本当のプロジェクトは社外にある

浜田敬子氏(以下、浜田):では、午後のパネルディスカッションに移っていきたいと思います。

今まさに、政府をあげてやっている働き方改革。このセッションでは、この働き方改革によって生まれる新しい価値観や新しい世界とはどういうものだろうかというのを、3人のパネリストの方たちと一緒に議論していきたいと思います。どうぞよろしくお願い致します。

最初にみなさんから「あなたにとって働き方の価値観が決定的に変わった出来事」を、ご自身の自己紹介を兼ねて、よろしくお願い致します。では、留目さんから。

留目真伸氏(以下、留目):はい、よろしくお願いします。レノボジャパン株式会社とNECパーソナルコンピューターという会社の社長をやっております、留目でございます。

もともと自分のキャリアは日系の会社から始まっていて外資系にいって。今は外資系半分、NECパーソナルコンピューターという日系をベースにした会社もやらせてもらっているんですけど、もともと外資系と日系のミックスみたいな。そういったダイバーシティというのは自分のフォーカスかなと思っていたんです。

最近、パソコンのビジネスから、スマートフォンやタブレット、それから今、VR、AR、スマートスピーカーというところまで製品が広がりつつあるわけですね。そうなると、本当に外資系とか日系とかじゃなくて、もう社内でも売り方がわからない。そもそも市場にそのまま出してもなにに使えるのかわからない。

価値にならないものをどう価値にしていくのかというところで、会社をコラボレーションしたり、スタートアップの方とやったり、いろんな方からアイデアをもらって、いろんな人とプロジェクトをやる。なんて言うんですかね、社内の仕事をするというよりも、みなさんと一緒にプロジェクトをつくりにいく。そういう意味でダイバーシティもそうですが、私も社員の働き方も、変わっていかなければいけないと考えています。

浜田:そうですね。今までの「自動車の会社」「家電の会社」が、あまり意味がなくなってきたので。今は、自分たちが製品やその中の動きに合わせてどんどんプロジェクト化していく感じですよね。

留目:そうですよね。会社という存在はなくならないと思うんですけど、ただのツールなどを提供しているだけで、本当のプロジェクト主体は外にある。なので、そことどう関われるのかが重要になってきていると思うんですよね。

「主語は自分」になって大きく変わった働く価値観

浜田:また後でくわしくお話をうかがえると思います。そして岡島さん、こんにちは。同い年で仲が良いので「えっちゃん」と言ったほうがしっくりきますけど。いつも「岡島さんの仕事はなに?」と聞かれると「岡島悦子です」とおっしゃっていますが。

岡島悦子氏(以下、岡島):「仕事、岡島悦子」ということで。

浜田:そのあたりも含めてお話しいただけますか?

岡島:今日はありがとうございます。岡島悦子です。株式会社プロノバというコンサルティング会社をやっております。大変わかりにくい仕事なんですが、メディアでみなさんがよくご覧になるような社長の方々のリーダーシップ開発のコンサルティングをやらせていただいています。今の社長さんにもっとリーダーシップをつくっていっていただいたり、それから次の10年後ぐらいの社長をつくるプロジェクトをたくさんやらせていただいています。

専門はリーダーシップ✕イノベーション。今日のテーマと非常に関係があります。いろいろな企業の次の経営チームが、どうしたらもっとイノベーションを起こせるか。その文脈でダイバーシティ推進もかなりお手伝いをしてきています。

今、200社ぐらいの会社でお手伝いをして、女性が多かったりもしますが20,000人ぐらいの方々とダイバーシティ推進のプロジェクトをやらせていただいているという感じです。

今、5社の社外取締役をやっていまして、それ以外にもたくさんの会社のアドバイザーなどをやっています。「個の中の多様性」みたいな話も今日はちょっと出てくるかなと思っています。30ぐらいの役割りをやっている毎日になっています。

浜田:岡島さん自身が最初に三菱商事に入られて、次にハーバードビジネススクールに行かれて、その次がマッキンゼーとなると「キラッキラ」のキャリアのように見えるんですけど。

岡島:世の中には私の経歴が嫌いという人がいて、2chにたくさん書き込んでいただいているようです(笑)。

浜田:ご自身の中で働き方や働く価値観みたいなものが変わったときはあるんですか?

