林信行氏が振り返るアップル・WWDC 2014

林信行氏(以下、林):皆さんこんにちは。ただいま紹介にあずかりました林信行です。昨年もこのソフトバンクワールドで講演させていただいたんですけれども、1日目と2日目だとかなり2日目のほうが人数が少ないので、今日は結構こぢんまりとできるのかなと思ったら、すごい人数でびっくりしています。

今日はiOS、次の展開ということで、先月AppleがWWDCという年に1回の世界中のiPhone、iPadの開発者を集めてきてやる会議を開きました。それで、これからiPhoneやiPadがどういう方向に発展していくのかというロードマップというか、方向性を示したんですけれども、そこで得た情報をもとにその一部を紹介できればと思っています。

ちなみに皆さんの中で、いろんなITmediaとか日経BPとかこのWWDCのレポート記事をアップしていて、僕も幾つか書かせていただいたんですけれども、そういったレポートをお読みになったことがある方ってどれぐらいいらっしゃいますか? ……結構多いですね。8割ぐらいは読んでもらっています。じゃ、簡単な話は端折りながら話をしようと思っています。

それから僕はAgenda(アジェンダ)で送ったつもりだったんですけど、何を話すかというのを全然書いていなかったようなんですね。ということで、レポートで書かれてなかった部分も含め、あんまりこれまでのWWDCのレポートの中では触れられてなかったような新しい機能も、幾つか紹介しようと思っています。

書いてなかったのがむしろ好都合で、Appleさん的にNGかもしれない内容もちょっと話そうと思っていたんですけれども、今朝確認ができて、これの話もしてもOKだということがもらえたので、堂々と話せる。おかげさまでUstream(配信)のほうも、やらない予定だったんですけれども、急きょすることにしました。

PC、スマホ、タブレットの三位一体が進んだ

WWDCの総括で、今度の新しいiOS、iPhone、iPadのOSで何がすごくなるかというと、一つ目はカメラ機能が劇的によくなります。タイムラップ撮影ってわかりますかね。朝、日が昇って街の様子が変わって、夜沈むまで太陽を追ってるとか、そういった早送りの映像を皆さん見たことがあると思います。ああいった機能が標準でついて。

これも使い方が非常に簡単で、まるでビデオを録画するように録画ボタンを1回押すと、だんだん尺が長くなればなるほど映像を早回しにしていくという、非常に簡単な形でタイムラップ撮影ができたりとか。

あとファミリーで、皆さんの中でもiPhoneを使っているのは自分だけじゃなくて、お子さんや奥さんとかが使っているというケースも多いと思うんですけれども、その間でみんなで持っているアプリとか、あるいは音楽コンテンツ、映画コンテンツを共有しようということもあると思うんですけれども、そこら辺の機能も変わりました。

それから企業向けのエンタープライズ向け機能も変わりましたし、僕が個人的にすごく注目しているのがHealth Kit(ヘルスキット)という健康関係の機能とHome Kit(ホームキット)というホームオートメーションの機能なんですけれども、ここら辺まではよくいろんなメディアで紹介されていました。

それに加えて、実は位置情報の可能性ということで、屋内でのナビゲーションとかそういった機能も追加されていれば、近接ネットワークといって、まるで目の前にいる人とチャットをしたりとかそういったこともあるので、そこら辺の話もしようと思っています。

早速WWDCの総括をしますけれども、やっぱり今回のWWDCの発表、一番大きなキーワードはスマートフォンとパソコン、それからタブレット、iPhone、iPad、Mac(マック)の間を自由に行ったり来たりできるようになったというのがやっぱり一番の特徴で、まるでこの三つの別々のデバイスが三位一体になって操作できるようになっています。

例えばこれ、Instant Hotspot(インスタントホットスポット)という機能なんですけれども、これまで外出先でMacをテザリングしたiPhoneにつなげようとすると、1回iPhoneを取り出してテザリング機能をオンにして、それからWi-FiでMacでつなげるとかということをやっていましたよね。

ところがこれからは、Windowsではできないんですけど、Macであればあそこのメニューから直接iPhoneを呼び出してテザリング機能をオンにできる。そのままWi-Fiにつなげるということもできます。あるいはメッセージ機能とかもiPhoneで電車に乗りながらチャットをしていたのが、家に帰ったらそのままその会話の続きをMacのキーボードを使ってできるということもできます。

