リバ邸が生まれたきっかけ

小澤いぶき氏(以下、小澤):すごく頷いていらっしゃった家入さんにもいろいろおうかがいしたいのですが。

家入さんもリバ邸だったりとか、インターネットを通して、いろんな居場所を作って来られたのかなと、私が勝手に解釈しているんですけれども、ぜひそのへんの思いだったりとか。

家入一真氏(以下、家入):リバ邸っていうシェアハウスなんですけど、僕は、現代の駆け込み寺みたいな言い方をして運営していて。今、日本、何ヶ所くらいあるのかなぁ。知らないうちに増えたり減ったりしていて。

湯浅誠氏(以下、湯浅):みんなリバ邸と名乗っているんですか?

家入:みんな名乗ってたり、途中で僕のことが嫌いになって、別の名前になったりしてます。

(会場笑)

湯浅:じゃあ、リバ邸と家入一真はくっついてるんだ。

家入:うーん、でも僕はなにもしてないですからねぇ。1個目はたしかに僕が作ったんですけど、それに共感した人たちが勝手に作って広がっていった、みたいなことがあります。

学校や会社に行かなくなった瞬間、居場所がなくなる

一番最初に作ったのが六本木だったんですけど。僕の周りには、子供というには大きくなってるんですけど、大学生とか、就職したけどうつ病で辞めちゃいました、みたいな人がわりと集まって来ていて。最初、僕のオフィスに寝泊まりさせてたんですよ。けっこう地方から出てきちゃって。

僕に会えばなんとかなるかもって、別になにもならないんですけど。「帰れない」みたいなことになるんで、「じゃあオフィスに寝泊まりしたら」ってやってたんです。そしたら、オフィスがだんだん臭くなってきちゃって(笑)。これはまずいということで、シェアハウスを作って、そこにみんなで住んで。

別にそれで収益とかって感じじゃないので、みんなで家賃を分け分けして払って、生きていきましょう、みたいなものを作ったんですけど。そうすると、リビングにも毎日のように24時間、誰か知らない人が勝手にやってきて寝たりするような状況になって。この状況はすごくおもしろいな、みたいな。

僕自身、中2からずっと引きこもっていて、大人になるまでほとんど家に引きこもってた人間なんです。インターネットが唯一の外との接続点だったんですけど、そういった思いから、学校と家とか、会社と家っていう場所しかないから、学校に行けなくなった瞬間に行く場所がなくなってしまうんだな、っていうのを実感として持っていて。会社と家もそうですよね。会社に行かなくなった瞬間にもう行く場所がなくなってしまって、引きこもってしまう。

逆に言うと、居場所を失ってしまう怖さから、いじめられたりパワハラを受けても、必死にしがみついてしまって、最後の最後で心がポキっと折れてしまったりすることって、あるじゃないですか。中学生で自死したりとかってすごく悲しいことだと思いますし、そういったときに、こうした場所がもっとあったらよかったんだろうなみたいのは、やりながら考えて。

現代っ子の問題は見た目ではわからない

僕も居場所という言い方をしていて、たぶん、数年前に選挙に出たときに、「居場所をもっと作りたい」みたいなことを言ったりして。それで湯浅さんとお会いさせていただいたりしたんですけど。僕自身、居場所と言ってるものの定義って、すごく曖昧でやっていく中で、最終的になんとなく「こういうことかな?」って思ったのは、「おかえり」って言ってあげられる場所だなというのは、なんとなく思っています。

リバ邸も、一緒に住んでると他人同士なので、やっぱりうまくいかないこともあって。出て行っちゃう人もいれば、また新しく入ってくる人もいて。でも、そうやって出て行っても、なにかしら、最終的に戻って来れる場所になるのであれば、チャレンジもしやすいじゃないですか。

チャレンジしてみて失敗して、「ごめん、やっぱ戻って来た」。それで、「おかえり」って言ってあげられるみたいな。そういう場所をもっと作っていきたいなっていうのもあって、リバ邸という活動を始めました。

湯浅:イメージはホームですね。「おかえり」って言って迎えられる場所みたいなね。ご自身が引きこもっていたときは、ネット空間が居場所だったんでしょ?

家入:そうですね。

湯浅:リバ邸を作って、やっぱりネット空間と実際の物理的な空間としての居場所って、違うんですか?

家入:どうなんですかねぇ。ネットだと匿名でいられたみたいなのは、逆に安心材料として(あって)。僕、中2とかで、パソコン通信でチャットとかしてたんですけど、中2であるということなんて言わなくていいし、相手が大人なのか、男性なのか女性なのかもわからないですし、匿名な状態でやりとりできるというのは、すごく居場所として機能していたなと思っています。

実際にシェアハウスはどうかと言うと、もちろん、男女の問題とか起きたりもしますし。だけど、なんでしょうね……今の若い子たちって、けっこう見た目はきれいというか、普通なんですよね。だからこそ、逆に言うと見過ごされやすいんじゃないかなと思っていて。

これが、明らかに見た目が心病んでるとか、明らかに見た目が貧しそうだったら、なにかしてあげなきゃいけないってなるんですけど。見た目じゃわからないんですよ。コミュニケーション能力もそれなりにあるし。だけど、けっこう心は追い詰められてる子たちってめっちゃいて。そういったやつらが、そういう思いをベースにつながれる場所として、リアルな場所があるのはとてもいいなみたいな。そんなかんじです。

