セックスレス問題の歴史

山田玲司氏(以下、山田):(男性がセックスしない理由の)4番目。ここで一番、とうとう出てきますけど、パークの発明ですから。

乙君氏(以下、乙君):でたでた!

山田:よく俺は散々言ってるけど、ランドとかパークとか。要するにさ、言っちゃいますけど、戦犯ではないですよ。ここは複雑なので。ここに書いてありますが、「あたる」って。

乙君:(笑)。

山田:70年代までは、男は努力して女を手に入れるのがデフォルトだったんだよ。だから『あしたのジョー』でも、灰になるまでセックスしませんからね。戦うんですよ。

乙君:ああ。確かにジョーはセックスしてないもんね。

山田:そうなの。

乙君:禁欲・オブ・禁欲。

山田:そう。で、モテるんだよ。

乙君:力石だもんね。

山田:そう。だから、あいつら童貞カルチャーなんだよ。

乙君:力石はたぶんやってたと思うけど……。

山田:でも、まあそうなんだよ。美学があったわけだよ。男たちは女を抱く以上、それだけのことをすると。要するにさ、70年代まではナイトなんだよ。メンタリティが。男たちはイケると思ってたの。

そこを「そういうのもう疲れっからやめない?」って言った時代が80年代。だから『ジャンプ』だと「んちゃ」が始まるわけだよ。そういうのは疲れるからと言いながら、戦う『タッチ』があったわけ。実はあれ意外と戦うの。

乙君:『タッチ』はね。

諸星あたるという凡人のモテ男

山田:ただ問題は、るーみっくわーるどですよ。

乙君:うわー。

山田:るーみっくわーるど、どういうことかというと、まあ『うる星やつら』ですけど。諸星あたるという、なんにも資格がないつーか、努力をしない男なの、あれ。それでスペックも高くない。ただの普通の男。そしてデリカシーがなくてスケベなの。諸星あたるっていうのは。

なのに、一方的に愛されるし、選択肢もいくらでもあるというか、女の子は次から次へときれいな女の子が出てくるという、『うる星やつら』が登場するわけだよ。

ただ、これが悪いわけじゃないんだよ。なんでかというとこの諸星あたるというのは、実をいうと、当時の高橋留美子が考える理想の男の姿でもあるわけ。

乙君:そうなの?

山田:あのね、これね、『いなかっぺ大将』ジャンルというやつだと思うんだけど。

乙君:狭っ!(笑)。

山田:要するに、日本中にいる、あんまりデリカシーがないけど、意味のわからない自信があってとにかく行動してる。田舎のイタリア人みたいな。

乙君:田舎のイタリア人?

山田:イメージですけど。要するに女と見れば口説く。殴られてもへっちゃら。口説いてる最中にきれいな女の子がいたらそっちを向くという、すごい正直な、男性ホルモンで生きているかわいい男なんだよ。これって。

乙君:『フレンズ』でいうと、ジョーイってことでしょ?

山田:ジョーイ。こいつらはバカなのを見せてるの。常に。

乙君:なるほどね!  隠すことがないんだ。

山田:だから『うる星やつら』の高橋留美子世界だと、イケメン=バカなんだよ。カッコつける男というのはかっこ悪いんだよ。つまり、ものすごく男を理解してるんだよ。

かっこ悪いことを平気でできる諸星あたるこそ、愛される資格があるんだ。というのを高橋留美子という女性漫画家が言ったせいで、みんなが大賛同したの。「留美子さん、わかってくれる」っていう。

乙君:「もう無理しなくていいんだ。俺たちは」って。

山田:そう。「俺たちのことを本当に愛してくれるのは留美子さんだ」と。そして、るーみっくわーるどから出れなくなるんです。そのあと。

乙君:「みんなあの胸に飛び込め!」つって。

しみちゃん氏(以下、しみちゃん):(笑)。

山田:でも、留美子さんが期待したいのは、ダメなあたるではなく、本物のあたるですから、どんだけ殴られても何度も口説きにいく男なの。ただ、メンタリティが弱くなって、このへんでボロボロにされると、口説きにいけないあたるになるの。

乙君:もうそれ、あたるじゃなくないですか?(笑)。

山田:そうなの。

乙君:あたらないじゃん(笑)。

女性側は「ガンガン来いよ」

山田:当たらなくなっちゃった。ここがけっこう俺は80年代のでかいラインだと思って。その口説きにいけないあたるは、でもいろんな女の子が大好きという気持ちは持っているわけだよ。

そこでどうするかというと、その次のステージで『うる星やつら』のようなハーレムもののコンテンツが。もちろんだから『ときメモ』を代表するような。

乙君:が、90年代にくるわけだ。

山田:90年代に大量に表れる。

乙君:型を作ったのは留美子さんなんだけど、換骨奪胎して、都合のいい甘い……もっと甘さを増してるんだ。

山田:留美子さんの期待に応えられなかった日本人問題なの。

乙君:留美子さん期待したんだ。「こういう男よ、次、来い」と。で、勘違いしちゃったんだ。

山田:だから要するに「ガンガン来いよ」って女たちは思ってるわけ。これはものすごいきくわけ。「お前ら来いよ。私たちは断りたいんだ」というのが女たちの本音なんだよ。でも、男たちも思ってるわけ。「お前らガンガン来いよ」。

