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「美しいサービスだけが生き残る」 クラシコム×ログミーが語る、これからのメディア事業

「美しいサービスだけが生き残る」 クラシコム×ログミーが語る、これからのメディア事業

ログミー代表である川原崎晋裕が「今話したい人」に会い、経営やメディア、イベント事業などについて対談するオリジナル企画。第1回目は「北欧、暮らしの道具店」を運営するクラシコム代表の青木耕平氏が登場しました。「メディア業界でのバックボーンがないまま、ECメディアを始めた」と語る青木氏は「北欧、暮らしの道具店」をどのように捉え、作り上げたのか。そこから見えてきたユーザーとの関係性とは?

シリーズ
ログミーオリジナルコンテンツ > クラシコム青木耕平×ログミー川原崎晋裕【対談】
スピーカー
株式会社クラシコム 代表取締役 青木耕平 氏
ログミー株式会社 代表取締役  川原崎晋裕 氏

「小さい頃からコンテンツを異常に消費してきた」

川原崎晋裕氏(以下、川原崎) 僕、「北欧、暮らしの道具店」をメディアとして前から注目していたんです。すごく変なメディアがあるなと(笑)。 青木耕平氏(以下、青木) (笑)。 川原崎 青木さんはもともとメディアがお好きだったんですか? 青木 僕自身、メディア人としてのバックボーンなどまったくなかったんです。でも、おそらく小さい頃からコンテンツを異常に消費してきたんだと思うんですよね。 川原崎 消費? 青木 はい。ものすごくたくさん本を読むとか、映画を観るとか、漫画を読むとか。そういった意味では、いちコンテンツ消費者としては大食漢だったと思うんですよ。雑誌もいっぱい読んでいましたし、それがネット時代になればよりいっそう……という感じでしたね。 ただ、これは川原崎さんにもあったかもしれないのですが、インプットをすごくする人って先に審美眼が育っちゃうんですよね。だから、自分のアウトプットに一切満足できなくなるという(笑)。 川原崎 (笑)。ストイックですね。 青木 そういうものがあると思うんです。音楽もすごく聴いていて、自分がバンドをやったり曲作りをするとなると「自分が作ったものは一番ダメ」となってしまう。だから、いざ挑戦してみてもなかなか続かない。 僕、個人でテキストサイトみたいなものもやっていたんですよ。それに関しては、自分なりの小さな成功体験になったというか、おもしろくやれた実感が少しあるんです。 そういうところで言えば、初めに質問いただいた「メディアが好きだったのですか?」は、コンテンツをいっぱい摂取して、自分なりに音楽を作ってみたり小説を書いてみたりしていた。小説に関しては、文學界新人賞にも応募したことがあるんですよ。中編くらいのものですけれど。でもまあ、箸にも棒にもかかっていないので(笑)。 川原崎 (笑)。

採用面接で必ず伝える「クリエイターの方が上である」

青木 だから、もともとなにか作りたい気持ちは持っていた。でも、自分がやってみると人のマネっぽくなるというか。クオリティ的にも練りきれない。僕としてはクリエイターになりたかったけれど、その才能がなかったんです。 IMG_9210 だから今思っているのは、才能ある人を……プロデューサー的に支えたいという気持ちが強いですね。こういった考えを言語化できたのはずいぶん後になってからですけれど。プロデューサー的な立ち位置を得てようやく、なにか作る現場の中で僕の居場所が作られたんです。そして今、その立ち位置で関わり合いを持てているので、結論としては合っていたんでしょうね。 川原崎 すごく共感します。僕も小説を書いてましたから、昔(笑)。 青木 やっぱりやりますよね(笑)。社長っぽい人には、音楽を作っていた人や、それこそ文芸の方面だったり劇団をやっていたりする人が多い印象があるんです。本当は世が世なら、社長じゃなくてクリエイターになりたかったんだという人もいる気がするんですよね。 僕はその気持ちを今も持っているせいか、「社長やプロデューサーより、クリエイターのほうが上である」と考えているんです。それは、世間的には違うかもしれない。でも、僕の中ではそう思っています。だから、自分がリスペクトできるクリエイターのためなら、奉仕できるんですよね。 ログミーでいう「書き起こし」も、そういうものに対する奉仕じゃないですか? 川原崎 そうですね。簡単に言うと、才能のある人がイベントですごくおもしろい話をしていても、会場にいる目の前の50人しか伝わらなかったり。あるいはそれが動画でネットにアップされていても、「再生するのが面倒くさい」という理由で埋もれてしまっていたり。そういったものを発掘してきて書き起こすことで、より広く多くの人に伝えることができる。そうすると、発信者の評価が上がって、その人の元へお金が回るようになって、もっとおもしろい活動をしてくれるようになる……みたいな。 青木 そうそう。 川原崎 評価経済というとちょっと大げさかもしれませんが(笑)。 先ほどの青木さんの「クリエイターの方が上」というのは、僕にもあります。というのも、ログミーでは営業職や企画職の採用面接の時に「悪いけど、うちでは編集者がナンバーワンだから」という話を毎回するんです。 なぜかというと、ログミーというサービスはまずコンテンツがあり、そこにユーザーのファンがついて、その次に売上ができる。これは単純に事業の構造の話です。面接でその話をして、反射的に嫌そうな顔をした人は、たぶん相性が良くないだろうなと思っています。 青木 そうですね。うちもまったく同じですね。 川原崎 本当ですか? 青木 はい。同じことを言っています。「申しわけないけど、僕と一緒に黒子をやってくれ」と。エンジニアやデザイナーや、営業、コーポレートなど。つまり、僕が見ている部門はすべて黒子なんですよ。なので、採用段階で「一緒に黒子をやってほしい」という伝え方をしていますね。 川原崎 そうですよね。僕は昔、営業会社にいたんですけれど。営業ってお金を持ってくる存在だから、立場が強くなりがちなんですよね。プロダクトが良いから売れるんだ、ということを忘れがち。 青木 そうですね。「食えるものをとってくる人」となると、それだけで自然にリスペクトを得られるようになる。だからこそ、「黒子をやるんだ」という意識でいるのがちょうどいいのかなという感じもするんです。

