今の消費者は「自分事化できない情報」に反応しない

MEGUMI(以下、MEGUMI):なるほど。今お話をうかがっていると、本当にありとあらゆる角度からさまざまなことを考えていらっしゃいますよね。

小泉文明氏(以下、小泉):そうですね。とくにユーザーのマインドというのが……メルカリは物の売買というところでいうと、なにか「儲けた」ような話があると思います。

テレビ局からよくあるのが「メルカリで売れた一番高い品物をフィーチャーしたいです」「メルカリで100万円以上売った人をフィーチャーしたいです」といった、いわゆる“メルカリ長者”みたいなことを言われますが、うちではそれを全部断っているのですよ。

どうしてかというと、先ほどの共感の話もそうですが、今の消費者を見ていると、やっぱり自分事(じぶんごと)化していないものに対してはまったく反応しないのです。

では今の若い子たちの共感度合いはどのぐらいかというと、ちょっと売れて、自分の承認欲求がちょっと満たされる。そして翌日のランチがちょっと豪華になるくらいの、いわゆる「日常の延長線上にあるちょっとした楽しさ」なのです。

それをまたインスタなどのソーシャルメディアにあげたりすることで、いろんなところで自分が少しハッピーになれればいいのです。「それをみんなに共感してほしい」といった流れなので、100万円稼いでいる人を見ても「別に私関係ない」という感じなのですよ。

MEGUMI:あまり興味がないんですね。

小泉:興味がない。「別に私100万も売りたくないし、売るものを持ってないし」というような。

昔のコンテンツの作り方は、どちらかというといわゆるランキングに近いですね。ランキングと同じように「上ほどいい」ような。けれども、そのランキング的な考え方がちょっと落ちてきていて、日本国民全体がどうなのかというより「自分の周りはどうなんだ?」というところに来ている。

MEGUMI:もう、人の欲のようなものがまた違う種類になってきているんですね。

小泉:違う種類になってきていますね。ですからメルカリの場合も「稼ぎたい」という人も当然いるのですが、どちらかというと「自分が出したものが売れてうれしい」という承認欲求のほうがすごく強いのだろうなと思っています。

“使いかけの化粧品”ですら売れるメルカリ

MEGUMI:でも、見ているといろんなものを売っているんですよね。使った化粧品とか。

小泉:売れていますね。

MEGUMI:すごい。私、もう信じられないと思うのですが。でも、そういうものが……。

小泉:めっちゃ持っていますよね?(笑)。

MEGUMI:めっちゃ持ってます。「売っちゃおうかな」みたいな(笑)。ああいうのはすごい感覚ですよね。今っぽいのでしょうかね。

小泉:今っぽいですね。

結局、化粧品も肌に塗って長時間つけてみないと変化がわからないじゃないですか。百貨店などの鏡の前で見て「良さそうだな」と買って、家に帰って1日つけてみたら、夕方ぐらいに「この色のくすみ方、私じゃない」「使いたくない」というような。

MEGUMI:どうしてそんなところまでわかって。なんでそんな事情を知って(笑)。

小泉:いや僕、女性のインサイトなど、そういうの好きなのですが。

MEGUMI:(笑)。そうなんですか。

小泉:それを、ああいったもので「1回使ったけど、もう使いたくないな」を売るというのは。まあでも、なんか……。

MEGUMI:でも、買い手がいるわけですもんね。そこがすごいですよね。

小泉:僕らは「捨てるをなくす」という言葉をすごく使っています。ある人にとっては価値がないのだけど、ある人にとっては価値があるものというところは、インターネットで一番情報が流通しやすいというか、マッチングしやすいと思っています。

MEGUMI:あと、紙袋ですね。ショッパーだけ売っていたり。

小泉:ショッパーはすごく売れてますね。

MEGUMI:ねえ。あれだから、地方の方で自分のところにはお店がないけれども、都会の店舗のものが欲しいということですよね。

「現金」をクレジット枠で買えてしまうことについて

あとね、お金。

小泉:お金ね(笑)。これはちょっと本当はやめてほしいやつですね。

MEGUMI:ねえ。あれはどういうことなんですか?

小泉:あれはですね……。僕らの趣旨としては、とくにオークションでは、例えば50円玉の穴がちょっとずれているやつとか、紙幣番号がゾロ目など、いわゆるプレミアム硬貨と言われているものがあるので、それが健全に流通されるのではないかと思っていたのですよ。

ところが蓋を開けてみると、最初はそれが当然多かったのですが、普通の1万円札がちょっと高値で売れているような。

MEGUMI:どういうことなんでしょうか、それは?

小泉:どういうことかというと、僕らもよくわからないのですが。一応メディアの人たちがいろいろ詮索するには、クレジットカードのいわゆるクレジット枠とキャッシング枠があるじゃないですか。キャッシング枠で借りすぎちゃった人が、返済前にクレジット枠で買える現金を探して換金しているんですよ。

MEGUMI:なるほど。切ないですね。

小泉:メルカリの現金はクレジット枠で買えるのです。

MEGUMI:なるほどね。だから現金がほしい人ですね。

小泉:はい。

MEGUMI:今、手元に現金がないから「メルカリを使ったら現金もらえるらしいよ」というような。

小泉:もらえるらしいというので、それで現金を買うと。

MEGUMI:もちろん違法な……どうなんでしょうか?

小泉:僕らの利用規約でいうと、マネーロンダリングに該当するので運営元としては当然やめてほしいのですが。

MEGUMI:そうですよね。

「悪さをしようとする人」はシステムと人力で徹底的に消す

小泉:そういう僕らも意図しない使われ方があるので、そこはかなりカスタマーサポート側で消していますね。

MEGUMI:ああ、そうですか。

小泉:はい。

MEGUMI:でも、だんだん大きくなってくると、そういったお金の問題にしても、いろんなネガティブなことが増えていくじゃないですか。そのあたりの対処や考え方はどのような感じでやっていらっしゃるんですか?

小泉:考え方としては先ほど言ったように、個人がエンパワーメントされるということがインターネットの基本的な良さだと僕は思っているので、そこはあまり制限したくないんですよね。

どんどんきっちり細かくしてやっていくと、どんどんつまらなくなっていく。なので、基本的にはなんでも売れるというメッセージというか、考え方は残したい。ただ一方で、ユーザーの不利益や不便さというところに対しては応えていかないといけないです。

僕ら今280人ぐらいカスタマーサポートがいてですね。

MEGUMI:そんなにいるんですか?

小泉:そんなにいますね。

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