S-Boosterの発起人

司会者:それでは、ここからは第2部に移ります。第2部では、「宇宙ビジネスへの道しるべ ~S-Booster 2017とみなさんのアイデアで創る宇宙ビジネス~」と題しまして、山崎直子さんに加え、現在アイデアを絶賛募集中と冒頭でもご紹介させていただきました、日本初の宇宙ビジネスコンテスト「S-Booster 2017」の立ち上げに関わった方々でのトークセッションを行います。

それでは順番にお呼びいたしますので、どうぞみなさま拍手でお迎えください。

民間による宇宙ビジネスの促進にかかわる政策に携わり、現在は経済産業省新規産業室に所属されていらっしゃいます、畑田康二郎さんです。よろしくお願いいたします。

(会場拍手)

司会者:続きまして、長年、衛星開発プロジェクトを担当され、S-Booster 2017の立ち上げにも関わられた、JAXAの有川善久さんです。よろしくお願いいたします。

(会場拍手)

司会者:そして、第2部のモデレーターも務めていただきます、スカパーJSATでスタートアップの支援など事業開発に従事されていらっしゃいます、橋本英樹さんです。よろしくお願いいたします。

(会場拍手)

司会者:さあそれでは、ここからは橋本さんにお渡しいたします。どうぞみなさまよろしくお願いいたします。

橋本英樹氏(以下、橋本):みなさん、こんばんは。第2部は、1部目の山崎さんのセッションを受けて、ここから約25分間で、じゃあ実際どういうふうにやっていったらいいのかということを具体的にお話をしたいと思っております。

わかりやすくご説明をさせていただくために、まずこの強力な助っ人を今日お呼びをさせていただきました。まずは畑田さん、簡単に自己紹介からお願いできますか?

畑田康二郎氏(以下、畑田):私、今、経済産業省の新規産業室というところで課長補佐をしております、畑田と申します。

実は内閣府に2年間出向しておりまして、その時は宇宙開発戦略推進事務局というところにおりました。いわば霞が関の宇宙政策に関するホールディングカンパニーみたいなところで、宇宙政策を担当しておりまして。

そのなかでこのS-Boosterというプロジェクトを立ち上げまして、いよいよこれからという時に異動しちゃったんです。けど、今やってる仕事はベンチャーをどうやって盛り上げていくかというなかで、今も引き続き「宇宙ベンチャーがフロンティアで一番大事だ」ということを経産省の中で運動していると、そういう状況であります。

ビジネスに使われてこそ、国の投資が活きる

橋本:ありがとうございます。では、有川さん、簡単に自己紹介お願いします。

有川善久氏(以下、有川):みなさん、こんばんは。JAXAの有川と申します。

私は入社以来ずっと衛星プロジェクトの開発に携わってきました。「確実にものをつくる」ということに加えて、「みなさんにいかに使ってもらうか」、「生活にいかに役に立つか」ということを心がけてまいりました。

今回、宇宙ビジネスということで企画を立ち上げたんですけれども、社会の役に立つためだけではなくて、やはりビジネスに使われて生活のなかに浸透してこそ、国の投資が活きるのかなと思っています。今日、この機会を使って、みなさんから活発なアイデアが出てくることをたいへん期待しています。

橋本:ありがとうございます。第2部のモデレーターを務めさせていただきます、スカパーJSAT株式会社の橋本と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

みなさんは、宇宙飛行士、それから宇宙政策、そして宇宙の技術という、宇宙の方々のプロフェッショナルですが、僕は実はあまり宇宙に詳しくはないんですね。

強引に宇宙つながりという話になると、今ここにしているオメガのX33というモデルがございます。これは実は、実際に宇宙での船外活動で使われている公式のオメガのクォーツウォッチで、そのことを、僕はつい最近知りました。それぐらい、あの(笑)。

つい最近、山崎さんに教わって初めて知ったという、それぐらいの宇宙の初心者でございます。今日は25分間、ぜひよろしくお願いいたします。

「宇宙活動法」で新しい仕組みが立ち上がる

橋本:さあ、冒頭の1部の中で「なぜ今なのか?」というお話が出ました。畑田さん、そもそも今、宇宙産業が出てきた流れっていうのは、どういう文脈で、どういうものが実際あって、今、畑田さんの目にはどういうふうに映っていらっしゃるんですか?