「北欧、暮らしの道具店」にはアプリっぽさがある

川原崎 最近、「今っぽいメディアとはどういうものなのか?」とよく考えているんですよね。 青木 おもしろい。 川原崎 例えば、新聞みたいなものでは発信者と受け手の関係性は1 to Nだと言われているじゃないですか。でも、実際はN to Nにかなり近いのかなと思っているんです。 IMG_9255 例えば、発信者がいて、新聞は彼が言ったことをそのまま伝えている。本当にただ媒介しているだけだから、実はN to Nに近い。1 to Nというのは、新聞そのものが発信者になっている構図ですよね。それは本来良くない。 そして1 to Nに近いのはファッション雑誌や、それこそ「北欧、暮らしの道具店」だと思っているんです。ログミーはわかりやすくN to Nですが。 青木 それはあるかもしれないですね。新聞が実はN to Nかもしれない、というのは非常にわかりやすいですね。記者という、どちらかというと匿名性の強い人たちが情報を発信している。片側のNが1万なのか3,000なのかといった量の違いはあれど、構造としてはN to Nが成り立ちそうですよね。あとはテレビやラジオ……いわゆるマスメディアはそうですよね。 川原崎 ソーシャルがN to Nっぽく言われていますが、個人的にはP to Pに近いなと思っているんです。 青木 それでいうと、僕らはテレビという媒体の1番組、あるいはラジオという1番組……なんていうか、これはプラットフォームというよりアプリケーションじゃないですか。 川原崎 なるほど、スマホに1つは入っているみたいな(笑)。 青木 そうそう。だから、僕らはアプリケーションであるからこそ、目的が明確なんです。そうすると、コミュニケーションとしては1 to Nみたいな感じになると思うんですよね。 要するに「こういうニーズに応えるのはこのアプリ」みたいに、顕在するニーズに応える立場になっているのかなと、今急に思いましたね。 川原崎 アプリっぽさはありますね。 青木 アプリっぽいな、というのはずっと思っているんです。だから、メディアの作り方に関しても、世界観をあまり見ていないところがありますね。 それに今はもう、僕らは「北欧のもの」を全体の20パーセントくらいしか売っていないんですよ。 川原崎 全体というのは、どういう意味ですか? 青木 売上の2割くらいしか、いわゆる北欧にまつわるものを売っていないんです。 今はオリジナルのアパレルなど、ぜんぜん関係ないものですね。食べ物を売っていたり(笑)。そういう意味では、北欧ではないんです。もちろん「北欧にインスパイアされて始めたお店です」は今も変わっていないんですけれど。それに関しても、あくまでも価値観の部分で共感しているだけで、北欧のものを売っている感じではないですね。 川原崎 確かに、何度か買い物をさせていただいたことがありますが、北欧関係ないものもありましたね。 青木 関係ないですよね(笑)。

ユーザーは「プラットフォームを介する」が前提だった、じゃあ今は?

