布教みたいなことを多くの企業でやっていただいています。

岡島:ものすごく簡単なことでできることだけ1つ申し上げると、今「さんづけ運動」というものをすごくやっています。

浜田:あっ、肩書で呼ばない?

岡島:はい。まず肩書で呼ばないということがすごく大事です。降格などすごく起こるので「部長、あっじゃなかった部長代理」は大変なんですよね。すごく面倒くさい(笑)。それから、体育会の名残りなのかわからないですけど、私も商社育ちなのでどうしても若手の男の子のことを「留目君」と呼びがちなんですよね。これは上下関係がすごくわかってしまう。

「留目君」だった人が本部長になるかもしれないわけで、自分の上司になるかもしれない。すべての人を「さんづけ」にするということは、私がマッキンゼーにいた時にすごく矯正されたことなんです。呼び方でヒエラルキーを表さないことが文化になっていくので、これは今すごく機能し始めている感じがあります。

浜田:それは1つの価値ですよね。フラットな組織をつくる価値という。かたちから、大事ですよね。

岡島:そうですね。なのでわかりやすいかたちですかね。

若者の多くが「Will迷子」「ビジョン迷子」「好きなこと迷子」

浜田:ありがとうございます。まだまだいろいろお聞きしたいことがたくさんあるんですけども、もうあっという間にあと5分になってしまいました。すごく私自身も勉強になりました。おもしろかったです。

最後に一言ずつ。このセッションではもうむしろ、働き方改革ではなく、働き方や仕事ということを突き詰めて考えると、どんな価値が生まれるのかをみなさんにうかがってきたわけですけども。改めて、この議論を通して感じられたことをぜひうかがいたいです。今度は、中山さんのほうからでもよろしいですか?

中山:私自身もすごく学ばせていただいたことはとってもあって、気付きもたくさんあったんですけども。今日、持って帰りたいテーマは、最初のテーマです。やっぱり、場所と時間をどうやって超えられるのか。

フレックスになると長時間労働になっちゃうということも同じだと思うのですが、時間による評価とか時間による価値ではなくて、価値そのものをどうやって評価できるのか。もしくは場所も時間も超えて、その付加価値をどう評価できるか。

ここの腹を私たちがしっかり持てば、この先いろんなチャレンジもできる。きちんとテイクできないと、すごく生産性の低い会社になっちゃう感じを非常に強く持ちました。ありがとうございました。

浜田:ありがとうございました。じゃあ、岡島さんお願いします。

岡島:ありがとうございました。大変おもしろかったです。

今日は多様性、ダイバーシティというテーマだったわけなんですけど。ダイバーシティは属性ではなくて、つまり男女や年齢、国籍などではなくて、視点や経験だと思っているんですね。ただ、今まで不具合があってなかなか機会に恵まれなかった女性や若者はもちろんいると思っているんですが。

この「視点」をうまく入れていくことが、たぶんイノベーションにすごく繋がるのではないかなと思っているので、それを叶えたいなと今日また改めて思いました。

そしてその時に、最近学生とか企業でいろいろお話をしていると、長期間働くという今日の話とかかわって「なにをやりたいのか」という話にどうしてもなるんですよね。個人の中での多様性という話も今日出てきたと思うんですけれども、たくさんの若者が実は「Will迷子」「ビジョン迷子」「好きなこと迷子」みたいになっている。

浜田:そうね。「好きなことがわかりませーん」みたいな。

岡島:「わかりませーん」という方たちが多くて。これは当たり前だと思っていて、たくさん経験しないと出てこないと思うんです。今日は学生の方もいらしているとうかがっているので、この「好きなことがなんなのか」を経験できるようなことをやっていかないといけない。

今日もプロジェクトがたくさん入るみたいな話があったんですけども、そういうことをやっていかない限りは、60年働いていくのはちょっとしんどいだろうなと思いつつですね。

そういう場を渋谷区も含めてどうやって提供していくのか。これは私たち大人としての責任ということもきっとあると思います。「自由は自らの由縁」みたいなことだと思うのですけども、みなさんはなにが好きで、なにが好きだったら60年働けるのか、に少しヒントがあるんじゃないかなと思いながらうかがっていました。ありがとうございます。

「新しい生き方」に適合できる社会や会社にしていきたい

浜田:ありがとうございました。今日もいろいろな「悦子名言」が出ましたけども(笑)。留目さんはいかがでしょうか。

留目:ありがとうございます。本当に勉強になりますので、メモをたくさんさせてもらいました。私も『LIFE SHIFT』を読ませてもらって、自分はちょうどあそこに出てくるジミーですか。だから3ステージのライフプランが軋み始める、もう軋んでしまっているという世代とちょうど同い年だったんですね。

浜田:あっ、そうですか。

留目:すごく共感して見ていて。社会や会社が今、新しい人生の生き方に適合していないじゃないですか。自分は経営者としての立場もいただいているので、それをいかに合うものにしていくのかが自分の役割だと思っていますし、それを突き詰めてやっていきたいなと思っているんですよね。

とはいっても難しく考える必要は実はなくて。例えば、株式を買って投資をしていると、そういった時にどんな経営者に会社を任せたいのか、どんな会社に投資をしたいのか。そういうことを考えていくと、なんとなく経営者としてやるべきことが見えてくると思っています。

同じように生活者でもあるので、「生活者としてこんなサービスもあったらいいな」「ここのところはこういうテクノロジーと、こういうものと組み合わせたらいいんじゃないか」。あるいは「この会社とこの会社とこの会社のサービスは、なんでこういうふうに一緒になってないのだろうとか」。そういう想像をするところからでも、価値を生むなにかになる可能性があるわけですよね。

その時、昔だと「それってこの会社がやることだから、なかなか手が出せないんじゃないか」と思って敬遠していたことが、今ってそうではない。外でいくらでもお金もついちゃうし、人も集められちゃうし、だったらやっちゃったらいいじゃない? みたいな。

そういう気軽な感じでもっとプロジェクトをつくっていけたらいいなと思っていますし、そういうことをサポートできるような会社や社会の仕組みをつくっていきたいなと思っています。

浜田:ありがとうございます。今日は「働き方改革が価値を生む」というテーマだったのですが。働き方を考えていけばいくほど、「働くってなにか」「仕事ってなにか」「会社ってなにか」「人生でどう自分が過ごしたいのか」というすごく本質的なことまで考えないといけないのだと、改めて感じました。

なかなか若いみなさんにはハードルが高いことかもしれないですけど。でも、先ほどおっしゃったように、「じゃあ好きなことがわからなかったら、嫌なことはなにだろう」「こんなサービスがあったらいいな」など、そういうことだったらみなさんもふだん考えていることもあると思います。そういうものを考え続けていくことが、きっと新しい仕事や新しい働き方に繋がるのかなとも思いました。

本当にありがとうございました。とても楽しかったです。みなさんお三人の方に再び大きな拍手をよろしくお願い致します。

(会場拍手)