キャスティングと宣伝の関係性

武者慶佑氏(以下、武者):キャストってどうなんですか?

平澤直氏(以下、平澤):おっと。きましたね。

武者:(笑)。アニメと言えばキャストじゃないですか。

平澤:そうですね。キャスティングに関して映画ということに限っていうと、最近はいろんな意味でコラボレーション進んでいると思っていて。

いわゆる声優さんのキャスティングもそうですし、いわゆる芸能人さんとか役者さんですね。顔出しの役者さんのキャスティングも増えていて。その演技についても、やはり一定の評価を受けることが増え始めているな、と思っています。

この意味でも、「アニメだから」とか「実写だから」というふうに分かれてるわけではなくなり始めているところはありますね。

ある時期までは確かに、例えばスタジオジブリさんの作品には役者さんのキャスティングが多くて、逆にそれ以外はいわゆるアニメの声優さんのキャスティングが多かったという、わりとはっきりと分かれている時期もあったと思うんですが。

最近はクロスオーバーも進んでいるし、さらにその声優さんについているお客さんというのも非常に無視できない数字というか、むしろ積極的に応援してほしいぐらいの数字をお持ちの方々もいらっしゃるので、そういったみなさんのお力を今借りてくという流れは、今後、傾向としても続くと思いますね。

武者:そうですよね。そのキャスティングというのも、もともとあったかたちだと思うんですが、キャストさんと一緒にメディアキャラバンをして「あの人が出ているから」という理由づくりという手法はこれまでやられていることだと思います。

キャストの「楽しそうな感じ」が作品に与える影響

平澤:同時に、ここから先は私見になってしまうんですが、キャストが「楽しそうにしてる」っていいですよね。

武者:楽しそうにしてるやつ?

平澤:キャストさんたちが仲良さそうとか。

武者:ああ、そうですね。『銀魂』なんかずるかったですよ。

平澤:そうなんですか?

武者:これ『銀魂』の数字を持ってきたんですけど。この菅田将暉さんのツイートを見てください。この画像つけちゃったら、16万「いいね!」ですよ。

平澤:きてますねえ。

武者:いやいや、アニメ関連で16万「いいね!」はなかなか取れないですよね。

平澤:すごいですね。

武者:長澤まさみさんがいて、菅田将暉さんがいて、橋本環奈さんもいて、小栗旬さんもいて。

平澤:すごいですね。

武者:ねえ。

武者:これ絶対楽しそうじゃないですか。

平澤:楽しそうにしてる。

武者:だから、楽しそうにしてるキャストさんの協力姿勢みたいなものとか、マスにおけるキャストさんのパワーとか。マスを使えって言ってるわけじゃないですよ。あくまで戦略・戦術の中で、こういう方法でプロモーションをするのもあるのかなとか。

平澤:そうですね。さまざまな側面はあるにせよ、作品と相性がよくて、 ご本人に力量があって、そしてこういうふうに積極的に関わってくださる、みたいな三拍子が揃うとすごくやりやすいという部分はありますよね。

武者:「福田組」と言われていますよね。福田(雄一)監督作品によく起用される役者さんは。

平澤:まさにそうですね。

武者:RADWIMPSも、新海さんと一緒に製作過程から入っていったところがあって、最初からチームで仲良く楽しそうにしてる、みたいなこともあるのかなと。

平澤:すごく重要なポイントになると思いますね。もちろんキャストさんの稼動そのものが注目を集めることもあるし、キャストさんたちがその作品をすごく好きだとか、キャストさんたちがすごく仲良さそうだとか、その空気によって「じゃあちょっとこの映画観てみようかな」という感じになるのかなと。

仲が良いチームはパフォーマンスが高い?

平澤:やっぱり仲良さそうにしてる人たちを見ているだけで気持ちよくなるじゃないですか。フィギュアスケート日本代表とかすごく仲良いんですけど、実際仲良くするように心がけてから成績上がったらしいですね。個人競技だけど、チームに魅力がないとやっぱり。

武者:確かに。

平澤:水泳のオリンピック代表も「仲良くみんなでバトンをつなぐんだ!」みたいにやって、けっこういい数字をオリンピックで残すようになったりとか。今の世の中的にもそうですね。仲良さげ、楽しげというチームが作ってます、というのは、なんかいいのかもしれないですね。

武者:卓球もジュニアレベルからずっと育成の期間があって、仲良しのまま、小中高と進んでいくというのもありましたね。

平澤:なるほど、卓球もそうなんですね。

武者:そう、卓球もそういうふうにやっていて。というように、スポーツにおいては昔からずっと同じメンバーで育っていくみたいなことをやられていました。

仲の良さが作品を底上げする

武者:福田監督の作品ってキャストが基本的に一緒じゃないですか?