川原崎 先ほどのメディアの話だと、今後はユーザーとの関係性がまた変わるかもしれないと思っているんです。 長い間、メディアとユーザーとの関係性は「プラットフォームを介してユーザーがメディアを訪れる」が前提と言われていました。一方で最近は、自サイトを持たずに直接プラットフォームにコンテンツを配信する分散型メディアというものが出てきた。 でも僕は、ネットメディアというのはもともと分散型メディアだったんじゃないかと思っているんです。例えば「ログミーの記事がヤフトピに載りました」ということが、ログミーにとってどういう価値があるのか? そのページ内の関連リンクからログミーにユーザーが飛んできて、ログミーのPVが増えるから良しとするのか。逆に、ヤフーニュースに自分たちのコンテンツをとられていて損だ、と考えるのか。あるいは、ログミーの記事がたくさんの人に読んでもらえてうれしい、というふうにとらえるのか。 このうち最後の1つが、分散型メディアの考え方であり、最終的にユーザーがメディアを訪れなくてもコンテンツが評価されればログミーの価値は高まるし、それでいいよね、というものです。ドメインの意味がなくなって、ブランドだけが残る、という感じでしょうか。 青木 なるほど。なんというか、インターネットの交通整備がされてしまっている感じがしますよね。 これまでのインターネットって、どこからどんな情報が来るかわからなかったじゃないですか。全方位からぱらぱらと来る。そんなメディアの世界が3つくらいの基本ルートからごっそりくるようになった。そこをうまく流れないと、存在しないことと同じみたいな。 Googleにインデックスされていないメディアは存在しないに等しかった。それが今、ソーシャル上でタイムラインに流れてこないメディアは存在しないように感じられるのと近い世界になってきている印象があるんです。そういう意味では、年々息苦しくなってきていると思いますね。 川原崎 (笑)。 青木 なんというか、プラットフォームの意向をうかがいながらやらざるを得ない部分がどんどん強まってきていると感じていますね。

「北欧、暮らしの道具店」の在り方はフラッシュセールスに近い

それでいうと僕らの場合は、プラットフォームがないと成り立たないんです。僕らは見かけ上「ユーザーを待っているサイト」に見えるじゃないですか。つまり、サイト上に記事を置いて「みなさん、どうぞ来てください」としているように見えると思うんです。 でも現実の僕らはそうじゃなくて、もうめちゃくちゃプッシュしているメディアなんですよ。 川原崎 へぇー! プルじゃない? 青木 ぜんぜんプルじゃない。プッシュのメディアなんです。 例えば、いわゆる純粋なブラウザでうちのサイトを見ている人は30パーセントくらいなんですよ。これは、能動的にサイトを見ようと思っている人が30パーセントしかいないということなんです。ほとんどが、アプリ内ブラウザで見ている人たちなんです。 川原崎 なるほど。 青木 純粋なブラウザを見ている人というのも、その大半はおそらくメルマガ経由で見ていることになるので。要するに、こちらから発信したものに、ある意味では脊髄反射的にリアクションをとっていただいて成立しているメディアである。僕らも自分たちのことをそう割り切って見ています。 僕らのECサイトの在り方は、限りなくフラッシュセールスに近い成り立ちなんですよ。 例えば、ある商品が再入荷しました。出品されました。そうすると100万近いリーチに対して、一気にいろんなソーシャルメディアやメルマガなどのチャネルを使って、ドーンとボリュームを出していきます。そうしてユーザーの方々に来ていただいて、商品が瞬時に購入されていくという構造なんです。 探して買っていただく構造というより、基本的にはリーチやプレゼンスを最大化し、売上を作っているところもあるんです。あるいは、記事の露出を高めているところもあります。 では、なぜそうなったのか。やはり自分自身が「どこどこのサイトを見よう」という行動をまったくしていないことに気づいたんです。むしろ自分のSNSに流れてきて「あ、このサイトはいつもおもしろいんだよね」と見る感じになっている。 これをきっかけに、能動性を求めるのは酷だと思い始めたんです。一部ではそういったことができるかもしれませんが、スケールしようがないんですね。大きいボリュームになると、自分がいつも見ている番組に出てくる、それをきっかけに知ってくれる、見てくれる。 「北欧、暮らしの道具店」が好きで毎日来ています、という人の行動パターンとしては「わざわざ見に来る」よりも、「自分がいつも見ているところで情報を得て来る」が多いと思っているんです。