岡島:手短に、とも思うんですけども。今日の話でも出てくると思うのですが、今の経歴をお聞きになっておわかりの通り、もともと承認欲求が非常に高いタイプで、周りからは「すごいね」、親からは「偉いね」と言われることが大好物みたいな人生を歩んできてしまったので。

自分が会社の社長に15年ぐらい前になったときに、やっぱりそこで「嫌われる勇気」みたいなものですかね。実現したいことはなんなのかという、はじめて主語を自分にできるというかたちになったことは、非常に大きな価値観の変化かなと思っています。

電電公社の民営化とともに変わった仕事人生

浜田:はい。ありがとうございます。それでは中山さん、お願い致します。中山さんはドコモという日本を代表する大企業を代表してきていただいたんですけども。ご自身が働いてきた中で、働き方やキャリア感が変わったときはございましたでしょうか。

中山俊樹氏(以下、中山):もともと会社に入ったときにまだ電電公社と言われていて、ドコモもNTTデータもない一社の時代でした。伝統的な仕事では、ほとんどの人間が組織の中に入れられます。経理、人事、私の場合は営業、そういうことを専属でやっていました。係長の下に10人ぐらいいて、その一番下っ端にいるみたいな感じです。課長は遠い、部長は遠い、ましてや役員なんて雲の上。

そこがちょうど20年前の1997年に民営化でNTTになって、その次の12年後くらいに「海外に出ていい」という話になりました。そのプロジェクトで20〜30人ぐらい集められて。ある日突然、伝統的な仕事から「ポーン!」とプロジェクトの中に入れられました。その中に部長も課長も係長もいるんですけど、みんなただの同僚。基本的に自分の部下もいない。

みんな一匹狼で「とにかく国際事業を立ち上げてこい!」と言われて。そこで、とにかく外の人に頼りました。頼れるのは外のパートナーと外国人しかいなかった状態です。ある意味ではあの時はしんどかったんですけど、自分の人生の転機と同じでしたから。大きく人生観や仕事人生の価値観を変えたのは、やっぱりその時だったんですよね。

それ以降ずっと似たような事業開発の仕事をやってきて、「ああ、あれがなかったらできなかったな」というふうに思いますね。

ドコモが実施する「勤務時間を分断してOK」な仕組み

浜田:ありがとうございます。今日は人事の方もたくさんいらっしゃると思います。企業に勤める人はやはりまだまだ多いので。企業も変わらないといけないけども、企業で勤めている人の意識も、これからどう変わっていかなければいけないのか。それについて、みなさんにお聞きできたらいいなと思っております。

今日は事前に、みなさんに4つのキーワードをお渡ししております。「今の働き方を考える上で、この4つのキーワードで考えてきてくださいね」とお話ししてあります。

1つ目のテーマは「場所と時間からの解放」にしたいなと思っています。

今まさに、テクノロジーの発達によって、会社にいなければ仕事ができない時代から、どこでも仕事ができる時代になってきた。そのあたりを含めて、これから働くという意味、どんな付加価値が生めるのか、場所と時間というものを解き放ったときに私たちはなにができるのだろうか。そういったところをお話ししていただきたいと思います。

今度は中山さんから聞きたいのですけども、ドコモはけっこうリモートワークをやっていらっしゃったり、いろんな働き方を変えていらっしゃるんですよね。

中山:そうですね。私は今、人事の担当でもあります。働き方をどこまで変えられるか、けっこういろいろな試みをしています。もちろん在宅勤務やシフト勤務というのは、かなり過去からやってきまして、だいぶ定着しています。しかし、今はシフト勤務よりはどちらかというと、完全にフレックスの方向に移行していますね。

それから在宅勤務はかなり定着してきて、今、我々の本社の中でも1,000人近くの人間が在宅勤務をユニークに使っている感じですね。

浜田:在宅するときの条件はあるんですか?

中山:一応、上長の承認ということなんです。だいぶカルチャーとしては定着してきたので、そこはずいぶん自由に使えるようになってきてはいると思います。

浜田:申請すれば?