平澤:そうですね。まさに再集結感ありますね。

武者:だから、みんながまた再集結、みたいなもので、また観ようぜという流れもあって。

平澤:まさに。

武者:だから、『勇者ヨシヒコ』を観た人は観るみたいな(笑)。

平澤:そういうことですね(笑)。これは1個のキーワードになっているなと思います。クリエイターさんでも通じるし、キャストさんもそうだし、さらに言えばクリエイターとキャストがさらに仲が良いとか、この仲良さげな空気ってすごく大事ですね。

武者:その部分というのは例えばこの、広瀬すずさんが画像をあげただけで8万「いいね!」というのはもうびっくりしてるんですけど。

平澤:すごいですね。

武者:ええ。まあ、ただハッシュタグ長いなと(笑)。

平澤:はい、やっぱりそうですね(笑)。

武者:でも、そういう数字をマスの方は持っているし、かつ、さっきおっしゃったように仲良しだったり再集結みたいなことになってくると、それはそれで作る側としても非常にやりやすいベースアップになるのかなと。

平澤:やっぱり仲良さげなもの、楽しげなものってお客さん集まってきますしね。「笑う門には……」じゃないですけどね。そういう意味でも、お客さんの関心を引くやり方がSNSのおかげでさらに種類が増えてるんだろうなと、こういう現象を見ていると改めて思いますね。

SNS時代のキャスティングのあり方

武者:最後のテーマなんですけど、「SNS時代のキャスティングと宣伝の関係は」。ここまでお話ししてきましたが、企業プロモーションへのキャストの活用というものができるのかどうか。よくあるアニメコラボだと、アニメの絵を描き下ろしをしてもらって、商品にくっつけてキービジュアルになる。このパターンはよくありますよね。

平澤:そうですね。

武者:そのときに、「できれば声優さんの稼動も一緒につけたいです」となると、僕的には声優さんの数字がベースがあります。作品は新しく始まるからわからないけど、声優さんがそれを一緒に宣伝してくれるのであれば。

平澤:そうですね。そういうところは本当にあると思いますし、さらにその声優さんの例えばクリエイティブに対する姿勢とか、あるいはプロフィールの中に作品との親和性があったり、あるいはお客さんから見てすごく興味を引く点があったりというように、お客さんにとって気になる楽しげな情報が入ってたりすると。

やはり楽しい気持ちになったお客さんは、お礼として「その作品を気にしておくか」みたいになっていく部分もあると思うので、そこきっかけで作品を知ってもらうという形は、これから強く出てくると思いますね。

武者:そうですよね。そのときにWebだけでも、SNSだけでもタイアップする可能性ってあったりするんでしょうか? キャストさんってやっぱりどれだけ露出できるか、とかもすごく気にされるのかなとか思っていて。「テレビがついてこないと動きません」とか。

平澤:どうでしょうね。ここは本当にそのキャストさんそれぞれ、また事務所さんの方針による部分も多いんですけど、最近は必ずしも「テレビじゃなきゃ」ということでもなかったり。

やっぱり事務所のみなさんも当然いろんな世の中の状況はご覧になられているので、どこでより作品に深く触れる時間を作るかといったら、「やっぱりWebだよね」とご認識されている事務所さんも最近はたくさんおられると思っています。

そういった事務所さんの中で、作品との相性も含めてうまくキャスティングができた場合は、おっしゃったようなプロモーションへの活用という部分もおそらく出てくるでしょうし、そういう成功例がたぶんさらに増えていくのではないかという感じですね。

SNSでの拡散力がキャスティングを左右する?

武者:僕はやっぱり、声優さんたちの安定した数字を企業プロモーションにおいて活用したいって思っちゃうんですよね。例えば『ラブライブ! サンシャイン!!』だったら、Aqoursのメンバーも、描き下ろしイラストだけじゃなくて、「その人たちのソーシャルも使わせてもらえるような企画になりませんか?」みたいな。

平澤:たぶんそういうところも含めて、今後はいろんなキャスティングの中にそういった要素も出てくると思いますね。

武者:ですよね。だから、僕はそんなところをお願いじゃないですけど、意識したいし、尋ねてみたいと思っています。

平澤:そうですね。

武者:ダメって言われたら、そしたらしょうがないけれども、可能性としては考えておきたいし。

平澤:おっしゃるとおりですね。結局、今は「作品見てください」と言っても、「いやいや、時間もないので」とお客さんは思われるので、お客さんの関心事につなげていくとか、お客さんの応援していることにつなげていくのが、やっぱり重要だなと思いますね。

なので、プロモーションも本当に作り込みだし、お客さんにとって価値のある情報をまず作って、その上で「ちなみに、この価値ある情報をお渡ししたのは、実はアニメの製作委員会でございまして」みたいな。

まずはそんなふうに受け取ってもらえるすてきな情報を作っていく時代になっていく、なっていくというよりはもうなってると思いますね。その中にキャストさんのある種のプロフィールが入ってくることもぜんぜんあると思いますね。

武者:了解です。そんなところを、ソーシャルも含めてうまく周りの熱を使っていけるようなことだといいし。逆に、作品を立ち上げるときも、周りの熱をうまく利用した制作というのもありえるのかな、と思っています。