男女それぞれの「呪い」をどう跳ね返すのか

紫原明子氏(以下、紫原):みなさんの中には、この『生涯未婚時代』を読まれている方も読まれていない方もいらっしゃるかもしれませんが。今日はどういったお話をするかというと、タイトルは「結婚と家族にしばられない生き方って?『呪い』の言葉をはね返す『白魔法』」ですね。どういうことだろうって感じですけど(笑)。

生涯未婚時代 (イースト新書)

「結婚や家族には、いろいろな面もありますよね」という。『生涯未婚時代』を読まれた方はわかると思いますが、結婚してもしなくても、生きている間には男性にも女性にもいろんな「呪い」がありますよね。どういう「呪い」があって、どうやってはね返していくのか。そんな話をこれからしていきたいと思います。

その前に、永田先生にこの本に書いてあることや、今日一番お話ししていきたいことを基調講演としてお願いできればと思います。

永田夏来氏(以下、永田):はい。その前にひと言お願いがあります。先生はやめてください(笑)。永田さんでいいよ(笑)。そんな格式ばらなくていいので(笑)。

紫原:はい(笑)。では永田さん、よろしくお願いします。

永田:では、みなさんこんばんは。雨が降っていますけれども、よろしくお願いします。20分くらいでお話ししたいと思います。

名前は永田夏来です。専門は家族社会学です。年齢の話がけっこう今日出てくると思うんですけれども、私は団塊ジュニアど真ん中の1973年生まれとなっております。東京には1994年に来まして、今は兵庫県で仕事をしているというわけですが、いろいろなことをやっています。

社会学者はいわゆるイロモノが多いとよく言われので「またなんか変な社会学者が1人、世の中に出てきたのかな」という感じなんですけど。

(一同笑)

もうちょっと、まともでいきたいなと思いますけれども(笑)。

ふだんはこんなところにいます(地図を見せながら)。これが兵庫教育大学です(笑)。

緑、田んぼ、高速道路。みなさん、たぶん新幹線とかに乗っていると「田んぼで気持ちいいなぁ」「こういうところで暮らしたら楽しいんだろうなぁ」みたいな田園風景を見るでしょう? あれがここです(笑)。ずっといると、なかなかつらいです(笑)。世の中のことがわからなくなるから(笑)。

ですが、ここにいたことによって見えることもあるように思います。

「“モテ”ってそんなに大事なんですかね?」

こちらの本にそれを書かせていただきました。私としては、社会学的な観点からいくとこの3つの点です。

1つ目は、日本って実は、福祉を家族に丸投げしています。それにはいろんな問題点がありますよ、ということ。もう1つは、先ほどの紫原さんの話にもありましたが、家族を作れば必ずしもセーフということはもうないんです、はっきり言って。ですが、そのことを隠していますね、というところ。

そして、もっと人生が多様になっているんですという話を前提にした社会設計にしないと、どうしようもないはずなんです。しかし、なかなかそうはならないねと。それはなんでなんでしょうね。そのあたりのお話をしようかなと思ってはおりました。

しかし、隠れテーマとしてはこういうのもあります。実際に本を読んだ人はわかると思いますが、こんなに堅い話はそんなに出てきていません。まず「“モテ”ってそんなに大事なんですかね」というところを問いたい。

2つ目は、「結婚したらなにもかもオッケーになるとみなさん思いすぎなんじゃないんですか」というわけなんです。もうちょっと丁寧に見てみたら、「結婚したからといって将来が安泰ではないし、いつでも毎日楽しく暮らせるわけでもない」というようなところから目を背けているんじゃないんですか。

あと最後の1つは、官製婚活です。政府が婚活をすごく後押ししていますけれど、それがどうなのかな、というようなあたりのことを言いたい。そのような動機で書かれている本ということになります。

さて、みなさんに聞いてみたいと思いますけれども。モテるかどうかというのがすごく気になる人はどれくらいおられますか? 今日は参加者が大人だからあまりいないかな。

「では、人生が多様になっている」と、考えたり聞いたりしたことがある方はどれくらいいますか? 今日の関心はそのあたりですよね。イベントをやるまでどういう人が来るのかわからなかったので、どっちなのかなと思ったんですけど、多様性の話でしょうね。そのあたりをポイントにやっていきたいなと思います。