中山:そうですね。よっぽどなにかある場合にはあれですけど。基本的に在宅はだいぶ自由にできます。それと今チャレンジしているのは……もうちょっといい名前がないかなと、うちのつくっている連中が頭が漢字になっているので「分断勤務」と言っているんですけど(笑)。

浜田:「分断勤務」!? 分断ってあの分断?(笑)。

中山:「分断勤務」とは、例えば午前中は12時まで働きに来て、昼間は介護で親の面倒を見に病院に行く。その後、在宅勤務をするなど。在宅との組み合わせが多いんですけど、その合間に分断する。「勤務時間を分断してもいいよ」という仕組みを、この10月から始めています。

あと、転居を回避する「転居しないでもいいよ」みたいな制度を始めています。これは2年間に限り、もちろん全国型の総合職みたいなキャリアパスだけど「この2年間だけはどうしても子どもの受験があるから」「どうしても親の介護があるので」を認めて、今スタートしています。

たくさん難しいことがあって日々人事担当は悩んでますけど、そういうことをいくつかやり始めています。

課題は、フェアネスとアウトプットをどう評価するか

浜田:「リモート」「分断勤務」など、ある意味、自分で働き方を選択できたりデザインできるということだと思うんですけども。

その場合にすごく大変なのは、私もマネージメントなのでわかるんですけど、マネージメント像や管理職の方の役割は非常に大事ですよね。それから、みんなでコミュニケーションをとることや、長時間労働にならないのかなど、非常に難しいなと自分自身でも思います。

そのあたりで工夫していらっしゃったり、逆に難しいと思っていらっしゃることはありますか?

中山:先ほど申し上げた、分断や転居回避などは、今年になって始めたばかりなのです。やり始めた瞬間に難しいなというのは感じているんですけど、まだ類型化はきちんとできてないと思います。ただ結局、周りから見て、その人のアウトプットがどうか、その人がフェアにやっているか、というところじゃないですか。

浜田:はい。

中山:やはり、チームをまとめる上でフェアネスとアウトプットをどう評価できているかは一番のポイントです。やっている本人たちはそれに甘えないで、チームのためにコントリビュートする感覚は常に持ってないといけない。チームワークの中でそれをやるというのは、やはりいろんな課題が出てきますよね。それでもチャレンジする価値があることだと思っているんですけど。

浜田:「分断勤務」を始められたばかりということなんですけども。リモートを少しやっていらっしゃって「ここが会社の中で変わったな」「いい感じでまわっている」「結果が出てきたな」など感じられていることはありますか?

中山:いい結果が出てきたということは……実は私も在宅しているんですけど。

浜田:そうなんですか? 週に何日ぐらいなんですか?

中山:あまり偉そうなことは言えないんですけど、2週に1回ぐらいなんです。

浜田:社長が来ないとみんなけっこうスッキリしますよね。

中山:気が楽で、僕の場合はかえって喜ばれるんですけど。やり始めて良かったなというのは……先ほど在宅勤務が定着してきたと言ったんですけど、最初の頃は在宅勤務に対してみんな疑いの目で見ているわけなんですよね。フェアネスってさっき申し上げましたけど。

浜田:「仕事をちゃんとやっているのか」みたいな?

中山:「やっているのか?」「なにか別の理由じゃないの?」「あいつはアウトプットを出しているの?」みたいな。アウトプットとフェアネスに関してはどちらかというとネガティブから始まるじゃないですか。それが繰り返しながら定着してくる。そこまでには多少時間がかかりますよね。

上の人間もやる、課長もやる、部長もやるという感覚ができてこないと、なかなか定着は難しい。ようやく少しずつという感じですね。

レノボが行う「攻めのテレワーク」

浜田:留目さんにおうかがいします。先ほど「会社」から「プロジェクト型」になってきたとおっしゃっていたのですけど、「プロジェクト型」「時間と場所からの解放」はどううまくリンクできるんでしょうか。

留目:うちもテレワークに取り組んでいて、もう2年半ぐらい前から無制限テレワークというものをやっています。当初はやはり、ワークライフの改善ということでした。

私もアメリカに勤務していたこともありまして、あまりに日本の仕事の仕方と、アメリカや海外の仕事の仕方にギャップがあり過ぎていた。もちろん制度としてはあったのに活用しなさ過ぎていたので「それをもっとやりましょう」ということで、2年半ぐらい前からやったんです。

でも、その時はワークライフが中心で、「介護離職をゼロにしましょう」「育児離職をゼロにしましょう」にフォーカスしたんです。先ほどのプロジェクトの話でいきますと、「攻めのテレワーク」と社内では呼んでいるんです。「会社の中にいないでくれ」と。

社内でできることは、今後は基本的にロボティクスだとかAIとかに替わられていっちゃうじゃないですか。本当に人間がやることは、課題を定義して、課題を解決していくことです。プロジェクトというのは外にあるんですよね。

もちろん我々としては、自分の製品とサービスが使われればそれでいい。そういう意味では、外のプロジェクトにどれだけ参加してくれるか、どれだけネットワークを広げてくれるかというのが、うちのビジネスそのものに関わってきていると思っています。