乙君・しみちゃん:(笑)。

山田:「お前ら、萌えアニメとかエロゲーとか見たことあるのか?」と。「あいつらガンガンくるぞ」と。

乙君:なるほどね。そっちが先行しちゃったんだ。現実よりね。

山田:「アスカは『キスしようか』って言ってくんだぞ。お前ら」と。という、その隔たりがとにかく、まあ長江だよな。これな。

乙君:出た、長江。

山田:男と女の間の、もう「向こうの岸が見えません」みたいぐらい遠くになっていくというのが、まあだいたいこの感じが流れとしてあるんじゃないですかねって話なんすよ。

乙君:なるほねぇ。

山田:でね、その諦めたラインの話?

乙君:どこで諦めたのか。

90~00年代、コンテンツにおける男の役割

山田:そのあと、どういうコンテンツが決め手になったかというと、さっき言ってた……なんだっけ?

乙君:『ときメモ』?

山田:『ときメモ』だったり……なんだっけ? 『To Heart』。

乙君:うんうん、ギャルゲーね。

山田:『To Heart』だったりとか『AIR』だったりとか、いろいろみんなあるらしい。その個別の話はまた後半にやるとして、俺だいたいいつも言っている、本当にリアルセックスを諦めた年はおそらく10年前、2007年。

乙君:ああ、初音ミク登場ね。

山田:散々言ってたよね。ギャルというのが汚ギャルになって「風呂入んね」ってなった瞬間に、「ちょっと待てよ」と。「さらばリアル」ってなったという。その「さらばリアル」と同時に、初音ミクが登場で「ウェルカム、バーチャル!」という。だからその2007年。

そして『不都合な真実』の発売で、「このまま人間が増え続けると地球は危ないぞ」と。少子化スタート。すべてのラインが揃うのが07年という私の説ですね。

クドカンドラマの「恋愛とかめんどくさくね?」という風潮

あと同時に、00年代といったらやっぱり宮藤官九郎だと思うんだよね。クドカンですね。クドカン、10年前、大暴れしてるんだよね。『ウエストゲート』から『木更津キャッツアイ』から。

あのへんの流れでやってるのは、「恋愛とかめんどくさくね? 男たちだけで楽しければよくね」って言って、「モー子、モー子!」ってからかってるだけなんだよね。女の子ね。そのノリってヤングマガジンでよくあったノリなんだけどね。あれってね。 その流れが00年代に始まってて。どういうことかというとさ、恋愛できないことが恥ずかしかったのが逆転するんだよ。00年代で。「恋愛してるやつ、かっこ悪いよね」って。

『木更津』でいうと、東京に出ていって大学生になって、彼女とか作ってキャンパスライフを送りたいと思っている、櫻井君の役あったじゃん? あいつなんだっけ? あの人……あっ、バンビ。そうそう。

バンビが一番かっこ悪くなるんだよ。『木更津』ではバンビが一番かっこ悪い。あそこで思いっきり逆転したんだと思う。あそこでバブルカルチャーは終わるんだと思う。本当に。

デートとかちゃんとしよう……だから、このサイゼが「サイゼじゃなくねえ?」とかいうのを、俺、宮藤官九郎が皆殺しにしたんだと思う。うの政権をぶっ殺したのは宮藤官九郎でしょ。

しみちゃん:ほう。

乙君:はあー。

山田:そういう要素がいっぱいガーッとあってみたいなさ。それは構造としてはさ……同時に、俺さっき言ってたさ、男はがんばって努力して、ある一定のレベルになったら勝手に女は来るんだと。そのときに本命の女から愛されるって『Bバージン』で書いてるじゃん。

乙君:はい。

山田:それ以外にも、江川さんとかもそういう流れを描くわけだよ。要するに鍛えていって。

乙君:自分が強くなって、ふさわしい男になるんだと。

山田:そう。これは俺、学生系ラブコメというものだと思ったんだよね。これが確実に滅亡するのが00年代。「もうね、そういうの無理っすから」という、そういう空気に完全になってしまったというのがあるなというのが。

乙君:ラッキースケベ到来ですね。

山田:そうそう。

そんで大きくさっき言ってた構造としてあるのが、やっぱりそれでも姫になる気でいる女たちというのが、もうVERY政権に続くわけだよ。これずっとだ。これ母親からの呪いなんだよね。

日本は貴族文化になった?

