高野山で語る「地方とお金」

飛鷹全法氏(以下、飛鷹):はい、それでは最後のセッションになりました。「地方とお金」というテーマです。

みなさん今日は本当に長時間ありがとうございます。13時から始まって、すでに5時間か6時間になりますけど、人の集中力ってなかなかそんなに続かないと思われますし、この後には懇親会も控えてますので、ちょっとだけ時間を短縮というか圧縮して、速やかに次に移れるように進めたいと思います。

あらためてなんですけど、高野山にこれだけの方が全国から来ていただいて、受け入れ側の人間として、みなさんにお礼申し上げたいと思います。本当にありがとうございます。ようこそお越しくださいました。

これだけの方に来ていただいたという現実を目にして思いますのは、高野山でこういったイベントをやるのって、実は簡単じゃないってことなんですよ。

高野山っていうとそれなりに有名な場所ですし、国内外からいろんな著名な方もお越しになります。たとえばダライ・ラマがその辺歩いていたりもするもんですから、あまりそういったことも珍しくないのか、地元の方も誰かが来たり何かをやるからといって、そんなにすぐ人が集まったりするわけでもないんですね。

それだけに、今回200人を超える方々がこうやって来ていただけたっていうのは本当にありがたいことだと思っています。開催に向けて奔走してくださったメンバーと、それに共感してくださったみなさんの力を結集した賜物じゃないかなと感じています。

冒頭にうちの住職のほうからご挨拶させていただきましたが、高野山っていう場所は今から1200年前に弘法大師空海という方によって開かれました。空海さんのことを私たちはお大師さまと呼んでおりますが、お大師さまは、この大師教会というこの建物の本尊さんという位置づけになっています。つまりお大師さまの教えを多くの人々に知ってもらうための場所として、この大師教会があるんですね。

その本堂を地方創生会議の会場として特別に使わせていただけるということで、今こうしてみなさんと一緒にここにいるわけです。

伝統の中に今につながるヒントがある

そういった中で、今日は地方のさまざまなテーマについて語り合っていきました。最初は地方創生と6次産業の問題、それからメディアの問題、インターネット、そして今から「お金」です。

みなさんをお迎えする立場として、なんて申し上げましたが、実は私自身も外から高野山に入った人間なんですね。一番最初のセッションで平和酒造さん(平和酒造代表取締役専務 山本典正氏)が伝統の世界に生まれながらベンチャー(企業)をやって戻って来られたという話がありましたけど、実は私も渋谷でITベンチャーをやっていた人間なんですね。ホリエモンさん(堀江貴文氏)なんかとは同世代になります。

そうした経歴を経て高野山のお寺に養子で入った人間なので、最先端のテクノロジーから1200年の伝統の世界という、そういう振れ幅の中で自分の人生を生きてきたわけですけども、「真逆のようでありながら、実はつながっている」ということを非常に実感しているんですね。

どういうことかと言うと、伝統っていうものは古くから伝わって来たからこそ伝統であるんだけども、古びてしまうようなものは、そもそも伝統として継承されないという、逆説があるように思うんです。つまり、おのおのの時代で過去から受け継いだものの中に、その時代における新しさを発見し得たからこそ、これはつなぐべきだよねっていうバトンリレーが続いて来たわけで。

そういう意味で、先ほどうちの住職が言ったように、お大師さまは、高野山を「涓塵」(けんじん ごく僅かなお布施)を集めることによって開こうとされた、というのは、今で言うクラウドファンディングじゃないかっていう話もありましたし、先ほど山梨の方が言われた「無尽」なんかも、一緒ですよね。ひょっとしたら伝統の中に今につながるヒントっていうのが、たくさんあるかもしれないんです。

今、我々の周りの起業家だったりデザイナーというような人たちが、高野山や空海さんに非常に興味を持って来てくれるようになって来ているな、という実感があるんですが、我々のファウンダーである空海という人が残したものの中に、非常に新しいものがあるんじゃないか、そういう意味では伝統に帰るということは決して後退ではなくて我々自身が前進することではないか、と思うわけです。

