なぜ配給会社に配給を任せなかったのか

東野正剛氏(以下、東野):それでは、質問コーナーに移らせていただきます。会場のみなさんで、監督にご質問のある方はいらっしゃいますか?

質問者1:監督のトークに行って、サインもいただいたのですが、その節はありがとうございます。今回聞きたいのは、配給も今回「海獣シアター」でなさっていますね。普通は配給会社に任せるのですが、自主配給の場合は、海獣シアターで映画館に直接営業をかけるような感じにされているのでしょうか?

塚本晋也氏(以下、塚本):そうですね。これまでは、配給だけは最初の『鉄男』以降はずっとプロの会社に任せていたんですね。もちろんプロの会社にお任せしても「このポスターはこういう画じゃないと」とか「文字は」とか、かなり細かく意見を言わせていただくんです。

でも、配給会社は映画館との長い時間が作ってきたいろんな細かいことがあるので、そこまでは立ち入らずにずっとお任せしていました。

でも、昔は無かったものですが、今はSNSというものがあるから、ちょっと前の『KOTOKO』あたりから、宣伝のお金がない弱小映画なのだから、それを利用すればできるんじゃないかと思ったんですね。

「『野火』の時はそうしよう」と思ってやったのがきっかけですが、蓋をあけてみると想像以上に大変でした。今回これをやったことがきっかけで、「よし! これからも配給は自分たちで」とはちょっと思えなくなりました。今後も自分たちでやるのもありだとは思うんですが、「やっぱり配給はプロにお任せしたい」と感じるほどでした。

『野火』の配給について非常に具体的なことをいうと、全国のミニシアターが集まるコミュニティで、関係者のみなさんが1年に一度集まって「今後ミニシアターをどうする?」といった会議をしています。その毎年のイベントがちょうど『野火』の時は東京でありました。最初はそこに行きました。そして、監督自ら来ちゃったということで、若干呆れて驚かれながらも、「今度『野火』作ったんでよろしく」というお願いをしたわけですね。

実は、『野火』がヴェネツィア(国際映画祭のコンペティション部門)に行っていたということも後押しして、最初に行ったところだけでもう10館くらいは上映を決めてくださったんです。

そのコミュニティがまず大事で、あとはもう本当に直接交渉でいろんな映画館に「どうですか?」と自主宣伝配給グループで聞いて回りました。ただ、やっぱり『野火』というと、最初上映するまではどうなるかわからない映画だったので、「ちょっと大丈夫?」「ちょっと危ないな」と思う人もいたんです。

しかし、最初の40館を上映してみて、やっぱり今の時代の雰囲気に必要な映画だったことも手伝って、お客さんがかなり入っているという評判もあったと思うのですが、あとの他の40館も一館一館なんですが、手を挙げてくださいました。

自ら配給を行うメリット

具体的なことは細かくいうといっぱいあるんですが、「宣材物は何か」というところから入ると、僕は本フェチなのでパンフレットはどうしても自分で作りますが、この「パンフレットとか販売物はどういうものがある」「チラシはどういうものがある」「何部要りますか」という項目をまとめた用紙みたいなものを作り、ファックスで各劇場に送って返信してもらってセットを用意するなどもしました。

いまだに映画館はメールとかじゃなくてファックスですね。僕、ファックス使ってなくて、配給をやる時の最初の作業がビックカメラでファックスを買ってくるところからですから。「ファックスなんだ!」って。

(会場笑)

すべてにおいて、ファックスで送って、ファックスで返ってくるんです。毎日、「今日何人観客が入りました」という集計までファックスで来ます。

それはさすがに僕1人じゃ無理だったので、現場のスタッフが勉強のために配給スタッフとして来てくれました。彼らは最後にものすごい実力を蓄えて卒業していくんですが、「どこの映画館で観客が入ったから、いま全部で何人」といった計算を、エクセルで毎日集計が出るようにしてくれました。

映画館でよく目にする「今2万人突破しました!」といった宣伝は、他ではちょっと水増ししたりすることもあるそうなんですが、僕らは出ていた数字をそのまま伝えています。そのためにも集計が必要です。だから、各劇場と連絡し合ってファックスでやっていたんです。

そのやり取りだけでは顔が見えませんでしたが、自分がよかったのは劇場を全部回ってみなさんと直接顔を合わせたことです。そうすればもう知り合いになりますから、「ここの劇場のあの人ね」といったぐらいの本当に親しい感じでやれたのがよかったですね。今は「本当に良かったな」と思います。

質問者1:ありがとうございます。監督は先日『シン・ゴジラ』に出演されましたが、ご自身で怪獣映画をやりたいといった思いはあるのでしょうか?

