海外企業のスタートアップ買収事例

岩佐琢磨氏(以下、岩佐):パナソニックさんに限らず、日本の大企業さんが誤解をされるんですけど。よくよく見ていくと、買収しているのは基礎技術の会社やソリューションの会社ばっかりなんですよ。

製品の会社は買わないんですよね。それはやっぱり自分たちで作れるから。他社で有名なのは、例えばキヤノンさんとかもその傾向が非常に強いと思うんですけど。「要素技術は買うけども物は俺らが作る」と。そんなんやってると永遠にスピード出ませんよ、と思います。

たぶん、そこはこれから100年と言わず、5年・10年の課題のところかなぁと思いますね。

則武里恵氏(以下、則武):そういうのをうまくやっている事例って、なにか思い当たるものを教えていただけませんか?

岩佐:NokiaがWithings買ったじゃないですか。スパッと出てくる。

則武:あー、なるほど。

岩佐:あるいはFOSSILはMISFITを買いましたよねとか。バラバラと事例がいっぱい出てくるかなと。

則武:それはベンチャーの良さとかスタートアップの良さを失わない取り組みをなにかしているということなんですかね?

岩佐:2段階だと思ってまして、今村瀬さんがおっしゃった「買うことは買うけれども、そのあとなかなかね」っていうお話と、僕は前段と後段を分けるべきだと思っていて。買うか買わないかはディシジョンだけなので、自前主義やめなはれっていうところだけだと思うんですね。

そのあと色をなくさないかどうかは、それはまた長い話になりますね(笑)。いろんなやり方があって。ただよく言われるのは干渉しないというパターン。ちょっとこれはWithingsとかが5年後どうなっているかっていうのを楽しみに見たいなと思っているんですけども。

パナソニックにしかできない施策を

則武:(村瀬さんが)なんか苦い顔してますけど(笑)。

岩佐:(笑)。

村瀬:難しいですよ(笑)。たいていベンチャーの方って、こういう言い方はよくないけど、高く買ってもらってイグジットするじゃないですか。

例えば最終的にGoogleかAppleに買ってもらったらいいっていう人もいっぱいいるじゃないですか。そこを買った瞬間にみんな人がいなくなる話なので、ちょっと僕は考えないとあかんと思う。

それよりも我々が物のところを買わないというのはちょっと違う意味があって、次の100年はやっぱりモノだけではないなぁと。ここのコンセプトと一緒で。やっぱりコトが必要になってくる。

それがないので、どちらかと言うともし買うとしたら、もしですよ、買うとしたらコトのほうというか。ソフト屋さんになってしまうのかなぁと。我々にないところになってしまうのかなというところですよね。

則武:さっきのコラボレーションをすることで、スピードが苦手だけどそういうところができるようになるって話があったじゃないですか。それの理由ってどうしてだと思いますか? なんで苦手なことがコラボレーションでできるようになるんだろうという。

岩佐:シンプルに責任取らんでいいからじゃないですか?(笑)。

則武:そうなんですかね。

岩佐:結局やっぱり別の会社のものだからっていうかたちにすると、自分ところの会社のルールをすべて適応しなくてもいいとなるので当然早いというのと。

ただ軽い会社、小さな会社さん、スタートアップのケースの場合、決断が異常に早いですよね。なのでタイムセーブできるというのは大きい。2方面かなという気はします。

村瀬:難しいですけど、我々の会社のケースはやっぱりちょっと違うかな。とくにあの電池のビジネスはデカすぎるんで(笑)、EVが絶対いくと信じて、そのトップと言うとご存知のように今のところTESLAと一緒にやっている。

これは相手がというよりも、相手が責任を取らんでいいとは思ってないです。これは片方死んだら、もう片方も死にますので(笑)。僕らが死んだら、TESLAに電池が入らないですし。TESLAが死んだら僕らも投資したものが全部ダメになるので。我々はそこの考え方は違う。責任取らんでいいとは思ってないです。

企業同士のコラボにはパッションが必要

岩佐:TESLAの事例はちょっとこのスタートアップという例には合わない気がしますね(笑)。

則武:そうですね。でも最初に電池のやり取りを始めたときはたぶんTESLAもこんなに有名じゃなかったですから。最初のころはこういう話もあったのかもしれませんが……。

岩佐:最初というのは本当の初期のころからやっていらっしゃったんですか?

