部下の下にさらに部下がいる場合のマネジメント

新野良介氏(以下、新野):時間はあと(質問が)1個分ぐらいですかね? どうしても聞きたいことが2つあるんで(ホワイトボードを)ちょっとお借りしますね。

ここに僕がいます。新野商店として大企業に勤めていようと、レストランで働いていようと、とにかく上司なり、投資家なり、そういう立場の人がいて、まあ、ステークホルダーに囲まれています。

それでチャンスをもらって、その人が、先ほどの話だと「この人と話してもだめだな」と思えば、うまいかたちで無視しながら実績を出して納得させる。この人がすばらしい人であれば、その人が納得しなかったとしても、チャレンジさせてもらうとか、そういう交渉の仕方ですよね。

最終的に私が成果を出すためにがんばればいいわけだし、ファーストペンギンになれるように、外に出ようが中にいようが、がんばればいいだけです。うまく成果がでなければ責任をとればよいわけです。けど、仕事しようと思うと、どうしても部下ができる。この部下の力を引き出さないと、自分の仕事ができない。上のほうのステークホルダーより、下のほうのステークホルダーです。

この部下を自分と同じような視点にし、ファーストペンギンにしたい。一緒になって、さっきの「社長がなんか言ったら、目を輝かせて話を聞くほうがいいだろ」と言いましたけど、僕も言ったら目を輝かしてほしいんです(笑)。でも、輝いていない場合もあるわけだから、輝かせるためにはどうしたらいいか? というのがまず1つです。

西岡郁夫氏(以下、西岡):うん。

新野:もし西岡さんのような人が部下であれば、「上司の新野が言ってるんだったら」と勝手に目を輝かしてくれると思いますが、必ずしもそうじゃないケースがある。上だったら説得したり、懐柔したり、戦えばいいと思います。でも、下と戦うわけにはいかない。どうすればいいか?

西岡:そのノウハウはちょっと後にして、もう1つの質問はなんや? 

新野:もう1つは、さらにこの部下(A)の下に、そのさらに部下(B)がいる場合もあるわけです。だんだん信認が大きくなって、やらせてもらう仕事が多くなると、こういう構造になる。すると、僕がこの誰かしらのステークホルダーに信認を得て仕事をさせてもらうように、自分の部下であるAも信用して仕事をさせるわけです。

そうすると、必ずしもAがいい仕事ができない場合もある。でも、経験から学ばなきゃいけないので、任せる以上、失敗も許容する。それはよいのですが、その失敗の結果、Aの下にいるBが苦しくなってきて、辞めちゃうなり、力が発揮できない、ということもあるでしょう。直接、私が見ればまだいいかもしれないけど、そうすれば私が直接見られるのは数人でしかないから、どんどん大きな仕事ができなくなる。どうやって、このAの失敗を許容しつつ、その影響をうけるBを救うか、は難しいテーマです。

「部下がすごい」と思われるのがリーダーの役割

西岡:なるほど。これね、実は多くの塾生の悩み。これで悩む人は多いです。みんな、自分が仕事をしたらササッと終わってしまうのよ。それで、部下に任すと、やっぱりなかなか結果が出てこない。自分が一番優秀なんだね。だから、本来はもう1人自分がほしいって、みんな思っている。

だから「任せられない」というのが、全員の悩みとして共通やねん。任せられない。それで、塾は塾生の一人ひとりの会社の上司・同僚・部下からの360度アンケートを取って細かく、良いところ、悪いところ、ここは変えたほうがいいという部分、ダーッと書いてもらってる。ご家族にも書いてもらいます。すごく怖がられるけど効果がある。

それを見ると、みんなが書くんです。「この人はすばらしいです」。塾生やで。「だけど、たまには難しい仕事を私にもやらせてほしいと思います。でないと、成長できないんです」と言うんです。

ところが「任せるにしても、お客さんがいたりでなかなか大変なんです」と。任せると今あなたが言ったように、リスクになる。つい(自分で)やっちゃうっていうことがあるんだね。

新野:やっちゃうこともありますよね。

西岡:これが一番大きな問題なの。僕の答えは、一番基本的には、Aさんがミドル、課長とします。部下が10人いる。そのときに、「山本くんのところは部下が10人いるけど、山本くんはピカイチだなあ。やっぱり山本だなあ」って言われてたらだめよ。そうやろ?