そういったところから、例えば「コーワーキングスペースの費用を補助しましょう」「むしろ社内にいないで外で仕事してくれ」と言っています。ちょうど今月はテレワーク月間なので、社員が本当に九州のコーワーキングスペースにいたり、山形にいたり、いろんなところで、いろんなニュースを届けてくれていますね。

「なぜ満員電車に乗って会社へ行っていたのか」と振り返る時がくる

浜田:具体的な悩み相談なるんですけど。私は翻訳をしたりするので朝早くに自分の家でリモートをやらざるを得ないんです。そうするとなにが起きているかというと、長時間労働になっている。起きたらすぐパソコンを広げて、そこから仕事する……みたいな。そして寝る前もちょっと気になるから仕事してしまう。

そのあたりが逆に「働き方改革になっているのかな?」と思うときがあるんです。しかし、逆にこれからは、仕事に熱心だといつでもどこでも仕事ができてしまう。留目さん自身もそうだし、部下の方も、どうバランスをとっていらっしゃるんでしょうか?

留目:難しいですよね。

浜田:すごく難しいんですよ。

留目:ただ、時間ではないと思っているので。会社としては……というか事業としては、結果や成果が出ればいいわけじゃないですか。

浜田:はい。

留目:短い時間で成果が出れば、別に長い時間働いていただく必要もない。もちろんそのほうがいいわけです。なので、今は働き方改革と言ってますけど、おそらく将来、「なんで会社で仕事してたのだろう?」「なんであんなに長く仕事してたのだろう?」など、振り返る時代がくると思うんですよね。

そういう意味では我々が近代化以前のときに工場でたくさんの労働者が働いていたり、今から言うと劣悪な状況で労働者が働いていたりするものを見て「まあそんな時もあったよね」と思っているのと同じように。もしかしたら10年、もしくはそれより前に「なんであんなふうに働いてたんだろう?」「なんで満員電車で会社に行ってたんだろう?」となる可能性もある。

浜田:通勤電車に乗らなくてよければ、本当に楽ですよね。

留目:そうやって振り返る時が来るんじゃないかなと思うんですよね。テクノロジーの進展も当然あり、社会としての成熟もあり、そしてあるべき姿に戻っていくんだと思うんですね。

「あるべき姿」とは、事業はプロジェクトであって、プロジェクトはどこにいてもできる。別に会社という箱に来なくてもできるはずです。そういうものを問い詰めていくと、「あるべき姿」になるんだと思うんですよね。そのときに「どれぐらい働くのか」はもう別にどうでもいいと思うんですけども。

浜田:かなり自立的にならないといけないということですよね。

留目:そういうことだと思いますね。

「長時間」労働から「長期間」労働へ

浜田:テレワークをもう2年半やっていらっしゃるということなんですけど。テレワークが定着してきて「これはやっぱりいい結果が出ている」「テレワークの成果だな」と思っていらっしゃるとはどういうことでしょうか?

留目:実はですね、先ほどマネージメントが難しいというお話がありましたけど、1つおもしろい事例があります。実は、会社に来ている上司は部下がなにをしているかを知らないということがわかりました。

ようするに、会社の中にいると安心しちゃうじゃないですか。「みんな働いているね。ヨシヨシ」と思っているんだけども、結局はなにをやっているのかわかっていないんですよね。

浜田:ああ、なるほど。

留目:どんなプライオリティでなにをやってもらっているかは、やはり会話しないとわからないじゃないですか。テレワークをやり始めてから、朝などに1日1回、なにをやるのか、どういう進捗なのか報告するルールで会話をしましょうということをやっています。メッセンジャーでもいいんですけど。それでだいぶ違うんですよね。

会社にいても、管理していると思っていたことが管理できていなかった。そのことがはじめてわかったというのが、マネージメント上の進化ですね。

もう1つは、いわゆる共創プロジェクト。「共に創る」ほうの共創プロジェクトのネタが増えてきていますので、そこはいいところだなと思いますね。

浜田:ありがとうございます。岡島さん、いろんな企業を見ていらっしゃると思うのですけど、「時間と場所からの解放」でおもしろい事例などご存知でしょうか?

