瀬戸内寂聴氏(以下、寂聴):わたくし出家してね、徹底して肝に銘じていることはね、人間は孤独だということなんです。人間は孤独だから、本来孤独だから、孤独が寂しいから、愛する人を求めるんですよ。

そして、話を聞いてくれる人が欲しい。それから愛したら抱擁したい。抱き合いたい。そして、お互いがお互いで体で温め合いたい。これがSEXになるわけですね。

ですからそれは、孤独だからなんですね。しかし孤独はね、一緒に抱き合って、一緒に寝てまで孤独なんですよ。

「同床異夢」という言葉がありますよ。同じベッドに入って寝ててもお互いの見る夢は違うってね。抱き合って寝て、手をつなぎ合って寝ていてもですよ、相手の見る夢は自分とは違うんです。

私のことを愛してくれて、そのことを夢見てるかなと思ったら、相手はマリリン・モンローのおっぱいなんかを夢見てるかもしれない。そういうのが「同床異夢」ということなんでね、わからないんですよ。お互いね、男と女だし、永遠にわからないところがあるんじゃないかと思いますね。

そして、人間は孤独だから。私の大好きな一遍上人の言葉にね、「生ぜしもひとりなり」というのがあります。生まれることも一人。双子でも別々に生まれてくる。

「死するも独りなり」そうでしょ? 心中したって、別々に死にますからね。もしかしたら、相手は薬飲んでないかもしれない。風邪薬飲んで生き返るかもしれないですからね、そんなのわからないね。「生ぜしもひとり」「死するも独り」ね。

「されば人と共に住するも独りなり」という言葉があるんですね。一緒に結婚して子供を産んで、たくさんの人と群れて暮らしていても、結局人間は孤独だって言うんですね。「そひはつべき人なき故なり」って断言してるんですね。

だから、そんなに愛し合って、死ぬまでお互いを愛し合ったままでそひはつ(添いはつ)ようなね、そんな仲はないって、わたくしの言葉じゃなくて、一遍上人が言ってらっしゃるんですよ。わたくしは、この一遍上人の言葉が一番好きな言葉ですね。

だから、「生ぜしもひとりなり」「死するも独りなり」「されば人と共に住するも独りなり」。これはね、前の二つは誰にでも言えるけど、これはちょっと言えないと思いますよ。たとえ家族で愛し合っていても一人なんですよ。自分の心を分かっているのは自分なんですね。

またね、「他は己ならず」という言葉があります。これは道元さんの言葉で、他人は自分じゃない。私とあなたは今、とても仲良く話しているけれども、私はあなたじゃない。あなたは私じゃない。

だから、仲良く言葉でもって話し合っているけれども、根本的には違う個性ですよね。理解はしても、同じではないんですよ。私はこう思うから、あなたもそう思いなさい。ということは言えないのね。

あなたもね、寂聴さんそう言っても私はこう思うわって内心思ってるの。それがね、「他は己ならず」。おんなじように思えとか、おんなじようにしろとか、人間はすぐ傲慢になって。それはね、無理なのね。恋人でも夫婦でも、自分と同じになれってそれは無理なのよ。

黒田あゆみ氏(以下、黒田):孤独であることをわかって……。

寂聴:孤独であることをわかっているの。孤独だからね、孤独でありたくないからね、話し相手が欲しい、一緒に暮らして欲しい。あるいは肌で温め合って欲しい。

しかしそれは、そうなってもですよ、結局は孤独だよ、ということを言って、しなければ、まぁ坊主にはなれない、ということですよ(笑)。

黒田:では、俗世で生きるには孤独であることを……。最後はやっぱり一人になるんだよってことがわかって…。

寂聴:やっぱりどこかに置いておいた方が良いですね。

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