「一旦、逃げたらいいと思うんですよ」

家入:さっき、「溜め」という言葉をおっしゃっていて、僕は、よく「逃げろ」っていうことを言うんですけど。僕自身、いじめで学校行けなくなった人間で、そのあともちょいちょいいろんなことから逃げてきてるんですけど(笑)。

生きてると、圧倒的な暴力みたいなものに直面するタイミングがあるじゃないですか。いじめもそうだし、職場の暴力みたいなものとか、いろんなものがありますよね。そういったものから、一旦、逃げたらいいと思うんですよ。

「立ち向かえ」ってなるから心が折れちゃうわけなので。いつまでも逃げ続けるわけにはいかないと思うんですけど、逃げた先で一旦立ち止まって、次どうしよう、体勢整えようっていう場所があれば、きっと次に行けると思うので。さっきの、溢れ出るとか、溜めとかって聞くと、そういう人に近いのかなって思ったんです。

湯浅:「溜め」という言葉を作る前は、踊り場って言ってました。

家入:あー。

湯浅:踊り場がないと、階段転げ始めるとバーっと下まで行っちゃうじゃん。

小澤:そうですね。うん、うん。

家入:たしかに。

湯浅:踊り場があると、1回そこで止まる感じじゃないですか。

家入:そうですね。

小澤:逃げ先が1個あるということが、そこでまた溜められるみたいな。逃げることを知れているのもすごく大事なこと。子供たちを見ていると、逃げることを知らない子たちがすごくいて。逃げることも知れてるし、逃げ先で誰かとの関係を溜めていけるみたいな。

湯浅:逃げることを知らないって、家庭と学校しか居場所がないから?

小澤:そうですね。

湯浅:ここを失くすと大変なことになっちゃうと思っているということ?

小澤:それでも人って、実は関係性を無意識にすごく求めているのかなって思うんですよ。それがどんな依存先であってもそこにしがみつくというか、その関係性でも求めていくみたいなのは、誰でも持っているのかなと思うんですよね。

子供たちも、ここから逃げるってこと自体本当に知らない。逃げていいことを知らないとか、助けられたことがないから助けを求めていいことを知らない子がいれば、なんとかそこでもう1回やり直せるんじゃないかって、もう1回親との関係性やり直せるんじゃないかとか、友達との関係性をやり直せるんじゃないかと思って逃げられないっていう子もいたりするんですけど。

湯浅:うーん、なるほどね。

大阪の中学校で講演したら…

家入:僕が中学生の前で、大阪のすごく荒れてるところに呼ばれて、しゃべってくれって言われて。夢について語れって言われたんですけど、僕、夢とか語るのすごく苦手っていうか、あんまり僕夢が……。

湯浅:苦手そうですよねぇ(笑)。

(会場笑)

家入:常に後ろ向きなことしか言わないので(笑)、あんまり夢とか語れなくて。「この中にはいじめっ子もいれば、いじめられてる子もいると思うんだけど」、みたいな話をしたんですよ。「別に逃げたっていいし」みたいな。最後、校長にめっちゃ怒られたんですけど(笑)。

(会場笑)

家入:本当に怒られたんですけど。

湯浅:なんて怒られたんですか?

家入:「ぜんぜん予定と違う話して!」みたいなかんじで。「希望や夢を持ってもらいたかったんですよ」って。

湯浅:もっと前向きな話をしてほしかったのにみたいな。でも、それは呼んだほうの勉強不足だよね(笑)。

家入:そう、僕が行くってことは、こういうことですっていう(笑)。

(会場笑)

家入:「夢を持つから、絶望するんです」って話とかしたくて。

(会場笑)

中学生に伝えたい「世界は広い」ということ

家入:まぁそれはいいんですけど。後日、全校生徒のアンケート用紙をいただくことができて、やっぱり、「逃げるのは良くないと思います!」みたいな感じの子もいっぱいいるんだけど、中には、「逃げていいって選択肢があることを初めて知りました」みたいな子もけっこういて。

これは先生に連絡しちゃいましたけど、「自分は家でも、親に暴力を受けていて」みたいな。「逃げていいって知りました」みたいに書いてあって、ちょっとどうにかしないといけないんじゃないかって、先生に連絡したんですけど。

そもそもそういう選択肢がないっていうのは、けっこうあるなと思っています。あの世代って、小学校、中学校が自分の世界じゃないですか。

湯浅:そうだね。

家入:今、大人になってみると、「世界は広かったなぁ」と。今、タイムスリップして当時の自分になにか言えるとしたら、「世界めっちゃ広いから」って言うなぁと思っていて。だから、僕の役割は「この世界だけじゃないよ」ってことを教えてあげることなのかな、という気はなんとなくしています。

湯浅:家庭と学校だけじゃないっていうね。

小澤:「逃げてもいいんだよ」って言ってくれる大人がいるってすごく大事。逃げたことを自分で否定せずに、その選択肢があったから次があったんだって。きっと、あとで自分がそういうふうに思える。そのような大人がちゃんとそこにいるって、大事ですよね。

湯浅:大事ですね。

小澤:大事だなぁと。そっかぁ……。

湯浅:……。

家入:……。

小澤:どうしよう(笑)。

(会場笑)

小澤:違うんですよ~(笑)。なんか、こう、すみません、本当ファシリテートが苦手で(笑)。

湯浅:大丈夫、逃げていいんですよ(笑)。

(会場笑)

小澤:今日は、ちょっとがんばって。あ、助けてください(笑)。

湯浅:あ、はい(笑)。