私は、外から入ったことからこそ見える高野山の今日的な意味合いや新しさを、どうやって発見していくかに興味があるんですね。いかにして多くの方々に高野山に来ていただけるきっかけを作るか、ということは、言い換えれば伝統と今をつなぐインターフェースをどうデザインしていくか、と言ってもいいと思います。

専門家と考えるお金との向き合い方

さて、これから議論する「お金」というテーマですが、これは我々の日々の生活にとっては切っても切れないものですね。我々もこの日本という国で生きている以上、お坊さんだからと言ってお金と無縁の生活をすることはできません。

もちろん仏教の戒律の中には、お金に対してどう向き合わなければいけないかっていう規定はありますし、1人の宗教者としてのお金というものをどのように考えるべきなのかという問いも当然あるんだけども、それは今の社会の動きとは無縁ではないわけです。

そう考えると、高野山という場でお金について考えるというのは、状況に対して一旦立ち止まるというか、垂直的な思考の軸を差し込むという意味で、いい機会になるんじゃないかなと個人的に思っております。今日は2人の専門家をお招きしてお話を進めてまいりたいと思います。

向こうからまずご紹介します。もうご紹介の必要もないかもしれませんが、一番端にいらっしゃるのが家入一真さん。

今回みなさんがこの地方創生会議にCAMPFIRE経由で申し込んでいただいたと思いますが、その創設者、ファウンダーです。家入さん、よろしくお願いします。

家入一真氏(以下、家入):よろしくお願いします。

飛鷹:もうお一方、隣にいらっしゃるのが齋藤健一さんです。今はカタチニという会社でさまざまなお仕事をされてますけど、ご自身が独立する前にコイニー株式会社(Coiney)というスマートフォンで決済できるサービスを提供している会社にいらっしゃいました。

アメリカのSquare(スクエア)って有名な会社をご存じかもしれませんけど、スマホのイヤホンジャックにカードリーダーをさすだけで、それ自体がもう1つの決済手段になっちゃうということで、結構手軽でアウトドアでの決済環境が整えられるという、そういう非常に注目を集めたところの事業推進の責任者をやっていらっしゃいました。齋藤さん、よろしくお願いいたします。

齋藤健一氏(以下、齋藤):よろしくお願いします。

飛鷹:今日はちょっと時間もあまりないので、早速話を進めて行きたいのですが、家入さん、どうですか高野山、楽しいですか?

家入:僕、(高野山は)2回目なんです。今回(の旅)は10日ぐらいずっと東京を離れていろんなとこを転々として。最初北海道の帯広に行って、ここは堀江さんのロケット場の視察だったんですけど、そこに行って。そこもクラウドファンディングでお金集めしたんですけど。 そのあと熊本に行って。熊本城の復興をクラウドファンディングでやるっていうのを「ロンドンブーツ1号2号」の田村淳さんと熊本市長さんとイベントやって。そのあと神戸行って今、今日で。明日僕、東京に帰るんですけど、最後を締めくくれて良かったなという感じです。

飛鷹:なんか昨日話したら、今自分がどこにいるかよくわかってなかったようで(笑)。

家入:いや、もはや今が何曜日で今どこにいるのか全然わかんなくなっちゃいますね。

飛鷹:でも今回は2回目ということで、比較的ゆっくり高野山での時間を過ごしていただいたと思うんですが、今日は奥の院にも行かれたそうですね。

家入:すばらしかったです。

飛鷹:それでは、どうぞよろしくお願いいたします。

家入:お願いします。

木造建築でお坊さんがスマホで決済 「This is Japan!」

飛鷹:齋藤さんは高野山には何度かお越しいただいていると思いますけど。

齋藤:そうですね。4度目になりますね。今日、初めてゆっくり奥の院を見れました。飛鷹さんと一緒に仕事をさせていただくケースが多いので、飛鷹さんのところはだいたい弾丸で京都に行って2時間で高野山に行くとか。東京にいて4時間後に高野山に行くとか。

飛鷹:お坊さんが言ったことに歯向かうと何か罪になるとでも思ってくださっているのか(笑)、夜中でも飛んできてくれるという、非常に心強い方なんです。

高野山には、今でこそ海外の方が数万人以上来るようになって、みなさんも山内を歩いてる外国人の方をたくさん見かけたんじゃないかと思います。ただこうした状況は手放しで喜べなくて、高野山はまだまだインバウンドに対応した決済インフラが十分に整っていないんですよ。