10人部下を任していると「彼がいるからどんどん部下が活性化して、20人力出す。それはもったいない。部下30人にしよう」、大きな組織に行ってもらう。「30人の部下持たしたら60人力やなあ」。彼が優秀とは言わない。彼が活性化させるので、「部下がすごいなあ」。これがリーダーの役割なの。そう考えると、どこかで目をつぶって部下に仕事をやらさなあかん。

新野:そうですね。

西岡:それで、場合によっては、なにか大きなトラブルが発生することがあるかもしれん。そこはやっぱり、見ながらいったほうがええかもしれん。だから、原則的には、「俺はこう思っているんで、任すで」と言ってあげなあかん。

だから、それがどこまで辛抱できるか。つらいで。それを「私は任したんですから」っていう上司はダメなの。結果責任は取らなあかん。「俺が結果責任取るんだからな」っていうことが、ちゃんとわかってればええ。絶対、失敗を「おまえのせいだ」とは言わない、ということがわかってればええ。

「大事なときには報告しろよ」と言ってもいいの。「相談するときは相談しろよ。いつでも聞くで」、それでいいじゃん。だから、「任せたから知らん」と言うんじゃなくて、あとがやっぱり密に見ないといかんと思う。魔法はないと思うねん。ドロドロと人間味を持って指導する。

新野:つまり、この問題を一般化すると、部下に対して任せるか介入するかのテーマで、どういうときに任せきり、介入するかという一般解はない。

西岡:ないない。こいつ(部下)にもよるもん。このおかげですごく成長する奴と、やっぱり世の中そうでない奴もおるやん。それなのに、「これはゴールデンルールだから任したぞ」、それは無責任なだけやろ。

新野:そうですね。

マネジメントにルールはない

西岡:こんなん、人事も知ってるで。「えっ? あの人にまさか任したんじゃないでしょうね!?」って。知っている奴かもしれん。札付きかもしれん。これはもう不運とあきらめなしゃあない。それで、最大限努力するんだけど、ウォッチは欠かさない。それはもう「任したよ」って言ったら任せっきりの奴がいるのはしゃあないわ。ルールない。

新野:そうすると、まずは最終責任、「失敗したら俺が責任取ろう」と覚悟を決める。2は、誰に任せられるかを見極めて、「こいつだ」と思ったら任せきる。と言いながら、3はよく見て、なんかちょっと兆候があったら、うまいかたちで介入したり、介入していないふりをしたりとか、そういう感じですね。

西岡:そうです。はっきり言って、責任は絶対逃れられない。だから、覚悟するのは、どっちみち逃れられないと思う。だから、人によるわ。仕事にもよるで。

新野:最後の3の、彼らがやっている仕事をチェックするのは、なんかコツがあるんですか?

西岡:もうそれは人間力やな。

(会場笑)

西岡:とっても嫌な聞き方する奴おるやん。なんかミスがあったら、「そうと思ってた」って。

新野:最初の係長みたいな。

西岡:(『鬼平犯科帳』の平蔵を指して)彼はそんな、人間力の大きさやな。

新野:むしろ問題が起きたときに「言いたい」と思うような人間ってことですか?

西岡:そうそう。また戻るけどね、(『鬼平犯科帳』の平蔵を指して)この人、500石の旗本なんですよ。(盗賊と)同じ畳の上で、(普通は)同じ盃で酒は飲まん。でも、こういうことをする人なんだもん。みんなが心から心酔するわけやな、この部下たちは。そういう信頼関係がまずありき。

ここにA、Bとかいっぱいいるやん。他にもいっぱいいる。みんな見ている。そのときに、あの人に対して権限を委譲して、なるべくやりたいようにやらす、ということも見ている。そのときに、「ここは危険だから、ちょっと介入に入ったらしい」というのも見ている。「なるほど。あそこはそれは聞くべきだわな」ってみんな納得する。

みんなに見られているなかで、「あの人はフェアだ」とみんなが思ってくれる。これ、人間力しかないんちゃうかな。

ルールはないと僕は思いますけどね。僕はそうやってきました。

精神の問題を技術論に落とし込む

新野:じゃあ、そろそろQ&Aですか? Q&Aの前に1つだけ。私、西岡先生の本を読んで、一番私が参考になっていることを最後に共有したいんです。

これはIntelのアンディ・グローブさんの本と一緒なんですが、例えば、人にやさしくあろうとか、話を聞こうとか、そういうことに対して、より「そうしなきゃいけない」と意識したって、簡単にできることじゃない。その精神の問題を精神論で乗り越えようとせずに、技術論まで落とそうとする。そういう姿勢が素晴らしい本です。

具体的には、「その人間力って、どうしたらいいんですか?」っていうのがさっきのテーマなんですけど、「まず、口角を上げよ」。「口角だったら、とりあえず上げられるな」とか、「挨拶しよう」とか、技術論に落とす。これが経営者にものすごく重要なんです。

僕は今年40ですけど、この歳になると自分を変えられるわけじゃないので、自分のうまくいかないところをなんとか変えよう、変えようと下手にもがいても仕方ない。

それを技術論で乗り越えていくことを考える。最初に私がそれを気づいたのは、野球の落合(博満氏)が「スランプに陥るのは技術がないからだ」と言っていた。技術って、野球の技術のことだと思っていたら、その後の言葉で「スランプに陥るのは技術がないからだ。スランプに陥る原因は、栄養とか睡眠とか、基本的なことにあるのに、そのことに気づいていない」と言っていた。