岡島:私は、働き方改革についてはいろいろ思うところはあるんですけども。一番は「長時間」労働から「長期間」労働だなと思っているんですよね。『LIFE SHIFT』みたいなことが言われていて、おそらくここにいらっしゃるみなさんも80歳ぐらいまで働かざるを得ないということになる。つまり、60年ぐらい職業人生があるということになると思います。

今、ビジネスモデルが20年切ってきています。おそらく同じ会社の中にいても、例えばドコモさんの中にいても、三毛作のように3つぐらいのビジネスモデルを渡っていくことになっていく。その間には1人の個人として働いているみなさんもライフステージがいろいろあって、そしてプライオリティもいろいろあって……ということになってくると思うんです。

「長期間働く」というときには、優先順位もだいぶ変わってくる。働き方も長時間働く時もあれば、むしろ「子どもの受験が」もあると思いますし、グローバルでやっているのでヨーロッパ時間で起きるという方もいらっしゃると思いますし、いろいろ出てくると思うんですね。

なので、この長期間労働をベースに個人の働き方について考えていらっしゃる企業さんが増えている気がしていますね。

浜田:増えているんですね。

テレワークにも前提条件がある

岡島:ただ、前提条件はあると思います。個人の成長ステージによってもまったく変わってくる話なので、例えばですが、Will、Can、Mustでいうと、20代ではMustができるところまでは会社に来てもらう。そして自律的に働けるようになってきたところでテレワークが可能、という企業さんもけっこう増えてきています。

これは自由と自己責任がセットになっているので、自律的に働けるステージになってきたところでという、その展開がステージ別になっている企業さんもちょっと増えてきていると思います。

それから、職種にもよります。私、丸井の役員もやっているんですけども、販売の現場にいてもらわないといけないということもあるので、これについてはテレワークはほぼ無理です。

ただし、今申し上げたライフステージということもあるので。小売の現場はみなさんもおわかりの通り、夕方と週末が書き入れ時なんですよね。そうするとワーキングマザーの方たちは非常に働きにくい。なので、ジョブローテーションを20代にすごくやってもらっています。

Fintechのカード会社があるんですけども、そちらを先に経験してもらっています。ワーキングマザーの方々は産休、育休明けはFintechのコールセンターなどをやって、あるいは事業開発もやってもらって4時に帰る。そういうことも可能になってきているので、企業の中でもダイバーシティを進める。

リクルートさんや、今申し上げた丸井もそうなんですけども。20代のうちにジョブローテーションでいくつかの現場を経験してもらって、ワーキングマザーになったときに時間にあまり制限がない働き方ができる職場をオプションの1つとして設ける。そういうことを提示できるような、前倒しのキャリアみたいなことをやっている企業さんも増えてますね。

浜田:おもしろいですね。

人のかけ合わせがイノベーションを生む

岡島:あと、先ほど浜田さんが「早朝から家でやると労働時間が長くなる」という話があったんですけども。おもしろいなと思うのが、リクルートさんはサテライトオフィスを全国50カ所ぐらい置いているんです。家でのテレビカンファレンスをやると、子どもが前を走ったりして集中できないということもけっこうあるので、サードプレイスみたいなところにみなさん行っているんです。

ドコモさんもレノボさんもそうだと思いますけども、縦割りの壁がけっこうきつくなっている部署のバラバラの人たちがそのサテライトオフィスにいる。しかもサテライトオフィスは都心から離れた駅先ぐらいのところにある。

浜田:では、通勤も都心までは行かなくていいということですね。

岡島:そうです。極端なことを言えば、子どもを連れて行けるたりするので。そういう場所をつくることで、某喫茶店、某カフェのようなサードプレイスになっている。

浜田:混ざるのね、そこで。

岡島:そうですね。それで横串で逆にプロジェクトみたいなものが進んでいくハブになっているケースもあるんです。渋谷区でも、もしかしたらそういうところがどんどん出てきているかもしれないですけど。

浜田:今回のテーマは「ダイバーシティが新しい価値を生む」なので、まさに混ぜる、混ざるということがサードプレイスで行われている。

岡島:そうですね。「混ぜねば危険」と私はずっと言っていて、そういう意味ではいろんな縦割りの壁を超えて、離れたところの人がかけ合わせになるからイノベーションが起きると思うんです。そういった場所をつくるということをやっておられる企業さんも出てきている感じです。

テクノロジーの進化で、オペレーション作業は効率化される

浜田:はい。ありがとうございます。今の時点の働き方改革だけじゃなくて、もっと「長期で見た場合の働き方はなにか」というステージもきちんとつくっていくことが必要だということですよね。