あとディズニーですね。ディズニーが『アナ雪』出すまでは、ディズニーこのノリだからね。でも『アナ雪』で開放するんだよ。だけど、まだ迷ってるという。そこが『君の名は。』になるんだけど。

あとは「その重さに耐えられない男」って、これ経済的にうまくいってれば大丈夫だったんだよ。でも、メンタリティで折られてるの。捕虜だからね。という、この構造みたいなものがベースになるよなっていうのがあるんですけど。

ただし、漫画・アニメってどういうものかという話を最後にしますけど。萌えアニメとか萌え漫画とか、それからセックスレスにする原因になったとさせられている都合のいいアニメーションとか漫画がやり玉にあがるじゃん。

今回もそういう話をしようぜって言ってんだけど、俺ね、思うんだけど、日本って稀に見る貴族になっちゃったんだと思うんだよね。貴族文化になったんだと思う。やんごとなき者たちだけになってしまった。

それはなんでというと、上の世代ががんばったおかげで、がんばんなくても一定のレベルのインフラと経済的な余裕があるところから生まれているから、全員おじゃる丸なんだよ。生まれた時からやんごとなき精神で生きてるというさ。

それってさ、国民全体がマインドが消費者で生産者じゃないんだよ。だからみんな貴族になってると。だから、逆ハーにもなるし、ハーレムにもなるの。

乙君:男も女も、殿様だし、姫だし。

山田:うん。そういうコンテンツはものすごく多いんだけどさ。

乙君:喜ばしてくれると。

山田:そうそう。だけどこれってね、ある意味、日本のなにかを救ってるんだと思うわけ。

乙君:なにを救ってるんですか?

スクールカースト後遺症の深手

山田:さっき言ったリアル恋愛にいけない、スクールカースト後遺症で傷を、深手を負ってしまって動けなくなった男たちを慰めるというのもあるんだけど。俺ね、2つあって。1個はグロッタですね。

乙君:……。

山田:グロッタです。

乙君:ゲロッパじゃなくて?

山田:ゲロッパではないです。グロッタです。

乙君:グロッタ?

山田:グロッタってこれ、ヨーロッパの昔からあるさ、洞窟遊びって知ってる?

乙君:知らない。

山田:貴族たちが洞窟のなかでね、自分の趣味でいろんな世界中から集めた変なものたちを集めては「うへへへ」ってやる、オタク部屋だったみたいなの。最初は。

乙君:あ、フランスの?

山田:そう。

乙君:あー、はいはい。

貴族が暇を持て余して殺しをしなくなると…

山田:これがやがて快楽の館になってきますね。押入れの中の一角にグロッタが建ってて、そこは快楽の館なんだよ。そこで泉みたいのが中にあってさ。要するになにをするかといったら乱交パーティみたいなことするわけだよ。それが快楽の館、グロッタ。

これ、今の日本人のクールジャパンが作ってるのは、世界に向けて発信してるのはグロッタですね。

乙君:なるほどね。バーチャルで。

山田:そう。これによって戦争が収まる部分もあるわけだよ。やんごとなき貴族が暇を持て余して殺しをしないというのがあるわけだよ、これ。もしくは凋落していく貴族たちの心を慰めるみたいな、両面があるんだけど。

そこでシェヘラザードですよ。シェヘラザードといえば『千夜一夜物語』じゃないですか。最古の物語と言われている。これどういう話かというと、あれだよね、アラジンとか……えー、なんだっけ? アラ、アラ……。

乙君:アラビアンナイト?

山田:アラビアンナイト、そう。

乙君:アラビアンナイトというか、うん、そうそう、シンドバッドの冒険とか。

山田:シンドバッドの冒険とか。あれどういう話かというと、当時、暴君の王様がいて、退屈すぎるから、毎日女を呼んで殺せって言うんだよ。「1人ずつ殺せ。つまんないから」つって。それで若い女が連れて来られては、王様のおもちゃになって殺されていくという。

これなんとかしなければいけない。どうしたらいいかといったら、王様の退屈を慰める話のうまいやつが必要だっつって、シェヘラザードという話のうまい人が王様のところに行って、「今日は殺しよりもおもしろい話をしますよ」って言って、1個ずつ話をしていったのが『千夜一夜物語』だよね。これ日本のアニメじゃないんですか?

乙君:そうねえ。確かに。

山田:要するに物語るってことは、そういうことなんだよ。

乙君:1クールごとにね。

山田:そう。

乙君:また次の……。

山田:そうそう。

乙君:作ってる人は大変だけど。

山田:「もしかしたら、だから少年J(ジャンプ)なんじゃないですか?」ってことなんだよ、これ。という意味もあるわけ。

「来週のアニメのほうが大事」みたいなさ。「っていって生きていこうよ。そしてバカなことやめようよ」という、この2つは人間の本能のレベルの抑止力ではないだろうかというと。

というと、俺、漫画アニメ批判するのはやっぱり根本的に「なにをおっしゃってらっしゃるんですか」って話じゃないかと。というようなことですね。43分。すいません。次いきましょう。