シビックプライドは当事者の問題である

太下義之氏(以下、太下):たぶん、今日は会場に行政の方もたくさん来ているかと思います。行政が評価にあたって陥りがちなのが、まさに「結果」とさっき左京さんがおっしゃいましたけど。

評価の用語で言うと、アウトプットで判断しがちだということですね。たとえば、展覧会に何人来たか、みたいなことです。実は私、この4月から国立美術館の理事をおおせつかっていて、そちらの会議でもお話してるんですけど、美術館もアウトプットで評価すべきではないのですよね。

もし逆に仮説として、アウトプットが本当に大事なのだったら、すなわち入館者数を増やすことが本当に大事なのだったら、国立美術館も1年ずっとドラえもん展をやってればいいんですよ。そう考えると、あれっと思うでしょ。

それが本当に国立美術館がやることかなと。たぶん違うわけですよね。ということは、入館者数を増やすということはひとつの結果ではあるけれども、目的ではないということが確認できるわけです。

先ほど左京さんがプロセスとおっしゃいましたけど、プロセスも大事だし、その後の行動の変化という、たぶんそっちのほうがより大事だと思うんですけども、これも評価の用語でいうと、アウトカムと言います。

結果としてのアウトプットはわかったと、で、その後どうなっていくのっていうところが本当に問われていくところなのでしょうね。そんなところも念頭に置きながら、後半のディスカッションをやっていきたいんと思います。

今の左京さんの話を整理させていただくと、シビックプライドというものは当事者の問題であるということが前提になるわけですね。

ただ、そこで終わってしまうと、逆に言うと「はいそうですね」ということで、当事者以外が関わる余地がなくなってしまうわけです。一方で、まちを同時に盛り立てていくことが可能なんだというお話しがありましたね。

クリエイティブで解決する、音楽で解決する、仕掛ける

要するに、シビックプライドは基本的には当事者の問題なのだけれども、そこによそ者というか第三者が参加することによって、また新しい化学変化が起こってくるということではないかと思います。

これは最初のお三方のプレゼンテーションにもありましたけど、例えば高橋さんのプレゼンテーションの中には、「地域課題をクリエイティブな力で解決するんだ」、そういう言い方がありました。佐藤さんの表現では、「音楽で解決する」という言い方がありましたし、村多さんのプレゼンテーションの中では「仕掛ける」、または「気づきを与える」という表現になってました。

それぞれ表現の仕方は違いますけど、シビックプライド、すなわち当事者の方々に対して外から来た第三者になりますけど、なにがしかのクリエイティブな働きかけをしていって状況を変化させるという、これがまさに今日の地域ブランディングというところのテーマになるのかなと、イメージしてお聞きしていました。

いかがでしょう、このクリエイティブで解決する、または音楽で解決する、仕掛けるっということについて。さっきはキーワードを中心にご紹介いただいたんですけど、もうちょっと掘り下げていくと、具体的にどんな手の打ちようがあるのでしょうか。

左京さんには包括的なプレゼンテーションをしていただきましたので、他のお三方、どなたでもけっこうですので、こんなアプローチがありうるんじゃないかっとていうご意見があればどうぞ。では最初に佐藤さん。

音楽はツールである

佐藤雅樹氏(以下、佐藤):ヤマハの場合は音楽というのが生業ですので、どうしても音楽をベースに……ただ従来は、音楽は主語になりがちだった。

音楽って、ツールなんだろうということに気づき始めて。もしかすると、地域の中で求められる課題、社会課題みたいなもの、今日のテーマで言えば地域を活性化していくことも含めて、地域にシビックプライドを根付かせていくと。言い方が上から目線ですみません。ただ、そういうことが可能なんであれば、音楽は改めて価値を見出していけるんじゃないかというようなロジックで考え始めました。

なので、今議論にありますように、自分事の中で音楽がどう活躍できていくのかなというところが、たぶん地域のみなさんと企業を結びつけるポイントになっていくんじゃないかなと。たぶん、地域の中で行われているだけでは、なかなか広がっていかないんじゃないかなという思いはあります。

ここに企業などが参画していくことで、より日本全体での盛り上がりになっていくんではないかなという思いも含めて、日々考えているというところでしょうか。

太下:はい、ありがとうございます。音楽が主語になりがちであったけれども、これからはそうじゃないやり方もあるんじゃないかということですね。非常に重要なご示唆かなと思います。他、いかがでしょう。村多さんどうぞ。

