AlphaGoがさらにパワーアップ

ステファン・チン氏:先日、イギリスにあるグーグル傘下のスタートアップDeepMindが、囲碁の人工知能(AI)であるAlphaGoの最新版を発表しました。人間なら誰が挑んでも白旗をあげるでしょう。このAIはこれまでの誰よりも強いのです。

AlphaGoについては聞いたことがあるかもしれません。2年前にプロの棋士を破ったとして最初のニュースになりました。その6ヶ月後、世界一の棋士の1人であるイ・セドルを4対1で破ったのです。

ですが、今度の最新版ではさらに驚くことに、人間が指導することなく独自に最適な方法を学んでいくのです。

囲碁は中国発祥の古くからあるボードゲームで、黒と白の石を使います。相手の石を取ることで自分の陣地を広げて得点を稼ぐというゲームです。

ルールは単純ですが、盤上の19×19のマスに石を置けるため、どのようにゲームを進めていくかはとても複雑になります。実際、その組合せは宇宙に存在する原子の数より多いのです。そのためすべての選択肢の中から次に指す最適な手を計算することはとても難しくなります。

そのため、囲碁はクラウドAIでなんとか攻略できないかと考えられてきたのです。難易度の高いこうしたゲームをコンピュータで攻略できるなら、その学習アルゴリズムは同様の複雑な問題に対しても応用できるからです。

この点で今回の「AlphaGo Zero」は一大事件です。その秘密は強化学習にあります。AlphaGo Zeroは基本的に自らと対局を何度も重ねることで学習していきます。

前のバージョンであるAlphaGoも強化学習を使っていました。ですが、最初に技術者が、人間が打った数千ものデータを使って石の置き方の組合せを教えていました。

一方でAlphaGo Zeroはその名の通り、まさにゼロから始めたのです。プログラムが開始されると、ニューラルネットワークは白紙の状態から動きや勝者を予想していきます。人間の脳を真似ているためニューラルネットワークと呼ばれるこのネットワークは、その結果を出力します。

始めこそニューラルネットワークはまともに動きません。ですが何度も繰り返して改善していきます。何度もです。

自身で繰り返し練習することは、人間がデータを使って教えるより良い結果を出しました。76時間でAlphaGo Zeroは、イ・セドルを破ったAlphaGoに対して100戦100勝の結果を出したのです。

数日のうちにAlphaGo Zeroは490万回も試合を重ね、数千年かけて培われた囲碁の定石を見つけ、さらには人間がいまだ思いついていない新しい戦術すら発見したのです。

さらに他のAlphaGoシリーズに比べてZeroはマシンパワーも少なく、何台も組み合わせる必要もなく1台ですむのです。

多くのAIマニアにとって、このAlphaGoはまさに節目となる出来事です。まともに対局ができるようになるまで人間が教える必要がなく、理論的にはこの学習アルゴリズムを別の事柄に転用できるからです。例えばタンパク質の折りたたみ方から新しい薬を開発したり、新しい物質を設計したりすることもできるでしょう。

火山がエジプト文明に影響を与えた?

研究者たちが、AlphaGoのような超人間的なプログラムを使って、不可能を可能にしたり、複雑な問題を解決できるまで目が離せません。でもロボットの反乱だけは起こってほしくないですね。

ある意味で火山は最初に反乱を起こしたかもしれません。反乱を起こしたのは実際には人間であっても、少なくとも火山がその手助けをしたようです。

先日、イエール大学の歴史学者、気候学者は過去数千年に渡るデータを元にした仮説を発表しました。彼らはエジプト王朝に対して火山が猛烈な反逆を起こし、結果として王朝が倒れるまでに至ったのではないかと考えました。

ですが、なにも溶岩の塊によってそれが起こったわけではありません。

そうではなく、火山が気候パターンを変えたのではないかと考えたのです。とくにエチオピア高原に降る雨の量は、ナイル川が雨季に氾濫するかどうかを決めます。

今でこそ洪水は悪いことだと考えられています。ですが、ナイル川がダム化されるまでは、1年に1度起こる氾濫によって農家は作物への水を供給できていました。氾濫が起きなければ飢饉が起こるのです。

火山が噴き出した大量の硫黄ガスは、空気中の他の物質と反応して煙霧質と呼ばれる状態になります。煙霧質は大気中に1年から2年もの期間滞留し続け、その結果気候を大きく狂わせます。

微粒子は太陽の光を反射させてしまうため、気温が下がります。気温の低下は降水量の低下を招き、さらには風の吹き方、とくにエジプトの北からの季節風を変えてしまい土砂降りの雨が減ってしまいます。

研究者チームは20世紀に起きた5つの火山噴火によって北アフリカの降水量が減ったことに気づき、同じことは過去にも起こったのではないかと考えました。そのことを突き止めるため、気候学者はそうした出来事が起こった時代の氷床コアに含まれている火山の沈殿物を調査しました。

歴史学者はそのデータをイスラムのナイロメーターと突き合わせました。ナイロメーターは、毎年の夏にエジプト人が川からどれぐらいの水を得られるかを測定していた建造物です。

ナイロメーターは紀元前600年代から使われ始めたため、歴史学者はそれ以前の洪水について書かれた資料も探し出しました。その結果、噴火が起こってしばらくは洪水の水位が低いことがわかり、火山がナイル川に影響を及ぼしていたと考えられます。

研究者チームは他にもエジプト社会に与えた影響がないかを調べました。すると反乱の数と、直近に火山が噴火したかどうかには強い相関関係が見られたのです。噴火が起こった年には司祭の命令が出され、エジプト人は敵対国であるセレウコス朝との停戦運動を起こしました。洪水が少なければ、作物も戦いの報酬も少なくなり、国民は政府への反感を日に日に強めていったのでしょう。

当時何が起こったのか正確なことは分かりませんが、紀元前30年までに最後のエジプト王朝はローマ人に滅ぼされてしまいました。学者たちはその点で、火山が何度も悪い影響を及ぼしたのではないかと考えています。

火山による気候への影響は今でもなくなっていません。今では約70パーセントの人が雨季によって作物が育成される地域に暮らしています。直接的な災害だけではなく、火山によって引き起こされる干ばつが私たちの多くに影響を与える可能性があるのです。