つまり、スランプに陥ってうまくいかなかったら、「なんとかしなきゃ、なんとかしなきゃ」って考える。そういう思考の技術が甘くて、スランプに陥ったら、まず基礎的な栄養とか睡眠とかをチェックする。スランプに陥ることにも構造があり、そのことをしっかり対応すれば、全部はカバーできないかもしれないけど、一定程度コントロールできるのに、それをただがんばろうとする。

たとえば、嫁さんにも「もっとやさしくしなきゃ、もっとやさしくしなきゃ」ってずっと思っているだけではなかなかやさしくなれないのと同じで、帰ったらとりあえず「おはよう、チュッ」とするとか、もう決めちゃう。技術論としてそれをやっていくうちに、結果が出てきたりするわけです。

西岡:そうだと思います。

新野:それが本にいっぱい書かれていたのは、私が一番参考になったところです。それを全部試してみても、自分のスタイルがあるから、全部がものになるかどうかは別で、また合うかどうかも別ですけど、明日からやってみることができるぐらい具体論だったんです。それが一番勉強になりました。

西岡塾での360度評価

西岡:ありがとうございます。あの本の校正の時に、一番熱心に読んでくれたのは、次女だった。ものすごい付箋がついたからね(笑)。

(会場笑)

西岡:だけど、お父さんが、ああいうことをやっていると認めてくれている。子ども3人ですけど、みんな読んでくれた。それで一番付箋が多かったのが次女なんだけど、厳しく書いてくれた。

塾では360度評価の後、僕と塾生とで「おい、こんなこと書かれてるで」とシェアするんです。1on1で、1時間半ぐらい。「ここに書いていることが全部正しいかはわからんけど、書いているっていうのは事実だよ」と。こうやり合うんやな。それでいろいろ1時間ぐらいやって、最後におみやげを必ず渡す。ベルギーチョコ、1,500円分。

(会場笑)

西岡:「これを塾からじゃなくて、今日家に帰って、奥さんに『いつもありがとう』って言って、君からだと言って渡しなさい」。こういうルールでやるんです。それから毎月、お誕生日とかにも渡すようになって、その後、「月1回はイタリアンに夫婦で行くようになりました」とか、そういうことになるんやな。

なかには怖い奥さんがいて「こんなことやったことないのに、あなた、これ、どこからもらったの?」って言われて、「いやいや、あの……」。

(会場笑)

西岡:はじめ僕は金額を言ってなかったんやけど、嘘もつけないから、「いくらだった?」って言われて、バレたんです(笑)。それで、この頃は「1,500円だ」って言うようになった。

(会場笑)

西岡:店はここにあるっていうことは、全部言っています。でも、そういうことで変わるんです。今日みなさんね、ここに来られてこういう話を聞かれたんだから、家帰ったら、ぜひ、「ただいま!」言うんですよ。口角上げてね。

ごはんが出てきたとするでしょ。ブスッとテレビ観ながら食べていたらだめなの。ごはんを食べる時はテレビ消して……ニュースぐらいをかけとくのはいいかな。それで、「おいしい」って言うのよ。おいしくなくても言うんだ、最初は!

(会場笑)

西岡:1発目は言うんだ。そしたらね、もし奥さんがものすごい手抜いてたとするやろ。「あ、悪かったな」って思うんです。「今度はもうちょっとマシなの作ろう」と思うねん。それで、またその次に「おいしい」って言うんですよ。「良かったかな」。それでグルグル回るねん。

だから塾では「お手伝い」って書いたらダメなんです。家事は分担するもんでしょ? だから、奥さんに「どのくらい家事は分担されますか?」っていう質問があるんです。よくやってる奴おるよ。掃除、洗濯、風呂洗うとか、ゴミ出すとか。まあ、それで一方、「お父さんって、お家でどんなお父さんですか?」っていう質問があるねん。小学校1年生の子供が「iPadをする人」。

(会場笑)

西岡:「ビールを飲む人」とか書いてあるねん。そういうのを見て泣く塾生がいるんだよ。しかも、それを僕とだけでシェアするんじゃなく、全塾生で、グループに分かれて、みんなに発表して、みんなでアドバイスし合って、計画表を作ってみんなでシェアする。

こういう年代の人が、こんなん言われていることって恥ずかしいやろ? それ、全部、洗いざらい。去年の住友商事から来てる人だったかな。「ありえないと思っていました、こういうプログラムが成立するなんて」。「知らない者同士がアドバイスし合うのは、なんと心地の良かったことか」と言っていました。ちょっと宣伝でした。

(会場笑)

新野:ありがとうございます(笑)。