SNSやSEOはインターネットの大自然、だから受け入れるしかない

川原崎 そういう意味でいうと、InstagramもFacebookもどんどん見せ方を変えていますよね。Instagramも最新投稿順の表示じゃなくなったし、そうなるともう対応が……(笑)。 青木 もう対応できないですね。だからもう、FacebookもInstagramもただ呆然と見ておくしかないという(笑)。 川原崎 呆然(笑)。そこには無力さより傍観があるということなんですね。 青木 すごくありますね。呆然と見ている。 だから、僕らができるのはリスク分散をすること。そして、コントロールできる部分に集中することだけかなと思っているんです。 例えば、リーチをどこまで伸ばすかは、正直コントロールしようがなくなってきている。一時的にロジックを理解して対応できても、今度はそれがマイナスに働いてしまうことがある。SEOなんかがまさにそうですよね。過剰適応すると、次のアルゴリズムでペナルティポイントがつくことがあったりするじゃないですか。 川原崎 怖い! 青木 これはソーシャルでもまったく同じだと思っているんです。その中でも唯一の策は、過剰適応しないこと。なんというか……あきらめるしか。 川原崎 あきらめる(笑)。 青木 そこはね(笑)。その中で唯一コントロールできるのは、我々の場合はどう利用率を高めたり、訪問したユーザーの満足度を高めるとか。要するに蓄積できる問題じゃないですか。 もう、ソーシャルやSEOはインターネットのネイチャーです。大自然だから、コントロールしようなんて無理じゃないですか(笑)。「台風が来なきゃいいのに」「雨が降らなきゃいいのに」と言ったところでしょうがない。でも「台風が来ても、壊れにくい家を建てようね」はできるんですよね。 今の環境を理解した上でコントロールできる・できないを整理する。そしてコントロールできることだけに集中する。それができている人は、あまりいないんですよね。ちゃんと間違っていない方向に努力できる人自体が、コンペティターを見てもほとんどいない印象があります。 川原崎 わかります。メディアに関しては、プラットフォームをハックしようとしがちですよね。 青木 そうなんですよ。でも、大自然をハックできないし、受け入れるしかない。だから、最近は母なる大地に身を任せていますね(笑)。 川原崎 ログミーの編集会議でもそれに近いことを話していますね。「ここのプラットフォームからのリーチが減ったからなにか対策しなきゃ」という話自体は出るんですが、せいぜい記事タイトルやネタを工夫するくらい。ある意味、そんなに深刻には考えていないというか。 青木 たとえ対策がわかったところで、長続きしませんしね。

プラットフォームをハックするより「美しい存在」を目指す

プラットフォーマーってハックされたくないんですよね。あるネイチャーとしていいエコシステムを作りたい、と彼らは思っているはずなので。 例えば森に住む鹿がエコシステムをハックして自分の種を増やそうとしてきたら、しばらく様子を見ているかもしれませんが、直ちに鹿狩を始めるようなことが起こるわけじゃないですか。ハックされたくないと考えているプラットフォーム側に対して「ハックする」こと自体が、実は長期的なメリットと相反しているように思うんです。 川原崎 確かに。 青木 僕、GoogleやFacebookのようなプラットフォーマーの人たちから「あいつらは美しいなぁ」と思われたいんですよ。もしも国立公園のレンジャーだったとしたら、一種を増やそうとしなくても、なにか美しいものが滅びようとしていたら、助けると思うんで。 川原崎 それ、わかるなぁ! 青木 妹の佐藤(=佐藤友子氏、クラシコム取締役)といろいろ話しているのですが、「足りないところはたくさんあるけど、とにかく美しいと思われることをやろう」「美しいものは周りの人たちが助けてくれる。『あの美しい動物を滅ぼすには忍びない』と思われるようにすることしかコントロールできないよね」と言っていたりします。 川原崎 その考え、共感しますね。誤解を恐れずに言うと、投資家との関係性もそれに近いと思っているんですよね。お金を持っている人はそれをより良いものに使うのが仕事であり、僕らはものを作るのが仕事です。なんというか、お金が足りなくなっても誰かが必ず出してくれるようなプロダクトやブランドを作ることが大切なんじゃないかと思っているんです。 青木 そうですよね。だんだんお金もコモディティになってきています。投資家の方といろいろ話していても、本当にリターンがほしくて投資している人はあまりいない印象もあるんですよね。 投資家の方の中には「美しいものを増やしたい。その作り手側に少しでいいから参加したい」みたいな人がいます。僕が「クリエイターじゃないけど、クリエイションに少しでいいから参加したい」みたいな気持ちとあまり変わらないレベルの本音がある気がしています。まあ、みんながみんなそうじゃないにしても(笑)。 川原崎 はい、みんながそうじゃないにしても(笑)。 青木 でも、そういったものが増えてくると思っているんですよね。だから「美しさ」だけを考えていけばいい。だって、僕らは事業のクリエイターなわけですから。クリエイターとしてエゴイスティックに美しさを追及し続けていれば、あとからすべて追いついてくるんじゃないかなあ(笑)。

  
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