産業革命は生活を変えた。では情報革命は?

孫正義氏(以下、孫):みなさん、おはようございます。孫です。

(会場拍手)

今、我々が置かれているこの時代は、まさに変革の時だと思っています。

産業革命がありました。産業革命は人々の生活を根底から変えました。

しかし、今回の情報革命というのは、さらにこれまで人々が想像できなかったような世界にまで我々を導いてくれる。それほど大きな変革だと思っております。その変革の時に、我々がちょうど生まれ、そしてチャレンジできることは本当に幸せだと思います。

私がまだ学生の頃、「将来は事業家になりたい」と思いました。「松下幸之助さんは幸せだな」「本田(宗一郎)さんは、盛田(昭夫)さんは幸せだな。いい時代に生まれたよな」と。

「もし自分があの時代に生まれていたら、自分は彼らと切磋琢磨して、同じように、このエレクトロニクス、自動車、そういう業界に打って出て挑戦したのにな」とうらやましく思いました。

彼らが生まれたタイミングに対してうらやましく思ったわけです。学生の頃ですね。でも、今振り返って思うのは、「こっちのほうがいい時代に生まれたな」と思うわけであります。

そういう時代に生まれた我々が挑戦できる。このことに対して、私は本当に幸せだと思います。

このSoftBank Worldを開始してもう6年経ったわけですけれども。最初の頃は「iPhone使ってますか? iPad使ってますか? 両方持っていない人はもう人間やめたほうがいい」というぐらい極端な言い方をしました(笑)。

「日本のサムライというのは大刀と小刀を両方持って、初めてサムライと言えるんだ」というようなことを言いました。今や、もはやそんなこと言う必要すらないというぐらい、たったの6〜7年で世の中は決定的に変わりました。

でも、ここから先はもっとすごい変革がやってくる。もう胸ワクワク。寝る時間ももったいない。

いつも朝起きたら「あれ、ここはどこだ?」という感じです。ベッドから起きるときに、自分はアメリカで目覚めたのか、インドで目覚めたのかと、サウジアラビアで目覚めたのかと。

最近、自分がどこにいるのかわからないぐらい世界中を飛び回っておりますけれども。寝る時間が本当にもったいないと、そういうような興奮、ワクワク、ドキドキの時代であります。

情報革命は人間の知能を拡張する

さっそくプレゼンの内容に入りましょう。

今、少し申し上げました、産業革命。これは18世紀に始まりました。イギリスが最初の発端でしたね。この産業革命の背景にあったのが「ジェントレ」です。

ジェントレ、みなさんご存じかもしれませんが、ジェントルマンの語源になったものですね。彼らジェントレ、つまり王族・王様から特権階級とした、当時の騎士たちですね。戦いがだいぶ終わってきて、その騎士たちに王様が土地を与えたんですね。特権階級として、資産として土地を与えたもの。

その騎士たち……ジェントレたちは、その得た土地、特権階級のその財産・資産の運用で彼らは豊かな生活を送ってたわけですけれども。単に資金を得る、資産を得るというだけではなくて、彼らは騎士としての社会貢献の思いも非常に強く持っていたわけですね。

ですから、彼らはその当時のインフラである道路だとか船だとか、そういうものに大いに金融市場を通じて投資をしたりしました。彼らの資金・資産が、まさに新しい時代の産業革命のための資金源として、新しいテクノロジーの誕生に大いに貢献したわけであります。

つまり、新しい発明による技術と、そしてリスクをとる資本ですね。このリスクをとる資本と技術、この両方が重なって、産業革命が起きていったということであります。

最初は蒸気機関でした。それが自動織機になり、蒸気機関車、そして後には自動車、エジソンと、どんどん広がっていったわけであります。

つまり、新しいテクノロジーと資本、両方が重なって大いなる革命が起きていくというわけであります。

産業革命、それが我々の、人々の生活を決定的に変えました。産業革命は人間が持つ筋肉の力の延長。つまり、より速く走る、より重たいものを持ち上げる、空を飛ぶ。こういうように、人間の五体が持っている機能のパワーの拡張でありました。

そして情報革命。これは筋肉というよりも、頭脳です。知能、知識、脳細胞の働きの延長、拡張をさせる、そういう革命であります。

人間にとって、筋肉である手や足よりも脳のほうがはるかに重要な意味を持つということは、もうみなさんもじゅうぶんにわかっていると思います。私は、この知能の拡張である情報革命は、本当にすごい変革をもたらすと考えています。

そこで我々ソフトバンクグループは、この新しい技術に大きなリスクマネーであるキャピタルを投入し、大いなる変革を促進したいと思うわけであります。

データをいち早く得たものが勝つ時代

この情報革命の中心は、1台1台のパソコン、コンピュータ。最初は大きなコンピュータだったものが、マイクロプロセッサのおかげでパソコンになり。そして、それがお互いにつながってインターネットになる。さらに、今度はパソコン、スマホだけではなく、ありとあらゆるものにこのマイクロプロセッサが入る。IoTの時代がやってくる。

それは単に計算とか記憶にとどまらず、知恵の拡張にまでいく。つまり、知識だとか計算だけではなくて、知恵の拡張。人間よりも賢くなっていくというような時代が、これからArtificial Intelligenceでやってくるわけであります。