塚本:怪獣映画は、僕もういるんですよ。大事な怪獣が。これはいつかやりたいですね。「ヒーロー怪獣と戦う怪獣」はずっと前から育てているので、これをいつ出すか楽しみにしているんです。いつか夏休みに上映します!

東野:ありがとうございます。そちらの女性早かったので。はい。

監督・塚本晋也と役者・塚本晋也

質問者2:初めまして、ありがとうございます。質問なんですが、特別な演出方法をなさっているのかということと、現場で監督と役者をなさっている時の切り替えなどはどうなさっているのかお聞きしたいです。

塚本:「特別な演出」というのがちょっとわからないのですが、そもそも演出自体あんまりしてないんです。実をいうと、自分を「監督」とも思っていなくて、映画をかたち作る全ての行程が好きなので映画を作ったわけなので。

俳優さんが演じてくれるのがまず一番で、それで「あれ? もうちょっとこうした方がいいかな」と思った時にちょっと話をするといったぐらいの感じで、基本的にはお任せです。

自分が役者をやるというのは、確かによく考えると、自分が出ていながらなぜ自分がカメラを回しているのかと非常に矛盾しているんですが、これは中学で『原始さん』を作ったときからやっているんですね。それだけはうまいというか、それだけはできるんですね。他のことは何もできないんですけど、これだけはずっとやってきていて。

具体的な方法は、今はデジタルカメラなのでよりうまくできるんですが、フィルムの場合でいうと、自分がカメラをのぞいて、照明やら、あそこの壁に水がチョビッとビタビタビタビタ滴っていたりする光景をまず全部作るんですね。俳優だけじゃなくて全部が好きなわけですから。芝居をしてもらう時も、俳優さんと僕の役をやる人を、助監督にまずやってもらいます。助監督に、僕がこうしたいってことを「ちょっとやってみて」と言うんです。

それで、助監督が俳優もやって芝居を作っているのを見ていると、あと自分がやる分はだいたい見てるわけなんで、一発でできちゃったりして。多分(北野)武監督もそのやり方じゃないかと思うんですが。助監督にやってもらって照明も全部作った後、自分が入るともう一発で終わるというやり方をしていましたが、それはフィルムの時ですね。

フィルムの時に、そんなことばっかりやってましたから、今みたいに三脚で固定していなくて、手持ちカメラでやっていても、レンズが今どんなものが付いていて、今こうやって歩いていてこう止まったのに、カメラがこのくらいの位置までいったというと、「自分がかなり画面の右に寄っちゃったな」「今のじゃダメだね」というのはもう体でわかるんですね。

ただ今はデジタルになり、モニターがあるため、フィルムの時みたいにできてみるまでわかんないのとは違いますから、撮影が終わってからその場で判断して「もう1回」ということができます。

この『野火』に関しては(自分の上半身を手で囲って)このぐらいのサイズのシーンを、実はもうここ(自分の腰の位置)にモニターを持って、「もうちょっと顔の前空けてください」「はい、もうちょっと上です」「口を……あ! はいはい、できました! よーい、はい!」ってもうやっちゃうような感じですから。モニターがあるのでまたすごく早くなりました。

東野:もう巷にこのチラシが出ているんですが、マーティン・スコセッシ監督の作品に俳優として出ておられるという。これ監督ですよね? アンドリュー・ガーフィールドと一緒に写っていらっしゃるのが。

塚本:はい。モキチ役なんです。

東野:スコセッシ監督の演出はどうでした?

塚本:みなさんの印象だと声が大きくって、早口で、パッショナブルな感じですが、現場では静かですね。ちっちゃい声で。

現場で誰も物音を立てたりしません。よくカットがかかると「ちょっと今のさ」と話したくなったり、またすぐに金づちでセットをトントンとやりたくなりますが、それ全部に「シーッ、シーッ、シーッ」と、静かな中で少し……(小さな声で相手俳優に指図するそぶり)。

(会場笑)

塚本:その間、自分たちは静かにしているような感じで、そういった演出です。それでとくになにも言われないです。そのかわり、何遍も撮影をやるんですね。ものすごく大変なシーンは普通1回だけで、そうじゃない場面は何遍も、というのであればわかるんですが、ものすごく大変なシーンも何遍もやるんです。

(会場笑)

東野:そうですか……。

塚本:すごく大掛かりなシーンでも百遍ぐらいやるんです。それがすごかったです。

東野:ありがとうございました。本日はこのあたりで終了とさせていただきます。また「ショートショートフィルムフェスティバル」にぜひお越しください。今日は本当にありがとうございました。