畑田:まず、私、2年前に内閣府の宇宙担当になりまして、その時に最初にミッションとして当てられたのが、「宇宙活動法」。民間が宇宙ビジネスに参入するために必要な法律を整備するという仕事がありました。

先ほど山崎さんが「宇宙条約というのがありまして」とおっしゃっていたのですが、これは1960年代の条約で、もうその条約ですでに「民間が宇宙活動をするときには国が監督すること」ということが決められていました。ですので、本当は1960年代にこの「宇宙活動法」というのもあってもおかしくはなかった。

ただ、じゃあ実際に民間で宇宙活動する人がいるのかと言われると、それはいないわけで。これまで法律は整備しなくても問題は起きていなかった。

それが、2015年ぐらいになってくると、例えばホリエモンさんがロケット打ち上げ実験をして、「そろそろ宇宙にもいけるかな」というふうにもなってきてます。衛星も、アクセルスペースさんが超小型の衛星を作って、民間のビジネスのための衛星というのが出てきています。ということで、法律を作って、「じゃあそういう宇宙活動を民間がするときに何を守らなくちゃいけないのか」というのをちゃんと整備しなくちゃいけないと。

こういう状況になっておりますので、それだけこの2年間ぐらいのなかで、民間の宇宙ビジネスというのはリアリティが高まってきているということだと思います。

橋本:なるほど。ありがとうございます。そうですね。なにをやるにしても、ルール。先ほど山崎さんがおっしゃられた宇宙ステーションの中でのルールであったりだとか、いろいろな仕組みがあるように、まずはなにをやるにしても、ルールがある一定程度ないと、爆発的に産業が伸びるという仕組みはできない。この環境のなかで、今、まさに日本で新しい仕組みが立ち上がったということだと思います。

スマホ発の技術革新が宇宙にも浸透?

橋本:みなさん、インターネットのことをちょっとだけ思い出していただきたいんですけれども。みなさんお使いになられていると思いますが、インターネットがこの世の中に出てきたのがちょうど四半世紀前、25年前と言われております。

ちょうど先月AppleのWWDCを見ていて、iPhone、いわゆるスマートフォンが出て10年という節目の年ですというような内容があったんですね。

みなさん、10年前に、今ほとんどの人がスマートフォンを持って電車のなかでポチポチやってるのを想像ができた方いらっしゃいますかね。少なくとも僕はできませんでした。その時、僕は、IP-VODの配信だとか、いろんなサービス系のことをやってましたけれども、少なくともそういう時代が来るとは思っていなかった。

でも、現実に今、iPhoneでありAndroidであり、スマートフォンなるものがシェアの60パーセントを占めていて、それが実際に巨大なビジネスとして産業として世界規模で回っている。こういう状態がもう10年で来てしまった。

これは技術革新、それからマネタイズの手法、いろいろな要因があって出てきていると思うんですね。まさにこういったことが宇宙のなかでも起きようとしている。スマートフォンが出てきて、こういう世界観で使われていくなかで、重要なファクトとしてあるのは、やっぱり技術革新だと思うんですね。

このスマートフォンが出てきたから技術革新が起こって、それが逆にautomotive、車の世界に応用されたりだとか、宇宙に応用されたりだとか、いろんなかたちで実は流用され始めている。

宇宙で使っていた技術が民の場所に転用されるケースはあったと思うですけれども、民のものが宇宙のところで使われる逆パターンが起きているということは、技術のプロである有川さんの目にはどのように映っていらっしゃいます?

ビッグデータの領域拡大、宇宙にも

有川:はい。これはまさしくそのとおりなんです。端的に言うと、今まで人工衛星というのは、5トンとか非常に大きなものを何百億円という値段をかけて作っていました。

ところが、実は私が大学生の時に10センチサイズのCubeSatというものを打ち上げて、これがちゃんと動くんだというのを実証しました。この部品が秋葉原で買ってきたような部品で、そのへんで売っているCPUを使って、軌道上で、宇宙で動く。これを実証した。

その流れが今アメリカに行ってしまって。アメリカのほうでベンチャー企業がCubeSat、こういった小さい数キロの重さの衛星をいっぱい打ち上げている。それをもとにビジネスを始めているという時代が来ています。

地上のそんなに高いテクノロジーのものでなくても、実は宇宙で使える、実際に動くというのがまず1つの流れ。それから、ビッグデータとか機械学習とかAIなどの流れも今まさに来ている。ということで、宇宙から取れるデータの量が非常に増えてきている。それを処理する地上の能力も今上がってきている。だからこそ、今はチャンスと捉えることもできるかなと思います。