メールも同じで、ちょっとメールを電車の中で書いていたら長くなってしまった。続きをMacでやろうというと、家に帰ってMacのDock(ドック)のところにHands off(ハンズオフ)というアイコンが出てくるんですね。そこをタップすると全く同じ画面が出てきて、続きがMacで打ててしまう。その後また出かけることになったら、iPhoneでさらにその続きができるというふうになっています。

パソコンとiPhone、MacとiPhoneの融合を一番感じさせるのが、なんとこれから電話がかかってきたときも、例えばバッグの中にiPhoneを入れっぱなしで取るのが大変だとか、寝室でiPhoneが充電しっぱなしだというときに電話がかかってくるときもあると思います。

そういうときになんと、iPhoneにかかってきた電話をMacで受けることができるようになる。ヘッドフォンとかしている場合はヘッドフォンでそのまま会話ができますし、していない場合はスピーカーとマイクを使って会話ができる。こういった機能もついてきます。

AppleとGoogleの戦略 その類似点と違いは?

これがそのWWDC中のiPhoneにかかってきた電話をMacとiPadで受けるというところのデモ画面なんですけれども、実はこのAppleの発表の直後、これとそっくりのスライドがありました。どこであったかというと、Google I/O(グーグルアイオー)という、全く同じ会場でGoogleさんがやっぱりデベロッパーズカンファレンスを開いていたんですね。

でもこれはこれからのトレンドだと思います。Googleさんはアンドロイド携帯と、先日日本でも企業と教育機関向けの発売が始まったんですけど、Chromebook(クロームブック)というパソコンをこれから発売していきます。

アンドロイドでかかってきた電話は、このChromebookで受けられるという機能をやっぱりGoogle I/Oで発表していて、これだけ今やパソコンよりかもスマートフォンが主役で、パソコンというのはスマートフォンと連携する機器にだんだんなりつつある。そんな象徴的な出来事だったんじゃないかなと思います。

ちなみにこの二つのデベロッパーズイベントを比べると非常におもしろかったのが、これまでAppleは閉鎖的で制約が多い。こんなアプリを出したらだめだとか、いろんな制約があったというイメージがあると思います。それに対してGoogleのほうは非常に開放的というイメージがあったと思うんですけれども、今回の二つのデベロッパーイベントのこれは逆行しました。

どういうことかというと、オープン過ぎてまとまりがないというイメージがあったGoogleのほうがどんどんブランディングをして、しっかり「ウェアラブルをつくる時には、ちゃんとAndroid Wearというブランドのものを使いましょう」とか、車との連携をAndroid Autoとか結構しっかりGoogleのほうで管理をするようになってきて。

それと全く正反対に、Appleのほうはこれまで禁止していた他社のキーボードもアクセプトします。あるいは家電とも連携します、ヘルスケア機器とも連携しますというような形で、どんどん新しいオープンなイノベーションを起こしていこうという形で、二つの会社のカルチャーが全く逆行してしまったというのが今回のおもしろい特徴だと思います。

ちなみにGoogle I/Oというイベントは、アンドロイドの携帯電話を中心に、スマートフォンを中心に車との連携ですとか、Chromebookというパソコンとの連携、それからテレビとの連携、そしてウエアラブルとの連携、これ全部アンドロイドブランドの技術を使ったものと連携していくというふうにしていたんですけれども、これと全く同じことがiOS側でもできます。

ただちょっと違うのが、真ん中がもちろん当然iPhoneですよね。車との連携は、AppleはCarplay(カープレイ)というものをやってきます。これから日本でも来年ぐらいからどんどんCarplay対応の車が出てきます。パソコンが、今話しましたMacとの連携ですよね。こちらも実はApple TVという形でもうすでに連携が始まっていて、ちょっときょうは、ここはあまりにも無線LANが多すぎるのでできないんですけれども、これからは簡単にiPhoneの画面をテレビに飛ばす、ということもできます。

唯一違うのがこのウエラブルのところで、ここはAppleはどうなるのかなというふうに気になっているところで、ネットを見るとiWatchとかいろいろうわさはあるんですけれども、Appleは今のところ、自社でウエラブル製品を出すんじゃなくて、スライドでいつか出していますけれども、他社が出しているウエラブルと連携していくというオープンな戦略をとっています。

制作協力:VoXT