今日、実は4つキーワードを用意したんですけども、かなり盛り上がって時間が押してしまって、2と3を一緒にやっちゃおうかなと思います。

2は「就社・就職・就業」というキーワードを、3では「企業を超えて」というキーワードをお渡ししたのですが、被るところがあるなと思っています。というのはですね、どういうメッセージを込めたかというと、今まさに先ほどの「長期間」働くことを考えたら、人生三毛作の時代に、1人の人が新卒で1つの会社で働くのか、というお話がありました。

では会社ってなんだろう、就職ってなんだろう、就社ってなんだろうと考えていくと、どんどん「企業ってなんだろう」「企業の枠ってなんだろう」というところに広がっていくかなと思っています。そのあたりをみなさんとディスカッションしたいと思います。

今度は留目さんからお願いしたいと思うのですけども。ご自身も転職経験がおありになって、どんどん企業の垣根を超えてプロジェクトベースになっていらっしゃるとおっしゃってましたけども、この就社とか就職という意識という自体が今後はどうかわっていくのか、ということも含めてお話ししていただけますか?

留目:やっぱりテクノロジーと働き方改革というのは、切っても切れないんじゃないかなと思ってます。やっぱりテクノロジーが発達していくことによって、我々の仕事も変わっていくし、生活も変わっていくじゃないですか。それで付加価値のつくり方が変わってきますよね。

これまで会社って、どちらかというと社内のオペレーションを回すほうがすごく大変だったわけじゃないですか。プロジェクトや課題解決そのものに直面する人よりも、社内のバックエンドで会社という仕組みを回す人がそれよりも多くて7割ぐらいの方がそれをやっていたわけですよね。

だけどこれって、テクノロジーが進化していくと、本当にいらなくなってしまうわけじゃないですか。まったくはなくならないですけど、かなり効率化されていく。もちろん、研究開発みたいな資本を大投下しなきゃいけなかったり、生産設備もどんどんブラッシュアップしていかないといけないので、そういう資本がなくなるわけではないですけど。かなりの場合、人が直接そこに携わらなくてもよくなる可能性は高いと思うんですよね。

その時にじゃあ、人はなにをするようになるのか、というと、本来やるべきだった課題解決をしましょうというそれだけなんじゃないかなと思うんですよね。

なので、近所の課題でもいいし、誰かのお友達の課題でもいいし、業界の課題でもいいし、グローバルな課題でもいいし。「課題だ」と思うことに対して、いろんな企業やスタートアップも含めてリソースが提供されるもののなにとなにとなにをどう組み合わせて、全体のソリューションを使ってつくっていくのか。

ソリューション自体もIoTの時代はもうインターネットで物が繋がってしまうので。そういう意味では、単体のものとか、この1つのサービスで解決できるものよりも、全部繋がった全体としてのサービス、ソリューションというのを考える時代になっているじゃないですか。

本当の社会人は就職ではなく「プロジェクトに参画する」

留目:そうなってくると、もちろん企業というのはスペシフィックな製品やサービスをブラッシュアップして、イノベーションして提供していくんですけど。結局、課題解決をしていく人間自体はその外側にいて、プロジェクトそのものに携わっていく。プロジェクトをつくってもいいし参画してもいいし、そういう時代になってくると思うんですね。

そうすると、就社や就職というよりは、プロジェクトに参画する。それが本当の社会人なんじゃないかと思うんですよね。社会との価値交換の仕方は、もともと課題解決であって、プロジェクトであったわけで。

それがこれまでは不自由だったので、固定化されて、そうではない仕事をたくさんしなければいけなかった。それが、そうではなくなった時にもっと自由になって、本来やるべき課題解決、プロジェクトそのものに参画して価値を出していくということになっていくと、実はすごく社会が活性化していくんじゃないかなと思います。

浜田:これから日本ではどんどん労働人口が減っていくなかで、1人の才能を1社に閉じ込めておくのは、なにかちょっともったいない。いろんなところでたくさん使ってくださいみたいな。

留目:そうなんですよ。実は、うちの社員にも、NEC側の社員だったんですけど会社を1回辞めて、渋谷区の仕事を少しさせてもらっていて、うちの仕事も少ししていて、また別の仕事もしている、というような人がいます。

浜田:それ、業務委託かなにかで?

留目:契約でやっているんですけどね。そういう人が出てきていたりだとか、働き方も本当に自由だなと。ああ、こういうほうがいいなと、むしろ思ってますね。