1980年代、有害図書とされた漫画

立川氏(以下、立川):雑誌の中でも特集とかやってたでしょう、有害コミックの。青臭いって言えば青臭いけど、真面目なことを取り上げてやってたのがヤンサンらしくていいなと思ったけど、その対象が(漫画家の)遊人かというのは。

山田玲司(以下、山田):「俺たちが守ってるのは遊人か」って(笑)。

立川:別に遊人さんがどうだって言うつもりはないんだけど。

山田:アポロの歌だったら守りたかった(笑)。

立川:いや、遊人さんはヤンサンにいて、スピリッツに移る前も話は何度もさせてもらってるから。

すごく商売人だしね。あの人なんか、むしろあまり晒し者にされたくないほうだから、さっさと切りかえてもらったほうがいいって思っただけど、戦ったりすると余計目立つじゃん。

という気もなんかしてたんで、どうなのかなというのは。この話は、たしか六田(登)さんとしたかな。六田さんも両方で描いてたから。

山田:『二都物語』(注:殺人犯・梅川の生涯を描く漫画)はちょっと?

立川:ちょっと「戦う、守る対象か?」みたいな。もちろん、はじき出したりはしないし、そんなつもりは全然ないんだけど、ただ、そんなにそれを錦の御旗にするようなことなのかなというのはちょっとあって。

山田:『ハレンチ学園』(注:永井豪原作)はどう思いましたか?

立川:ハレンチ学園は俺も子どもの時代ですけど、ものすごくおもしろかったです。「こんなのありか」というぐらいに。いや、くだらなさで言ったら、それはもう、永井さんのほうが、はるかにくだらないと思うんだけど、なにが違うんだろうね。

でも、永井さんは明らかにPTAだったりとか、戦う気で戦ってましたよね。これは、だから我々の世代よりもっと上の手塚(治虫)先生も、そのころはけっこうPTAにたたかれてたころだと思いますけど、何年ってちょっと言えないのが、ちょっと物忘れがひどくなった50代後半の男の。

山田:その話はいいっすよ(笑)。

立川:俺たちで言うと有害コミックだけど、それより前にあったんだよね、やっぱり。手塚先生とか全部、槍玉に上げられたような。

山田:アトムすら。

立川:そうそう。『リボンの騎士』とか。あれに対するアンチですから、時代的には恐らくどうだという感じのさ。もちろん、だから、あれ自体もやられたんでしょうけど。

でも、ちょっと違うかなという。「なんで?」って言われても、ぱっとディテールが出てこないところがもうだめだね。

例えば、ハレンチ学園にこういうシーンがあるんだけど、これってやっぱりバックにあるんだよね、アンチテーゼがさとか、思想がとかって言えるとかっこいいんですけど、これがね。

石橋氏(以下、石橋):その当時のそういう表現規制のラインは誰が決めてたって、やっぱり世の中の世論が決めてたみたいな感じなんですか?

立川:そうだね。でも、有害のときは言ってたよね。若い者も、主婦たちから始まったというのも確かにあるので。

WEBでの表現規制の基準

石橋:アプリになってくると、今アプリでやってるんですけど、表現基準どこかというところがもうはっきりしていて、それはもうリンゴの会社さんとかグーグルさんが決める。

そこのガイドラインがOKかというところで、今はけっこう、そういうかたちになってきてます。だから、なんか一方的にバンされちゃうと終わっちゃう。

乙君氏(乙君):そうか、アプリをあれしてるのが。

石橋:もちろんそうですね。グーグルさんとアップルさんなので。

乙君:そういうことか。

熊谷氏(以下、熊谷):漫画自体はないですけど、僕、多分裏サンデーやるときにクラブサンデーとかやってたんですけど、それのPVみたいなものをちょっとコマをつなげてつくるじゃないですか。で、YouTubeに上げるじゃないですか。警告を受けたことはあります。

(会場笑)

乙君:勝手に使ってるんじゃないかと?

熊谷:勝手にじゃなくて、表現で。

乙君:表現でということなの。あっ、そうなの。

山田:乳首は出してないんでしょう?

熊谷:出してないですよ。

山田:乳首出してなくてもだめだから。

熊谷:だから、児童ポルノというほどじゃないんですけども、要するに性的な描写としてというので、これはというのは来たりします。

石橋:どんどん世界基準値になっていってるのかな。

熊谷:確かに、それは雑誌よりもWebのほうが、より厳しいかもしれない。

山田:そこをわかりやすく、ある議論で、子どもに見せるなという話なんだよ、だから。少年○○ってつくのに、エロを持ってくるなというのと、あとよく言ってるのは、女性を物として扱ってるという表現はどうなんだというの。

だから、その反対側に、まあ、少女○○とかの中にBL的なものもあるのもなぁという話で、このへんが非常に曖昧になってるのと、あと子どもの選択肢を奪うなという議論があるわけだよね。

要するにそれは、子どもをバカにしてるんじゃないかと。社会はいろいろなものがあって、清濁混合ある。それをチョイスしていくのが人生なわけで。

子どもというのは最も安全なところ、漫画ぐらいからこれはいいもの、これは悪いものって自分で判断するというものを、判断させないと。一方的な宗教の押しつけなんじゃないかということがまず大事。大きなテーマの1つになってる。

戦後の価値観からの脱却を漫画が図っていた

これが相変わらず、寄せて返す波のように、また何度も何度もその話をするんだよね。バーンと島本(和彦)先生も描いてる。子どもが選ぶことだという。江川(達也)さんも言ってるしね。

だから、一方的な宗教の押しつけというのが戦争で1回あった。だから、国のために死ねという宗教があった。それに対して、それはまずいと。自由に考えなきゃいけない、個人主義が。だから、団塊世代はそこで戦っている。