その結果、人間よりも強い囲碁や将棋、チェス。もう人間が敵わないですね。最近のニュースでは、人間同士の戦いよりも人間対コンピュータの戦いでも、もうコンピュータへの戦いは人間は諦めたほうがいいというぐらいに、圧倒的に彼らのほうが強くなってしまった。

人間が作ったはずの囲碁だとか将棋・チェスのプログラムが、コンピュータが強くなってしまった。もはやそれは単純な従来の計算とか記憶だけではなくて、アートの世界にまで。また医学の世界ですね。

産業用のロボットは、単純作業をしてた当時より賢くなり、そして言葉も人間のしゃべる言葉を、瞬時にさまざまな言語に翻訳をする。そういうところにまで人工知能が進化してきたわけであります。

さらに、今までの日本ではまだいろんな規制でほとんど実現されていませんけれども、世界の各国では、UberだとかDidiだとか、そういう会社が新しい技術をどんどん進化させ、交通渋滞ですら緩和されるというようなことが起きています。

日本ではいまだにタクシー。みなさんが呼ぶと「はい、何号車どこどこに行ってください」と、こういう車の中で無線の指示が飛びますね。呼んでから来るというのが、日本のタクシーです。

もはや中国のDidi、アメリカのUberにおいては、呼んでから来るのではなくて、呼ぶ前にすでに予測をしています。人工知能で学習し、ヒートマップを作り、呼ぶ前にすでに来ている。呼ぶ前に近所に来ている。

それは曜日や天気、シーズン、イベントなど、そういうものを全部学習し、人工知能の力によって、人々がアクションを起こす前に予測して来ることがもう実現されてきているわけであります。

その人工知能を鍛えていくのは、データであります。データが、今まで我々の産業界において必要とされた資源、鉄だとか石油などに該当します。そういう産業革命に必要だった資源に比べて、情報革命にとって一番重要な資源、それはデータである。

データを一番たくさん先に得たものが勝つ。それを分析し人工知能を鍛えていく。そういう時代がやってきたわけであります。

人々だけでなく「モノ」もつなぎ、通信し合う

我々ソフトバンクグループはARMを傘下に入れました。今日このあとARMのCEO・サイモン(・シガース)にもプレゼンをしていただきますけれども。

ARMはIoTの世界で90パーセントのマーケットシェアを持つにいたっております。

スマホ、みなさんがポケットに、まあここにいるみなさんはほぼ100パーセント、スマホをポケットに今入れてると思います。この世界中のスマートフォンの99パーセント以上はARMのチップによって構成されています。

99パーセントです。いろんな重要な産業ありますね。重要な産業で1つの会社が世界中のマーケットシェアの99パーセントを持ったということはなかなかないことです。

その99パーセントのシェアを持ったARMが、さらにスマホだけではなくて、モデムだとかいろんな記憶のためのストレージ、それから家電製品、自動車だとか、ありとあらゆるもの、IoTのすべてにこれから入っていくという時代がやってきてるわけです。

また、これはつながらなければいけません。我々は携帯電話、あるいは固定の回線を通じてつながりあっておりますけれども。それでもまだつながらないところがあります。

これからは「つながらないところはない」という時代がやってきます。地球の周りに800個、嘘八百じゃないですよ(笑)。800個の衛星を浮かべ、さらにそれが2,000個、3,000個の衛星を地球の周りに浮かべる。そして、世界中に通信革命をもたらす。

世界中が光ファイバーの速度で10億回線ぐらいつないでしまう。そういう技術をもってして今準備中なのが、我々のグループのOneWebであります。

つまりソフトバンクは、単に固定回線のブロードバンドだとか携帯回線のブロードバンドというだけではなくて、衛星から地球上をすべて覆ってしまうことを考えているわけであります。

したがって、これからはARMによるIoT、OneWebによる世界中の通信網、これらが1兆個のIoTのデバイスがつながってしまう。瞬時に世界中のありとあらゆる、人々だけではなくて、モノもつないでしまう。この1兆個のモノがお互いに通信し合う。

シンギュラリティは30年後に必ずやってくる

ソフトバンクは今まで我々の競合他社と人間の回線数を競っておりました。人間の回線数では世界中全部足したってせいぜい70億回線しかないわけですね。

人間をつなぐというのは、全世界のすべての国のすべての人間のマーケットシェアをとったとしても、せいぜいたった70億回線しかない。70億回線の世界ではなくて、我々ソフトバンクは1兆回線もつないでしまいたいということを思っているわけですね。1兆回線をつなぐ。

それらがすべてのものが、すべての人に加えてつながり合う。我々が寝てる間も世界中でつながっている。リアルタイムにつながる。そういう世界を作ろうとして考えているわけです。

つまり、それらのモノとモノが通信が通信し、ヒトとモノが通信をする。そこにはデータが生まれます。チップのないところにデータはない。

データが生まれるときには、必ずそこにはチップがある。そこには90パーセントの確率でARMのチップがある。そこから生成されるデータがARMのビッグデータのクラウドにつながっていく。自動的につながる。

それを人工知能で解析し、お互いをどんどん賢く鍛えていく。そういう時代を我々は構想しているわけです。

つまり、私はシンギュラリティは必ずやってくると信じている人間であります。まあ30年後ぐらいにはやってくるでしょう。

我々人類が生まれてもうすでに20万年ぐらい経ったと言われているんです。20万年の人類の歴史のなかで考えると、30年後に来るのか50年後に来るのか、それは誤差。どっちにしろ、その歴史はきます。