橋本:ちょっとだけおさらいしてみましょう。10年前にスマートフォンが出てきて、インターネットのインフラの上にスマートフォンというデバイスが乗った。そうすると、例えば、この4人の間でトランザクション、やり取りされるデータも膨大になってきました。

それをデータ化して、それぞれ第三者が客観的に見て、「この人は今、こういうことを思っているのであろう」といった、ちょっとした先の未来予測や未来予知を実際にやろうとしているのが、例えばビッグデータ。今ここでやり取りされているデータがビッグデータ。それを解析をしてちょっと先の予見をする。これが人工知能。そういった流れが実は今まさに来ています。

こういった流れというのは、地球上の空間ではもう当たり前のように行われています。じゃあ今度はその空間を、たまたま上空100キロ以上……3万5,000キロでしたっけ? 静止衛星のところの宇宙空間で同じようなことをやったら、宇宙産業として成り立つのではないか。

それがたまたま地球上で消費されて、マネタイズができて、事業化になるのではないかというような可能性がまさに来ている。そんな世界が来ているのではないかなと、僕自身、客観的には見ているんです。

私たちは知らず知らずのうちに宇宙を使っている

橋本:山崎さんが宇宙からお戻りになられて、今、いろんな場で、「宇宙というものはこういうものです。身近なものなんですよ」ということをご説明されていると思います。実体験として、例えば宇宙の空間と地球上の空間のビジネスであったり、そういったところでなにか感じられることはございますか?

山崎直子氏(以下、山崎):そうですね、今だと逆にわからないうちに宇宙を使っていることってすごく増えています。スマホにしてもGPSは当然のことなんですけれども、BS・CSが普通に見えたり、通信ができたり、いろんなかたちで使われています。天気予報もそうですよね。

橋本:そうですね。

山崎:だから案外浸透してくれば、逆に宇宙を意識しないでもいいのかなという気になります。宇宙と地上とよく分けがちなんですけど、決して空って分けられるものじゃなくて。今だと、ドローンでいろんな画像やデータも取れてきています。地上のシステムがあって、空のシステムがあって、宇宙のシステムがあって、うまく連続してつなげていけるといいのかなというのはよく思います。

橋本:そうですね。今、宇宙と地上を分けなくてもいいんじゃないかというようなお話が出てきたようにですね……このなかでふだん仕事やプライベートで飛行機に乗られる方ってどれぐらいいらっしゃいますか?

(会場挙手)

橋本:けっこういらっしゃいますね。

今ちょうどANAさんの機体、それからJALさんの機体に乗っていただくと、飛行機の中でWi-Fiが使えて、普通にインターネットに接続できますよね。あれは実は、静止衛星を経由しているんです。

つまりどういうことかというと、自分のスマートフォンから飛行機の中にあるWi-Fiスポットに電波が飛んで、そこから人工衛星に上がって、いったん東京近郊のスカパーJSATの某地球局センターに落ちて、そこからインターネットに入ると。実はもう自然に宇宙を使っちゃってるんですよね。

なので、まさに「地上と宇宙の区別ありませんよ」って山崎さんがおっしゃられたことが、今まさにこの場で起きています。

ですので、このS-Boosterの活動の中では、そんなに宇宙宇宙したかたちで難しく考えずに。今、みなさんがお考えになられているビジネスアイデア、今、現業でおやりになられている事業を、ちょっと視点を変えるだけで、新しいビジネスエリアとしてたまたま宇宙という空間が横にあるんじゃないか。そんなことをこの活動のなかで広めていきたいなと思っています。

有川:ちょっと1例をつけ加えます。1つ、私がよく例にあげるんですけれども、Google Map 、Google Earthですね。新しいところに旅行に行くとか、そういったときに検索されると思うんですけれども、あの中にも人工衛星のデータというのは使われています。

引いた画像からだんだんズームインしていくと、低い解像度の人工衛星のデータからだんだん解像度が上がっていく。そして、先ほど出てきましたドローンの写真であるとか、航空機の写真というふうに切り替わっていきます。そして最後には、測量に基づく精細な地図というものに変わっていきます。

つまり、人工衛星のデータがすべてを置き換えるということはあまり実現的ではないし、JAXAもそこは狙うべきではないと思っています。

今回のビジネスコンテストも、一連の流れのなかで、宇宙のエッセンスが少しでも入っていればいいということです。先ほど出てきました気象衛星、気象観測のデータもそうですし、IT、IoTのデータもそうです。そういったものを組み合わせてなにかしらのアイデア、着想が出てくるといいなと思います。