注目したいのは「非婚就業コース」

多様性というのを考えるときに、これはよく使うデータで私の本にも書きましたけれども。今までは1950年代、60年代70年代くらいは未婚者の割合は1パーセントや2パーセントだった。ということは、逆に言うと9割以上は結婚していたということですね。

既婚率97パーセントで皆婚社会。みんなが結婚している社会ですよと言われていたんです。しかし、未婚者がどんどん増えていって、(スライドを指して)2010年時点の実測がこんな感じ。将来の予測2030年の時点では、男性27.6パーセント、女性18.8パーセントが結婚しないと言われております。

これを見て、「うわ、やばい」と思う人が多いみたいなんですけれども、本当にそうなのかというところを考えてみたいと思うんです。

なぜかというと、統計がそうなっていて、ここに書いてあるんですけれども50歳時点で一度も結婚したことのない人の割合なんです。でも50歳というと、サザエさんのフネさんが50歳ですけど、今でいうと小泉今日子さんが50歳ですからね(笑)。だから若いと思います、私は。

だけど50歳の時点で結婚しているかどうか、というのが1つの基準になっているっていうこと自体を考えたいよね。

もう1つは、結婚を前提としない人の増加です。(スライドを指して)これは19歳から34歳までの若者に1987年からずっと継続的に調査をしています。国の調査です。これも実際、本に載っています。本を買っている人は見たらわかりますけれども、理想の人生と予定の人生を分けて聞いているんです。

1980年代は、理想においても予定においても専業主婦はけっこう多かったんです。ところが、それは年々減ってきている。最も多いのは再就職。結婚して子どもを持ったりしたら1回仕事を辞めて、その後復職するのが一番多いんです。しかし、ちょっと減少傾向にある。

それよりも両立ですね。子育てしながら仕事もがんばりたいというのが増加傾向だということがよく言われるところなんですけれども。

私が注目したいのがここなんです。非婚就業コース。つまり結婚をしないでそのまま仕事を続けたいと予定している人が2割ぐらいいるんです。

こういう人たちの土壌をどうやって考えていったらいいのかな、というようなところを踏まえていく必要があります。そのようなお話をしたいわけなんです。

「がんばって結婚しなきゃいけない」は卒業した方がいい

ここでよくある呪いの例というのを考えてまいりました(笑)。この後みんなでちょっと考えましょう。

こういう状況を見て、「このままだと日本が滅ぶ」、あるいは「最近の若い人は甘えているからけしからん」「お金ができないから結婚できない。若者ってそうだよね」「出会いがないから結婚できない。不幸だ」「結婚とか妊娠出産っていうのは生活に直結しているものなのだから簡単に変えられないでしょう」と言われがちかと思います。それで自分を縛っちゃうところがあるのかなとも思うわけなんです。

しかし、「白魔法」ですね。「お前の中ではそうだろう」と(笑)。

必ずしもそうじゃないんですよということが、学術的に言われているとぜひ知っていただきたいと思います。

これはなにかというと、国が家族へどれくらいお金を使っているのかなという話です。フランスやイギリス、スウェーデンなんかは、合計特殊出生率が2.0に近づいてきていて、子どもたくさん生まれているんです。

これに対して日本は、国がぜんぜんお金を使っていないというのがわかります。国が子どもや妊娠出産にお金を使っていなくて、使わない分は誰が負担しているのかというと、家族が負担している。

国がお金を出してくれないから、自分でなんとかがんばらないといけない。それが当たり前だとみんな思っているんですけれども、海外ではそんなことはないとわかるわけです。

これは合計特殊出生率の変化から見ても明らかなんです。90年代や80年代の半ばぐらい、スウェーデン、アメリカ、フランス、ドイツなどはそんなに特殊出生率が変わらなかったんです。しかしその後、政策が変わったことによって合計特殊出生率は二極化するんです。

日本、イタリア、ドイツ、あまり国がお金を出してなくて「家族でなんとかしろ」と言っている国は、合計特殊出生率が伸びていない。フランスやスウェーデン、アメリカなど、政府が負担していたり、あるいは完全に競争が自由だったりするような国は子どもが生まれている。

こういった枠組みを知らないままやっていることについて、もう1回考え直したほうがいいんじゃないのかな、というのが一番言いたいところなんです。

社会の変化を知らないままに「がんばって結婚しなきゃいけない」「結婚できなかったら不幸だ」など、そういういうところで自分を縛っていくのはそろそろ卒業してもいいんじゃないのかな、と考えているということなんです。