つまり、海外から来られる方はクレジットカードを使う方が多いのですが、まだまだ使えないところが多いのです。みなさん今日電車で来られた方もたくさんいると思うんですが、難波から乗られた南海電車(南海電気鉄道)、あれ去年までクレジットカードが使えなかったんですよ。

実は私も難波から高野山に帰るときに、現金の持ち合わせがなくカードで払おうと思ったら払えなくて途方に暮れたことがありました。仕方なく一番安い切符でとりあえず乗ってしまって、駅に着いてから寺の者にお金を持って来てもらったこともあったぐらいです。

高野山にいる人間でもそういうことになることがあるくらいですから、やっぱり海外から来た方で、現金の持ち合わせがなくて戸惑ったりすることも、往々にしてあったんではないかと思うんですね。

ですから、前々から決済環境の整備がインバウンドにおいては非常に重要だと思っていたので、Coineyの存在を知ったときは、すぐに社長にアポを取って東京まで飛びました。

まだ社員が4人しかいなくて、そのとき齋藤さんは、まだいらっしゃらなかったんですよね。だからCoineyでは僕のほうが先輩なんですよ(笑)。そして社長にぜひ高野山に導入させてくれって直談判しました。全国のお寺の中で一番最初にうちが導入したものですから1年後に、日本経済新聞から導入して1年間どうだったかっていう取材を受けたりしました。

高野山のお寺は基本的に宿坊をやってますから、外国人の泊まり客からすれば、クレジットカードが使えれば、それだけ利便性が上がるので喜ばれるわけなんですけども、1つおもしろかったのが、高野山に来る方っていうのは、例えば奥の院の写真をネットで検索して見たりして、日本の長い歴史や伝統を体験したくて来ましたって方が結構いるんですね。

そこで、木造の寺院建築の中にいるお坊さんが「お会計です」ってスマホを持って現れると、「Wow! This is Japan!」って言って感動するわけです。

(会場笑)

伝統と最先端テクノロジーの共存がいかにも日本らしいってわけですね。

カード決済の比率が10パーセント台の日本

そうした取り組みをするうちに、単に自分のお寺だけじゃなくて地域全体として決済インフラの整備をどう考えたらいいのかってことを考えるようになりました。

ただ 私1人だけじゃどうしてもできないことがありますし、どう考えたらいいのかなっていうことで、コイニーの方々といろんなことをお話したんですね。地域関連事業は齋藤さんが担当してくれて、実際にいくつかプロジェクトを動かしたんですが、今後は地域のブランディング戦略として決済インフラの整備を全国に展開して行きましょう、とそんな話をするようになって今に至るわけです。

齋藤:参考までに言うと、日本ってクレジットカード決済の後進国でして。僕がCoineyで働きはじめた3年前ほどになるんですけれども、そのときは全体の流通の中で言うと、人がお金を使う比率の中でカード決済って10パーセントぐらいしかなくて。

日本は現金比率が50パーセントで、あとは口座振替とかいろいろなものがあるんですけれども。50パーセントの現金に対して現状でもやっぱり17か18パーセントぐらいがカードの決済の比率になっています。

逆にアメリカに関しては50パーセントがカード決済になっていまして。これはクレジットカードではなくて今日本が流行らせようとしているデビットカードっていう銀行の口座直結のカードがありますけれども。

こちらも合わせて50パーセントなんですけど、逆に現金比率が17パーセントという数字になるので、日本とアメリカはちょうど逆の感覚の中で(海外の方が)日本に来られます。

だから50パーセントぐらいはカード使えると思ってみなさん接してくるので、「え、使えないの?」っていうシチュエーションが山のように訪れてくる。それだと(海外の旅行者さんは)、「じゃあ、やめようか」というかたちであまりいい体験につながっていかないので、ここはやっぱり日本もどうにかしなくちゃいけなくて。

スマートフォン決済というのは1つのツールではあるんですけれども、これもクラウドファンディングもそうですし、たくさんのカード決済に触れるシチュエーションをつくっていくことで、日本もどんどんそういった比率が上がってくるのかなと思います。

そこを僕らはすごくテーマにしていた事業ではございました。