則武:ロードスターのときから。

村瀬:三洋時代からやってますから、あれは。ロードスターが三洋の電池ですから。

岩佐:なるほど、なるほど。

村瀬:そういう意味ではスタートアップも、責任取らんでいいとはそこまでは言い切れないですけどね。

逆に買う・買わないのときに慎重にしなければいけないのかなと。結局、「買ってダメだったら捨てたらええわ」とはちょっと思いにくくて、どうせ買うんだったらとことんやる。これは日本人的な。

則武:信じないとできないというのはすごく私も共感するところかなと思って。ここのコラボレーションのかたちがWILLでつながっているというところ、先ほどの前段の説明でしてたと思うんですね。そういう、うまくいくケースってなにでつながっているんだろうなっていうところについて、岩佐さんにご意見をおうかがいしたいなと思うんですけど。

岩佐:すごく月並みな表現になっちゃうんですけど、やっぱりパッションのところかなと思っていまして。「こういうもの作りたいよね」というところ。お金でつながってる関係ってだいたい容易に破綻するというか(笑)。あまりよくないかなぁという気がしていて。やっぱりパッション。

さっきのふんどし作りたいというお話じゃないですけども。「本当に俺はふんどしが好きなんや」みたいなところでつながってると、意外と双方の強みが発揮されて、スタートアップのスピード、大企業さんだったら資本力だったり、営業力だったりがあると思うんですけど。そういうものがパチッとはまるんじゃないかなという気はしますけどね。

則武:そうですね。私もそんなふうに思います。

これまでは企業の均質化した商品を押し付けてきた

則武:村瀬さんはいかがですか?

村瀬:おっしゃる通りだと思います。今までは均一化で、ちょっと言い方を考えないといけないですけど、企業が大量生産して「これがあなたにとって幸せなんです」という価値を、ある意味押し付けてきたんですよ。

自己否定するみたいですけど、そうですよね。大量生産の世界ってそうなんですよ。大量にやって「あなたこれ持ってないと恥ずかしいですよ」って。恥ずかしいとは言わないですけど。

年配の方は頷いてらっしゃいますけど、昔、「三種の神器」といって、「その家電製品を買わないと恥ずかしいですよ」っていう価値を押し付けたわけですよね。

今はそういう時期じゃないわけですよね。シェアすればいいわけですよ。別にそれを持ってなくても恥ずかしくないんですよ。1階に行ってお掃除ロボット借りて来て出勤前にやっといたらいいっていう。別に買う必要はないんですよ。レンタルでもなんでもあるんですから、そういう時代なんで。

それよりももっと違う個人個人の価値観があって、その価値観、ふんどしだったらふんどしでもいいですし、昆虫を食べるんやったらその価値観。そこでつながっていく。そういう世界。それがたぶんおっしゃってるWILLなのかなと。

次の100年は絶対そうなるし、今そうなりつつあると。だからそういう危機感の中で我々パナソニックはなんでこれをやるかと言うと、ここはどうしても必要になってくると。そういう考え方です。

100BANCHの意義とは

則武:ちょっと戻りまして、この100BANCHの意義ということについて岩佐さんにもおうかがいしたいなと思うんですね。

パナソニックみたいな会社がここでどういう活動をしていくと、次の新しいモノを生み出す力が鍛えられるのか。ここをどう活用したらいいのか、ご意見をうかがいたいです。

岩佐:わかります、わかります。ちょっとパナさんのほうでもどう使っていいのか思いあぐねているというか、考えあぐねているなっていうのは伝わってくるところがあって。

ただそれくらいでスタートしたのはすごく早くてよかったなと僕は思ってます。まさにさっきの話じゃないんですけど、スピードが一番大事だと思っていて。私はスタートアップの人間なので。

立ち上げてプロジェクトを1期2期とやってみる中でいろいろ見えてきたことが多いと思うので、まず1つはたぶんそういう立ち上げから含めてクイック・アンド・ダーティーなやり方というものを学んでいただくというか、体験していただくというのはパナソニックにとっても意味・意義があるかなと思います。

100BANCHプロジェクトの苦労しているところ

岩佐:個人的に「意義がこうやったら絶対出るんじゃないの」と、すごく思っているのは、やっぱりパナの人が入り込んでないので普通のコワーキングスペースみたいになってる部分が若干あると思っています。せっかくパナソニックさんがやってはるので。

則武:2階のプログラムについての話ですか?

