股間を蹴られると痛い理由

ハンク・グリーン氏:体のどこかを蹴られれば痛いですが、股間を蹴られた時はとくに痛いですよね。そのため、格闘技では股間を蹴る行為は「ロー・ブロー」と言い、禁止されています。この言葉は、卑劣で不当な痛みを伴う攻撃という意味を持っています。

たとえ自分自身でその痛みを経験したことがないとしても、このようなイラストや、スポーツ選手が着用する防護具、もしくはテレビ番組の「America’s Funniest Home Videos(アメリカズ・ファニエスト・ホームビデオ)」で見たことはあるでしょう。

男性特有のことだと思っているかもしれませんが、股間を蹴られれば性別関係なく痛いです。さまざまな要素が股間に集結しているため、蹴られれば最悪の事態に陥ることもあります。多くの神経が通っていますし、攻撃に対して無防備ですし、柔らかい場所です。

さらに、股間を攻撃された時、攻撃されていない他の場所も痛みを感じるべきだと脳から指令が出されます。

最初の問題は神経です。まず、体の他の場所と同じように、攻撃されれば痛みを感じます。でも股間は神経が集まっている場所なのです。

レセプター同様、感覚神経にもさまざまな種類があります。痛みを感じる神経は侵害受容器神経と言われ、他の神経同様、「オールオアナッシングの法則」が働きます。つまり、神経は痛みのサインを送るか送らないかのどちらかです。もっと強くとかもっと弱くという中間的なサインは送れません。したがって、痛みを強く感じるときは、より多くの神経が過敏になっているからということです。

私たちの股間には侵害受容器神経を含めたさまざまな感覚神経が集まっているので、そこで感じた痛みは非常に強いものになり得ます。

しかし、股間を蹴られた時に苦しむのは、神経が密集しているからだけではなく、股間の位置関係も重要な要素です。

睾丸は外部からの攻撃を非常に受けやすいです。何らかの攻撃から守ってくれる骨などが周りにあるわけでもなく、そのままの状態です。子孫繁栄のために重要な臓器がまったく守られていないなんてひどい話だと思うかもしれませんが、それには正当な理由があります。

健康な精子を製造するための最適な温度は、体温より1~2度低いと言われています。つまり、睾丸はそのままの状態でぶら下がっていて、何らかの攻撃を受けた場合は睾丸がすべての痛みを吸収するということです。

対して卵巣は体内にあるので痛みを感じることはありませんが、女性器の外陰部と恥骨の位置関係を見ると、痛みを感じることも想定されます。蹴った力がクリトリスを攻撃するだけの力があった場合、恥骨にぶつかり痛みを感じますが、あまり一般的に知られていませんね。断然、睾丸の方が無防備なので、より攻撃しやすいですよね。

股間を蹴られた時は股間自体が痛むだけではなく、そこから全身に波及する「関連痛」という痛みも大きいのです。股間を蹴られると次の瞬間、腹部全体が痛み始め、次に肩や首が痛み、あっという間に全身が痛むようになります。

研究者たちは関連痛について詳しくわかっていませんが、どうやら神経がお互いに関連しているからのようです。体内の神経系は非常に組織的です。たとえば、指を紙で切った場合、どこから痛みが発生しているのか脳は正確に把握します。

しかし、体の奥で何を感じているかをピンポイントで教えるほど正確ではありません。レセプターはあまりなく、たいていの場合、もうひとつの中枢神経がさまざまな別の分野から信号を感知します。

脳が把握しているのは、「体の中のここら辺が痛む」という程度なので、体全体が痛むという信号を発信します。関連痛は、同じ脊髄に管理されている部分に広がる傾向にありますが、睾丸が誰かの足に踏まれるような最悪の事態では、痛みは体中に広がります。

つまり、股間には痛みを発信する準備が整っている神経が山ほど集結しているのに、脳は体内の臓器が攻撃されていると具体的にどこから痛みが来ているのかを把握することができません。その結果として、股間を蹴られた時は全身に猛烈な痛みが広がるんです。したがって、股間を他人の足元から離すことが賢明ですね。