団塊世代が戦っていたそのテーマを引き受けて『ハレンチ学園』を描くわけ。だから、『ハレンチ学園』はエロの闘争で、あれは実を言うと、日活ロマンポルノの戦いなんだよ。若松孝二なんだよ、あれ。

だから、エロとバイオレンスで表現していたものは、我々の精神の自由であるという闘争を少年ジャンプでやってたんだよ。だから、あの時代の混沌は少年誌の中でそれが起こってたってところがおもしろかった。

だけど、そもそも漫画というのは破壊活動じゃないかという話もあるんだよね。硬直していくいろんなもの、規制がかかって、だんだん身動きがとれなくなってくものを、例えば子どもがデカになって下半身を露出したまんま死刑って言われる。

今になると、「おもしろいの?」ってなっちゃうけど、あのころは破壊力あったんだよ。あれによって自由になれる子どもがいたんだよ。だから、けしからんという大人がいてというバランスがあって。

ただ、問題はさっき立川さんが言っていたのは、遊人の『ANGEL』を守るためにやるかという。つまり『がきデカ』や『アポロの歌』や『ハレンチ学園』を守るためだったら「体張るよ、編集者は」という気持ちはあるんだよ。

漫画におけるポピュリズムとは

そうなると、売れるためにやったエロというのは、自由のためではなくマーケティングのためではないかと。ここに大きなすり替えがあったんじゃないかというのが。

立川:頭いいね。こういうことか。

(会場拍手)

山田:やったー。

乙君:だから、それがさっきの立川さんの違和感というやつですね。

山田:そう。ありがとう、ありがとう。

立川:まったく俺もそう思いますけど。

ただ、これニコニコでこの番組も1万とか2万とか見られている話を聞いてるから言うわけじゃないんだけど、遊人さんが売れるためにそれを描いてくれたこと自体は、我々は否定できないんですよ。そのために引っ張ってきて、ああいうネタを描いてくれって言ったわけだから。

その彼を1人だけさらし者にして、いやいや、もう変な下品な漫画描かせちゃってすみませんっつって、さっと絶対しなかった当時は、ヤンサンの編集部は、まあ、この番組の看板になってましたけど、やっぱすばらしいと思うんだよ。

あのときは俺も若いし、いや、ちょっとね。あれかばうのみたいな、あったけど。

山田:わかります。だから、本当の漫画好きは質の問題なんだよ。魂の解放として戦って漫画家がやったんだったら、編集者として一緒に戦ってやろうと思ってたんだけど、売らんがために。

でも、俺たちも言ってた、それを。俺たちも売れないと食えない。要するに、ポピュリズムの話なのよ。ポピュリズムというものをぼんとやると、お金ももうかるし、権力も手に入る。そうすると、トランプみたいなことになりますみたいな話。

そうすると、そもそもの理想から離れたものになるから戦いづらいんだよ。そこが本当に問題ですよね。

1つはっきりしてるのが、でも、残念ながら、ポピュリズムがあったからジャンプ売れたんだよ。

ジャンプ下品で、非常にひどいものもいっぱいある。だけど、みんながおもしろいって言ったものには、ものすごくいいものもあったんだよ。だから、市場が拡大していくわけだ。

そうすると、漫画ってすげぇおもしろいという中にガロとかもいる場所が生まれてくるわけよ。非常にマニアックなものまでオーケーになるという。市場が拡大した。これはポピュリズムが生んだ多様性でもあるという。

ここはなかなか難しいところで、じゃあって言って淘汰が行われて市場が縮小していくということになってくると、変なものが生まれづらくなる。

漫画でエロをなくすと逆に危険

いろんな売れりゃいいじゃねぇかってやってた中に、あの当時のスピリッツありましたよね。だから、スピリッツも、ものすごく売れたから吉田戦車が入れたという。『じみへん』みたいなものが入れたのもそうですよね。

立川:まあ、そうですかね。まあ、難しいけどね。ああいうもの自体がすごく当たってたってこともあったんで。

山田:でも、『美味しんぼ』と『めぞん』がなかったら、あそこまでの自由は獲得できなかったかもしれない。

立川:まあ、そうだね。雑誌の中のバランスみたいなことはあるからね。

乙君:チャンピオンみたいなものでしょう。

山田:チャンピオンもそうだよ。

乙君:だから『刃牙』と、今で言うと『浦安』と、まあ。

山田:おまえ、チャンピオン信者じゃなかったのかよ。おまえ、今飯田橋を代表として言ったんだからな、おまえ。

乙君:だから、その二枚看板があるから、『BEASTARS』とか、もうむちゃくちゃおもしろいんですよ。玲さん、今度読ませますよ。

山田:わかんないけど、『覚悟のススメ』みたいなのが出てくる場所があるわけね。

乙君:そうそう。

山田:でも、その土台には、だから、チャンピオンは自由を求めたんだよ。壁村(耐三)さんがいたんだよ。だから、チャンピオンがやろうとしていたことというのが非常にラディカルだったというのがあって、その場所で今の人が遊べるというのはある。

だけど、どうするという。だから、そういう状況の中でけしからんというまた議論が起こってきて。

このこと、ちょっとどうかなと思うのが、さんざん語られるやつで、抑止力の問題があるじゃないですか。だから、漫画でエロをなくすと逆に危険ですよと。漫画のエロで救われてる部分もあるんじゃないかという議論がある。

乙君:全くそのとおり。

立川:たまっちゃうみたいな感じ。

山田:そうそう。これで漫画で発散してるんだから、現実にはそんなに。だから、日本の性犯罪なんて、海外から比べたら、そんなに高くないんだよね、実際のところ。でも漫画はこんなにたくさんエッチなものがいっぱいあります。

制作協力:VoXT