岩佐:プログラム、ですね。そうですね。

則武:あそこは説明の中ではそんなに言わなかったんですけれども、採択のところでパナソニックが採択するしないに関して、簡単に言うと口を出すことはないというところがあって。

岩佐:それはすごくいいと思うんですよ。それはすごくいいと思うんですけど、僕がメンタリングとかさせていただいている中で、「これメカ屋のおっさんいたら、もっとよう進むのにな」みたいな話だったり。BOM、要は部品のリストをメンテナンスしてあげる、そういう知識のある人がいたら、もっといいのになとか。

要は「そんなんパナさんの中になんぼでもいてはるやん」っていう方々がいないので、けっこうプロジェクトが止まってるとか苦労してるっていうのがけっこうあって。

則武:そうですねぇ。

岩佐:そういう人に入ってもらったらなにがおもしろいかと言うと、そういう人たちが伸びると思うんですよ。影響を受けるというか。

則武:パナ側の人間がということですね。

岩佐:こういう質問じゃないですか。パナソニックにとっての意義・意味みたいなとこで、もっと広義のところで言うとパナソニックの方々がこの場所、ここで動いているブロジェクト、その中の人というものからいろんな刺激を受けていくというがすごく……。

則武:それは狙いの1つではありますね。

岩佐:そう、それを言ってますけど、どうやって受けるのかがあんまり……。

則武:けっこう2階に来てメンバーと話をしてくれている人はだんだん増えてきてて。

岩佐:あーそっかそっか。それは僕が見れてないかも。

徐々にシナジーが生まれつつある

則武:メンタリングの日はあまりいないかもしれないんですけど。とくにうちは大阪に社員が多いので、東京出張に来たときにいるメンバーと話すとか、そういうのは増えてますね。

BANCHメンバーがやってるようなイベントには合わせて来てくれて、そこから知らない間に2階のメンバーが門真(大阪府のパナソニック本社)に見学に行ってるとか(笑)。

今度、福島の野菜工場に食のメンバーと一緒に行く計画が進んでたりとか。そういうのが徐々にではあるんですけど。あまり干渉し過ぎない範囲で増やしていけたらいいなというのは運営に携わる私の身としては思いますね。

岩佐:ちょっとまとめると、パナソニックの中の人に対してエフェクトが、ここからなにかが出てきて影響を与えるみたいなところが、僕は意義として一番大きいんじゃないかと思いますね。

則武:そのあたり村瀬さんはどうでしょうか?

村瀬:まさにそうです。先ほど言いました風土改革、もう何回も言ってますけどもうちの組織能力がないんです、これは。はっきり言って。こんなん言っていいんかな。ハードオリエンテッドな会社だったのでここを変えるために。

たぶんさっきも言ってたけど何人かは下のプログラムを見て入った方もいらっしゃる。うちの社員でね。

則武:そうですね。

村瀬:入った人もいるんですよ。このプロジェクトがおもしろいって。さっき言ったパッション、WILLっていうところはそこにあって、僕たちが強制的に「お前入れ」「お前なにか得意やろ」「お前このプロジェクト入れ」ではダメで、やっぱり彼らに来てもらって彼らがそのプロジェクトに興味を持って情熱を持ってやると。そうするとプロジェクトも回っていくのかなと。

ちょっと言い訳かもしれないですけど、そこはアジャイルでやっていかないとなかなか仕組みとして、人事制度として作るというつもりはなくて、そこはアジャイルなんかなと僕は思ってます。

100BANCHはどんどん挑戦する場所にする

村瀬:実はもう1つ問題があって、ここでやった人がたぶんうちの会社に帰ってきたときに何日間かは機能するんですよ。うちの本体が古い風土のままやったらその人たちが潰されちゃう。これをどうやって守るか。これはうちの会社の中だから、しっかりやっていかなあかんところ。

まぁここで言うことかどうかは知らんけど。うちの人事がそのへんにいるので、ちょっと言うとかなあかんなぁと思って。(参加者を指して)あ、そこや(笑)。指差してもうたけどね、今。

則武:隠れてますね(笑)。

村瀬:帰ってきたとき、我々のところに来たときにその新鮮な気持ちをどうやって持ってられるか。(岩佐さんを指差して)だってうちの会社が嫌で辞めたんだもん(笑)。

岩佐:(笑)。

村瀬:息苦しくなっちゃうんよね。そこをどうやってやるかというのは、これはうちの会社の問題で。なんせここではおっしゃるように刺激を受けてほしい。それはおっしゃる通りだと思います。

則武:個人の思いとしてはそういう輪がもっと広がっていかないと、会社の中で、もうちょっと濃度を上げていかないと、本当に砂漠に水を撒くようにそういう人が点在していても、なかなか突破できるものもできないと思います。

100BANCHはパナソニックの中で、そういうことに挑戦しても文句を言われない場所みたいな位置付けには早くしていきたいなと思いますね。