村多正俊氏(以下、村多):私どもがいつも思ってるのは、気づきを与えたりするときに、ともかく敷居を低くするということですよね。あと、どうしてもシビックプライドという言葉が入ってきたりすると、やっぱり構えてしまう。その時点で先ほど高橋さんおっしゃいましたように、離れていっちゃう人もいるんですよね。

そこに、エンターテイメント、芸能という要素が加わって。歌とかエリアの盆踊りだとぐっと敷居が下がって、それが結果として楽しむプロセスというお話もありましたけども、「僕らの街っていいよね」というところにつながれば、それが一番かなと思ってます。

問題定義と問題自体を正確に把握する

それで言うと、我々で言うと音楽以外のすべてはすごいツールなのかなとか、あとはノウハウなのかなと思いますね。その辺はどうですか。

左京泰明氏(以下、左京):そうですね。そのアプローチの仕方、手段の話、これはいろいろあると思うんですよ。いろいろあって、いろんな企業さんの得意な分野とか、いろんなITのテクノロジーだったりあると思うんですけど、なかなか難しいのが、そもそもなにが問題なんだっていうことを正確に定義するっていうことだと思うんです。

デザイン思考とかみなさん勉強されてる方もいると思うんですけど、大事なのはなにが経営資源としてあるか、フィージビリティでもなくバイアビリティでもなく、デザイアビリティ、ヒューマンニーズはいったいなんだってところから始めようっていうのが、今のデザイン・シンキングの大きな考え方ですよね。

つまりその課題、ニーズっていうのはなんなんだ、これさえ正確に定義できればほぼ解決なんだ、これがデザイン思考のキモなんです。プロブレム・ソリューションじゃなくてプロブレム・ファインディングなんだっていう話なんですけど、まさに地域づくりもそうだと思っていて。

結局そこが曖昧なまま、いろいろな取り組みをやっていると、結局これやってどうだったんだっけ、という話になりがちだなと思います。アプローチはさまざまな、クリエイティブな強みを活かしていただきつつ、まさにその問題定義をがんばろうというのがキモかなと思います。

村多:問題定義と問題自体を正確に把握するっていうことですよね。それ、できそうでできないんですよね。

左京:むずかしいです。

村多:実際に、僕らも自治体の方々とお仕事をしてますけど、そこがお互いなんとなくわかんないよねっていうところがありますよね。そこさえキチっと、例えば訴求するターゲットがなんなんだっていうのがしっかり把握することは重要だし、根源がわかればもっといいし。本当におっしゃる通りですね。すみません、着地しちゃいました。

自発的に問題を把握することが重要

太下:先ほど左京さんが、3つのセクターのお話をされましたよね。企業と行政と非営利市民セクターと。ある意味、非営利のセクターに期待されてるのはプロブレムというか、課題のファインディングですよね。行政なり企業なりが課題を見つけようとすると、手数がかかります。たとえば、企業は儲けなきゃいけないですから。マーケットリサーチをやったりとか、どうしても手数がかかるんですよね。

行政だと、それをきちんとした施策として取り入れようとすると、それこそ先ほどの長谷部区長じゃないですけど、ちゃんと行動計画を作るというステップがかかるわけですけど、非営利市民セクターはこれだと思ったらとりあえず始められるんですね。

他の人がどう言おうと、俺はこれが課題だと思うんだと。それが合ってるか合ってないかはいろいろあるでしょうけども、そういう活動がわらわらとあると、そのうち本当に「確かにそうだね」と、みんなが賛同していき、それが社会的な動きになっていくのではないかと思って聞いていました。

村多:確かに即応性というか、時代性が必要ですよね。先ほどおっしゃられた、行政だと例えば、基本計画をアップデートした後期基本計画とかあったりするじゃないですか。だけども、どうしても現場とのずれってでますよね。

だからそこを自発的に、エリアをやってる人たちが、NPOの人たちがしっかりと問題を把握するということは重要ですよね。

太下:行政もそうでしょうし、大きい企業もそうなんですけど、なかなか方向転換ができないんですよね。とくに行政は、一度作った計画の廃止をやった自治体はそうそうないんじゃないかと思いますね。なんとなく生き残っちゃうんですよ。

実はさっき紹介した東京都の文化のビジョンについても、『東京文化ビジョン』という立派な冊子があるのですね。今日の会議でも配られたのですけど。これ実は、舛添さんが都知事のときにつくられていて、これは第何版かなんですけど、当然初版のときには舛添さんの写真が一面に出てるんですけど、今はないわけです。